「ちょ、俺が救世主!?」~転生商人のおかしな快進撃~

月城 友麻

文字の大きさ
13 / 193

13. 紅蓮虎吼剣

しおりを挟む
 市場の喧噪の中、一人のおじいさんが山のような荷物を背負って現れた。白いひげを蓄えた人懐っこそうな顔が、人だかりの中から覗く。

「あー、すまんが、ちょっとどいてくれ」

 おじいさんの背負う荷物からは、剣のつばが覗いている。武具の販売者だろうか? だが、明らかに錆びだらけの手入れの行き届いていないものばかりだった。

 ユータはため息をつきながらも、半ば反射的に鑑定スキルを発動させる。

ワンド レア度:★
木製の杖 攻撃力:+8

スピア レア度:★
大剣 攻撃力:+9

紅蓮虎吼ぐれんこほう剣 レア度:★★★★
大剣 強さ:+5、攻撃力:+8/40、バイタリティ:+5、防御力:+5

「キターーーー!!」

 俺は思わず叫んで立ち上がってしまった。隣に置いていたお茶のカップが転がり、地面を濡らしたが、もはやそんなことは気にならない。

 紅蓮虎吼ぐれんこほう剣は、他の武器と一緒に無造作に箱に突っ込まれていた。

 錆びつき、刃こぼれした姿に、俺は胸が痛む。★4の武器がこんな扱いを受けているなんて……。

「攻撃力8/40か……」

 俺は首をかしげた。

(きっと手入れすれば、本来の力を取り戻せるはず)

 おじいさんは丁寧に武器を並べていく。その中には★3の武器も混じっていた。

「すごい……」

 俺は息を呑んだ。レア武器を二本も出すなんてただものではない。いったいこのおじいさんは何者なのだろうか?

 早速、おじいさんに近づいた――――。

「あの、すみません……」

 俺は緊張しながら声をかける。

「この剣、売ってもらえませんか?」

「あぁ?」

 おじいさんは白ひげをなでながら、ユータをけげんそうな目で見上げる

「坊主か、驚いた。まだ小さいのに武器になんて興味あるのか? ん?」

 おじいさんはそう言って相好を崩した。

「この剣と、あのびた大剣が欲しいんですが、いくらですか?」

「え!? これは一本金貨一枚だぞ! 子供の買えるもんじゃねーぞ!」

 おじいさんは困ったような顔で言い放った。

「お金ならあります!」

 俺はポケットから金貨を取り出して見せた。

「ほぅ、こりゃ驚いた……」

 おじいさんは金貨を受け取ると、本物かどうかじっくりと確かめる。

「……。いいですか?」

「そりゃぁ金さえ払ってくれたらねぇ……。よし! じゃ、びた奴はオマケにしといてやろう!」

 そう言って笑うと、剣を丁寧に紙で包み始めた。

 なんと、★4の称号付きの名剣がオマケになるという。俺はちょっと申し訳なく思いながらも厚意に甘えることにした。

「もしかして、こういう武器、他にもありますか?」

 俺はさりげなく聞いてみる。きっとここにあるだけではないに違いない。

「あー、うちは古い武器のリサイクルをやっとってな。倉庫にはたくさんあるよ」

 おじいさんは開店するなり武器が売れてニコニコと上機嫌だ。

「それ、見せてもらうことはできますか?」

「おいおい、坊主。お前、武器買いあさってどうするつもりかね?」

 怪訝けげんそうなおじいさん。

「あー、実は冒険者相手に武器を売る商売をはじめようと思ってて、仕入れ先を探してたんです」

「え? 坊主が武器商人?」

「武器ってほら、魅力的じゃないですか」

 おじいさんはフッと笑うと、肩をすくめる。

「そりゃぁ武器は美しいよ。でも、儲かるような仕事じゃないぞ?」

「大丈夫です、まず試したいので……」

 きっと在庫は宝の山に違いない。俺は必死にプッシュした。

 おじいさんはユータの目をジッと見る。そして、根負けしたように年季の入ったカバンを漁る。

「分かった、じゃぁ明日、ここへおいで」

 そう言って、おじいさんは小さなチラシを差し出した。

「ありがとうございます!」

 ユータはお礼を言うと、剣を抱え、ウキウキしながら孤児院の倉庫へと走った。


          ◇


 倉庫の隅で、俺は必死に紅蓮虎吼ぐれんこほう剣と向き合っていた。水を汲んできて早速研ぎ始めたものの、思うように進まない。錆びは落ちるが、刃こぼれの修復には頭を悩ませる。

「なんて硬いんだ……」

 額に汗を浮かべながら、必死に砥石を動かす。しかし、★四つの剣は簡単には砥石を受け入れない。その頑強さに、俺は身をもって紅蓮虎吼ぐれんこほう剣の質の高さを実感させられた。

 諦めかけた瞬間、ふと目に入ったのは庭に転がる石垣の崩れた石だった。それは砥石よりももっと粗野な硬さで、砥石ではなんともならない紅蓮虎吼ぐれんこほう剣にはいい荒療治になりそうだった。

「これなら……!」

 平らな面に剣を当ててみると、ジョリジョリと手応えのある音が響いた。

「よし、いける!」

 俺は確かな手ごたえを感じながら必死に研いでいく――――。

 しかし、すぐに息切れし始めた。子供の小さな体にはレア武器の手入れなど重労働だ。

「ふぅ……何やるにしても身体鍛えないとダメだなぁ……」

 ボーっと休憩しながら呟いたその時、倉庫の扉が開いた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...