「ちょ、俺が救世主!?」~転生商人のおかしな快進撃~

月城 友麻

文字の大きさ
107 / 193

107. 壮絶なる決意

しおりを挟む
 宮崎の火口のだだっ広い神殿で、レヴィアはゴロンと冷たい大理石の床に転がってユータの目論見もくろみを考えていた。その姿は、まるで悩める少女のようだった。

 ユータたちがヌチ・ギの屋敷からこっそりドロシーを奪還する? どう考えても無謀で滑稽な挑戦だった。管理者をなめ過ぎではないだろうか……? その思いが、レヴィアの心を重く覆う。

 何か策があるか……、特別な情報を持っているのか……、いろいろなケースを想定してみた。頭の中で、様々な可能性が交錯する――――。

「いや、違う!」

 突如として湧き上がった確信に突き動かされ、レヴィアはガバっと起き上がった。

「あやつら、死ぬつもりじゃ……」

 レヴィアは唖然あぜんとし、胸中には驚きと恐れ、そして何か別の感情がグルグルと渦巻く。

 晴れ晴れとした口調だったから気づかなかったが、成功確率など微々たるものだと本人たちも分かっているに違いない。だが、彼らにはたとえ死んでも成し遂げねばならぬことがあるのだ――――。

 その覚悟にレヴィアは思わず震える。その震えは、恐怖というよりも、何か深い感動のようなものだった。

 レヴィアは大きく息をつき、金髪のおかっぱ頭をぐしゃぐしゃとかきむしる。

「我も覚悟を決める時が来たようじゃ……。お主らに教えられるとはな……」

 レヴィアの目には自嘲の色と共に、新たな決意が滲んでいた。

 今まで事なかれ主義で、現状維持さえできれば多少の事は目をつぶってきた。でも、それがヌチ・ギの増長を呼び、世界がゆっくりと壊れてきてしまっていることは認めざるを得ない。

 しかし今、ユータたちの覚悟を見せつけられた瞬間、レヴィアの心に重い責任感が芽生えた。

 スクッと立ち上がるとレヴィアは、空間の裂け目からイスとテーブルを出して座り、大きな情報表示モニタを次々と出現させる。壮大な大理石の神殿の中、青白い画面の光がレヴィアの幼い顔を照らす。それは、まるで古代の神官が神託を受けているかのようだった。

 レヴィアは画面を両手でクリクリといじりながら情報画面を操作し、何かを必死に追い求める。

「ふーん、暗号系列を変えたか……、じゃが、我にそんな小細工は効かぬわ、キャハッ!」

 レヴィアはニヤリと笑うと、画面を両手で激しくタップし続けた――――。

 静かな神殿には、レヴィアの指が画面をタップする音だけが響く。その音の中に、世界の運命を左右する重大な変化の予感が潜んでいた。

 ただ、ヌチ・ギは同じ世界の管理者、一筋縄ではいかないし、こんなトラブルは決して女神の知るところになってはならない。

 無理筋の挑戦はレヴィアをも巻き込みながら、その渦をどんどんと急速に大きくしていったのだった。


       ◇


 早速奪還作戦開始だ――――。

 俺は救出に使えそうな物をリュックに詰めていく、工具、ロープ、文房具……。一つ一つの道具に、ドロシーを救出するという思いを込めながら、慎重に選んでいく。

 そして、最後にドロシーの服に手を伸ばした。麻でできた質素なワンピース……。その質素さに、ドロシーの純粋さを感じる。

 俺は思わず広げて、そしてぎゅっと抱きしめた。ほのかにドロシーの匂いが立ち上ってくる……。その香りが、俺の決意をさらに強くする。

「待っててね……」

 俺はそうつぶやき、ゆっくりと大きくドロシーの香りを吸い込んだ。ドロシーとの思い出を胸に抱き、ギュッと奥歯を噛み締める――――。

 決意のこもった目で立ち上がった俺は動きやすそうな服に着替え、革靴を履き、靴紐をキュッと結んだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...