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189. 大いなる力には
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「木星ではお前は力を使えんからな。この宇宙最強の娘には誰もかなわんだろう? はっはっは! お前の時代は終わったんだよ!」
やりたい放題のヌチ・ギは極めて上機嫌だった。その碧い瞳からは勝利の確信と、復讐の愉悦が溢れている。宇宙の闇を背景に、乗っ取られたシアンの姿が不気味な輝きを放っていた。
ヴィーナはピクッと頬を引きつらせると、手を振りほどこうとするが、ヌチ・ギの力は圧倒的でビクともしない。その姿は、蜘蛛の巣に絡め取られた蝶――――輝かしい金星の女神も、今は無力な捕虜に成り下がってしまった。
「お前の身体は一度味わってみたいと思っていたんだ。どんな声で鳴いてくれるかな? クフフフ……」
ヌチ・ギの声には底知れぬ邪悪さが滲んでいる。木星の赤味がかった光が、その表情をより一層不気味に照らし出す。
ヴィーナでもかなわないのであれば、もはや全滅するより他ない。みんな殺されてしまうのだ。想像するだけで冷たい恐怖が背筋を這い上がる。ここまでようやくたどり着いたのに……。悔しさと無力感が渦巻き、ほとんど息ができなかった。
「あ、あなたぁ……」
ドロシーが俺の腕にしがみついてくる。その細い指先は、恐怖に震えていた。頬を伝う涙が、木星の赤い光に照らされて宝石のように輝いている。
俺は優しくドロシーを抱き寄せたが……、これは、もう俺がどうこうできるレベルを超えている。宇宙の理を書き換える者に、人間の力など蟻ほどの価値もない。
『宇宙最強』の娘に捕らわれた女神――――。
絶望が俺を支配し、ドロシーをキュッと抱きしめることしかできない。その温もりだけが、唯一の救いだった。
ところが――――、ヴィーナは軽く微笑み、静かに口を開いた。
「お前は……、勘違いをしているよ」
その声は小さいながらも、不思議な凄みを帯びていた。まるで宇宙の深淵から響く古の声のように、威厳に満ちていた。
俺は驚いた。宇宙最強が乗っ取られてもまだ終わりではないとはどういうことなのだろうか? しかし、この凄みのある声はブラフとも思えない。サークルでもこういう時の先輩は頼りになったのだ。
「なんだその生意気な態度は!」
険しい表情を見せたヌチ・ギは一気にヴィーナの腕をひねり上げる――――。
ぐぁっ!
美しい顔が苦痛で歪む。チェストナットブラウンの髪が宙に舞いあがる。
あっ!
その苦しそうな声に俺はいてもたってもいられなくなる。胸の奥から湧き上がる怒りが、恐怖を押し流していく。
「止めろぉ!」
ヌチ・ギの腕に飛びつこうと一気に距離を詰めたが――――。
もう少しというところで、いきなり見えない壁にぶつかったように弾き飛ばされてしまった。まるで鋼鉄の壁に全力で激突したかのような衝撃が、全身を襲う。
グハッ!
無様にもんどりうって転がってしまう。
「あなたぁ!」
ドロシーが駆け寄って抱き起こしてくれるが、俺は自らの間抜けっぷりにギリッと奥歯を鳴らした。
「はっはっは! ただの人間のくせに目障りな奴だ」
ヌチ・ギはまるで虫けらをさげすむように俺を見下ろす。
しかし――――。
「いや、彼は結構いい仕事をしたのよ? ふふっ」
ヴィーナは意味ありげに笑う。その笑みには、何か秘めた計画があるようなニュアンスが宿っていた。
「は? 私は今『宇宙最強』だ。誰も私には勝てんのだが?」
ヴィーナをにらみつけるヌチ・ギ。しかし、その表情には一瞬、戸惑いが過った。彼の確信に、微かな亀裂が入り始めている。
「シアンは確かに宇宙最強。誰もかなわない」
「そう、最高だ! だから私はこの体を選んだんだ!」
ヌチ・ギは勝ち誇ったように高らかに言い放つ。
だが――――、ヴィーナの静かな微笑みは消えない。その目には揺るぎない確信が灯っていた。
「With great power comes great responsibility. 『大いなる力には大きな責任が伴う』だよ。その身体を操れるのはシアンだけだ」
ヴィーナの声には確信が宿り、その琥珀色の目は強い光を放っていた。
「はっはっは! 何を言い出すかと思えば……。こうやって自在に操っているじゃないか! 苦し紛れもいい加減にしろ! お前に何ができる?」
ヌチ・ギの笑い声が、ホールに反響する。
「ふふっ、その身体にはね、我々の宇宙の百万個の星の管理プロセスが走っている……。シアンは楽しそうに笑っていながらも、裏では常に百万個の星を管理してるんだよ」
ヴィーナの声は穏やかだが、女神の威厳が、徐々に戻ってきている。
俺は一瞬混乱した。可愛い女の子の中で星を管理するプロセスが走っている……、一体どういうことだろうか? 人間にそんなことはできない、となればシアンは人間ではない――――。
つまり宇宙最強の少女は単なる強い存在ではなく、宇宙の管理システムそのものなのではないか? その考えが、俺の中で急速に形を成していく。
やりたい放題のヌチ・ギは極めて上機嫌だった。その碧い瞳からは勝利の確信と、復讐の愉悦が溢れている。宇宙の闇を背景に、乗っ取られたシアンの姿が不気味な輝きを放っていた。
ヴィーナはピクッと頬を引きつらせると、手を振りほどこうとするが、ヌチ・ギの力は圧倒的でビクともしない。その姿は、蜘蛛の巣に絡め取られた蝶――――輝かしい金星の女神も、今は無力な捕虜に成り下がってしまった。
「お前の身体は一度味わってみたいと思っていたんだ。どんな声で鳴いてくれるかな? クフフフ……」
ヌチ・ギの声には底知れぬ邪悪さが滲んでいる。木星の赤味がかった光が、その表情をより一層不気味に照らし出す。
ヴィーナでもかなわないのであれば、もはや全滅するより他ない。みんな殺されてしまうのだ。想像するだけで冷たい恐怖が背筋を這い上がる。ここまでようやくたどり着いたのに……。悔しさと無力感が渦巻き、ほとんど息ができなかった。
「あ、あなたぁ……」
ドロシーが俺の腕にしがみついてくる。その細い指先は、恐怖に震えていた。頬を伝う涙が、木星の赤い光に照らされて宝石のように輝いている。
俺は優しくドロシーを抱き寄せたが……、これは、もう俺がどうこうできるレベルを超えている。宇宙の理を書き換える者に、人間の力など蟻ほどの価値もない。
『宇宙最強』の娘に捕らわれた女神――――。
絶望が俺を支配し、ドロシーをキュッと抱きしめることしかできない。その温もりだけが、唯一の救いだった。
ところが――――、ヴィーナは軽く微笑み、静かに口を開いた。
「お前は……、勘違いをしているよ」
その声は小さいながらも、不思議な凄みを帯びていた。まるで宇宙の深淵から響く古の声のように、威厳に満ちていた。
俺は驚いた。宇宙最強が乗っ取られてもまだ終わりではないとはどういうことなのだろうか? しかし、この凄みのある声はブラフとも思えない。サークルでもこういう時の先輩は頼りになったのだ。
「なんだその生意気な態度は!」
険しい表情を見せたヌチ・ギは一気にヴィーナの腕をひねり上げる――――。
ぐぁっ!
美しい顔が苦痛で歪む。チェストナットブラウンの髪が宙に舞いあがる。
あっ!
その苦しそうな声に俺はいてもたってもいられなくなる。胸の奥から湧き上がる怒りが、恐怖を押し流していく。
「止めろぉ!」
ヌチ・ギの腕に飛びつこうと一気に距離を詰めたが――――。
もう少しというところで、いきなり見えない壁にぶつかったように弾き飛ばされてしまった。まるで鋼鉄の壁に全力で激突したかのような衝撃が、全身を襲う。
グハッ!
無様にもんどりうって転がってしまう。
「あなたぁ!」
ドロシーが駆け寄って抱き起こしてくれるが、俺は自らの間抜けっぷりにギリッと奥歯を鳴らした。
「はっはっは! ただの人間のくせに目障りな奴だ」
ヌチ・ギはまるで虫けらをさげすむように俺を見下ろす。
しかし――――。
「いや、彼は結構いい仕事をしたのよ? ふふっ」
ヴィーナは意味ありげに笑う。その笑みには、何か秘めた計画があるようなニュアンスが宿っていた。
「は? 私は今『宇宙最強』だ。誰も私には勝てんのだが?」
ヴィーナをにらみつけるヌチ・ギ。しかし、その表情には一瞬、戸惑いが過った。彼の確信に、微かな亀裂が入り始めている。
「シアンは確かに宇宙最強。誰もかなわない」
「そう、最高だ! だから私はこの体を選んだんだ!」
ヌチ・ギは勝ち誇ったように高らかに言い放つ。
だが――――、ヴィーナの静かな微笑みは消えない。その目には揺るぎない確信が灯っていた。
「With great power comes great responsibility. 『大いなる力には大きな責任が伴う』だよ。その身体を操れるのはシアンだけだ」
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「はっはっは! 何を言い出すかと思えば……。こうやって自在に操っているじゃないか! 苦し紛れもいい加減にしろ! お前に何ができる?」
ヌチ・ギの笑い声が、ホールに反響する。
「ふふっ、その身体にはね、我々の宇宙の百万個の星の管理プロセスが走っている……。シアンは楽しそうに笑っていながらも、裏では常に百万個の星を管理してるんだよ」
ヴィーナの声は穏やかだが、女神の威厳が、徐々に戻ってきている。
俺は一瞬混乱した。可愛い女の子の中で星を管理するプロセスが走っている……、一体どういうことだろうか? 人間にそんなことはできない、となればシアンは人間ではない――――。
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