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宗 教

華厳の思想(仏教）

　　　　　　　　　　鎌田　茂雄　著
　　　　　　　　　　講談社学術文庫

　日本では"奈良の大仏"で有名な東大寺が、華厳宗の本山。もともとは、中国で起こった宗派だが、当時、朝鮮半島を統一した新羅を経由して奈良へ伝わった。

　そのため、日本の華厳宗は中国よりも朝鮮型に近いという。新羅が高句麗や百済を滅ぼした頃なので、百済などから結構な数の渡来人があったらしい。華厳宗が奈良に根付いたのは、このような事情が根底にある。

　中国には、古来から老荘思想があったので、中央ユーラシアから翻訳されて伝わった華厳経には、この老荘思想の影響があり、土着の中国思想と外来の仏教思想が、混合し融合された中国色の強い仏教となっている。

　これは、華厳に限らず禅や密教など他の仏教でも同様だ。そのせいか、華厳が日本に入ると僧侶らによって、華厳経から中国土着の老荘的な色彩がすっぽりと抜かれてしまい、日本的？な華厳宗へと変貌してしまう。

　仏教の持つ高度に抽象化された宗教哲学から、やや素朴な老荘思想が抜けると、とても観念的で無味乾燥な嫌いがないではない。

　私個人としては、老荘的な要素を含んだ仏教の方が好きだが、同じように考える日本人が多いのか、華厳経は抽象哲学的で親しみに欠けるようだ。

しかし、そのエッジな哲学性が、後の禅や庶民的な浄土系を支える土台となって現在に続いている。

　仏教とは何か？　実践面だけではなく、その理論的背景まで含めて考える場合、華厳経は避けては通れないようだ。