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第76話 状況説明①
しおりを挟む次の日、異世界人達は朝食を配膳し終えたら
「一時間後にお迎えに上がります。
それまでに準備を整えておいてください。」
と言い、下がっていった。
私達はさっさと朝食を済ませたが、昨日目覚めた人は未だに布団から出てこない。食事もとっていなかった。
「あっくん、この人どうしよう。
言葉通じないから説明のしようがないのに!置いていけないよ!」
「無理矢理連れて行くしかないだろう。
さすがに置いてはいけない。
俺達だってここに戻るかもわからないんだ。
状況もわからないのにこんな所に一人残されたら発狂するかもしれん。」
「一応説明してみるけど、出てきてくれなかったらあっくんにお願いしてもいい?」
「暴れられたら布団で簀巻きにして担いで行く!」
「おはよう。
あのね、ここにいる人達はみんな無理矢理連れてこられたの。
今からね、ここにいる人全員で、何でここに連れてこられたのか聞きに行くの。
貴方を置いていきたくない。
一人にしたくないの。
一緒に来てくれるかな?」
布団がモゾモゾ動く。
目だけがこちらを覗き、サッと見回している。
誰がどこにいるのか確認しているみたい。
みんなには先に、いつも出現する穴の方に行ってもらっているから隠れはしないだろう。
そーっと出てきたと思ったら
なんと!
あっくんの後ろに隠れた。
あっくんの後ろならみんなの視界にはほぼ入らないだろう。
しかもあっくんのシャツの裾を握りしめて縮こまっている。
私の声色で、ここに居るのは危険だと感じてくれたんだろうか?どれだけ怖いだろう。どれだけ頑張って出てきてくれたんだろう。
「出てきてくれてありがとう。
一緒にいこう。」
そうニコリと声をかけるしかできない。
あっくんも最初はビックリしていたけど
「怖かったら俺の後ろにずっと隠れていればいいからな。」
と、優しく言っていた。
もちろん反応はない。
暫くして、いつもの異世界人達が迎えに来た。
「今から部屋を移動し、そこで説明をさせていただきます。
皆様、私についてきてくださいませ。」
「あっくん、私後ろからついていくね。」
「わかった。何かあったら声出すなり魔力出すなり、何でもして。」
「うん。あっくんはその人のことよろしくね。」
「任せて。」
初めて白い箱から出られる。
異世界人は前に3人、後ろに2人。
後ろの2人は見張り?何かあっても2人なら魔法を使う隙さえ与えず瞬殺すれば逃げられるなと算段をつけながら歩く。
異世界人の後に続いて歩いて行くと、真っ黒な穴はすんなりと通れた。
一体どんな仕組みで出入りできなかったんだろう?
真っ黒な穴はすぐに抜け、外に出るとものすごく天井が高く幅も広い廊下と呼んでいいのかさえ疑問に思うほどの広い空間だった。
後ろをチラリと振り返ると、普通の部屋のドア。
あそこから出てきたのに、普通のドア?
部屋の中に白い箱が入っていたってこと?
魔法がある事実を考えると、地球の知識が通用しないことを痛感する。地球の常識はここでは常識ではないのだ。
異世界人に続きだだっ広い廊下をひたすら歩くが、ドアはおろか窓ひとつない。
これはまずい。逃げ道がこの廊下一本では絶対に逃げるのは不可能。
いや、そもそもこの長い廊下に何も無いなんてそんなことあり得るの?
それともこの廊下自体が魔法でそう見せられているだけで、本当は窓もドアもあるけど隠されているだけ?
何かしたくても、ここで魔力を放出するのは絶対に悪手だ。もし探れたとしても逃げ切れなければ意味はない。
これから連れて行かれる場所はどこ?
本当に説明のための移動なの?
もしこの移動が違う場所への監禁のための移動で、その移動を自らの足で行っていたんだとしたら目も当てられない。
あっくんの隣に小走りで近づき小声で
「この空間おかしい。いつでも逃げられる準備しておいて。これから行く部屋も次の監禁場所じゃない保証はない。」
「わかってるよ。大丈夫、準備は万端。」
よく見るとあっくんは親指を人差し指と中指で握り込んでいた。
それは急所狙いの拳の握り方だ。
この状況では当たり前か…
二人で頷き合い私はまた後ろに下がる。
やがて辿り着いたのは、大きく豪華っぽい扉。本当に高価なのかは知らんけど。
監禁場所の扉には相応しくないけど、そう見せかけているだけかもしれない。
扉の前には新たな異世界人達が4人いた。
その4人は頭から黒い布を被ってはいるが、私達を案内してきた異世界人5人とは違い、服装は普通。3人は帯剣しているから騎士の類いの人間だろう。映画の中で出てくるような昔の貴族然とした服装ではあるけれど。黒い手袋もしている。メイドだから顔を隠していたわけではないの?
そのうちの一人が
「こちらの部屋でございます。
どうぞお入りください。」
と、声をかけてきた。
そう言われても素直に入れない。入れるはずがない。
「扉を開け放て。閉めるな。そうでなければ俺達は入室を拒否する。」
あっくんの言葉に騒つく異世界人達。
「今から御説明に入りますので、お部屋に入っていただかないと困ります。」
「だから、扉を閉めないなら入ってもいいと言っている。」
「それは何故かお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「俺達を馬鹿にしてんのか?
お前らのどこに信用できるモノがある?
ここが次の監禁場所でない保証などどこにもない。」
声を荒げてはいないけれど、毅然とした態度を崩さないあっくん。
「では、説明をする御方がいらっしゃるまではお閉め致しません。これでよろしいでしょうか?」
「誰が来ようと駄目なものは駄目だ。」
「内密なお話もございます。」
「はっ!内密に話さなきゃいけないことなんて何もないだろう?」
「今からいらっしゃる御方にはございます。
それにあなた方に関すること全てが非常に重要なお話なのです。」
「誰が来ても一緒だと言っている。」
「今からいらっしゃるのが皇帝陛下でも、でございますか?」
「当たり前だ。」
「何をしている?」
異世界人とあっくんの言い合いに誰も口を挟めず、お互い譲らずの膠着状態が続いていた時、その声は響いた。
異世界人達は直様その場から一歩下がり跪き顔を伏せ押し黙る。
「ギュンター、どうなっている?」
「はい、陛下。
実はこの方達がこちらの部屋が次の監禁場所ではないかと危惧されておりまして、扉を閉めるならば入室しないと申され、揉めていた次第でございます。」
「では、扉は開け放ったままで良いではないか。
最低限必要な者以外は人払いをし、音の遮断の魔法具を使用せよ。」
「畏まりました。」
「そこの者たちも、それで良いか?」
「ああ、それで良い。」
皇帝の真横に控えた騎士?のような服を着た2人があっくんに殺気を向ける。恐らく、皇帝への言葉遣い。
それを片手を上げただけで制する皇帝と呼ばれる人物。
騎士2人の殺気は消え去り
「ギュンター」
と一言で
「はい。
では皆様、入室をお願いいたします。
扉はお閉め致しませんのでご安心ください。」
その様は、とても演技には見えなかった。
だが、全員が黒い布を顔に被っている。それは皇帝陛下と呼ばれたコイツすらも同じく。皇帝の前二人と後ろに引き連れてきたであろう騎士達は帯剣をして、皇帝は豪奢な服に派手な赤いマントを羽織っている。服装の違いがなければ誰が誰だかさっぱりわからない。
仮に演技をして閉じ込めようとするならば、何としても扉は閉めようとするはず。
で、なければ、扉など閉めなくとも閉じ込める方法などいくらでもあるのか。あるのならばそもそも皇帝の演技の必要などないだろう。
コイツが諸悪の根源か
または別に黒幕がいるのか
今からコイツが何を話すのか
早く地球に帰りたい
応援ありがとうございます!
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