水と言霊と

みぃうめ

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第75話    前日

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 入ってきた異世界人達はいつものお決まりのセリフを吐く。

「本日お目覚めになられましたね、体調はいかがですか?」
 相変わらず布団の隙間からジィーっと見つめる以外の反応をしないこの人。色はグレー。
 ん?見てる?あれ?異世界人達からは隠れないの?私とあっくん以外は声をかけられただけで隠れたのに?今喋ってる異世界人の声には感情は感じられない。無機質。そういえば異世界人達から色を感じたことなかったな。
 じゃあやっぱり音階?
 でも“あっくん”に反応してたよね?
 それとも、イントネーションの音に反応してるの?

 何のリアクションもしないこの人のことを無視して
「明日、朝の食事を終えましたら説明を行います。
 部屋を移動しての説明となりますので準備をお願いいたします。」
 と告げてくる。

 みんなの反応は様々。
 待ってましたと喜んでいる者、不安を隠しきれない者、怒っている者。

 そして、異世界人達は配膳を終えると出て行った。
「しーちゃん、とりあえずご飯食べよう。」
「そうだね。
 ねぇ、ご飯がきたよ。
 一緒に食べない?
 布団から出られる?」
 相変わらずジッと見つめてくるだけ。
 配膳された食事をこの人の前に持ってきて見せながら、もう一度
「ご飯だよ。一緒に食べよう。」
 あ、布団がモゾモゾしだした。出るか出ないか迷ってるのかな?
「お腹空いてない?ご飯、美味しいよ。」
 モゾモゾから、ゆっくりと髪の毛が出てくる。
 良かった!出てきてくれそう!
「一緒に食べよう。」
 様子を伺うように、それはそれはゆっくりと、布団から出てベッドに座ってくれた。
 初見はほぼ一瞬だったからわからなかったけれど、とてつもなく美青年!
 線の細い身体。
 身長も高そう。
 真っ白な肌。
 薄いミルクティー色の髪はふわふわサラサラしていそう。
 そしてなにより、その瞳。
 ミルクティーの長いまつ毛のその奥に
 グレーの瞳がキラキラ輝いている。
 比喩ではない。
 瞳から魔力が漏れてキラキラ輝いているのだ。
 なんたる破壊力。
 見た目にあまり頓着がない私でも、評価くらいは出来る。
 見惚れるというのはこういうことか。
 暫くの間、声も出せなかった。

「しーちゃん?」
 私が身動き一つせずこの人を見つめていたせいで、あっくんが苛立ちを隠しもせず声に出してきた。
「ごめん、お腹空いたよね?」
「え?ああ、そうだね。」
「貴方も、一緒に食べよう。」
 手を合わせて
「いただきます。」
 あっくんもいただきますと言っているが、それをただ見つめ続ける美青年。私とあっくんを行ったり来たり目で追っている。
 食べていいか悩んでる?
 食べるの見せた方が食べだせるかな?
 フォークを握って肉を刺し頬張る。
 美青年もフォークを持った!
 よしよし!そのまま食べちゃって!と思っていたら
 フォークの向きを上に下に裏返しに、見たり触ったりしている。
 あれぇぇぇ?もしかしてフォークを知らない?横にあるスプーンも、フォークの代わりに持ち替えたはいいけれど、フォークと同じで様々な角度で見たり触ったりするだけ。
 これは前途多難過ぎでしょう!
 と、思ったら、スプーンを覗き込んだ瞬間スプーンを投げ捨てた。彼の色は紫がかっている。自分の手を広げて表に裏にと何度も確認し、恐る恐るというふうに自らの頬に手を伸ばす。頬から顎に手を滑らせたところで…また布団に潜り込んでしまった。

 なに?なんで?どうしたの?
 色は濃いグレー。
「大丈夫?どうしたの?どこか苦しい?」
 一生懸命話しかけるけど、もう反応もしてくれなくなった。
「しーちゃん、慌てちゃ駄目だ。その人も今混乱してるんだと思うよ。俺らも目が覚めた時は暫く何が何だかわからなかったよね?それが態度に出てるだけだと思う。それに言葉が通じている気配がないから、余計に不安なんだろう。
 少し時間が必要だと思うよ。」
「そうだよね、こっちが慌てたり騒ぎ立てたりしたら余計怖くなっちゃうよね。」
 いきなり知らない場所で見た目すら外国人の知らない人達にわけわかんない言葉で騒ぎ立てられたら、居場所なんてないと思っちゃうよね…
「ごめんね、ここにご飯置いておくから、お腹空いたら食べてね。」
「しーちゃん、向こうに行こう。」
「うん。」



 私はその場を離れてあっくんとご飯を食べようとしたけれど、あの人が気になって気になって、無意識にフォークでお肉を弄んでいた。
「しーちゃん、あの人が心配なのはわかるけどさ、明日は説明があるんだよ。ここを出られるかもしれないし、もし別の場所に監禁されそうなら逃げないといけないかもしれない。しっかり食べて体力落とさないようにしないと。そんなに肉突いてもお腹はいっぱいにならないよ?」
「あ、うん。そうだよね。食べないと…だよね。」
「そうだよ。食べられないなら俺が食べさせてあげようか?」
「へ??いやいや!食べる!食べるよ!食べるから大丈夫!」
 そんな眉毛への字に下げられても!
 本気でやりそうだから全力拒否です!

「あっくん、明日になったら地球に帰れるかもしれないんだよね?そういえば、地球に帰ったら元の年齢に戻ったりするのかな?」
「あっ!それは俺も考えてなかったわ。
 元の歳に戻らなかったら俺、店に戻れないかも…」
「タトゥーのお店だよね?」
「そうそう。しーちゃんは若返ったままでもまだなんとか誤魔化せるかもしれないけど?
 俺はなぁ、誤魔化せるレベルじゃないわ。」
「そんなに見た目違うの?」
「そりゃー俺39だよ。今の俺、しーちゃんから見ると何歳くらいに見える?」
「やっぱり23か24ってとこじゃない?」
「だよなぁー俺もそのくらいだと感じてる。誤魔化せるわけないよなぁー。
 ねぇしーちゃん、俺がオッサンに戻っても友達でいてくれる?」
「もちろんだよ!私こそオバさんに戻っても友達でいてくれるか心配だよ!」
「しーちゃん31なんだよね?
 31のしーちゃんも可愛いまんまなんだろうなぁ。」
「まぁ、サイズは変わらないからちんちくりんはちんちくりんのままですよ。」
「サイズの話じゃないんだけどね。」
「ねぇ、明日さ、もし逃げなきゃいけない状況だったら、私も他の人も気にせず逃げてね。」
「それは無理。しーちゃん置いては行けない。」
「駄目だよ!何が何でも逃げないと!私もそうするから!逃げられたら後で助けに来られる機会もあるかもしれないけど、この部屋みたいに中から干渉出来ない所に閉じ込められたらもう打つ手がなくなっちゃう!」
「でもそんなことでき「約束して!一人でも逃げ切るって!お願い!」
 あっくんの手をとり、ぎゅっと握りしめる。
「お願い!」
 もう一度、いいや何度でも言う!約束してくれるまで!

 俯いて黙ってしまったあっくんを見つめ、もう一度言う。
「お願いあっくん!逃げるってやくそ「わかった。」
 そう言いながら握りしめていた手を引かれ抱きしめられた。
「もしそうなったら、あとで必ず助けに行く!
 必ず!
 必ずだ!
 だから諦めないで待っていて。」
「わかった。
 私も逃げ切れたら必ず助けに行く。
 約束だね。」
「うん。一緒に地球に帰ろう!」











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