水と言霊と

みぃうめ

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第112話    亜門&ラルフ④

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「ラルフ、悪かったな。
 何も知らないで時間を作らないなんて怠慢だなんて言っちまった。」
「いいえ!川端様のおかげで離縁出来ます!不能者と有名になればバケモノどもからも解放されるのです!
 まさかこんな日が訪れようとは!
 感謝してもし足りません!
 本当にありがとうございました。」
「あのクソ女と夫婦なんざ、死んだってごめんだな。
 ラルフは今までよく耐えた。
 諦めながら生きるもんじゃねぇだろ?」
「はい!」
「一つ確認したいんだが…ラルフはしーちゃんには触れられるのか?」
「触れるというのはどういう意味ですか?」
「握手したりハグしたり…接触って言った方がいい類いだな。」
「それは勿論できますが…畏れ多くて…」
「畏れ多い?」
「はい。紫愛様は私にとってムーサですから。
 女神に触れるなどとてもとてもっ!」
「は?女神?まさかミューズのことか?」
「はい。ムサともミューズとも言いますね。
 ヴェルナーとのやり取りを見ていて、紫愛様の諌め方や言葉には何か特別な力があると感じました。そして水は紫愛様の因子です。
 ムーサは水と豊穣の女神であり、学問の女神でもあるのです。およそ私の人生で女神と出会う機会などなかったでしょう。
 紫愛様は私の光です。」
「それサラスバティーじゃねぇか!…………そうか、ここでは色んな神が混じって固定されてんのか…その理論でいくと、異性として好意をもっていたわけではないってことか?」
「私も初めは好意だと思っていましたが、途中で気がついたのです。紫愛様はムーサなのだと。
 そして川端様はヴィシュヌ神だと思っております。」
 なんかすげぇ嫌な予感がすんなぁ…
「それ、因みにどんな神なんだ?」
「ヴィシュヌは世界を維持し、悪を滅ぼす神であります。質実剛健なイメージですね。
 そしてムーサとは夫婦です。」
 しーちゃんと俺を夫婦だと!?
 なんだその素敵設定は!!!
 ん?まてよ、
「おい!!
 ヴィシュヌはラクシュミーと夫婦だろ!?」
「ラクシュミー?
 ラクサーという美と富の女神はおります。
 ですが、私はあまり良い印象はありませんね。
 女子にとっては魔力や因子と同等に美しさも重要ですから。そこに固執しての富と言うならば、私は腐った貴族を連想させてしまって…
 それにヴィシュヌとラクサーが夫婦など有り得ません。」
 やっぱり…色んな神が混ざりまくってんな。
「サラスバティと夫婦ならブラフマーだ。
 俺が知ってるヒンドゥー教の三大神ってのは、ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァだ。」
「シヴァ?シーヴァルという神は存在しますが、破壊の神であり、ほかの女神を侍らせている、どちらかというと堕落した印象ですね。」
 おいおい、シヴァとヴィシュヌって言やぁわかりやすく力がある一番人気ある神じゃなかったか?
「じゃあブラフマーは?」
「ブラフマーは虚言癖のある神で、神界を追放されたとされています。」
「はぁぁぁぁあ?
 そりゃねぇだろ。ブラフマーはこの世界を作った祖となる存在だ。ブラフマーがいなきゃ世界がない。」
「世界を作る?ですか?」
 それを聞いて思わず目元に手を当て天を仰ぐ。

 そうだった…ここは魔法至上主義。
 魔法こそ全てなんだ。
 宇宙の始まりがなんたるかまるで知らない、知ろうとしない、そもそも興味などないだろう。

 “創造”ではなく“想像”。
 想像で魔法を使っているんだ。

 しーちゃんが雲に乗れそうか、何故雨が降るのかを聞いていたのは、こっちの世界での物理云々を確かめていたからなんだ。
 物理の基礎がなく、魔法で全てを解決してきたとしたら?
 そんな奴らが世界を作るなんて受け入れられるわけがない。
 何言ってんだ?作るのなら魔法でだろ?ってなるに決まってる。
 淘汰されてしまって当然だ。

 俺だって神なんて信じちゃいない。
 あんな神同士で恋愛ドロドロなんて人間そのものだろ?所詮は人間が作り出したモノ。そこに救いを求め、意義を求め、信念を生ませる為に作った偶像だ。諦めて死を選択させない為に、それが心の拠り所に成り得るからこそ定着していった考え方だ。

 だが、ここでの考え方は魔法ありき。
 自分達の全く理解できないモノは排除一択。わかりやすい力なら理解もでき崇められるが、ブラフマーは虚言とされてしまえば崇める所がないからな。

 さて、どうするか。
 ラルフも困惑しているな。
 いくら説明したところでわかるわけもないだろう。
 釘だけは刺しておかなければいけないか…

「ラルフ、それ他の地球人達に言うなよ。」
「何故ですか?」
「ここでの神と地球での神の持ってる意味がまるで違うからだ。俺は何も拘りなんてないからいいが、他の人達はどんな神を信じているかわからない。下手をすれば殺し合いに発展するほどに重いぞ。」
「そこまでですか?」
「地球ではな、信じる神が違ったり、どちらが強いのかやどちらが正しいのかで戦争に発展することもあった。
 さっき言ったろ?信念を持てと。
 その信念が神だとしたら?
 到底譲れないし、許せないだろう?」
「……わかりました。肝に銘じます!」
「俺はな、一人一人の心の中にある正しい人物像や目標や安心感を与えてくれるモノ。
 本来、神とはそういうモノだと思ってる。
 それは一人としてこの世に同じ人間が存在しないように、神もまた、一人一人違うはずだ。それを強制しようなど端から無理だ。

 今は魔物の存在で人同士で争うことなどないんだろ?
 貴族同士の派閥や利権争いくらいなんだろ?

 戦争経験者からすると、それは幸せなことなのかもしれないと思う。戦争で被害を受けるのはいつだって弱い者達だからな。」
「戦争とは、それほどに過酷だと?」
「過酷なんてもんじゃない。
 ラルフは女子供関係なく力も武器も持たない平民が命乞いをしてきて、それを躊躇いなく殺せるか?」
「そんなこと無理ですっ!!」
「だろ?人間同士が争うとな、そうなるんだよ。」
「そんな…」
「人間は弱く、狭量で狡賢い。
 だがその反面、頭が良い分色んな物を作り出せるし、博愛精神を持ち合わせている者だって確かにいる。
 つまり、どこの国にも色んな人間がいるってこった。

 この世界はどこかチグハグなイメージだな。」
「チグハグとは?」
「魔法があるから知識が足りてねぇ。
 魔法で便利にしてるから、魔法にしか興味がないと言ったらいいのか…
 あ、そうだ!俺が言った体外受精って覚えてるか?」
「はい。あの、子種を外でくっつけて女子の腹に戻すというやつですよね?」
「あれ、聞いてどう思った?」
「正直なところ、何を仰っているのかよくわからなかったです。私が離縁できた決め手が元妻との性交の有無だったことと、川端様が女子と性交せずとも子ができるようなニュアンスで仰っていたので、そのようなことなのかと。
 ですが、俄には信じられません。」
「だろうな、その感じだとどうやって子ができるのかもわかってない、か?」
「私が特別その知識に乏しいのかもしれませんが…女子の腹に子種を出し、あとは運次第といったところかと。」
「女性が妊娠しやすい期間は?」
「そんな期間があるのですか?」
「では、女性の腹に子種を出してから、子種が生きている期間は?」
「は?期間?ですか?」
「はぁー頭痛ぇな。
 何も知らないで四人も子供作れってか?
 これから役に立つかもしれないから少しだけ教える。
 女性が妊娠可能なのは僅か1日。
 女性の中で子種が生きている期間は2日程度だ。」
「何故そんなことがわかるのですか?」
「不妊で悩んでる女性の客がいてな、色々教えてくれた。俺もそれを聞くまで詳しい期間までは知らなかったが、まぁ一般常識程度だろう。そして、俺が住んでいた国では体外受精も比較的一般的だ。金さえ払えばやってもらえる。それには性交は一切ない。」
「そんな…ことが…」
「もし身体の中から子種を取り出さねばならない場合、お互いにかなりの苦痛を伴うみたいだがな。男性は子種に問題がなければ出すだけだから苦痛も何もないだろ?辛いのは女性側だ。
 因みにな、誰と誰の子供か、地球では調べる方法もある。」
「まさかっっっ!!」
「あるんだよ。しかも、調べるのには髪の毛数本で事足りる。」
「………有り得ない…」
「そう思うのがこっちの世界での常識だ。
 俺達の地球では、こっちの世界の方が有り得ない。
 ラルフ、お前だから話したんだ。
 誰にも漏らすんじゃねぇぞ。」
「信用していただけて嬉しく思います!
 誰にも話しません!」
 と、敬礼をするラルフ。

 
 クソ女とのゴタゴタで半日以上潰れてしまった。
 早くしーちゃんに会いたい。

















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