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第214話 探索と雑談
しおりを挟むすっかり話し込んでしまい、あっという間に昼食の時間になってしまった。
昼食を済ませた後は私とあっくんで探索を行う。
皆には練習場に行く時間はロビーで操作をしてもらい、それから優汰はいつも通り畑へ。カオリンと麗と金谷さんはそのままロビーで文献の解読を。
完全に分業だ。
あっくんとロビーの外に出ると、そこにはいつもの護衛達の姿。
「これから内外の探索をする。
しーちゃんにはハンスがつけ。
俺にはラルフ。
お前は一人でここを守れ。
昨日金谷さんの魔法を見たからわかってると思うが、もし万が一があれば金谷さんを頼ってもいい。」
「畏まりました。」
「しーちゃん、暗くなる前には必ず帰ってきてほしい。気をつけてね!
ハンス!頼んだぞ!」
「畏まりました!」
「あっくんも気をつけてね。」
「ありがとう。
じゃあ行こう。」
外に出て改めて思う。建物が小さい。
「紫愛様は何をお知りになりたいのですか?」
「もし何かあった時の逃げ道。」
「残る皆様のため、でしょうか?」
「それもある。
いざとなったら建物ぶっ壊して逃げれるけど、逃げた先でも囲まれる可能性もあるでしょ?
私とあっくんなら躊躇わないけど、カオリン達に人を傷つけることはなるべくさせたくないからね。」
「ぶっ壊すとは?」
「今朝金谷さんの魔法見たでしょ?
その説明もした。
金谷さんは全部土の認識。
壁でも床でも屋根でも壊せる。
でもそれをすると建物自体の倒壊の恐れがあるからやらせたくないってあっくんが言ってた。
私もそう思う。
建物には詳しくないけど、もし建物の強度を壁全体で支えるようなタイプだったら大きな穴が開けば建物全体が歪んだり倒壊すると思う。」
「そんなことが土魔法で可能なのですか?」
「可能。金谷さんは強いよぉ!」
「それは是非とも回避したいですね。
建物の倒壊など洒落になりません。
皆様がいる建物は皇帝陛下も奥に住んでおられますから。」
「でしょ!それにメイドとか料理人の人とか関係ない人巻き込むのは嫌だから。」
「紫愛様は相変わらずお優しいですね。」
「優しくなんてないよ。
カオリン達がもしそれをせざるを得ないことになったら、その時はしょうがないと思っても後から気にしちゃうでしょ?」
「それを優しいと言うのですよ。」
「そうかな?
あっくんもそう考えてると思うけど?」
「川端様もお優しいですよ。」
「そっか。
ねぇ、何で建物こんなに小さいの?
もっとドンっと大きな建物なのかと思ってたけど、私達がいる建物の他に一軒家くらいの建物がこんなに複数あったら行き来が面倒じゃないの?」
「あれは皇帝陛下の御側室方の住まいになりますから。」
「側室ね……」
そんな存在忘れてたよ。
国のトップなんだから側室が沢山いたって何も不思議じゃないよね。
「私達には関係ないから勝手にしてって感じだけど、地球ではほぼないからどうにも受け入れ難い。」
「ないのですか?」
「残ってる国もあるけど、ほとんどの国ではもう何百年も前のことだよ。
今は一夫一妻制。」
「……だから嫌悪感が強い、と?」
「この世界の貴族達は強い者に擦り寄って利用しようとするのが当たり前で、むしろやれやれ!って感じでしょ?それが貴族達の正義でもあるわけだ。
望んでやってるならどうとも思わないよ。」
「ですが、地球の皆様は違います。」
「あっちの方に行こう。
そりゃそうだよ。
文化も育ちも違うんだもん。
貴族達はそれが当たり前で育ってるんだから、そうなるのは当たり前。
私達はそういう文化で育ってないから受け入れ難い。
私達の国では貴族も平民もない平等な国だったからね。
嫌なことを強いられながら生きるのって苦痛でしょ?
生きながら死んでゆくあの感じ。
私達は道具じゃない。
道具として利用され使い潰されるくらいなら死んだ方がマシ。」
「利用と言いますと……」
「性的な目で見られるのはそういうことでしょ?
貴族達の政略結婚が守られないのだって魔力の強い子が欲しいから。
なら狙われる理由なんて明らかだよね。
私達が魔力が強いから。
それだけ。
そんなつもりは一切ないけど、地球人と交配して本当に魔力の強い子が産まれるの?っていう疑問はあるよね。
そもそも妊娠だってするのかどうか確かじゃないでしょ?」
「……そ、れは…………」
「そんなクソみたいな実験に地球人が付き合うと思う?
男の人なら喜ぶ人もいたかもしれないけど、今のところ地球の男の人達も嫌悪感しかないよ?
あの様子じゃ勃つもんも勃たないんじゃない?」
「紫愛様っ!」
「私は見たことないけどさ、高位の貴族の女の人ってすんごい化粧してるんだってね!
あはは!見てみたい!」
「あれに関しては私もどうかと思います。」
「あ!あっちにも行きたい!
私たちの国にもそういう化粧が流行った時期があったんだよ!
肌を真っ黒に塗って目鼻口は白。
目を何倍にも強調するメイクしてね!
あっくんは化け物だって言ってた!」
「化け物……ですか?」
「そう!国で流行ったのも本当にごく一部の奇抜な人間だけだったから、普通の人には理解できない化粧だったの!
私も直接は見たことないし!
おまけに貴族ってあの香油使ってるんでしょ?
塗りたくってんの?」
「そうですね。香油の匂いはしますね。」
「それ、ハンスは平気なの?」
「塗っている量にもよりますが、塗りたては抵抗がありますね。」
「地球人はさ、あの匂いで吐くからね。」
「ハクと言いますと…
嘔吐されるのですか!?」
「そう。私なんて香油の瓶開けただけで吐きそうだった。
あっくんも、その化け物が臭いのなんの!って大騒ぎしてたよ!」
「では、辺境に行く際には向こうの者に周知させておきます。」
「そうした方がいいかもね。
高位の女の人と接触する機会なんてないとは思うけど、匂いがキツいと私は近寄ることもできないからね。」
「他にも、これは受け入れ難いという事柄がございましたら仰ってください。」
「うーん、今は思いつかないかな?
あっくんにも聞いておくね。」
「お願いいたします。」
「逃げ道はあんまりないね。
畑の方に逃げた方が確実かな?」
「見通しが良い方がどちらから狙われているのか確認しやすいですが、逆に狙われやすくもあります。」
「ねぇ、夜はどうなの?
月明かりってあるの?」
「あるにはありますが、かなり弱いです。
夜に外に出るのはとても危険だと思います。」
「じゃあ夜魔物が襲ってきたら?
気づいたらすぐ側にいるんでしょ?
どうしてるの?」
「辺境伯領の門の付近にはかなりの灯りが設置されております。見張りもおりますので見逃すことはないかと。」
「二週間の滞在は変わらず?」
「はい。」
「その間魔物が来なかったら私達は何して過ごすの?」
「お好きに過ごしていただければと思っております。」
「一緒に行く騎士達は何してんの?」
「辺境にも訓練場はございます。
そこで訓練はしております。」
「一日中訓練してるわけじゃないんでしょ?」
「はい。」
「何してんの?辺境で何かお手伝い?」
「遊んでおりますね。」
「は?」
「娼館に行ったり盤上遊戯をしたりなどしています。」
「はぁ?
仕事で行ってんじゃないの?」
「体のいい休暇という感じでしょうか。」
「それは許されることなの?」
「はい。悪いことではございませんよ。
騎士達は金払いが良いですから、辺境は潤います。娼館で働く者達も客が来なくては食べていけません。」
「仕事という概念で行くわけじゃないの?」
「勿論魔物が発生したら戦ってもらいますよ。
ですから行動範囲は限られます。」
「なんか……思ってた感じとだいぶ違う。
私とあっくんの覚悟はなんだったの……」
「騎士達は戦いにもあまり戦力にはなりませんから、お客様という立ち位置ですね。」
「戦力にならない?」
「はい。たまに戦うくらいで魔物との戦場で役に立つと思いますか?」
「逆に…邪魔なんじゃない?」
「そうですね。
はっきり言ってしまえば邪魔です。
ですからお客様なんですよ。
その分金を落としてくれますから問題はありません。辺境は何かと物入りですので。」
「私達も、邪魔じゃない?」
「そんなことはありませんよ!
魔物が出現すれば紫愛様と川端様は魔法の威力も桁外れですから必ず役に立ってくださいます。
私は紫愛様の視点から辺境への意見をお聞きしたいです。」
「私の意見なんて聞いてどうするの?」
「違う視点とは、案外出ないものなのです。改善点があれば参考にしたいと思っております。」
「……ハンスって偉い人なの?」
「紫愛様は鋭いですね。
私は辺境伯領の次期当主です。」
「辺境伯っていくつあるの?」
「東西南北4箇所ございます。」
「ラルフも次期当主って言ってなかった?
あれ?ラルフって家どこだっけ?」
「私とは違う家の辺境伯ですよ。」
「あ、違うんだね。」
「はい。
次に出向く辺境伯領はラルフの家です。」
「そうだったんだ!」
「はい。」
「ねえ、外周って広い?
家の隙間縫って歩いてもあんまり参考にならないから明日は外周回ってみたい。」
「昼からでは回りきれません。」
「走っても無理?」
「紫愛様のスピードで走られたら私が追いつけません!」
「そっか。じゃあとりあえず半周でもいいからしてみたい。」
「畏まりました。
明日の予定はその様に心得ておきます。」
「よろしくね。
今日はもう戻ろう。」
「はい。」
応援ありがとうございます!
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