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第227話 使用人
しおりを挟むあっくんとロビーへ入ってきたハンスは
「何かございましたか?」
と、敬礼をした後聞いてくる。
「前にハンスに護衛を増やしたいって言ったの覚えてる?」
「勿論です。
精査も終わらせ、現在2名まで絞り込み済みです。あとは本人達に声をかけ了承を得るのみとなっております。」
頼んだ訳でもないのに頼まれると予想してのこの準備の良さ。
「ありがとう。
その二人にはもう声をかけてくれる?
護衛につく了承もらえなかったらまた探さないといけないと思うし。
あと、男の使用人が欲しいんだけど、使用人の方は探せそう?」
「すぐに声をかけさせていただきます。
使用人ですが、差し支えなければどの様な理由でご希望なのかをお聞かせ願えれば、それに沿った人物を探して参ります。」
「えーーと………」
私が何て説明すれば良いか迷っていると
「女は要らないんだよ!
俺は女に近付いてほしくないの!
邪魔されるのも嫌なの!」
優汰が大声で主張する。
「はい。存じ上げております。
では、男の使用人ならば誰でも良いということでしょうか?」
「優汰は説明下手なんだから黙ってろ!
適当な人間連れてこられたらハンスに聞いた意味ねぇだろう!」
「ハンスさんが適当な人物を連れてくるわけはないわ。
ねぇ?」
「勿論です。
もう少し具体的に欲しい人材を述べていただけますと幸いです。」
「信用の置ける、それなりに強い人が良いわね。
ハンスさんのように話が通じる人だと尚良いわ。」
「そうですね。
香織さんの言う通り、話が通じる使える人物が良いな。ここのメイドは全く話が通じなくて苦労してるんだ。」
「……そうですね。
一人思い当たる人物がおりますが、使用人でなければいけませんか?」
「使用人じゃなきゃ何なんだ?」
「執事です。
彼はとても優秀です。
私の師でもあります。」
「それは辺境の者、ということ?」
「そうです。」
「その方は強いのかしら?」
「私と居並ぶ程度、と申せば伝わりますでしょうか?」
「第一騎士団のハンスと同じくらい実力あるのに騎士じゃないの?」
「紫愛様の疑問は最もだと思います。
彼はいずれ辺境に戻る人間でもありますから、騎士団ではなく統括の方で実力を伸ばしてもらっているということです。
辺境には辺境の騎士団がございますので戦える人材には不足はありませんが、統括となりますと、それなりに優秀な頭の良い人物でないと務まりません。」
ハンスがそれ程に言う人なら大丈夫かな?
ハンスの師匠でもあるなら他の全く知らない人より信用もできそう。
「その人が良いわ!」
「俺もそう思う。
ハンスの師なら変な奴じゃないだろう。」
「私も、それが一番安全だと思う。
優汰はそれで良い?」
「俺はよくわかんないけど、みんながそれが安全だって言うならそれでいいよ!」
「畏まりました。
その様に手配させていただきます。」
「ハンス!
辺境に行く前にハンスの師匠と新しい護衛に会いたい。
みんなを任せても大丈夫か見てみたいの。」
「畏まりました。
では明日の昼食後にはこちらに連れて参ります。」
「急なお願いだけどよろしくね!」
「とんでもございません。
では、私は準備がありますのでこれで失礼いたします。」
ハンスがロビーを後にし、カオリンが口を開く。
「ピアノなんだけれど、3階に置いたままなのは良くないと思うのよ。
いざと言う時絢音君のそばに誰も近くにいないというのは避けたいわ。下に置いた方が良いと思うの。
でも置く場所には困る。
麗ちゃんの部屋の前にピアノを置いて、麗ちゃんは川端君と紫愛ちゃんが辺境へ行ったら私の部屋で過ごしましょう。
それでも良いかしら?」
「香織さんの迷惑にならないなら私はそれで大丈夫です。その方が安心だし。」
「絢音君も私の部屋で寝ることになるかもしれないわ。寝ている時が一番心配だもの。
朝になって絢音君が連れ去られていた、なんてことになったらシャレにならないわ。」
「絢音君が嫌がらなかったら俺の部屋で寝てもいい。」
「それじゃあ夕食の時に絢音君にどうしたいか聞きましょう。」
「みんな、絢音をよろしく!」
「任せてちょうだい。それよりもね、絢音君の因子に関する記述っぽい物があるにはあったんだけれど、文字の癖が強過ぎて解読に時間がかかりそうなのよ。
残したいのならもっと綺麗な字で書きなさいよ!なんなのよ全く!」
「もう見つけたの!?流石カオリン!」
「しーちゃん、何の話?」
「絢音が光か闇の因子持ちじゃないかってカオリンに相談したの。
それに関する記述が残ってないか今カオリンが探してくれてるんだよ。」
「それに関することが一番重要事項だと思っているから頑張るわ!
それに昔の文献が読めるようになれば他の本も解読に繋がるもの。
決して遠回りではないわ!」
「俺も絢音の因子については考えていたんだ。絢音にだけ魔力が流せないし感じることもできないからね。
しーちゃんの見立てでは光か闇のどちらかってこと?」
「みんなで相談したら、金谷さんは光じゃないかって。
ね?金谷さん!」
「俺はそう思う。
闇だとエネルギー源が不明。」
「闇だから陽の光が駄目ってことも考えられないか?」
「それを言ったら陽の光を浴びた時点で消滅してないとおかしい。
俺の考えでは魔力制御が完璧になれば陽の光を浴びても平気になるはず。」
「確かに…絢音はまだ制御が不完全だな。」
「大丈夫、外には出ない。」
「そうよ!豪が言う通り!
わざわざ危険を犯して外に出ることなんてしないから平気よ!
絢音君も私達が守るんだから任せなさい!香織さんと一緒に文献探すわよ!」
「金谷さんも麗もよろしくね!」
「ねぇ!俺は?
本当に畑行っちゃっていーの!?」
「優汰は畑行って良いぞ!
ただし!護衛を三人連れていくのは変えるなよ!」
「わかった!」
「私は今からまた解読に戻るわ。」
「わかった!あっくんはちょっと話があるから部屋に行っても良い?」
「そうだね、俺としーちゃんがいたらつい話しかけちゃうから部屋に行こう。
優汰も部屋で大人しくしてろよ。
もうすぐ暗くなるからな。」
「わかった!」
そう言ってあっくんの部屋へ移動する。
「しーちゃんの話って何?」
「ハンスの師匠のことなんだけど。」
「ああ。ハンスがあれだけ言うってことは変な奴ではないだろうな。」
「それなんだけど……辺境の人ばっかりに頼っても良いのかなって思ったんだよね。」
「辺境の人ばかりだと付け入る隙を与えるってこと?」
「うん……」
そう、私が思ったのは辺境の人ばかりに頼ってしまうと、やがて辺境の人の思う通りになってしまうんじゃないかということ。
それに皇帝達からしても面白くはないだろう。
辺境伯と皇帝がどんな関係を築いているかは不明だけど、お互いがお互いを牽制し合って力が拮抗している方が周りも下手に動けないはず。
という私の考えをあっくんに聞いてもらった。
あっくんは戦略に長けているから意見を聞いてみたかった。
「しーちゃんの懸念はわかるよ。
ただ、現状では辺境の人を頼るのは悪くないと思う。
現時点では特にハンスが一番まともな考えを持って行動してる。
地球人全員で辺境に行くんだったら、誰もここに戻ってくることがないかもって思われてしまうかもしれないけど、辺境に行くのは俺としーちゃんだけ。
それに皇帝も、辺境伯領の魔物への対抗力を心配していた。自分達が守られていることの自覚もしていたよ。
皇帝も変わりつつある。これから皇帝が変わったと周知されていけば、こっちの貴族達も好き勝手に動けなくなる。暗躍する貴族達は粛清の対象だ。
それに、俺達が辺境の人間に執心しているような態度を見せなければ大丈夫。
少なくとも、俺としーちゃんは異世界人達を心から信用する時なんてこないだろうし。」
「それはそうだね。」
「俺からも一つ、しーちゃんに聞きたいことがあるんだ。」
「何?」
「ヴェルナーのこと。
あいつは明日から第一騎士団に復帰して辺境にもついてくるらしいんだ。
ラルフの所の辺境は魔物が一番発生頻度が高い。戦力になる人間を少しでも一緒に行かせたいらしい。
本人はしーちゃんの護衛に戻りたいって言ってたらしいけど、俺もギュンターも許さなかった。
しーちゃんはどう思う?」
ヴェルナーか……
もう頭になかったよ。
「どうって聞かれても、復帰おめでとうって感じ?
あっくんの言う通り、護衛に戻らせるのは違うと思う。
ヴェルナーの希望通り護衛に戻れちゃったら他の護衛につきたいって騎士達の希望も叶えないといけなくなっちゃうんじゃない?
それは通らないと思うよ。」
「しーちゃんはヴェルナー自身のこと、どう思ってる?」
あっくんは何が聞きたいんだろう。
首を傾げてしまう。
「……頑張れ?」
「そうじゃなくて!
近づいてほしくないとか視界に入るなとか、そういうこと!」
「何も思わないよ?
これから頑張るのはヴェルナーだし、それは私には関係ない話でしょ?
強いて言うなら、恨まれてるかなぁ?くらい?」
「それは団長の座をおろさせたからってこと?」
「そう。」
「確かに恨みはあるかもしれない。
復讐を目論んで護衛につきたいのか、心を入れ替えたから挽回のために護衛につきたいのかは不明だよね。
ただ、恨んでいる場合、それは逆恨み以外の何物でもない。」
そりゃそうだ。
皇帝の意見すら無視する護衛なんて護衛じゃない。
「私は護衛に戻らないなら好きに頑張ってとしか思わないよ。」
「そっか。なら良かった。」
あっくんはホッとした様子を見せる。
「心配してくれてありがとう。」
「しーちゃんは優しいからね。
護衛に戻してもいいんじゃないかって言われるのが不安だったんだけど、それなら大丈夫だね。
辺境に行ったら絶対一人にはならないでね!」
「うん。あっくんもね!」
そんな話をしていたら夕食に呼ばれた。
応援ありがとうございます!
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