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第301話 古代米①
しおりを挟む古代米は、あっくんの言っていた通りほぼ黒に、少量の赤が混じっていた。
ハンスと調理場へ行き、唸る。
色が違うってことは品種が混ざってるってことだよね?
流石に一合どころじゃないこの量の選別は無理。
なにせ米なのだ。
しかも水に浸けたまま持ち帰ってきている。
一緒に炊いても問題ないのかな?
一回やってみるしかないか!
なんとなく色的に固そうだし、水に浸す時間長めにしてみよう。
夕食までは……ギリギリかも。
もし炊くのに失敗したら雑炊にでも…
って!調味料ないよ!?
醤油!味噌!出汁!!!
なーんもない!
塩だけ?それって美味しいの??
美味しくないだろうな…
海鮮系は…見当たらない!
あ、卵雑炊ならいける?
うーん、それならまぁ…でも卵の話聞いちゃったから食べるのは躊躇う。
でも失敗して捨てるのも嫌だ。
……背に腹はかえられぬ、失敗したらごめんなさいして卵を貰おう。
「ハンス、聞きたいことがあるんだけど。」
「はい、何でしょうか?」
「魚って手に入る?」
簡単に出汁をとるなら海鮮だ。
身はなくても粗や骨があれば…
「すぐには手に入りません。
魚は森の中にある川に生息しております。
外の者達が捕まえてくるのですが、手に入らないことの方が多く、手に入ったとしてもすぐに腐ってしまうので手に入り次第食べてしまいます。」
「お城で私達の食事にたまに出されてた魚はどうしてたの?」
てっきり池で養殖でもしてるのかと思ってたんだけど、違うの?
「あれは辺境から運んでいます。」
「え…言ってることが違うよ?
すぐに腐るのにどうやって運ぶの?」
「水を入れた容器に魚を入れ、水ごと運んでいます。」
「生きたまま?」
「はい。」
「それ……お城に着くまで魚は生きていられるの?」
エアーポンプとかあると思えないけど、運ぶ方法が確立されてるのかも。
「いえ、途中で死にます。」
「そうだよね死んじゃうよね!!」
やっぱりないんじゃないか!
「可能な限り生きた状態を保たなければ腐ってしまいますので。」
「でも途中で死んじゃうんでしょ!?
それ食べても本当に大丈夫なの!?」
ここには死んだ後に冷やす冷蔵庫も氷もないんだよ?
こんなに気温が高い国でそんなことやったらすぐ悪くなるよ!
「魚に関しては早馬と同じような速度で運ばれますので、腐りはしないです。」
腐ってなくても傷むことに変わりはないじゃない!!!
そんなの食べていいわけない!!
「あ゛ーーーもぉぉぉ!頭痛い!!!」
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫なわけあるか!!
そんな物を食べさせるな!!!
そんなに!魚が!食べたいんなら!
干物にでもすりゃーいいじゃない!」
「それは魚の調理法ですか?」
「まさか干物知らないの!?」
「初めて聞きました。」
「この国の人って食に興味がないの??
ハンスみたいに何食べても生きていられればいいって人ばっかりなの!?」
「私は自分が特殊だと理解しております。
他の者達が食に関して話すこともよく耳にしております。」
「魚が簡単に手に入らないんなら、辺境の人でも魚は滅多に食べられないの?」
「はい。魚は牛より更に高級になります。」
そうか…日本は島国。
魚がいっぱい獲れていたから干物なんてものが考えられたんだ。
滅多に獲れないここで試行錯誤なんて出来る余裕があるはずなかった。
「ごめん、また文句言っちゃった…」
「構いません。」
「そういえばハンスは前に私が作ったガレットもどきとスイートポテト食べてくれたけど、何で食に興味がないのに食べてくれたの?」
「あれは紫愛様が私共のことを考えお作りくださったからです。あのような身に余ることがございましょうか。
それに地球の皆様が以前から食に熱心である様子は窺えましたから、どういった物か興味はありました。」
「ふーん、じゃあ全く興味がないわけじゃないんだ?」
「私にも好奇心はありますよ。」
「でも、一度知ったら興味が薄れる?」
「そうですね。」
ハンスがつまらないって感じるのってそのせいなのでは?
「全てのことに関心が薄いのかな?
執着心もない?拘りは?」
「何れも…あまり分かりませんね。」
「ハンスが料理を知ったら案外ハマるかもね!
料理は正解もないし、終わりもない。
無限に作り方があるから試行錯誤し続けられるし。」
「そもそも料理にあまり興味がない場合はどうすればよろしいですか?」
「そっかぁーないかぁー。
良い案だと思ったんだけど。
そもそも食に興味がなければ料理なんてしたいと思わないよね。」
「紫愛様は食事がお好きですか?」
「うん!食事は身体を作る大切な物だし、好きな人と食べるともっと美味しく感じるんだよ!」
「それは異性のことでしょうか?」
「違うよ。
恋人でも家族でも子供でも友達でも、相手は誰でも良いの。
自分が大切だと思う人のことだよ。」
「そうですか。」
「ハンスにはいない?」
「特にはおりません。」
「子供がいるって言ってなかった?
あんまり好きじゃない?」
「お答えしなければいけませんか?」
答えたくないってことはいい感情は持ってないってことだよね。
離婚してるし、複雑な事情があるかもしれない。
子供を好きじゃない人だっているし。
「言いたくなかったら言わなくていいよ。
嫌なことや秘密を暴きたい訳じゃない。
秘密主義だって一つの生き方だよ?
ハンスの興味があること、何かないかなって思って聞いてるだけだから。」
「申し訳ありません。」
「私こそ不躾だった。ごめんね。
そうだ!干物の話だったね!
魚を生のまま食べるんじゃないなら干物にしたらいいんだよ。
干物なら少しは日持ちするよ。
作り方教えようか?」
「是非お願いします!我がプロイセンでは他領地より魚が多く獲れるのです!」
「お!初めて他の辺境の話が出たね!」
「すみません、つい。」
「いいよいいよ!特産品てこと?」
「流石にそこまでの量の確保には至りません。」
「そっかぁ。
でも干物は日持ちするし栄養価も高いし旨味も増すから良いことばっかりだよ!
うまくいったらハンスの所の超高級な特産品になるかもよ?」
「それは魅力的ですね!」
「でしょー!
後から教えるからね!
私も干物楽しみにしてる!」
「紫愛様は干物がお好きですか?」
「干物は好きだよ。
生魚は好きじゃないけど。」
「生で魚を食べるのですか?」
「新鮮なら食べられるんだけど、ここでは無理そうだね。」
「そうですねぇ。」
「そろそろお米炊くよ。
私もここのお米は初めてだから失敗するかもしれない。
あまり期待しないでね?」
「はい。」
「お米は火加減と水の量が大切なの。
今から30分くらいは離れられないからね。」
「畏まりました。」
結果。
水が多かったのか、炊けたけれど少しベチャッとしてしまった。
でも、初回と考えれば出来上がりは上々。
次はもう少し水少なめでやろう。
何回もやってみないと完璧には無理だな。
ただ問題は、臭い。
炊いている時から調理場に匂いが充満している。
そして水に浸けていた時から気になってはいたけど、炊く時の吹きこぼれの色!
魔女が怪しい薬を煮込んでいる時のような紫色のそれは、一気に食欲が失せる。
でも折角炊いたし、見た目は黒いだけのご飯なのだ。
意を決して一口。
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