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第三章:労働編
021:悶着
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「おうてめぇ、店主ぅ! こんな糞みてぇな料理出して金取ろうってのか、あぁ!?」
突然聞こえてきた……不快極まりない濁声。
奴はどかっ、と椅子を蹴り倒しながら立ち上がり、焼き飯の盛られた皿を机の上に叩きつける。
声の主は……見るからに質の悪い小汚い男だな。
周りの客より草臥れた襤褸の服に、皮膚に骨が浮いた体……見た目は三十か四十だが、実際のところは二十にもいっていないようだな。
そんな若僧が、飯屋の中だというのに喧しく、唾を吐き散らして喚き散らし、挙句店主が態々用意した焼き飯を床に散らばらせている。
周りの他の客が迷惑そうにしているにも関わらず、だ。
「え、えー……お客さン? どうかしたネ?」
「どうかしたじゃねぇよ!! てめぇの店はこんなくそまずい飯に金を払わせてんのかって聞いてんだよ!!」
「……皆さン、満足してくれてる味だヨ?」
「そこらの素人連中の味覚なんざ知るか!! 俺を舐めてるのか!? ふざけた事抜かしてるとぶっ殺すぞ!!」
……ぼちぼちだと言っていたはずなんだが、まだあの手の輩はいるのか。
縄張りにしてからいなくなったものだと思っていたんだが、考えが甘かったな。
「……にぃ、こわい」
「放っておけ。あれの方をあまり見るな、敵意があると思って向かってくるぞ」
「そんな獣じゃないんだから……」
ルルが怯えてすがりついてくるが、別段どうもせんでいいぞ。あれはただの雑魚だし……ていうかアリア、呆れているが、癇癪で騒ぎ立てているあたり、獣と称しても過言ではあるまい?
……そんでシェスカよ、そんな機体に満ちた目で俺を見るな。何もしねぇ……いや、関わりたくねぇから。
というか、あの男は馬鹿なのか?
店主と料理に文句をつけるだけならともなく、周りの客まで扱き下ろすとは……店の中にいる全員の雰囲気が変わっている事に気づいていないのか?
自分の立場を理解していないあの様子……最近ここらに流れてきた元は裕福な家出身のお坊ちゃんといったところか。
「……! 何だてめぇら! そんな目で俺を見るんじゃねぇ!! 俺を誰だと思ってる!? お前らが見下していい人間じゃえぇんだよ!! 俺は……俺は! こんな屑共の集まる場所にいていい人間じゃねぇんだよ!!」
周りの視線の鋭さに気づいた男がまた唾を吐き散らして吠える……適当に言ったのに当たってたわ。
あの言動と思考のせいで実家を追い出されたか? それとも家ぐるみで悪事でも目論んであ失敗したか……どちらにせよ自業自得なのは間違いなさそうだな。
……おっと、穏やかに応対していた店主の雰囲気が変わり出したな。そろそろこの茶番も終わるか。
「……私の料理が気に入らなかったのなラ、それは仕方ないヨ。でもネ、他のお客さんを馬鹿にするのは許さないヨ。みんな私の料理を美味しいと言ってくれるいい人達なのヨ」
「舌が腐った屑共なんざ知らねぇっつってんだろ!! そんなもんどうでもいい! 俺を不快にさせた侘びをしろ!!」
……ああ、禁句を口にしたな。
困り顔で難癖をつけてくる男と向き合っていた店主の顔が、一瞬で無表情になった。
客と相対する時は必ず笑顔を心がけているあいつが、だ。
「……その理屈だト、あんたにもお客さんを不快にさせたあんたにハ、もっと深く謝ってもらわなきゃならない事になるネ。それでいいノ?」
「あぁ!? てめぇ馬鹿にしてんじゃねぇぞーーー!!」
店主の言葉にびきっ、と目を吊り上げた男が店主の襟首を掴み、拳を振り上げる。
生っ白い手だな……喧嘩なんざした事なさそうなぬるい拳にしか見えん。金で雇った他人任せで自分は何も手を出さない弱虫の拳だな、ありゃ。
あ?
何だアリア、そんな必死の表情でしがみついてきやがって。
「ちょっ……どうすんのよ、あれ! お店の人、危ないんじゃないの!? 友達なんでしょ!?」
「何言ってんだ。知り合いだが友達じゃない」
そんなに仲が良さそうに見えたのか? 心外な。
俺はただあいつの飯がそれなりに好みだったから、何回か通ってただけだ。親しくなんぞない。
向こうが俺を利用する気でいっぱいなのに、馴れ合えるわけがねぇだろ。
「ってか、大丈夫だ。俺が手を出すまでもねぇよ……放っときゃ自然と解決する。……それにな」
「何言って……あ!?」
俺が全く動かない所為か、困惑ん表情を浮かべていたアリアが声をあげて目を見開く。
その視線の先で、男の拳が店主に向けて勢いよく振り抜かれ、顔面に炸裂しようとする。
店の中の客全員があっと声を漏らし、息を呑みーーー
ぶつりと、男は唐突に……糸が切れた人形のように店主の襟首からだらりと手を離し、その場に倒れ込んだ。
「ーーー俺が縄張りにしている店で、俺を不快にさせた奴が只で済むわけがないだろう」
はっ、と鼻を鳴らして、俺は襟元を正す店主が厨房へと戻るのを待つのであった。
……あぁ、力使うの本気で怠い。
突然聞こえてきた……不快極まりない濁声。
奴はどかっ、と椅子を蹴り倒しながら立ち上がり、焼き飯の盛られた皿を机の上に叩きつける。
声の主は……見るからに質の悪い小汚い男だな。
周りの客より草臥れた襤褸の服に、皮膚に骨が浮いた体……見た目は三十か四十だが、実際のところは二十にもいっていないようだな。
そんな若僧が、飯屋の中だというのに喧しく、唾を吐き散らして喚き散らし、挙句店主が態々用意した焼き飯を床に散らばらせている。
周りの他の客が迷惑そうにしているにも関わらず、だ。
「え、えー……お客さン? どうかしたネ?」
「どうかしたじゃねぇよ!! てめぇの店はこんなくそまずい飯に金を払わせてんのかって聞いてんだよ!!」
「……皆さン、満足してくれてる味だヨ?」
「そこらの素人連中の味覚なんざ知るか!! 俺を舐めてるのか!? ふざけた事抜かしてるとぶっ殺すぞ!!」
……ぼちぼちだと言っていたはずなんだが、まだあの手の輩はいるのか。
縄張りにしてからいなくなったものだと思っていたんだが、考えが甘かったな。
「……にぃ、こわい」
「放っておけ。あれの方をあまり見るな、敵意があると思って向かってくるぞ」
「そんな獣じゃないんだから……」
ルルが怯えてすがりついてくるが、別段どうもせんでいいぞ。あれはただの雑魚だし……ていうかアリア、呆れているが、癇癪で騒ぎ立てているあたり、獣と称しても過言ではあるまい?
……そんでシェスカよ、そんな機体に満ちた目で俺を見るな。何もしねぇ……いや、関わりたくねぇから。
というか、あの男は馬鹿なのか?
店主と料理に文句をつけるだけならともなく、周りの客まで扱き下ろすとは……店の中にいる全員の雰囲気が変わっている事に気づいていないのか?
自分の立場を理解していないあの様子……最近ここらに流れてきた元は裕福な家出身のお坊ちゃんといったところか。
「……! 何だてめぇら! そんな目で俺を見るんじゃねぇ!! 俺を誰だと思ってる!? お前らが見下していい人間じゃえぇんだよ!! 俺は……俺は! こんな屑共の集まる場所にいていい人間じゃねぇんだよ!!」
周りの視線の鋭さに気づいた男がまた唾を吐き散らして吠える……適当に言ったのに当たってたわ。
あの言動と思考のせいで実家を追い出されたか? それとも家ぐるみで悪事でも目論んであ失敗したか……どちらにせよ自業自得なのは間違いなさそうだな。
……おっと、穏やかに応対していた店主の雰囲気が変わり出したな。そろそろこの茶番も終わるか。
「……私の料理が気に入らなかったのなラ、それは仕方ないヨ。でもネ、他のお客さんを馬鹿にするのは許さないヨ。みんな私の料理を美味しいと言ってくれるいい人達なのヨ」
「舌が腐った屑共なんざ知らねぇっつってんだろ!! そんなもんどうでもいい! 俺を不快にさせた侘びをしろ!!」
……ああ、禁句を口にしたな。
困り顔で難癖をつけてくる男と向き合っていた店主の顔が、一瞬で無表情になった。
客と相対する時は必ず笑顔を心がけているあいつが、だ。
「……その理屈だト、あんたにもお客さんを不快にさせたあんたにハ、もっと深く謝ってもらわなきゃならない事になるネ。それでいいノ?」
「あぁ!? てめぇ馬鹿にしてんじゃねぇぞーーー!!」
店主の言葉にびきっ、と目を吊り上げた男が店主の襟首を掴み、拳を振り上げる。
生っ白い手だな……喧嘩なんざした事なさそうなぬるい拳にしか見えん。金で雇った他人任せで自分は何も手を出さない弱虫の拳だな、ありゃ。
あ?
何だアリア、そんな必死の表情でしがみついてきやがって。
「ちょっ……どうすんのよ、あれ! お店の人、危ないんじゃないの!? 友達なんでしょ!?」
「何言ってんだ。知り合いだが友達じゃない」
そんなに仲が良さそうに見えたのか? 心外な。
俺はただあいつの飯がそれなりに好みだったから、何回か通ってただけだ。親しくなんぞない。
向こうが俺を利用する気でいっぱいなのに、馴れ合えるわけがねぇだろ。
「ってか、大丈夫だ。俺が手を出すまでもねぇよ……放っときゃ自然と解決する。……それにな」
「何言って……あ!?」
俺が全く動かない所為か、困惑ん表情を浮かべていたアリアが声をあげて目を見開く。
その視線の先で、男の拳が店主に向けて勢いよく振り抜かれ、顔面に炸裂しようとする。
店の中の客全員があっと声を漏らし、息を呑みーーー
ぶつりと、男は唐突に……糸が切れた人形のように店主の襟首からだらりと手を離し、その場に倒れ込んだ。
「ーーー俺が縄張りにしている店で、俺を不快にさせた奴が只で済むわけがないだろう」
はっ、と鼻を鳴らして、俺は襟元を正す店主が厨房へと戻るのを待つのであった。
……あぁ、力使うの本気で怠い。
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