呪法師のススメ 〜呪に偏見を抱くのは勝手だが、俺をそこらの素人と一緒にされては困る〜

春風駘蕩

文字の大きさ
23 / 49
第三章:労働編

021:悶着

しおりを挟む
「おうてめぇ、店主ぅ! こんな糞みてぇな料理出して金取ろうってのか、あぁ!?」


 突然聞こえてきた……不快極まりない濁声。
 奴はどかっ、と椅子を蹴り倒しながら立ち上がり、焼き飯の盛られた皿を机の上に叩きつける。

 声の主は……見るからに質の悪い小汚い男だな。
 周りの客より草臥れた襤褸の服に、皮膚に骨が浮いた体……見た目は三十か四十だが、実際のところは二十にもいっていないようだな。
 そんな若僧が、飯屋の中だというのに喧しく、唾を吐き散らして喚き散らし、挙句店主が態々用意した焼き飯を床に散らばらせている。


 周りの他の客が迷惑そうにしているにも関わらず、だ。


「え、えー……お客さン? どうかしたネ?」
「どうかしたじゃねぇよ!! てめぇの店はこんなくそまずい飯に金を払わせてんのかって聞いてんだよ!!」
「……皆さン、満足してくれてる味だヨ?」
「そこらの素人連中の味覚なんざ知るか!! 俺を舐めてるのか!? ふざけた事抜かしてるとぶっ殺すぞ!!」


 ……ぼちぼちだと言っていたはずなんだが、まだあの手の輩はいるのか。
 にしてからいなくなったものだと思っていたんだが、考えが甘かったな。


「……にぃ、こわい」
「放っておけ。あれの方をあまり見るな、敵意があると思って向かってくるぞ」
「そんな獣じゃないんだから……」


 ルルが怯えてすがりついてくるが、別段どうもせんでいいぞ。あれはただの雑魚だし……ていうかアリア、呆れているが、癇癪で騒ぎ立てているあたり、獣と称しても過言ではあるまい?

 ……そんでシェスカよ、そんな機体に満ちた目で俺を見るな。何もしねぇ……いや、関わりたくねぇから。


 というか、あの男は馬鹿なのか?
 店主と料理に文句をつけるだけならともなく、周りの客まで扱き下ろすとは……店の中にいる全員の雰囲気が変わっている事に気づいていないのか?

 自分の立場を理解していないあの様子……最近ここらに流れてきた元は裕福な家出身のお坊ちゃんといったところか。


「……! 何だてめぇら! そんな目で俺を見るんじゃねぇ!! 俺を誰だと思ってる!? お前らが見下していい人間じゃえぇんだよ!! 俺は……俺は! こんな屑共の集まる場所にいていい人間じゃねぇんだよ!!」


 周りの視線の鋭さに気づいた男がまた唾を吐き散らして吠える……適当に言ったのに当たってたわ。
 あの言動と思考のせいで実家を追い出されたか? それとも家ぐるみで悪事でも目論んであ失敗したか……どちらにせよ自業自得なのは間違いなさそうだな。

 ……おっと、穏やかに応対していた店主の雰囲気が変わり出したな。そろそろこの茶番も終わるか。


「……私の料理が気に入らなかったのなラ、それは仕方ないヨ。でもネ、他のお客さんを馬鹿にするのは許さないヨ。みんな私の料理を美味しいと言ってくれるいい人達なのヨ」
「舌が腐った屑共なんざ知らねぇっつってんだろ!! そんなもんどうでもいい! 俺を不快にさせた侘びをしろ!!」


 ……ああ、禁句を口にしたな。
 困り顔で難癖をつけてくる男と向き合っていた店主の顔が、一瞬で無表情になった。

 客と相対する時は必ず笑顔を心がけているあいつが、だ。


「……その理屈だト、あんたにもお客さんを不快にさせたあんたにハ、もっと深く謝ってもらわなきゃならない事になるネ。それでいいノ?」
「あぁ!? てめぇ馬鹿にしてんじゃねぇぞーーー!!」


 店主の言葉にびきっ、と目を吊り上げた男が店主の襟首を掴み、拳を振り上げる。
 生っ白い手だな……喧嘩なんざした事なさそうなぬるい拳にしか見えん。金で雇った他人任せで自分は何も手を出さない弱虫の拳だな、ありゃ。

 あ?
 何だアリア、そんな必死の表情でしがみついてきやがって。


「ちょっ……どうすんのよ、あれ! お店の人、危ないんじゃないの!? 友達なんでしょ!?」
「何言ってんだ。知り合いだが友達じゃない」


 そんなに仲が良さそうに見えたのか? 心外な。
 俺はただあいつの飯がそれなりに好みだったから、何回か通ってただけだ。親しくなんぞない。

 向こうが俺を利用する気でいっぱいなのに、馴れ合えるわけがねぇだろ。


「ってか、大丈夫だ。俺が手を出すまでもねぇよ……放っときゃ自然と解決する。……それにな」
「何言って……あ!?」


 俺が全く動かない所為か、困惑ん表情を浮かべていたアリアが声をあげて目を見開く。
 その視線の先で、男の拳が店主に向けて勢いよく振り抜かれ、顔面に炸裂しようとする。

 店の中の客全員があっと声を漏らし、息を呑みーーー




 ぶつりと、男は唐突に……糸が切れた人形のように店主の襟首からだらりと手を離し、その場に倒れ込んだ。




「ーーー俺がにしている店で、俺を不快にさせた奴が只で済むわけがないだろう」


 はっ、と鼻を鳴らして、俺は襟元を正す店主が厨房へと戻るのを待つのであった。
 ……あぁ、力使うの本気で怠い。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...