呪法師のススメ 〜呪に偏見を抱くのは勝手だが、俺をそこらの素人と一緒にされては困る〜

春風駘蕩

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第三章:労働編

022:罪罰

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「……だから言ったのヨ、ここで暴れたら大変な目に遭うっテ。生きてル~?」


 呆れた顔になった店主がそう言って、足元に崩れ落ちた男の頬を叩く。

 聞こえてはいるだろうが、返事はまず無理だな。
 設置しておいた【麻痺】の術式は割と強力だから……死なない程度に和らげてはいる。心臓まで麻痺させるわけにはいかんからな。


「……っ!? っ……」
「まったくもウ、喧嘩は嫌いネ。だけどあんたみたいな客が来る所為で毎日気が休まらないヨ。ラグナがいなきゃ本当困ってたヨ」


 男は自分の体に何が起こっているのかもわからない様子で、びくびくと全身を痙攣させながら店主を見上げている。
 おぉ、睨む力は残っていたか、思いの外頑丈だな。


「……え? え!?」
「ほぇ~……」
「流石です、神様」


 状況がわかってない奴は他にもいるな。俺のすぐそばで固まっていた三人娘……シェスカ以外の二人も呆然としている。
 ……おいシェスカ、お前何で理解できてんだよ。俺は一歩も動いちゃいねぇし、指先一つ動かしちゃいねぇぞ。何なんだよお前は一体。

 他の客も平然と飯食ってるし……亜lあ、全員前に似たような状況に遭遇したのか。まぁ、常連ならそういう事もあるか。


「毎度助かってるヨ~。ラグナの【呪い】はいつも凄いネ~」
「視界にが入るのは胸糞悪いからな……それ、よかったら片付けておくぞ。ついでだ」
「本当? 助かるヨ~」


 店主に許しを得てから、俺は一度席を立って地に伏した男の元へ近づく。

 おっと、今度は俺を睨みつけてきやがる。屑なりに誰が起こした事態なのか察したのかね。
 まぁ、あんだけ脅してた相手と親しそうに話してたらわかるか……親しくはねぇが。何をされたのかはわからんが、とりあえず怒りをぶつける先を見つけたようだな。


「お、まえ……おまえ、えの、せいか……!」
「おーおー、もう喋る余裕が出てきたか。こりゃちょっとかける力が弱すぎたかねぇ……だがやり過ぎると死ぬから、力の強弱は悩みどころなんだよな」


 自業自得のくせに、親の仇でも見るような目を向けやがって……どう処分すっかね、この塵。
 普通に潰して跡がつくのも、跡形もなくばらばらにするのも嫌だな。飯屋でそんな事しようものなら、流石に店主に追い出されそうだし。


「どこの坊ちゃんか知らんが、煩ぇんだよ。俺のお気に入りの店で騒ぎやがって……なんもかんも失くしたてめぇが何だってんだ。ただの鬱陶しい塵だろうが」
「お、まえ……!」
「ここにいる時点で、お前も俺達も同じ穴の狢。過去の夢は捨てて、現実と向き合いな」


 ……言ってはみたが、多分何を言っても無駄だな。
 この手の輩は自分にどんだけの非があっても認めず、周りに責任転嫁しまくって罵り続ける。どんだけ間違いを説いても、一切反省する事なく喚くだけの……どうしようもない屑だ。

 案の定、逆上して顔を真っ赤にしながら歯を食いしばってるし。そのうち頭の血管が切れそうな勢いだ。


「おま、え……ころ、してやる……おれ、を、こけに、し、やがっ、て……ころ、す……ころし、て、やる……!!」
「無理無理、喋れても動くのはまず無理だから。俺が良いというまで動けない、そういう【呪い】だから」
「なに、いって、や、がる……!」
「説明する義理はないな。これから先、二度と会う事もないだろうし」
「だ、から……何、言っ、てーーーがっ!?」


 俺は男の顔面に掌を当て、指を食い込ませる。煩ぇからさっさと口から閉じちまおう。

 食い込ませた指先から〝力〟を注ぎ込むと、男はばたばたと麻痺してるはずの両手足を動かして抵抗する。が、ちょっと鬱陶しいだけで俺の作業の邪魔にはならない。
 顔面は絶叫して見えるが、さっさと声帯から封じてやったから何にも音なんて出てこない。あってもまともに使いそうにないし、いいだろ。


「ーーー!? ……!!」
「あーあー、煩い煩い。聞こえねぇけど喧しい。どうせ何も感じなくなるんだから大人しくしてろよ、屑」


 とりあえず思考は邪魔だな。俺の命令通りに動くだけで良いだろ。どうせ何も考えられんし、感覚も消しちまおう。

 俺が全身のそこかしこを弄っていくと、男の体に走っていた震えが徐々に弱まっていく。
 恐怖に強張っていた表情はゆっくりと緩み、何も恐れを抱いていない穏やかな……というか何も感じていない無表情に変じていく。


 ……よし、こんなもんか。
 ぴたりと動きを止めた男を見下ろし、俺は顔面に突き立てていた指を抜き、掌を離す。


「立て。そんで直立しろ」
「……」


 俺が告げると、男は無言で体を起こし、不自然な……見えない糸で吊られ、操られているかのような動きで立ち上がり、俺の前に向いてくる。
 虚ろな目で、一言も発さずに見つめてくる男を眺め、確かめて俺はくいっと顎をしゃくる。


「失せろ。そのまま街の外れの塵置場で掃除でもしてろ。……終わったら別の場所の掃除でもしてろ。俺が覚えてたら元に戻してやってもいい」
「……」


 男は頷く事もせず、くるりと踵を返して歩き去っていく。
 ……うむ、きちんと塵置場に向かっているな。割と適当に弄ったからちゃんと動くかどうか不安だったんだが、問題なさそうだな。

 それはそれとして、やはり塵掃除の後は気分がいい。今後も定期的にやっていこうか。




「やれやれまったく……俺の目の前で粗相なんざしなきゃ、もっと長生きできただろうに。馬鹿な奴だ」
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