呪法師のススメ 〜呪に偏見を抱くのは勝手だが、俺をそこらの素人と一緒にされては困る〜

春風駘蕩

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第三章:労働編

024:宿屋

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 ……いきなりする羽目になった塵掃除が終わって、ようやく店主に料理に集中していただき、やっとこさ食事の用意ができた。
 さて、早速頂こうか……と思ったのだが、俺が座る席は全く和気藹々としたものにはならなかった。

 ルルは周りの目など全く気にせず、手掴みで飯に齧り付いているんだが、アリアは物凄い緊張した面持ちで、焼き飯をもそもそ口に運んでいる。一々俺の動作にびくっと過剰に反応しながら、だ。

 さっきのはちと衝撃的すぎたか? 粗相をしたら自分もああなるとでも思っているのか、まるで落ち着く様子を見せない。
 まぁ、気持ちはわからんでもないが。

 ……うん、やっぱり平然と飯を食えてるシェスカが異常なんだよな。
 お前だけだよ、微笑みながら飯食ってんの。なんでそんな笑ってられるの? お前はちゃんとこいつらと同じものを見てたの?

 ……気にしたら負けだな。



 ーーーそんなこんなで、なんとも居心地の悪い飯の時間を経てから、俺達は飯屋を出る。
 わざわざ外にまで見送りに来た店主に手を振り返しながら……俺は三人娘を連れ、夜を迎えた街の中を歩いていた。


「どうだ、腹は膨れたか」
「……ん」
「はい、お陰様で」
「おなかいっぱい……こんなのはじめて。にぃ、すき」


 三者三様に反応を見せ、俺の後についてくる三人娘。
 思いの外食ったな。売れる前の食生活は最低限に保証してたとギルバートは言っていたが、やはり育ち盛りのこいつらには足りなかったのかね?

 ……とりあえず食わせ過ぎないようにだけ気をつけるか。


「栄養失調で倒れられても後味が悪いからな……本格的な仕事は明日からだ。あとは風呂入って寝ろ。今日はもう動きたくねぇわ」


 俺は思わずふぁ……と欠伸をこぼし、首を鳴らす。
 本当なら、のんびり森を歩いて適当に過ごすはずだったのにな。アレスの阿呆の所為で街に引き返す羽目になるし、受付嬢の新人ちゃんにも追い出されるし。

 明日からはもっと面倒な事になりそうだな。全くもって憂鬱だ……さっさと寝ちまいたい。


「神様のお役目を手伝えるなど……光栄の極みです。全身全霊でお仕えさせていただきます」
「そういうのはいらん。ただ手伝ってりゃいいだけだから」
「はい、神様!」


 ……こいつの手綱の操り方、これで合ってんのかな。
 あとで間違いに気づいて裏切り者呼ばわりされたりしないよな? 随分前にそういう事あったぞ。


「手伝うっつっても、大した重労働じゃねぇから……俺が言った通りに動け、それだけでいい。ルル、お前にもできる仕事だ、安心しろ」
「……うん」
「ってか、アリア。お前はいい加減俺に慣れろ。怯えんでいいだろう」
「お、怯えてなんかないわよ!!」


 畏怖の視線があんまりにしつこいから言ってみると、アリアの奴ぎょっと目を剥きながら首を横に振ってくる。
 飼い始めの子猫のような反応だな……慣れさせるにはどうしたものか。今度知り合いで猫飼ってる奴に聞いてみるか。猫じゃねぇが。


 ……おっと、そうこうしているうちに次の目的地に着いた。

 貧民街の今度は東側。
 さっきのところでは店が多く立ち並んでいたのに対して、こっちでは人が住む場所が多く集まっている場所だ。

 余裕のある奴が持つ家が立ち並ぶ中に、俺の目的の建物……街の外の人間向けに開かれている、俺がよく使う宿屋はあった。


「……邪魔するぞ」
「邪魔すんなら帰って……ってなんでぇ、ラグナじゃねぇか!!」


 からころと濁った音を立てる鈴が取り付けられた扉を開き、俺は宿屋の中に入る。
 すると入口の正面に置かれた台の向こうから、新聞を読みつつ寛いでいた男から喜色に満ちた声が帰ってくる。

 この宿屋……あー、雄鶏だったか雌鶏だったかの家とかいう名の宿の主人である中年で小太りの男だ。


「今日は俺に加えて三人いる……急で悪いんだが二部屋使わせてくれ」
「いいって事よ! あんたには娘に付き纏ってた屑野郎を追い払ってもらった恩があるからな! なんならこの先ずっとただで住まわせてやりたいぐらいだ!!」
「……そんな事をしたらお前の妻に殺されるぞ」
「違ぇねぇ! だはははは!!」


 その恩、もう随分前に貸したものなんだが……付き纏われてたお前の娘って、もうとっくに結婚して子供が二人いるって聞いてるんだけど。
 どうしてこう、俺の知り合いって無駄に義理堅い奴が多いんだろうな。


「……まぁ、何でもいい。とりあえず一週間ほど使わせて貰うから、こんだけ払っておく」
「まいど! ……うおっ、相変わらず凄ぇ量だな」


 がしゃんっ、と俺は今日の稼ぎを詰め込んだ袋をそのまま宿屋の親父の前に置いて、代わりに鍵を受け取る。

 えっと……いつも使ってる部屋とその隣の部屋か。まさかくる事を予想していたのか? 用意のいい奴だな。


「ほれ、行くぞ。ぼさっとしてないでついて来い」
「……え、あっ、ちょっ!?」
「すぐに行きます」


 何でか驚愕している三人を後ろにつかせて、俺は宿屋の親父借りた部屋に向かう。


 やれやれ……これでようやくぐっすり寝れらぁ。
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