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第三章:労働編
025:善悪
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「えー、一〇一……一〇一号室はどこだ~……久々だから忘れてるな、っと。そうだ、ここだここ」
この宿、有楽町の片隅にある割りに広いし部屋も多いんだよな。
必要なのかと思っていたが、実際の利用者を知ると何事も見かけによらないってのを思い知らされる。
最初に泊まった頃、他の客に擦れ違った覚えもないから、大した人数なんぞ泊まってねぇと思ってたんだが……実際は違うと後で知って度肝を抜かされたもんだ。
俺も大概だとは思うが、あの親父の〈宿屋〉の〝天職〟も大概ぶっ壊れた力だよ。
「んで、もう一個の方が一〇二……あこっちだな。んじゃあ、ほれ。部屋の鍵だ」
「はい、ありがたく使わせていただきます、神様」
俺は自分の借りた部屋の鍵を持って、もう一つ借りた部屋の鍵を三人娘に差し出す。
特に何も言ってないのに、即座にシェスカに反応されて受け取られた事に関しては……いや、もういい。一々真面に取り合うのも面倒臭ぇ。
「ひ、一部屋丸ごと使わせるって……」
「あ? 何かしでかすつもりだったのか?」
「ち、違うわよ! ……ただ、その、奴隷なのに、色々信用しすぎなんじゃないの、って」
シェスカが持った鍵を見つめて、アリアが困惑の視線を向けてくる。
……やっぱりシェスカは頭がおかしい奴だな。普通、奴隷の反応っていったらこうだろ。
自分が人間以下の存在に成り下がったんだと、環境の中で教え込まれて躾けられる。そんで、主人の前で反抗する事も出来なくなる。
ずっと檻に入れられてたんだ。今更宿屋の一室を貸し与えられるなんて、想像もしなかったんだろう。
奴隷の模範的な反応だ。
ギルバートの躾は相変わらず行き届いているな……俺が買うものでなければ諸手を挙げて賞賛していたところだよ。
「別にお前が盗みを働こうが俺を殺そうが、俺は痛くも痒くもねぇ。そういう事ができないようにしてあるんだから」
「……呪いで?」
「ああ、俺の呪いはよく効くからな」
自慢じゃないが、多少の自信はある。
他に〈呪法師〉として生まれた奴がいるのかどうか、興味もねぇし関わりたくもねぇ。
だが、例え俺の他にいたとして、俺の〝力〟を超える者がいるかと問われれば……俺は全力でいないと答えてやるつもりだ。
……本当に、こんなもの自慢になんぞならんがな。
「もういいから、さっさと部屋入って寝ろ。明日も一応、仕事の予定がある……その時には、お前らにも手伝ってもらうからな」
「はい、神様」
「ん、にぃのいうとおりにする」
「……」
さて、飯も食ったし俺もさっさと寝ちまうか。
おい、何やってんだシェスカ。何普通に俺の部屋に入ろうとしてんだ。お前はそっちだ。
添い寝もご奉仕もいらねぇんだよ!! ついてくんな!
俺の腕にしがみつくシェスカを無理やり引き剥がし、アリアとルルに押し付ける。寝る前に疲れさせるんじゃねぇよ、馬鹿。
「……ねぇ、一つだけ聞かせて」
さてこれでやっと眠れる……と思ったんだが、部屋に入ろうとした俺に、サイドアリアが声をかけて呼び止めてくる。
何だよ、俺はもう寝るつもりでいたのに。
そんな真剣な眼差しなんぞ向けて、何を聞きたいってんだよ。
「あんたには感謝してる、本当に。あんな姿に帰られていたあたしたちを助けてくれて、本当にありがたく思ってる。だからちゃんと聞いておきたいの……」
……本心だな、この感謝の言葉は。
俺に気に入られようとおべっかを使っているわけじゃなく、本気で俺に向けた思いを抱いている。
なら……何が不安だ。何をそんなに気にしている。
「ーーーあんたはいい人? それとも、悪い人?」
……思いの外、曖昧で下らない質問が来て、俺は思わず内心で深い溜息をついた。
何ともまぁ、餓鬼らしいというかなんというか、回答に中々困る質問だな。
いつの間にか、シェスカもルルも黙り込み、アリアをじっと静かに見つめていた。シェスカなんか、神様に対して失礼ですよ、なんて戒めるかと思っていたのに、何も言わずアリアを見つめている。
はぁ……下らねぇ。あんまりに真剣だったから身構えてたのに、気を張って損したよ。
「いい人とか悪い人とか、そんな曖昧な分類されたかねぇんだよ。ついて行くべきか否か悩んでんのなら、てめぇの目で見て判断しろ」
面倒臭すぎて、俺はアリアの問いに真面に付き合う事なく背を向け、さっさと部屋に入った。
背後から何か言いたげな雰囲気が漂っていたが、眠気で若干苛立っていた俺は気にする事なく、暗闇の中で沈黙するのだった。
ああ、下らねぇ。実に下らねぇ!!
……俺が良い人に見えるなら、そいつの目がおかしいんだよ。
この宿、有楽町の片隅にある割りに広いし部屋も多いんだよな。
必要なのかと思っていたが、実際の利用者を知ると何事も見かけによらないってのを思い知らされる。
最初に泊まった頃、他の客に擦れ違った覚えもないから、大した人数なんぞ泊まってねぇと思ってたんだが……実際は違うと後で知って度肝を抜かされたもんだ。
俺も大概だとは思うが、あの親父の〈宿屋〉の〝天職〟も大概ぶっ壊れた力だよ。
「んで、もう一個の方が一〇二……あこっちだな。んじゃあ、ほれ。部屋の鍵だ」
「はい、ありがたく使わせていただきます、神様」
俺は自分の借りた部屋の鍵を持って、もう一つ借りた部屋の鍵を三人娘に差し出す。
特に何も言ってないのに、即座にシェスカに反応されて受け取られた事に関しては……いや、もういい。一々真面に取り合うのも面倒臭ぇ。
「ひ、一部屋丸ごと使わせるって……」
「あ? 何かしでかすつもりだったのか?」
「ち、違うわよ! ……ただ、その、奴隷なのに、色々信用しすぎなんじゃないの、って」
シェスカが持った鍵を見つめて、アリアが困惑の視線を向けてくる。
……やっぱりシェスカは頭がおかしい奴だな。普通、奴隷の反応っていったらこうだろ。
自分が人間以下の存在に成り下がったんだと、環境の中で教え込まれて躾けられる。そんで、主人の前で反抗する事も出来なくなる。
ずっと檻に入れられてたんだ。今更宿屋の一室を貸し与えられるなんて、想像もしなかったんだろう。
奴隷の模範的な反応だ。
ギルバートの躾は相変わらず行き届いているな……俺が買うものでなければ諸手を挙げて賞賛していたところだよ。
「別にお前が盗みを働こうが俺を殺そうが、俺は痛くも痒くもねぇ。そういう事ができないようにしてあるんだから」
「……呪いで?」
「ああ、俺の呪いはよく効くからな」
自慢じゃないが、多少の自信はある。
他に〈呪法師〉として生まれた奴がいるのかどうか、興味もねぇし関わりたくもねぇ。
だが、例え俺の他にいたとして、俺の〝力〟を超える者がいるかと問われれば……俺は全力でいないと答えてやるつもりだ。
……本当に、こんなもの自慢になんぞならんがな。
「もういいから、さっさと部屋入って寝ろ。明日も一応、仕事の予定がある……その時には、お前らにも手伝ってもらうからな」
「はい、神様」
「ん、にぃのいうとおりにする」
「……」
さて、飯も食ったし俺もさっさと寝ちまうか。
おい、何やってんだシェスカ。何普通に俺の部屋に入ろうとしてんだ。お前はそっちだ。
添い寝もご奉仕もいらねぇんだよ!! ついてくんな!
俺の腕にしがみつくシェスカを無理やり引き剥がし、アリアとルルに押し付ける。寝る前に疲れさせるんじゃねぇよ、馬鹿。
「……ねぇ、一つだけ聞かせて」
さてこれでやっと眠れる……と思ったんだが、部屋に入ろうとした俺に、サイドアリアが声をかけて呼び止めてくる。
何だよ、俺はもう寝るつもりでいたのに。
そんな真剣な眼差しなんぞ向けて、何を聞きたいってんだよ。
「あんたには感謝してる、本当に。あんな姿に帰られていたあたしたちを助けてくれて、本当にありがたく思ってる。だからちゃんと聞いておきたいの……」
……本心だな、この感謝の言葉は。
俺に気に入られようとおべっかを使っているわけじゃなく、本気で俺に向けた思いを抱いている。
なら……何が不安だ。何をそんなに気にしている。
「ーーーあんたはいい人? それとも、悪い人?」
……思いの外、曖昧で下らない質問が来て、俺は思わず内心で深い溜息をついた。
何ともまぁ、餓鬼らしいというかなんというか、回答に中々困る質問だな。
いつの間にか、シェスカもルルも黙り込み、アリアをじっと静かに見つめていた。シェスカなんか、神様に対して失礼ですよ、なんて戒めるかと思っていたのに、何も言わずアリアを見つめている。
はぁ……下らねぇ。あんまりに真剣だったから身構えてたのに、気を張って損したよ。
「いい人とか悪い人とか、そんな曖昧な分類されたかねぇんだよ。ついて行くべきか否か悩んでんのなら、てめぇの目で見て判断しろ」
面倒臭すぎて、俺はアリアの問いに真面に付き合う事なく背を向け、さっさと部屋に入った。
背後から何か言いたげな雰囲気が漂っていたが、眠気で若干苛立っていた俺は気にする事なく、暗闇の中で沈黙するのだった。
ああ、下らねぇ。実に下らねぇ!!
……俺が良い人に見えるなら、そいつの目がおかしいんだよ。
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