呪法師のススメ 〜呪に偏見を抱くのは勝手だが、俺をそこらの素人と一緒にされては困る〜

春風駘蕩

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第四章:謝罪編

035:忠告

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「……! このっ……人が下手に出ていればつけあがって……!!」


 俺がきっぱり藩への再入部を拒否すると、〈僧侶〉の女が目を吊り上げて怒りを露わにし始めた。

 え、何? 今お前が怒るような要素があったか?
 ていうかお前、今まで下手に出てたか? ずーっと偉そうにぶつぶつぼやいてるところしか見た事がないんだけど。


「おい、やめろってナナハ! ……お前にそう言われるのはわかってたよ。悪かった、もう誘わないよ」
「そんなら最初から誘わんでくれよ」
「悪いな……それだけお前の力を惜しがってるって伝えたかっただけなんだ。すまない」


 赤髪はそう言って、後ろの二人に促してから踵を返して歩き出した。

 ……本当に俺に謝るだけか、赤髪……じゃなかった、レッカの奴は。もっと文句とか言われるかと思ってたのに。
 他の三人に比べて真面だとは思っていたが、ここまで義理堅い奴だったっけ。追い出されてから全くそんな風には思わんかったぞ。


「……ってか、お前らはなんでここにいるんだ。ここに組合はねぇぞ」
「っ、あなたがそれを……!」
「やめろっての! ……まぁ、お前を追い出したペナルティを食らったってところだな」


 あん? どういう事だ?


「依頼を終えて、組合に報告に行ったらな……組合長に恐ろしく罵倒されたんだ。あたしらのやった事はどうしようもない屑のやる事だって……そんで、お前を見つけて許してもらうまで戻ってくるなって、言われてさ」


 そんで、俺を探してこの数ヶ月間を彷徨って、そんな哀れな姿になったってか。

 組合がそんな事を言ったのか?
 一冒険者、それも俺みたいな嫌われ者が追い出されたからって、それなりに実績のあるこいつを怒鳴りつけたってのか?

 追放なんざ、俺だけじゃなくてこれまで何度も起こってきただろうに……やる気に実力が伴わない奴とか、班の輪を乱す奴とか、上の指示に従わなかった奴とか、その辺の奴らを班が勝手に追放するのはよくある事だっただろうに。


 ……俺は真面目に働いてたのに追放されたけど。


「あの禿げか、何考えてんだろうな……」
「謝って、頭下げて、できれば連れ戻して来いってさ……できなきゃお前らは契約解除だって。悪い、あたしらがここにいるのはそういう理由なんだ」


 ふーん、組合から見捨てられたくなくて、本当は嫌だけど俺に頭を下げに探していたと。

 身勝手な……とは思うが、まぁぶっちゃけそこまで怒っちゃいないな。
 冒険者なんて堅っ苦しい仕事を辞めるいい機会だったし、あの阿呆の顔を見ずに済むし、追い出されたおかげで気楽になったしな。


「俺は別に―――」
「そんな事のためにこいつの前に顔を出したわけ!? 最低! 面の皮が分厚いにもほどがあるわよ!!」


 ……おいこら、アリアさんよ。
 勝手に喋るのはやめておくれ、俺がまだ喋ってる途中なんだからさ。

 ……まぁ、俺の代わりに怒ってくれてるようだから、何も言わねぇけど。


「ふーん……お前らも苦労したんだな」
「どの口が……!」
「薄情者」
「おい、やめろって!!」


 さて、どうしたもんかなぁ……こいつらとは色々あったが、話を聞く限り同情せんでもない。
 そもそも入れを追い出したのだって、あの阿呆に色々吹き込まれた影響とかありそうだしな。……全部が他人の所為ってわけでもないが。

 あんまり関わりたくないが……見捨てるのも後味が悪い。


「んー、まぁこの際いい機会だったと割り切ったらどうだ? 組合がその調子じゃ今後も活動を続けていくなんざ難しいだろ。職場を変えてやり直したらどうだ」
「……そう、か。そう、かもな」


 疲れ切った顔で、レッカは肩を落として自嘲気味に笑う。

 尋常じゃない憔悴ぶりなんだがこいつ。よく見たら後ろにいる二人もかなり疲れ切った顔してるし。
 二人が文句を吐いた分の負担を、レッカが引き受けちまった感じだな。


「お前ら二人はどうなんだ? このまま冒険者続けて益があんのか」
「……正直にいうのならば、あまりありませんわね。この国で優れていると評判だというからあの男の誘いに乗りましたが、今では何の未練もございませんわ」
「……正直、もうどうでもいい。家に帰りたい」


 はぁ、と大きな溜息をこぼし、視線を落とす〈僧侶〉と〈弓士〉の女達。
 相当あの阿呆との旅が苦痛だったようだな。俺がいなくなっただけでどんだけ落魄れてんだ。


「あいつ、そんなに使えなかったのか」
「使えませんわ。口では大きな態度を取る癖に、敵を前にするとすぐ腰が抜けて、力も入らなくなって……しかもそれで怒った失敗を他人に遅つけようとするんですもの、堪ったものではありませんでしたわ」
「……じろじろ見られて気持ち悪かった」


〈弓士〉の森人が……あぁ、リリィだっけ?が険しい顔で吐き捨てる。前に俺に向けていたのより鋭い目だな。

 あの阿呆の問題が大きく露出するようになったようだな。
 おかげで三人とも、冒険者に対する熱意も執着もほとんど薄れちまっているようだ……嘆かわしいねぇ、その程度で根をあげるとは。


「はぁ……あなたの言う通りです。私、もう疲れてしまいました……庶民に混じり、神の教えを伝えるどこではなくなってしまいましたし、教会に戻ろうかしら」
「冒険者、つまらない。私も森に帰ろうかな」
「そうしとけそうしとけ」


 無理して仕事を続ける必要なんてねぇ。人間いつかは死ぬもんだし、人生すべてを金稼ぎに費やしたところで、得られるものなんざさしたる量でもねぇ。

 のんびりゆったり生きるのが丁度いいんだろうよ。


「……邪魔したな。今後はもう会う事はないだろうから、改めて言っておく。悪かったな、ラグナ」
「辞めんの?」
「私も、お前の言う通りだと思ってな……長居は無用、さっさと組合から、いや王都からもおさらばしようかと、な」


 レッカは苦笑を浮かべ、気怠げに息を吐く二人の肩を叩いて、俺達に背を向けて歩き出す。
 再会した時には、かろうじて同じ方向を向いていた気がする三人の眼差しは……すでにもう別々の方向を見ている気がした。

 俺がそう思っていると、不意にレッカが振り向き、「あぁ、そうだった」と呟いてから俺に真剣な視線を向けてきた。


「アレスの奴が、お前に対する恨み言を口にしながら街を徘徊してるらしい。お前に身勝手な復讐心を抱いてるようだ……気を付けな」
「……あぁ、そう」


 なんとも気が滅入る、面倒臭くて仕方がない内容の忠告を残し、レッカは今度こそ振り向く事なく、俺の知らない何処かへ向かって歩き去って行ったのだった。



 これが、俺が一年間所属した班《暁の旅団》の最期か―――虚しくなるほど呆気ねぇな、まったくよぉ。
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