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第四章:謝罪編
041:潮時
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「……引いたか?」
黙り込んでしまった三人娘に尋ねてみると、何とも言えない反応が返ってくる。
そりゃあ……こんな胸糞悪い話聞かされていい気分にはなるまい。俺だってできるだけ話したくはなかったし。
だが忘れるなよ……有無を言わさず聞いてきたのはお前らだからな?
「……あんたはその、お父さんを呪って、その所為で自分も呪って、不老不死になっちゃったの?」
「不老不死……って言っていいのかは知らんが、まぁ大体そんな認識でいいと思うぞ。あぁでも、一応不老ではないのかね? ここまで年はとってるわけだし」
ぶっちゃけどこがどうなってこんな体になってるのか、親父を谷に捨てちまった今、俺が掛けた【呪い】がどうなってるのか見当もつかない。
見つけた所で、未熟な俺が掛けた呪いをきちんと解けるのか、わかりゃしねぇがな。
「それであんたは……お父さんが受けてるものと全く同じ苦しみを受けてるって事なの……?」
「まぁ、な。だが正直今はあんまり感じないな。時たま頭ぇな、とか腹痛ぇな、とか思うくらいか」
「……本当に、痛くないの?」
「そういう感覚が、俺の方が先に壊れちまった……いや、もともと壊れてたのかもしれねぇな」
正直、親父を呪った時以外のことはあんまり思い出せねぇ。こいつらに語るまでちょっと忘れかけてたぐらいだし。
親父の断末魔は結構鮮明に思い出せるんだが、どんな顔だったかとか、お袋の顔もあんまり思い出せないんだよな。
親すら呪って、顔すら覚えてない碌でもない餓鬼……それが俺だ。我ながらどうしようもねぇな、はっ。
「……どうした? 今更になって俺の奴隷になった事を後悔してるのか?」
「そんな、事は……」
「まぁ仕方がねぇよ、俺がお前らなら関わりたくもねえ悪魔みたいな存在だ……そうだな、条件付きでお前らを全員解放してやってもいい」
三人娘は俯き、黙り込んでしまう。下手な事を言って自分も呪われたら、なんて考えてるのかもしれない。
暗い雰囲気になった三人娘を見ていた俺は、ある事を思いつく。
元々俺は、こいつらを買うつもりなんかなかったんだ……だがギルバートの奴が報酬を出すからとほいほい乗っちまったから、こいつらにあんなものを見せる羽目になった。
そろそろ潮時だ。こいつらともいい加減、縁ができる前に別れを済ましてしまおう。
「解放って……神様、私達はーーー」
「俺がお前らを買った時は、ギルバートにかなり値下げしてもらった。お前らが本来の値段の金を用意したら、奴隷の呪いを解いて自由にしてやろう。嬉しいだろう?」
繋がりは、薄いうちに解消しておいたほうがいい……間違っても友達やら仲間やら家族やらなんざ作るべきじゃない。
……あの阿呆に追い出された時も、どうでもいいと思いながら虚しさを覚えていた。またこうなるんだなって、落胆を覚えていた。
最初から持てるはずがなかったものを求めても、俺の場合はいつか失われるのが確定している。
血の繋がった父親を呪って、その罰を受けた俺には……永遠に孤独に生きねばならん俺には、知り合いさえいない方がいいんだ。
「あんたね……!」
アリアはまだ文句があるのか、険しい表情で俺を睨みつけてくる。
何が不満なのか……買われた時の額じゃなければ嫌だったか? だったらこれからもうちょい交渉でもして……。
と、思ったんだが。
俺が口を開こうとしたその直前、俺達が今いる部屋の扉が何者かに叩かれる。
そんで、この宿屋の親父の声が聞こえてくる。
「ラグナ……お前に客だぞ。ここにいるのはわかってるから呼んでくれって、しつけぇんだが」
「あ? 俺に客? 誰だ?」
「さぁ……俺は会った事のない奴なもんで。ただどっかの組合のお偉いさんみたいだぞ」
組合のお偉いさん……で俺が知ってる奴といやぁ、一人しかいねぇな。
だが、あのおっさんがわざわざこんな所に? 忙しい身のはずのあいつが、どうしてまた?
……面倒臭ぇが、居場所がばれてるんじゃ放っておく事もできねぇな。宿屋の親父に迷惑もかけたくねぇし。
「わかった、今行く。……お前ら、話の続きは後だ。部屋に戻ってろ」
「ちょ、待っ……!」
慌てて追いかけて来ようとしたアリアを無視し、俺は部屋を出て、宿屋の親父の案内についていく。
客用の部屋の前を抜けて、入り口まで到達してから……俺は思わず、げんなりと心底嫌な顔になってしまう。
「ーーーラグナ……! ここにいたのか、この野郎!」
入り口に立っていた、禿頭の巨漢。
鍛え上げた筋骨隆々の体を冒険者組合の制服で包んだ、歴戦の戦士もかくやと言わんばかりの威圧感を放つ男。
この国の冒険者組合の組合長、ガゼフ……何とかだ。
……予想通り、また面倒臭い奴が訪ねて来やがったなぁ。
黙り込んでしまった三人娘に尋ねてみると、何とも言えない反応が返ってくる。
そりゃあ……こんな胸糞悪い話聞かされていい気分にはなるまい。俺だってできるだけ話したくはなかったし。
だが忘れるなよ……有無を言わさず聞いてきたのはお前らだからな?
「……あんたはその、お父さんを呪って、その所為で自分も呪って、不老不死になっちゃったの?」
「不老不死……って言っていいのかは知らんが、まぁ大体そんな認識でいいと思うぞ。あぁでも、一応不老ではないのかね? ここまで年はとってるわけだし」
ぶっちゃけどこがどうなってこんな体になってるのか、親父を谷に捨てちまった今、俺が掛けた【呪い】がどうなってるのか見当もつかない。
見つけた所で、未熟な俺が掛けた呪いをきちんと解けるのか、わかりゃしねぇがな。
「それであんたは……お父さんが受けてるものと全く同じ苦しみを受けてるって事なの……?」
「まぁ、な。だが正直今はあんまり感じないな。時たま頭ぇな、とか腹痛ぇな、とか思うくらいか」
「……本当に、痛くないの?」
「そういう感覚が、俺の方が先に壊れちまった……いや、もともと壊れてたのかもしれねぇな」
正直、親父を呪った時以外のことはあんまり思い出せねぇ。こいつらに語るまでちょっと忘れかけてたぐらいだし。
親父の断末魔は結構鮮明に思い出せるんだが、どんな顔だったかとか、お袋の顔もあんまり思い出せないんだよな。
親すら呪って、顔すら覚えてない碌でもない餓鬼……それが俺だ。我ながらどうしようもねぇな、はっ。
「……どうした? 今更になって俺の奴隷になった事を後悔してるのか?」
「そんな、事は……」
「まぁ仕方がねぇよ、俺がお前らなら関わりたくもねえ悪魔みたいな存在だ……そうだな、条件付きでお前らを全員解放してやってもいい」
三人娘は俯き、黙り込んでしまう。下手な事を言って自分も呪われたら、なんて考えてるのかもしれない。
暗い雰囲気になった三人娘を見ていた俺は、ある事を思いつく。
元々俺は、こいつらを買うつもりなんかなかったんだ……だがギルバートの奴が報酬を出すからとほいほい乗っちまったから、こいつらにあんなものを見せる羽目になった。
そろそろ潮時だ。こいつらともいい加減、縁ができる前に別れを済ましてしまおう。
「解放って……神様、私達はーーー」
「俺がお前らを買った時は、ギルバートにかなり値下げしてもらった。お前らが本来の値段の金を用意したら、奴隷の呪いを解いて自由にしてやろう。嬉しいだろう?」
繋がりは、薄いうちに解消しておいたほうがいい……間違っても友達やら仲間やら家族やらなんざ作るべきじゃない。
……あの阿呆に追い出された時も、どうでもいいと思いながら虚しさを覚えていた。またこうなるんだなって、落胆を覚えていた。
最初から持てるはずがなかったものを求めても、俺の場合はいつか失われるのが確定している。
血の繋がった父親を呪って、その罰を受けた俺には……永遠に孤独に生きねばならん俺には、知り合いさえいない方がいいんだ。
「あんたね……!」
アリアはまだ文句があるのか、険しい表情で俺を睨みつけてくる。
何が不満なのか……買われた時の額じゃなければ嫌だったか? だったらこれからもうちょい交渉でもして……。
と、思ったんだが。
俺が口を開こうとしたその直前、俺達が今いる部屋の扉が何者かに叩かれる。
そんで、この宿屋の親父の声が聞こえてくる。
「ラグナ……お前に客だぞ。ここにいるのはわかってるから呼んでくれって、しつけぇんだが」
「あ? 俺に客? 誰だ?」
「さぁ……俺は会った事のない奴なもんで。ただどっかの組合のお偉いさんみたいだぞ」
組合のお偉いさん……で俺が知ってる奴といやぁ、一人しかいねぇな。
だが、あのおっさんがわざわざこんな所に? 忙しい身のはずのあいつが、どうしてまた?
……面倒臭ぇが、居場所がばれてるんじゃ放っておく事もできねぇな。宿屋の親父に迷惑もかけたくねぇし。
「わかった、今行く。……お前ら、話の続きは後だ。部屋に戻ってろ」
「ちょ、待っ……!」
慌てて追いかけて来ようとしたアリアを無視し、俺は部屋を出て、宿屋の親父の案内についていく。
客用の部屋の前を抜けて、入り口まで到達してから……俺は思わず、げんなりと心底嫌な顔になってしまう。
「ーーーラグナ……! ここにいたのか、この野郎!」
入り口に立っていた、禿頭の巨漢。
鍛え上げた筋骨隆々の体を冒険者組合の制服で包んだ、歴戦の戦士もかくやと言わんばかりの威圧感を放つ男。
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