呪法師のススメ 〜呪に偏見を抱くのは勝手だが、俺をそこらの素人と一緒にされては困る〜

春風駘蕩

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第四章:謝罪編

043:逃亡

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 知り合いとのけじめをつけて、俺は借りた部屋に戻る為に通路を進む。


 いやしかし参った……ここを知られるとはな。
 知り合いにこの宿の存在を知らせた事はねぇし、俺が入るところも誰にも見せた事はなかった。だから長い間ここで寛げていたわけだったのに……まったく。

 だが、俺の居場所が他人に知られた以上、このままじゃいられない。さっさと行動すべきだな。

 俺はやや早足になり、部屋に向けて急ぐ。
 すると、ずっと部屋で待っていたらしい三人娘が扉の前に立って出迎えて来て、俺にどこか不安げな視線を向けてくる。


「……話は終わったの?」
「あぁ、特に問題なくな。ただこの後が面倒臭くなるかもしれねぇけど」


 ……この際だ。さっき話した解放の条件はなかった事にして、こいつらを置いていくか?
 次の寝床も未定なままだし、迂闊に足をつけるとどっかでまた居場所を知られるかもしれん。そうなると日銭を稼ぐのもままならなくなるやもしれん。

 だが……十分な蓄えもないのにこいつらを捨てていくのは、ちょっとばかし後味が悪いな。


 はぁ、仕方がねぇか。


「……早速で悪いんだが、行くぞ。移動の準備をしろ」
「え? 移動って……」
「宿を変える。ここはもう組合に知られちまったからな……他にいい場所があったかどうか」


 取り敢えずの目的は寝床の確保だな。
 飯は俺には必要ねぇし、習慣で食ってるだけだし、こいつらの分ぐらいならなんとか確保できる……と、思う。

 最近よく食うからな、こいつら。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 組合って……どこの組合よ? 何でそれで移動……しかもそんな逃げる風に行かなきゃならないのよ?」
「こちとら、折角自由になった身だ。柵は少ない方がいいの」
「柵って……あ、ちょっと!」


 騒ぐアリアを無視し、俺は部屋に入って部屋の隅に置いておいた荷物に手を伸ばす。大して中身は入っていないが、割と危ねぇものも入ってるからしっかり持っとかねぇと。


 さっきレッカ達が教えてくれた阿呆の事もあるから、行き先と時間は少し考えにゃならんな。

 さっきの元新人ちゃんの件もある。あの子みたいに身勝手な逆恨みでこの場に乗り込まれようものなら、宿の親父にも三人娘にも迷惑がかかるだろうし。
 人間が馬鹿なのはわかりきった事だが、やっぱり何十何百回経験しても慣れんな。阿呆らしい。


「……さて、三人娘を待つか」


 ぶっちゃけさっさと行きたいから荷物纏めを手伝いたいところだが……一応、あいつらは女だからな。
 男が女共の荷物に触れるわけにもいくめぇ……特に俺のような輩には。

 扉の横に立ち、ぼんやりと佇んで時を待っていると、やがて少量の荷物を持ったアリア達が顔を出して来た。


「……準備できたわよ。ねぇ、本当に逃げるの? 何も悪い事してないのに……」
「あぁ、思っていた以上に面倒臭くなりそうだからな」
「面倒臭いって……そんな理由で」
「俺が行動する理由なんざ、その程度の事だ。お前らを引っ張り回す事になって申し訳ねぇとは思うが、俺じゃなくて俺に買われた因果を恨んでくれよ」


 その気になれば因果も弄れるが、色々と面倒な事をせにゃならんからやりたくない。
 それに、嫌な事が一々あったからって〝力〟を使うのも考えものだ。我儘な餓鬼じゃあるまいし、癇癪起こすような仕様もねぇ様は晒したくないしな。

 あ~あ、完全に人との縁も切り離しちまえればどんなに楽か……だが、そこまでやれないのもわかってるから難儀なんだよな。


「さて、行くぞ。取り敢えずは東だ。隣国との国境がここから一番近い」
「別の国に行くの!? そこまでやる!?」
「会いたくねぇ……ってか今後二度と関わりたくねぇ奴ができちまったからな。隣国にゃここ数十年行ってねぇし、知り合いも今じゃそんなにいねぇから気楽に暮らせそうだと思ってな。ほれ、行くぞ」


 困惑……いや、物言いたげな表情で俺を見てくるアリアの背を押し、宿の出入り口を目指す。

 お前らの意思を聞きもしねぇで決めてる事は悪いと思ってるよ。だが今回は本気で面倒臭い事態だからよ、迂闊に近づかねぇ方が賢明なんだよ。
 そして、そんな気乗りしない様子のアリアの隣で、不意にシェスカは憂いを帯びた表情で溜息をこぼした。


「か……いえ、それがあなたの意思なら従うまでです。行きましょう、アリアちゃん、ルルちゃん」
「……にぃといっしょなら、どこでもいい」
「なっ……くっ。あぁ、もう、仕方がないわね」


 二人が共に旅立つ意思がある事を示すと、アリアはしばらく逡巡する素振りを見せてからがっくりと肩を落とす。

 思っていたより素直に頷いてくれて嬉しいよ……次はもうちょっと平和に過ごせるようにするから。
 そのうち別れる日が来るまでには、お前らがそれぞれで暮らしていられるようにしておいてやるから、それで許してくれよ。


 ……さぁ、あの阿呆に見つからねぇうちにさっさと退散しましょうかね?


「……あばよ」


 俺は一言、この国の何処かにいるであろう元仲間に向けて呟き、歩き出す。
 もう二度と会う事はない……というか二度と遭遇する事がないよう願いながら、宿屋の親父に一言告げて宿を後にするのだった。






 ーーーその後に訪れる、予想を超える最低最悪の再会の事など、微塵も想像する事なく。
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