呪法師のススメ 〜呪に偏見を抱くのは勝手だが、俺をそこらの素人と一緒にされては困る〜

春風駘蕩

文字の大きさ
8 / 49
第一章:追放編

006-②:後悔(受付嬢視点)

しおりを挟む
「間に合うか!? まだこの街にいるよな!? どこにいるか今すぐに特定しろ!!」
「は…? そ、そう言われましても……」
「やれ! 今すぐに! できないなんて聞きたかねぇ!!」


 困惑したままの部下達に命じ、組合の外に走らせてから、ガゼフはその場を頭を抱えながら行ったり来たりする。
 怒りを持て余し、獣のような唸り声を漏らしていた彼は、しばらくすると再びエリカを睨みつけ、歯を食い縛って怒号を発した。


「あの男がどれだけ重要な能力を持っているか、知らんとは言わせんぞ!! 追い出さなければ組合の汚点になる? 逆だ!! あいつが居なきゃどれだけの損害が出ると思ってんだ!!」
「……! 何を馬鹿な事を……〈呪術師〉などという汚らわしい〝異能〟持ち、どうして受け入れなければならないのですか!? あれはこの世の害悪! 排除すべき悪の化身なのですよ!?」


 エリカは自身が叱られている理由がまるでわからず、猛然と抗議の声をあげる。
 自分の昇進が第一の目的である事は確かだが、それは結果的に組合の益になる事であり、感謝されこそすれ、怒鳴られる謂れなどないはずだった。

 そんなエリカの反論に、ガゼフは顔をくしゃくしゃに歪めると、本気で頭が痛そうに嘆きをあらわにした。


「……お前みたいな馬鹿をどうして雇っちまったんだ」
「なっ…! 言わせておけば! 〝天職〟も持たない平民が偉そうに! 私を誰だと思っているのですか!!」


 頭に血が昇ったエリカは、明らかに自分を見下している上司に感情のままに言葉を吐き散らす。
 もはや自分が何を言っているのかもわからないほどに怒り狂った彼女は、神に愛されなかった者に対する侮蔑の視線を向け。


 直後、再び振るわれた上司の拳により、今度は顔面を凹まされながら勢いよく倒れ込んだのだった。



「屑だろうがよ……!!!」



 肩で息をし、目を血走らせてガゼフは目の前の女を……鼻血を吹いて気を失っている図に乗った愚者を見下ろす。

 能力は高かった、少なくとも今後の組合の運営に必要な人間ではあった。
 上昇志向、というか立場に対する欲が強い傾向にはあったが、それを有効活用すれば十分な戦力になると踏んでいた。

 自分を嫌っている事をわかっていたし、先輩の受付嬢達を目の敵にして、いつか蹴落としてやると目で語っていたのにも気付いていた。
 有能な冒険者や上司に媚びを売る態度から同僚達に嫌われていたが、業務自体に問題はない。力のある者を能力に関しては高い評価を下し、認めていた。

 舵取りさえすれば、大きく役に立つ駒になると考えていた。

 だが、蓋を開けてみればこれだ。
 高い能力を全て嫌いな人間を排除する事に使用し、己の欲のみを優先させる愚者。それがこの女だった。

 遅すぎた、最も重要な情報について教えるのが。
 測りかねた、己の欲を叶えるためにどこまで狂った行動を起こすか。


 沈黙し、ぴくぴくと痙攣するだけとなったエリカにぺっと唾を吐きかけてから、ガゼフは周りで怯えている別の部下達に振り向いた。


「おい!! 俺はこれからラグナを捜しに出る!! お前らはその糞餓鬼を縛ってどこかに捨てて来い!! 二度とうちの敷居を跨がせないよう痛めつけておけ!!」
「は……はい!!」


 言うが早いか、ガゼフは巨体に似合わぬ俊敏さで組合を飛び出し、走っていった。

 すれ違う通行人たちがぎょっと慄くほどに恐ろしい形相で街を睥睨し、しかし内心は必死に祈りながら、馬鹿な部下の勝手な思惑で追い出された男を探し続けていた。


「頼む……頼むよラグナ様よぉ…! お願いだからこの町を……この国を捨てるとか考えないでおくれよ…! あんたを怒らせたとあっちゃ、うちは終わりだ……全てがうちの、この国の敵になっちまう!!」


 脳裏に浮かぶ、最低最悪の未来。
 それを決して現実にしてなるものかと、ガゼフは歯茎から血が滲むほどに歯を食い縛り、街の中を駆け抜けていった。








 ―――この町を、国を、世界を、彼が呪わない事だけを請いながら。


ような男を、誰がブチ切れさせたいってんだよ、くそったれがぁ!!!」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...