呪法師のススメ 〜呪に偏見を抱くのは勝手だが、俺をそこらの素人と一緒にされては困る〜

春風駘蕩

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第一章:追放編

006:憤怒(受付嬢視点)

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 のしのしと巨体を揺らし、やって来た焼けた肌に禿頭の男。
 冒険者組合の長を務める、元凄腕の冒険者ガゼフ・ロンギスが、周囲で何やら困惑した様子の部下達を見やって片眉をあげる。

 彼の登場に、職員達ははっと表情を引き締め、慌てて態度を正した。


「今日は確か……エヴァンスの奴が毎度報告にくる曜日だろ。今日はまだなのか? 今日はエリーゼがいないから来てないのかもしれんが……ロイはどこだ? 代わりの担当はあいつだろ?」


 辺りを見渡し、部下達に命じる組合長ガゼル。
 だが尋ねても誰も答えようとはせず、おろおろしながら様子を伺うように横目を向けてくるばかり。


「…その、ロイ先輩はお腹が痛いと」
「あ? そうなのか? じゃあ誰が担当したんだ? 担当できる奴がいないんなら俺を呼べっつっただろ」
「く、組長は忙しいから、自分がやると……エリカさんが」
「は? エリカって……新人のあいつか?」


 訝しげに首をかしげる大嫌いな上司に、痺れを切らしたエリカが溜息混じりに口を開いた。


「……あの方は除籍処分にいたしました。規則を破ってしまわれたので、冒険者証明書を剥奪し退会していただきました。今報告書を作成している所です」
「……は?」


 ガゼフの疑問の声に、エリカは丁度いいとばかりに椅子を回して振り向き、ささやかな胸を張って上司に向き合う。
 ぽかんと呆けるガゼフの顔を小馬鹿にするように、腕と足を組む。上司にすべきではない態度で、見下すような口調で続きを話す。


「《暁の旅団》の皆さんから陳情がありまして……それに穢らわしい〝異能〟持ちの男なんて誰だって視界に入れておきたくありませんし。あとはこちらで適当に書類を作って後処理をしておけばよろしいでしょう」


 変化に乏しい表情の中には、状況をまだ飲み込めていない様子のガゼフへの嘲笑が表れていた。
 頭の足りなさを見せつけた彼を嘲笑い、お前にできなかったことをやってやったぞという優越感をこれでもかと視線に込め、鼻を鳴らしながらつい数分前に起こった事を語って聞かせた。


(馬鹿な男です。現場主義だか何だか知りませんけど、脳まで筋肉でできてるような方にしくられるのはもううんざりしていたんです。ついでにこの方にも消えていただきましょうか。〝天職〟にも恵まれないどうしようもない方ですし……)
「……あの方は組合に害しかもたらさない方ですから、今回〈暁の旅団〉の方々から上がった陳情を理由に出て行ってもらいました。前々から組合でも悪い噂になっている方ですし、自業自得で―――」


 肩を揺らし、喜びと嗜虐心を露わにしてエリカは嗤う。
 これで私は認められ、何もしなかったお前は見捨てられて追い出されるぞ、とそんな想像をして。


 だが、鼻高々に話すエリカは気づかなかった。
 話を聞いたガゼフの表情が―――唖然としたものから徐々に怒りに満ちた鬼の顔に変貌していった事に。


「この―――屑がぁ!!!」


 次の瞬間、どかん!と凄まじい轟音が鳴り響き、エリカの視界に無数の火花が散る。
 突如襲ってきた衝撃により、エリカの華奢な体は軽く吹き飛び、背後の棚に背中から叩きつけられる羽目になる。


「おまっ……お前ぇ!! 何ふざけた真似してやがる!! 除籍だと!? 馬鹿かお前はぁ!!」
「…!?」


 エリカは困惑し、目を白黒させながら、自分を見下ろす禿頭の鬼を凝視し、瞬きを繰り返す。

 強面だが、滅多に声を荒げることのない組合長ガゼフが、凄まじい剣幕で部下を怒鳴りつけている。
 それどころか、明らかな禁忌である女性に対し拳を振るい、つばを吐き散らして暴言を吐いている。

 他の職員達は、温和な上司の見た事のない豹変に戸惑い、ぱくぱくと口を魚のように開閉するだけとなっていた。


「な、何を…!? あ、あの方は規則違反を犯したのです! 仲介料も支払わず、仲間の足を引っ張り続ける愚図! 追い出さなければ当組合の汚点に―――」
「うるせぇ、糞餓鬼!!」


 反論するエリカの頬に、再びガゼルの拳が飛ぶ。
 再度壁に叩きつけられ、地面に落ちて強く咳き込む彼女を案じて他の職員達が近付くが、どうすればいいのかとおろおろ戸惑うだけで役に立たない。

 ガゼフは倒れた部下には目もくれず、髪を失った頭をがりがりと掻いて焦りを見せつけた。


「お前らぁ! この場にいて何で誰も止めなかった! 最重要事項だぞ!!」
「い、いえあの……先輩方が全員で払っていて、我々はまだ受付業務について教えて貰ってなくて、どうしようって思ってたらエリカさんが『自分に任せろ』って……」
「……! こいつ、まさかここまで計算済みで……!?」


 見渡してみて、経験を積んだ先輩衆の姿が見えない事に気付く。
 本来ならば、あり得ない。必ず誰か経験者がこの場にいて、新人達の模範となっていなければおかしい。

 必要な知識を習得するまで雑用に従事させ、最重要事項を教授しないようにしていた事が仇となった―――ガゼフは大きな後悔に苛まれた。
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