44 / 55
44.国王の茶会
しおりを挟む
コーネリアス、アレクシスを伴ってエドモンドが会場に現れる。準備を終えて待っていたオリバーとアメリアは静かに並んで三人を出迎えた。
使用人とオリバーが三人の椅子をひき、アメリアは一礼してハーブティー作りに取り掛かる。いくら作り慣れているとはいえ、国王の面前でお茶を淹れるなどなかなかない体験だ。緊張こそしても、アメリアはコーネリアスのことを思えば奮い立てる。
蒸らしたハーブから心地よい香りが立ちのぼり、三人の鼻をくすぐる。
「アメリア、このお茶には何を入れているのかな」
アレクシスが尋ねるとアメリアは静かに返事をして答える。
「ラベンダーに、摘みたてのミントを加えております。安眠や不安を和らげる効果をもたらすハーブの一種です」
「ほう」
エドモンドは短い相づちのみだ。コーネリアスは緊張しているのか口数も少ない。アメリアはそっとコーネリアスにしかわからないように自分の手を握って見せる。それを見てハッとしたのか、コーネリアスもテーブルの下でそっと自分の手を握った。
三人にハーブティーを配り、アメリアも席につく。茶会では人の話を聞くと聞いていたエドモンドは押し黙ったままハーブティーを口にした。
「……うむ。悪くない」
「光栄です、陛下」
やっと口にした言葉に謝意を見せるアメリアだが、内心なかなか話し出さないエドモンドにイラついていた。
(人の話を聞く前に自分から場を温めるもんでしょうが。国王だからってなんでも言うこと聞くと思ったら大間違いなんだから!)
「父様。茶会を開いたってことは、話したいことや聞きたいことがある、ってことだよね」
そんな中、アレクシスが茶会の意図を聞き出そうと声を上げる。エドモンドはアレクシスの言葉にしばし黙っていたが、やがて静かに口を開いた。
「わしが茶会を始めたのは、ウィルマ……お前たちの母がきっかけだったことはわかるな」
「はい、父上」
「知っております、父様」
口々に答えるコーネリアスとアレクシスにエドモンドは頷く。
「生前、ウィルマはよく言っていた。人の話によく耳を傾け、自分の思いもよく話せと。そのために茶会は最適な場だと。わしは今日ここでお前たちに話さねばならぬことがある」
エドモンドの言葉に、コーネリアスもアレクシスも真面目な顔をして聞いている。
もちろんアメリアも、これからエドモンドがどんな言葉を述べるのか固唾を飲んでみまもっていた。
「アレクシス。お前の体調が最近改善していること、嬉しく思う。元々病弱だったお前がこの地で元気になっていることがわしは喜ばしい」
「父様……それは、ここにいるアメリアのおかげです。彼女が僕の元気が出ない原因を解明し、対処してくれたからです」
「ほう。ならばヒーラー、いや、アメリアよ。アレクシスに活力を取り戻してくれたこと、感謝する」
「もったいないお言葉、感謝いたします」
(もっと先に言うことがあるでしょうが!)
表には出さなくても、アメリアはコーネリアスのことに触れないエドモンドに苛立ちを感じ始めていた。
そういうコーネリアスは自分のことに先に触れられないことにしょんぼりしているのか視線を下げ何度も手を握ることを繰り返している。
「コーネリアス」
エドモンドがコーネリアスを呼んだ。びくりと肩を跳ねさせるコーネリアスに、エドモンドは何か言いたげに口をもごつかせる。
「お前は……そうだな。傷を治したのなら、なによりだ。これからも励むように」
「はい、父上」
たったそれだけにさすがにアメリアも言葉を失ってしまう。アレクシスには喜ばしいとまで言えるのに、どうしてコーネリアスにはろくな言葉すらかけないのだろう。
ずっとコーネリアスからアメリアは聞いていた。ただ見てほしいと。認めてほしいと。
アメリアは怒りに拳をぎゅっと握りしめる。テーブルの下に隠れて見えないが、わなわなと体が震えているのは、よく見ている者がいれば気づくだろう。
「……父上。それだけ、ですか」
アメリアが口を開こうとして、先にコーネリアスがエドモンドに言った。
使用人とオリバーが三人の椅子をひき、アメリアは一礼してハーブティー作りに取り掛かる。いくら作り慣れているとはいえ、国王の面前でお茶を淹れるなどなかなかない体験だ。緊張こそしても、アメリアはコーネリアスのことを思えば奮い立てる。
蒸らしたハーブから心地よい香りが立ちのぼり、三人の鼻をくすぐる。
「アメリア、このお茶には何を入れているのかな」
アレクシスが尋ねるとアメリアは静かに返事をして答える。
「ラベンダーに、摘みたてのミントを加えております。安眠や不安を和らげる効果をもたらすハーブの一種です」
「ほう」
エドモンドは短い相づちのみだ。コーネリアスは緊張しているのか口数も少ない。アメリアはそっとコーネリアスにしかわからないように自分の手を握って見せる。それを見てハッとしたのか、コーネリアスもテーブルの下でそっと自分の手を握った。
三人にハーブティーを配り、アメリアも席につく。茶会では人の話を聞くと聞いていたエドモンドは押し黙ったままハーブティーを口にした。
「……うむ。悪くない」
「光栄です、陛下」
やっと口にした言葉に謝意を見せるアメリアだが、内心なかなか話し出さないエドモンドにイラついていた。
(人の話を聞く前に自分から場を温めるもんでしょうが。国王だからってなんでも言うこと聞くと思ったら大間違いなんだから!)
「父様。茶会を開いたってことは、話したいことや聞きたいことがある、ってことだよね」
そんな中、アレクシスが茶会の意図を聞き出そうと声を上げる。エドモンドはアレクシスの言葉にしばし黙っていたが、やがて静かに口を開いた。
「わしが茶会を始めたのは、ウィルマ……お前たちの母がきっかけだったことはわかるな」
「はい、父上」
「知っております、父様」
口々に答えるコーネリアスとアレクシスにエドモンドは頷く。
「生前、ウィルマはよく言っていた。人の話によく耳を傾け、自分の思いもよく話せと。そのために茶会は最適な場だと。わしは今日ここでお前たちに話さねばならぬことがある」
エドモンドの言葉に、コーネリアスもアレクシスも真面目な顔をして聞いている。
もちろんアメリアも、これからエドモンドがどんな言葉を述べるのか固唾を飲んでみまもっていた。
「アレクシス。お前の体調が最近改善していること、嬉しく思う。元々病弱だったお前がこの地で元気になっていることがわしは喜ばしい」
「父様……それは、ここにいるアメリアのおかげです。彼女が僕の元気が出ない原因を解明し、対処してくれたからです」
「ほう。ならばヒーラー、いや、アメリアよ。アレクシスに活力を取り戻してくれたこと、感謝する」
「もったいないお言葉、感謝いたします」
(もっと先に言うことがあるでしょうが!)
表には出さなくても、アメリアはコーネリアスのことに触れないエドモンドに苛立ちを感じ始めていた。
そういうコーネリアスは自分のことに先に触れられないことにしょんぼりしているのか視線を下げ何度も手を握ることを繰り返している。
「コーネリアス」
エドモンドがコーネリアスを呼んだ。びくりと肩を跳ねさせるコーネリアスに、エドモンドは何か言いたげに口をもごつかせる。
「お前は……そうだな。傷を治したのなら、なによりだ。これからも励むように」
「はい、父上」
たったそれだけにさすがにアメリアも言葉を失ってしまう。アレクシスには喜ばしいとまで言えるのに、どうしてコーネリアスにはろくな言葉すらかけないのだろう。
ずっとコーネリアスからアメリアは聞いていた。ただ見てほしいと。認めてほしいと。
アメリアは怒りに拳をぎゅっと握りしめる。テーブルの下に隠れて見えないが、わなわなと体が震えているのは、よく見ている者がいれば気づくだろう。
「……父上。それだけ、ですか」
アメリアが口を開こうとして、先にコーネリアスがエドモンドに言った。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。
彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。
王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。
夫と婚姻してから三年という長い時間。
その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。
※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
男爵令嬢なのにくじ引きで王子のいる生徒会の役員になりました!
らな
恋愛
男爵令嬢のリアはアルノー王国の貴族の子女が通う王立学院の1年生だ。
高位貴族しか入れない生徒会に、なぜかくじ引きで役員になることになってしまい、慌てふためいた。今年の生徒会にはアルノーの第2王子クリスだけではなく、大国リンドブルムの第2王子ジークフェルドまで在籍しているのだ。
冷徹な公爵令息のルーファスと、リアと同じくくじ引きで選ばれた優しい子爵令息のヘンドリックの5人の生徒会メンバーで繰り広げる学園ラブコメ開演!
リアには本人の知らない大きな秘密があります。
リアを取り巻く男性陣のやり取りや友情も楽しんでいただけたら嬉しいです。
ひみつの姫君からタイトルを変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる