元魔女ヒーラーの治療録~私にだけ甘えてくるんですがこのクソ真面目王子~

ことのはじめ

文字の大きさ
45 / 55

45.コーネリアスの問い

しおりを挟む
「本当にそれだけなのですか、父上」


 はっきり言おうとしたアメリアより先にコーネリアスが口を開く。


「何が言いたい」


 エドモンドが問えば、コーネリアスは真っ直ぐにエドモンドを見つめたまま続ける。


「もっと、私について思ったことや、感じたことはないのですか。聞きたいことはないのですか」


 コーネリアスは気丈な態度でいるが、声はかすかに震えている。きっと怖いのだ、エドモンドに話を拒まれることが。アメリアは助け舟を出したくてたまらなかった。ここでエドモンドに問いかけて畳み掛ければ、きっとエドモンドも自分のことを話すに違いない。だが、それは今勇気を出して立ち向かっているコーネリアスを侮っていることにもつながる。

 いくら甘やかしたり、甘えさせたりしていても、コーネリアス自身の意思を踏み躙ることはアメリアはしたくない。だから、視線を送って応援するだけに留めている。


(がんばれ、コーネリアス様……!)


 コーネリアスを思い、信じてアメリアは口を引き結ぶ。


「父上」

「……お前は」


 コーネリアスに迫られ、エドモンドがやっと口を開く。


「お前は、似過ぎているのだ……あれに」

「あれ、とは母上のことですか」

「あの白い髪、青い瞳、眼差しの名残……なにもかも似ているのだ、ウィルマに」


 エドモンドは絞り出すように口にする。だというのに、視線はコーネリアスに向けられず俯いている。


「私が母上似だったということは乳母から聞き及んでおります。ですが、それがなぜ関係あるのですか。父上にとって母上は大切な人であったことは窺えます。ですが、私は私です。コーネリアスという一人の人間です」


 コーネリアスはぎゅっと拳を握りしめ訴える。だが、エドモンドの眼差しがコーネリアスを捉えることはなかった。


「父上……!」

「ええい、みなまで言うな!」


 エドモンドは声を荒げると、そのまま席を立って御用邸に引き返してしまった。

 その背を呆然と見つめるコーネリアスに、アメリアは我慢できずに駆け寄った。


「コーネリアス様!」

「アメリア……いや、私は大丈夫だ。それより、茶会を台無しにしてしまってすまない」

「そんなことありません、コーネリアス様は立派に頑張られました、どうか気を落とさないで……」

「だが、私は……」


 うなだれるコーネリアスにアメリアが寄り添っていると、アレクシスが申し訳なさそうに頭を下げる。


「ごめん、コーネリアス、アメリアさん。僕が話を聞いてもらえるかもなんて言ったばっかりに」
「兄上のせいではありません。どうか顔をお上げください。私が答えを急ぎすたせいでもあるのです」


 重苦しくなった場で、そっとアレクシスが言った。


「たぶん。たぶん父様は、迷っているのだと思う」

「どういうことでしょうか、殿下」


 意味ありげな言葉にアメリアが尋ねてみると、アレクシスは弱々しく笑って話しだした。


「コーネリアスから、僕たちの母様のことは聞いてる?」

「ええ。コーネリアス様を産んで早くに亡くなったと」

「母は白い髪に美しい青色の瞳を持っていた。ちょうど、コーネリアスのようにね」


 アメリアはコーネリアスを見やる。アレクシスが言うに、絹のように滑らかな触り心地の髪も、見つめられる時湖の底のように深い青の瞳も、コーネリアスのそれはみな母譲りなのだという。


「そして、母様は人一倍体が弱かった。僕一人を産んだだけでも医師からは驚かれたくらいにはね。でも母は、二人目を身籠った。一人産むだけで限界が来ていたのに、それでも母様は産もうとした」


 コーネリアスの表情が暗くなる。暗に自分のせいで母が命を落としたと言われているような気になったのだろう。だが、きっとそんなことはないとアメリアはコーネリアスを励ますようにその手をぎゅっと握った。


「コーネリアスが生まれたことを、僕も、母様も、もちろん父様も喜んだ。みんなを喜ばせ、望まれて生まれてきたんだ。だから、コーネリアス。君が生まれたせいで、なんて決して考えないで。君は僕にとって大切な弟で、父様にとっても宝物なんだ」

「兄上……」


 コーネリアスはアレクシスの訴えに、静かに頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

〖完結〗終着駅のパッセージ

苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。 彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。 王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。 夫と婚姻してから三年という長い時間。 その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。 ※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

男爵令嬢なのにくじ引きで王子のいる生徒会の役員になりました!

らな
恋愛
男爵令嬢のリアはアルノー王国の貴族の子女が通う王立学院の1年生だ。 高位貴族しか入れない生徒会に、なぜかくじ引きで役員になることになってしまい、慌てふためいた。今年の生徒会にはアルノーの第2王子クリスだけではなく、大国リンドブルムの第2王子ジークフェルドまで在籍しているのだ。 冷徹な公爵令息のルーファスと、リアと同じくくじ引きで選ばれた優しい子爵令息のヘンドリックの5人の生徒会メンバーで繰り広げる学園ラブコメ開演! リアには本人の知らない大きな秘密があります。 リアを取り巻く男性陣のやり取りや友情も楽しんでいただけたら嬉しいです。 ひみつの姫君からタイトルを変更しました。

処理中です...