元魔女ヒーラーの治療録~私にだけ甘えてくるんですがこのクソ真面目王子~

ことのはじめ

文字の大きさ
46 / 55

46.エドモンドの苦悩

しおりを挟む
 一方、エドモンドは居室に戻り、ソファでうなだれていた。

 また、うまく言えなかった。

 妻の忘れ形見とも呼べるコーネリアス。絵に描いたように妻の面影を残す息子に、エドモンドはどう接すればいいのかわからない。

 体の弱いアレクシスと違い、コーネリアスは壮健で武芸の才も秀でていた。妻のウィルマに似ていなければきっと共に馬を駆ったり剣の稽古に付き合ったりもしただろう。だが、どれもエドモンドはしてこなかった。できなかった。

 どれだけ体が丈夫であったとしても、ふとした時にウィルマの面影が見えてしまう。そうではないと言い聞かせるように、コーネリアスに強く当たることも多々あった。

 リムネアを訪れてからすぐのディナーでコーネリアスを傷付けたことだって、コーネリアスはウィルマではないと己に示したかったのだ。

 だが、結果はどうだ。傷付けたばかりでなく、コーネリアスにひどいことを言ってしまった。今証明できないのであれば意味がない。そんな突き放すようなことまで口走り、ずっとエドモンドは後悔していた。


「みんなで、仲良くしてくださいね……」


 今際の際、ウィルマが託した言葉を思い出す。その通りにできているかなど、答えるまでもない。恥じてばかりの今までだ。


「まったくダメな父親だ……」


 アレクシスにも言葉をかけようと頑張りはしたが、そのアレクシスへも言葉が足りないのはわかる。だからといって、コーネリアスを避けていることに変わりはない。それをエドモンドはずっと気に病んでいた。本当なら、もっと言うべきことがあるのに。

 もっとコーネリアスに答えてやるべきなのに。もっと伝えたいことだってあるというのに。

 そのどれもを、エドモンドはうまく言葉にできない。



「父上が私を、宝物、と……」


 コーネリアスはにわかには信じ難いようだった。だが、アレクシスははっきりと口にする。


「父様はコーネリアスのことだって大事にしたいんだ。ただ、やり方が不器用なだけで」

「だが、父上はずっと私を見てくれないのだ。むしろ避けているそぶりさえ窺える」

「それは、きっと……君が母様に似ているから」

「お母様に似ていると、どうして避けられるのですか?」


 アメリアは流石に疑問に思ってアレクシスに尋ねてみた。

 大事にしているといくら思っていようと、実際行動に伴っていないのなら意味のないことだ。しかもそれが亡くなったウィルマに似ているからとどう結びつくのかアメリアはわからない。


「父様は母様をずっと大事にしていた。母様は床に伏せっているときも、いつも様子を見にきていて。きっと、その時の記憶が頭を離れていないんだと思う。コーネリアスを見れば母様のことを思い出して、弱っている母様のことを思い出して辛いんだと思う」

「だから私を避けていたのか……」


 アレクシスの話を聞き、コーネリアスは表情を曇らせる。自分の面差しのせいで父が苦しんでいる。それが辛いのだろう。


「でも、それでコーネリアス様に向き合わないだなんて」


 アメリアは納得がいかなかった。確かに最愛の妻を亡くしたことは悲しいできごとだろう。だが、そのために目の前の我が子から目を背けるのは正しいのか。いくら辛い思いをしようと、いくら悲しい時間を思い出してしまおうと、それによって今目の前の大切な人をないがしろにしてもいいのか。

 アメリアは両親といった大切な人を亡くしたことはないし、誰かの面影に苛まれたこともない。

 だが、自分が愛した人をそれで軽んじる人が出てくるのは許せなかった。


「私は、私はコーネリアス様を避けることなんて間違ってると思います。辛いことを思い出してしまうとしても、それでコーネリアス様が辛い思いを我慢するのはおかしいです」

「アメリア、だがいいのだ。私のせいで父上が苦しくなってしまうのは、私も」

「よくありません! よくありませんよ! さっき言ってたじゃないですか、コーネリアス様はコーネリアス様、一人の人間だって! ならそれを貫けばいいじゃないですか。あなたを通してお母様を見るのではなくて、あなたそのものをお父様に見てもらわないと……! でないと私が許せません!」


 コーネリアスの言葉を突っぱねて、アメリアは捲し立てる。

 アメリアに強く言われて、コーネリアスは押し黙ってしまう。アメリアはそれに気付くと、ハッとしてコーネリアスに頭を下げる。


「す、すみません。カッとなってしまって……」


 コーネリアスも謝罪にそんな事はないとかぶりを振る。


「いや、アメリアの言うことだってもっともだ。元は私の言い出したことなのだから、私が責任を持たねば」


 自分は自分であり、誰かの面影を見出すものではない。それをコーネリアスは伝えたいこととしてしっかり持っておきたい。そう言った。


「コーネリアス様……」

「やはり、私はちゃんと見てほしいのだ。私自身を。父に、認めてほしいのだ」

「僕も、そう思うよ」


 アメリアとコーネリアスの横で、アレクシスが頷く。


「ただ母様に似ているからってだけで、あんなに避けなくてもいいのに。見えてるものだけじゃなくて、コーネリアスそのものを認めてあげないと、父様だっていつまでも苦しんでしまう」


 アメリアもそれには同意見だ。きっとこれはコーネリアスだけの問題ではなく、エドモンドとコーネリアスが抱えている問題なのだ。それを解決しない限り、きっとこの家族の仲は改善しない。そうアメリアは思う。

 きっと、解決できるはずだ。そうアメリアは信じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

〖完結〗終着駅のパッセージ

苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。 彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。 王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。 夫と婚姻してから三年という長い時間。 その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。 ※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

男爵令嬢なのにくじ引きで王子のいる生徒会の役員になりました!

らな
恋愛
男爵令嬢のリアはアルノー王国の貴族の子女が通う王立学院の1年生だ。 高位貴族しか入れない生徒会に、なぜかくじ引きで役員になることになってしまい、慌てふためいた。今年の生徒会にはアルノーの第2王子クリスだけではなく、大国リンドブルムの第2王子ジークフェルドまで在籍しているのだ。 冷徹な公爵令息のルーファスと、リアと同じくくじ引きで選ばれた優しい子爵令息のヘンドリックの5人の生徒会メンバーで繰り広げる学園ラブコメ開演! リアには本人の知らない大きな秘密があります。 リアを取り巻く男性陣のやり取りや友情も楽しんでいただけたら嬉しいです。 ひみつの姫君からタイトルを変更しました。

処理中です...