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46.エドモンドの苦悩
一方、エドモンドは居室に戻り、ソファでうなだれていた。
また、うまく言えなかった。
妻の忘れ形見とも呼べるコーネリアス。絵に描いたように妻の面影を残す息子に、エドモンドはどう接すればいいのかわからない。
体の弱いアレクシスと違い、コーネリアスは壮健で武芸の才も秀でていた。妻のウィルマに似ていなければきっと共に馬を駆ったり剣の稽古に付き合ったりもしただろう。だが、どれもエドモンドはしてこなかった。できなかった。
どれだけ体が丈夫であったとしても、ふとした時にウィルマの面影が見えてしまう。そうではないと言い聞かせるように、コーネリアスに強く当たることも多々あった。
リムネアを訪れてからすぐのディナーでコーネリアスを傷付けたことだって、コーネリアスはウィルマではないと己に示したかったのだ。
だが、結果はどうだ。傷付けたばかりでなく、コーネリアスにひどいことを言ってしまった。今証明できないのであれば意味がない。そんな突き放すようなことまで口走り、ずっとエドモンドは後悔していた。
「みんなで、仲良くしてくださいね……」
今際の際、ウィルマが託した言葉を思い出す。その通りにできているかなど、答えるまでもない。恥じてばかりの今までだ。
「まったくダメな父親だ……」
アレクシスにも言葉をかけようと頑張りはしたが、そのアレクシスへも言葉が足りないのはわかる。だからといって、コーネリアスを避けていることに変わりはない。それをエドモンドはずっと気に病んでいた。本当なら、もっと言うべきことがあるのに。
もっとコーネリアスに答えてやるべきなのに。もっと伝えたいことだってあるというのに。
そのどれもを、エドモンドはうまく言葉にできない。
「父上が私を、宝物、と……」
コーネリアスはにわかには信じ難いようだった。だが、アレクシスははっきりと口にする。
「父様はコーネリアスのことだって大事にしたいんだ。ただ、やり方が不器用なだけで」
「だが、父上はずっと私を見てくれないのだ。むしろ避けているそぶりさえ窺える」
「それは、きっと……君が母様に似ているから」
「お母様に似ていると、どうして避けられるのですか?」
アメリアは流石に疑問に思ってアレクシスに尋ねてみた。
大事にしているといくら思っていようと、実際行動に伴っていないのなら意味のないことだ。しかもそれが亡くなったウィルマに似ているからとどう結びつくのかアメリアはわからない。
「父様は母様をずっと大事にしていた。母様は床に伏せっているときも、いつも様子を見にきていて。きっと、その時の記憶が頭を離れていないんだと思う。コーネリアスを見れば母様のことを思い出して、弱っている母様のことを思い出して辛いんだと思う」
「だから私を避けていたのか……」
アレクシスの話を聞き、コーネリアスは表情を曇らせる。自分の面差しのせいで父が苦しんでいる。それが辛いのだろう。
「でも、それでコーネリアス様に向き合わないだなんて」
アメリアは納得がいかなかった。確かに最愛の妻を亡くしたことは悲しいできごとだろう。だが、そのために目の前の我が子から目を背けるのは正しいのか。いくら辛い思いをしようと、いくら悲しい時間を思い出してしまおうと、それによって今目の前の大切な人をないがしろにしてもいいのか。
アメリアは両親といった大切な人を亡くしたことはないし、誰かの面影に苛まれたこともない。
だが、自分が愛した人をそれで軽んじる人が出てくるのは許せなかった。
「私は、私はコーネリアス様を避けることなんて間違ってると思います。辛いことを思い出してしまうとしても、それでコーネリアス様が辛い思いを我慢するのはおかしいです」
「アメリア、だがいいのだ。私のせいで父上が苦しくなってしまうのは、私も」
「よくありません! よくありませんよ! さっき言ってたじゃないですか、コーネリアス様はコーネリアス様、一人の人間だって! ならそれを貫けばいいじゃないですか。あなたを通してお母様を見るのではなくて、あなたそのものをお父様に見てもらわないと……! でないと私が許せません!」
コーネリアスの言葉を突っぱねて、アメリアは捲し立てる。
アメリアに強く言われて、コーネリアスは押し黙ってしまう。アメリアはそれに気付くと、ハッとしてコーネリアスに頭を下げる。
「す、すみません。カッとなってしまって……」
コーネリアスも謝罪にそんな事はないとかぶりを振る。
「いや、アメリアの言うことだってもっともだ。元は私の言い出したことなのだから、私が責任を持たねば」
自分は自分であり、誰かの面影を見出すものではない。それをコーネリアスは伝えたいこととしてしっかり持っておきたい。そう言った。
「コーネリアス様……」
「やはり、私はちゃんと見てほしいのだ。私自身を。父に、認めてほしいのだ」
「僕も、そう思うよ」
アメリアとコーネリアスの横で、アレクシスが頷く。
「ただ母様に似ているからってだけで、あんなに避けなくてもいいのに。見えてるものだけじゃなくて、コーネリアスそのものを認めてあげないと、父様だっていつまでも苦しんでしまう」
アメリアもそれには同意見だ。きっとこれはコーネリアスだけの問題ではなく、エドモンドとコーネリアスが抱えている問題なのだ。それを解決しない限り、きっとこの家族の仲は改善しない。そうアメリアは思う。
きっと、解決できるはずだ。そうアメリアは信じていた。
また、うまく言えなかった。
妻の忘れ形見とも呼べるコーネリアス。絵に描いたように妻の面影を残す息子に、エドモンドはどう接すればいいのかわからない。
体の弱いアレクシスと違い、コーネリアスは壮健で武芸の才も秀でていた。妻のウィルマに似ていなければきっと共に馬を駆ったり剣の稽古に付き合ったりもしただろう。だが、どれもエドモンドはしてこなかった。できなかった。
どれだけ体が丈夫であったとしても、ふとした時にウィルマの面影が見えてしまう。そうではないと言い聞かせるように、コーネリアスに強く当たることも多々あった。
リムネアを訪れてからすぐのディナーでコーネリアスを傷付けたことだって、コーネリアスはウィルマではないと己に示したかったのだ。
だが、結果はどうだ。傷付けたばかりでなく、コーネリアスにひどいことを言ってしまった。今証明できないのであれば意味がない。そんな突き放すようなことまで口走り、ずっとエドモンドは後悔していた。
「みんなで、仲良くしてくださいね……」
今際の際、ウィルマが託した言葉を思い出す。その通りにできているかなど、答えるまでもない。恥じてばかりの今までだ。
「まったくダメな父親だ……」
アレクシスにも言葉をかけようと頑張りはしたが、そのアレクシスへも言葉が足りないのはわかる。だからといって、コーネリアスを避けていることに変わりはない。それをエドモンドはずっと気に病んでいた。本当なら、もっと言うべきことがあるのに。
もっとコーネリアスに答えてやるべきなのに。もっと伝えたいことだってあるというのに。
そのどれもを、エドモンドはうまく言葉にできない。
「父上が私を、宝物、と……」
コーネリアスはにわかには信じ難いようだった。だが、アレクシスははっきりと口にする。
「父様はコーネリアスのことだって大事にしたいんだ。ただ、やり方が不器用なだけで」
「だが、父上はずっと私を見てくれないのだ。むしろ避けているそぶりさえ窺える」
「それは、きっと……君が母様に似ているから」
「お母様に似ていると、どうして避けられるのですか?」
アメリアは流石に疑問に思ってアレクシスに尋ねてみた。
大事にしているといくら思っていようと、実際行動に伴っていないのなら意味のないことだ。しかもそれが亡くなったウィルマに似ているからとどう結びつくのかアメリアはわからない。
「父様は母様をずっと大事にしていた。母様は床に伏せっているときも、いつも様子を見にきていて。きっと、その時の記憶が頭を離れていないんだと思う。コーネリアスを見れば母様のことを思い出して、弱っている母様のことを思い出して辛いんだと思う」
「だから私を避けていたのか……」
アレクシスの話を聞き、コーネリアスは表情を曇らせる。自分の面差しのせいで父が苦しんでいる。それが辛いのだろう。
「でも、それでコーネリアス様に向き合わないだなんて」
アメリアは納得がいかなかった。確かに最愛の妻を亡くしたことは悲しいできごとだろう。だが、そのために目の前の我が子から目を背けるのは正しいのか。いくら辛い思いをしようと、いくら悲しい時間を思い出してしまおうと、それによって今目の前の大切な人をないがしろにしてもいいのか。
アメリアは両親といった大切な人を亡くしたことはないし、誰かの面影に苛まれたこともない。
だが、自分が愛した人をそれで軽んじる人が出てくるのは許せなかった。
「私は、私はコーネリアス様を避けることなんて間違ってると思います。辛いことを思い出してしまうとしても、それでコーネリアス様が辛い思いを我慢するのはおかしいです」
「アメリア、だがいいのだ。私のせいで父上が苦しくなってしまうのは、私も」
「よくありません! よくありませんよ! さっき言ってたじゃないですか、コーネリアス様はコーネリアス様、一人の人間だって! ならそれを貫けばいいじゃないですか。あなたを通してお母様を見るのではなくて、あなたそのものをお父様に見てもらわないと……! でないと私が許せません!」
コーネリアスの言葉を突っぱねて、アメリアは捲し立てる。
アメリアに強く言われて、コーネリアスは押し黙ってしまう。アメリアはそれに気付くと、ハッとしてコーネリアスに頭を下げる。
「す、すみません。カッとなってしまって……」
コーネリアスも謝罪にそんな事はないとかぶりを振る。
「いや、アメリアの言うことだってもっともだ。元は私の言い出したことなのだから、私が責任を持たねば」
自分は自分であり、誰かの面影を見出すものではない。それをコーネリアスは伝えたいこととしてしっかり持っておきたい。そう言った。
「コーネリアス様……」
「やはり、私はちゃんと見てほしいのだ。私自身を。父に、認めてほしいのだ」
「僕も、そう思うよ」
アメリアとコーネリアスの横で、アレクシスが頷く。
「ただ母様に似ているからってだけで、あんなに避けなくてもいいのに。見えてるものだけじゃなくて、コーネリアスそのものを認めてあげないと、父様だっていつまでも苦しんでしまう」
アメリアもそれには同意見だ。きっとこれはコーネリアスだけの問題ではなく、エドモンドとコーネリアスが抱えている問題なのだ。それを解決しない限り、きっとこの家族の仲は改善しない。そうアメリアは思う。
きっと、解決できるはずだ。そうアメリアは信じていた。
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