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49.紅の魔女
「わしは……わしはお前に傷ついてほしくないのだ」
苦い表情でエドモンドが呟く。
「わしの前でまた傷つく姿を見たくはない。お前がまた傷つき床に伏せる様をわしは見たくない」
「……母を、思い出すからですか」
エドモンドが目を微かに見開く。そしてアレクシスをちらりと見やった。
「聞いたのか」
アレクシスがしっかりとエドモンドを見つめている。
「なら、わかるだろう。わしは――」
「お言葉ですが! 国王陛下!」
ホールのドアを開け放ち、はっきりと異を唱えるヒーラーが一人。
アメリアである。
「な、お前は……コーネリアスに付けていた」
「はい。アメリア・ウェイレット。王立医局筆頭ヒーラーで、コーネリアス様の治療を任されております」
つかつかとアメリアはエドモンドの前まで歩み寄ると、まずはお辞儀をした。
「お話、ずっとうかがっておりました。僭越ながら申し上げます」
そして、きっぱりとアメリアは言う。
「傷つきたくないのは、陛下の方ではございませんか? コーネリアス様はずっと陛下と向き合おうとしていた。ですが、陛下はどうですか。避けてばかり、向き合おうとしないばかり、遠ざけるばかり。それで本当に話ができるとお思いですか」
「王になんと言うことを! 不敬であるぞ!」
侍従が叱責するも、アメリアは一歩も引かない。
「陛下。陛下はどうお考えなのか、コーネリアス様にお示しください」
エドモンドはアメリアの言葉を聞いてじっと佇んでいる。
「ヒーラーよ。お前の言いたいことはわかる。だが今はこの街を魔物から守らねばならぬ。問答をしている場合ではないのだ」
「ええ。そうでしょう。ですので陛下。どうぞ、リムネアの街は陛下達でお守りください」
「何を言っておる」
「街をお守りくださいと申しております」
「バカな、王が出向かなければ魔物の大群は誰が倒すのだ?! それとも街で籠城戦でもしろというのか?!」
激昂した騎士がアメリアに掴みかかろうとするが、すぐさまコーネリアスがその腕をねじ上げて動きを封じてしまう。
「くっ、王子! お離しください!」
「いや、離さぬ。アメリアにはきっと何か考えがあるのだ。父上、聞いてはいただけませんか?」
エドモンドは黙っていたが、すぐに頷き続きを聞かせてみろという。アメリアは会釈をして続ける。
「魔物の大群は私めにお任せください。陛下が出るまでもありません」
「ふむ。医局きってのヒーラーであろうと、大群相手に一人。攻撃魔法も扱えぬヒーラーに何ができる」
「いいえ。できるのです」
そして、アメリアは右手をそっと伸ばした。意識を集中させ、マナで編み上げるのは魔力の杖。魔法使いの証である。
その時勢いよく炎がアメリアの右手からほとばしり、まるで生きているかのようにうねりアメリアの手の中で杖の形をかたどっていく。
その炎の勢いで髪で隠れたアメリアの右目が露わになり、アメリアは両目をしかと見開いた。
深紅の炎と同じ赤色に輝く瞳を見て、その場にいた誰もが驚きの声を上げる。たった一人、コーネリアスを除いて。
「こ、この瞳と炎の色は……もしや十年前の?!」
「そう。彼女こそがかつて国を救った伝説の紅の魔女その人だ」
コーネリアスが驚く騎士に言ってみせれば、騎士も驚いた表情もそのままにアメリアに見入ってしまう。
「コーネリアス様の仰る通り、私はかつて紅の魔女と呼ばれた身。この身に宿る魔法の力で、必ずや魔物を殲滅してみせましょう」
「あの紅の魔女が、医局一のヒーラー?」
「そんな話は聞いていないぞ?! 一体……姿を隠していたというのか?」
「静まれ!」
侍従達がやかましくなるのをエドモンドが一言で収める。そしてアメリアに顔を向ける。
「ヒーラー。いや、紅の魔女よ。お前に魔物の対処を任せてもよいか?」
「ええ。もちろん拝命いたします。ですが、一つ条件を」
王の頼みに無礼な、と侍従が騒ごうとするも王が手で制してアメリアに続きを促した。
「褒美であれば、いくらでもやろう」
「いいえ、褒美などいりません。私が望むのは一つ。コーネリアス様とお話を、陛下が心ゆくまでされることです」
「っ!」
国王が息を呑み、コーネリアスはハッとしてアメリアに顔を向ける。
「アメリア……」
「お願いを、聞いてはくださいませんか。陛下」
エドモンドは息を呑んだまま口を引き結んでいたが、やがてゆっくりと頷いた。
「よかろう。魔物の対処は任せる。わしとコーネリアスは住民の避難と街の防衛に当たる。これでよいか」
エドモンドの答えに、アメリアはお辞儀をしてみせる。
「ありがとうございます、陛下。それでは、早速役目を果たして参ります」
アメリアはホールから出る前に、コーネリアスにそっと目配せをしてみせる。コーネリアスが気付き目を瞬かせる中、アメリアは優しく目を細めて笑ってみせた。
コーネリアスは仄かに頬を染めた後、しっかりとアメリアに答えるよう頷いた。
苦い表情でエドモンドが呟く。
「わしの前でまた傷つく姿を見たくはない。お前がまた傷つき床に伏せる様をわしは見たくない」
「……母を、思い出すからですか」
エドモンドが目を微かに見開く。そしてアレクシスをちらりと見やった。
「聞いたのか」
アレクシスがしっかりとエドモンドを見つめている。
「なら、わかるだろう。わしは――」
「お言葉ですが! 国王陛下!」
ホールのドアを開け放ち、はっきりと異を唱えるヒーラーが一人。
アメリアである。
「な、お前は……コーネリアスに付けていた」
「はい。アメリア・ウェイレット。王立医局筆頭ヒーラーで、コーネリアス様の治療を任されております」
つかつかとアメリアはエドモンドの前まで歩み寄ると、まずはお辞儀をした。
「お話、ずっとうかがっておりました。僭越ながら申し上げます」
そして、きっぱりとアメリアは言う。
「傷つきたくないのは、陛下の方ではございませんか? コーネリアス様はずっと陛下と向き合おうとしていた。ですが、陛下はどうですか。避けてばかり、向き合おうとしないばかり、遠ざけるばかり。それで本当に話ができるとお思いですか」
「王になんと言うことを! 不敬であるぞ!」
侍従が叱責するも、アメリアは一歩も引かない。
「陛下。陛下はどうお考えなのか、コーネリアス様にお示しください」
エドモンドはアメリアの言葉を聞いてじっと佇んでいる。
「ヒーラーよ。お前の言いたいことはわかる。だが今はこの街を魔物から守らねばならぬ。問答をしている場合ではないのだ」
「ええ。そうでしょう。ですので陛下。どうぞ、リムネアの街は陛下達でお守りください」
「何を言っておる」
「街をお守りくださいと申しております」
「バカな、王が出向かなければ魔物の大群は誰が倒すのだ?! それとも街で籠城戦でもしろというのか?!」
激昂した騎士がアメリアに掴みかかろうとするが、すぐさまコーネリアスがその腕をねじ上げて動きを封じてしまう。
「くっ、王子! お離しください!」
「いや、離さぬ。アメリアにはきっと何か考えがあるのだ。父上、聞いてはいただけませんか?」
エドモンドは黙っていたが、すぐに頷き続きを聞かせてみろという。アメリアは会釈をして続ける。
「魔物の大群は私めにお任せください。陛下が出るまでもありません」
「ふむ。医局きってのヒーラーであろうと、大群相手に一人。攻撃魔法も扱えぬヒーラーに何ができる」
「いいえ。できるのです」
そして、アメリアは右手をそっと伸ばした。意識を集中させ、マナで編み上げるのは魔力の杖。魔法使いの証である。
その時勢いよく炎がアメリアの右手からほとばしり、まるで生きているかのようにうねりアメリアの手の中で杖の形をかたどっていく。
その炎の勢いで髪で隠れたアメリアの右目が露わになり、アメリアは両目をしかと見開いた。
深紅の炎と同じ赤色に輝く瞳を見て、その場にいた誰もが驚きの声を上げる。たった一人、コーネリアスを除いて。
「こ、この瞳と炎の色は……もしや十年前の?!」
「そう。彼女こそがかつて国を救った伝説の紅の魔女その人だ」
コーネリアスが驚く騎士に言ってみせれば、騎士も驚いた表情もそのままにアメリアに見入ってしまう。
「コーネリアス様の仰る通り、私はかつて紅の魔女と呼ばれた身。この身に宿る魔法の力で、必ずや魔物を殲滅してみせましょう」
「あの紅の魔女が、医局一のヒーラー?」
「そんな話は聞いていないぞ?! 一体……姿を隠していたというのか?」
「静まれ!」
侍従達がやかましくなるのをエドモンドが一言で収める。そしてアメリアに顔を向ける。
「ヒーラー。いや、紅の魔女よ。お前に魔物の対処を任せてもよいか?」
「ええ。もちろん拝命いたします。ですが、一つ条件を」
王の頼みに無礼な、と侍従が騒ごうとするも王が手で制してアメリアに続きを促した。
「褒美であれば、いくらでもやろう」
「いいえ、褒美などいりません。私が望むのは一つ。コーネリアス様とお話を、陛下が心ゆくまでされることです」
「っ!」
国王が息を呑み、コーネリアスはハッとしてアメリアに顔を向ける。
「アメリア……」
「お願いを、聞いてはくださいませんか。陛下」
エドモンドは息を呑んだまま口を引き結んでいたが、やがてゆっくりと頷いた。
「よかろう。魔物の対処は任せる。わしとコーネリアスは住民の避難と街の防衛に当たる。これでよいか」
エドモンドの答えに、アメリアはお辞儀をしてみせる。
「ありがとうございます、陛下。それでは、早速役目を果たして参ります」
アメリアはホールから出る前に、コーネリアスにそっと目配せをしてみせる。コーネリアスが気付き目を瞬かせる中、アメリアは優しく目を細めて笑ってみせた。
コーネリアスは仄かに頬を染めた後、しっかりとアメリアに答えるよう頷いた。
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