元魔女ヒーラーの治療録~私にだけ甘えてくるんですがこのクソ真面目王子~

ことのはじめ

文字の大きさ
51 / 55

51.コーネリアスとエドモンド

 一方リムネアの街ではコーネリアスとエドモンドが駐屯兵とともに住民の避難にあたっていた。まだ日も沈む前だが、空は少しずつ黄昏の匂いを醸し出している。

 リムネアの住民は魔物が襲ってくることに半信半疑だったが、コーネリアスやエドモンドの態度を見て危機感を覚えるものも少なくなかったようだ。街の教会に集まっていく避難民を駐屯兵と共に誘導しつつ、コーネリアスは空を見上げる。


「アメリア……無事でいるだろうか」


だが、程なくして遠く高原の方から空を焦がすほどの炎が立ち上るのが見えた。次いで爆発音も聞こえ、アメリアが存分に魔法を使っていることが窺えた。


「あれが、十年前魔物を退けた魔女の力……」


 遠くの高原から聞こえる轟音に、コーネリアスはどこか自分を縛っていた戒めも壊されていくような気がした。


「魔女め、やりおるな」

「父上」


 馬に乗ったエドモンドが教会までやってくると、コーネリアスと同じように空を見上げふむ、と頷いた。


「紅の魔女は、いえ、アメリアはいつも私を助けてくれる。父上、こんな時ですが、私はあなたに伝えなければならないことがあるのです」

「……なんだ、言ってみよ」


 また言葉を受け取られないという不安もコーネリアスにはよぎったが、しかしエドモンドは静かにコーネリアスの言葉を促した。


「……私は。私はあなたに、今を見てほしいのです。私を通して母上を見るのではなく、私を私として見てほしいのです。確かに私は母上に似ていると聞きます。ですが、それは似ているだけであって同じではない。母を悼むなとは言いません。ですが、私は……父上。私は私をあなたに見てほしいのです。亡き母ウィルマではなく、コーネリアスというあなたの息子として」


 エドモンドは黙ってコーネリアスの言葉を聞いていた。そして、俯く。

 コーネリアスが答えを待とうとしたその時、甲高い叫び声が聞こえた。


「キシャァァァァッ!!」


 それはアメリアが取り逃がした魔物の残党。翼の生えた悪魔のような魔物は真っ直ぐに飛んできたかと思うと、コーネリアスめがけて鋭い爪を振り下ろしてきた。


「いかんっ!」


 咄嗟にエドモンドがコーネリアスを庇おうとする。だが、コーネリアスが剣を抜く方が早かった。白刃が一閃したかと思うと、鋭い爪が生えた腕が切り落とされる。反動までは殺せなかったのかコーネリアスがエドモンドを庇った腕に魔物の爪がざっくりと傷を残す。

 コーネリアスはその傷に構うことなく魔物を袈裟斬りにして斬り倒した。

 一瞬のできごとだったが、周囲にいた駐屯兵や避難していた住民のいくらかはそれを目撃したようで、驚きのあまり固まる男性や、恐ろしさに悲鳴を上げる婦人、その場から逃げだそうとする住民でにわかにどよめき出す。

 魔物は霧散し、コーネリアスは左腕を押さえて膝をつく。


「兵は民を鎮めよ! コーネリアスはわしが見る!」


 エドモンドは即座に指示を飛ばし、自分を庇ったコーネリアスに寄り添う。


「なんと言うことを……わしなど構わず切り捨てていれば、こんな怪我など」

「お忘れですか、父上。私はこの国を守護する守護騎士、その騎士団長ですよ」

「だが、なんと馬鹿なことを……」

「罵られても構いません。私はあなたに傷ついてほしくないのです。大切な家族なのですから」

「っ!」


 傷ついてほしくない。それは誰のためだったのか。ようやくエドモンドは思い出した。


「……すまなかった。コーネリアス」

「父上?」


 エドモンドはコーネリアスに言う。


「お前とて、わしの子だというのに、ずっと見てやらんですまなかった」


 ずっと亡くした妻のことばかり考えていた。ずっとその姿が消えてしまう妄想に取り憑かれていた。白い髪、青い瞳、ウィルマ譲りの面立ちにばかり気を取られて、肝心の本人をまるで見ていなかった。


「コーネリアス……お前はこんなにも強く、たくましくなっていたのだな。お前が振るう剣の迷いのなさを、わしはずっと見ていなかった。誰かを守ることは、誰かを傷つけることよりもずっと難しいというのに、守護騎士としても、息子としても。お前は、本当によく頑張ったな」

「父、上……」


 エドモンドの心からの言葉に、コーネリアスも言葉を失ってしまう。
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。 ゲームにはほとんど出ないモブ。 でもモブだから、純粋に楽しめる。 リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。 ———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?! 全三話。 「小説家になろう」にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

帰ってきた兄の結婚、そして私、の話

鳴哉
恋愛
侯爵家の養女である妹 と 侯爵家の跡継ぎの兄 の話 短いのでサクッと読んでいただけると思います。 読みやすいように、5話に分けました。 毎日2回、予約投稿します。 2025.12.24 誤字修正いたしました。 ご指摘いただき、ありがとうございました。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした

佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。 その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。 長女ソフィア。 美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。 そして──もう一人。 妹、レーネ・アルヴィス。 社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。 姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。 だが彼女は知っている。 貴族社会では、 誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。 王立学園に入学したレーネは、 礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。 やがて── 軽んじていた者たちは気づく。 「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。 これは、 静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。