元魔女ヒーラーの治療録~私にだけ甘えてくるんですがこのクソ真面目王子~

ことのはじめ

文字の大きさ
4 / 55

4.療養地リムネア

 フローリア王国の西、山岳地帯に位置する療養地リムネアは国内でも有名な温泉地でもある。その温泉はマナを多量に含み、魔法の威力を上げるほか傷の治りが早くなる効能もある。兵士達の湯治に使われる他、一般の観光客に向けても温泉を開放しており、山間のあちこちに温泉宿が建ち並んでいる。

 リムネアまでは馬車に揺られること三日。王子の馬車の後について行く形で荷物と一緒にアメリアは馬車に揺られてきた。いくらなんでもヒーラーも荷物扱いするなんて、とルルは憤慨したが、アメリアは治療で見返すべくずっと王子の健康状態や体質についての資料を読み込んでいた。

 リムネアに到着したのはそろそろ日も暮れ始める夕刻。春風が少し肌寒く感じる頃である。
 アメリアは西方山岳地帯に行くのは初めてだったが、山の麓に立ち並ぶ温泉街は中々に壮観だった。
 あちこち看板が立ち、行き交う人々も賑やかだ。体を休めに来る人が多いせいか賑やかであってもやかましくはなく、落ち着いた雰囲気さえ感じさせる。

 一際大きな山を背後にずらりと宿がひしめくように並んでいる様は、王都のように整然とした町並とは違いずっと血の通った人間を感じさせる。


「コーネリアス様が滞在なさる屋敷は温泉街の一番奥、でしたよね」

「いかにも。王族の御用邸がございますので、そちらまで同伴いただきたく」


 ともすれば荷物ごと転がり出そうなところをなんとか体を引っ張ってアメリアは馬車から出てくると、侍従のオリバーに目的地の確認をする。


「それにしてもアメリア様。窮屈な思いをさせ申し訳ありません」


 ずっと荷物と同席していたアメリアに、オリバーが謝罪する。だが、アメリアは不満どころか得意げな表情すら浮かべてかぶりを振った。


「いえ、一人でいる間王子のケガの具合や体質についていろいろ調べたり思案したりできましたから。むしろじっくり考える時間をくださってありがたいですよ」

「であればよろしいのですが……ここからは大型の馬車が通れませんので、小型の馬車で御用邸まで参ります。アメリア様には大変御心苦しいのですが」

「いや、私の馬車に乗せる」


 凛とした声にアメリアとオリバーが振り返ると、旅装姿のコーネリアスがケガをしているとは思えないほどしっかりした足取りで歩いてきた。


「殿下、傷に障ります」

「御用邸までの道、私はこのヒーラーを供とする」

「恐れ多くも殿下、先に話した際は殿下お一人が馬車に乗ると」

「道中難儀を強いたのだ、せめて御用邸に着くまで程度はまともな座席に座らせた方がよかろう」


 よいか? と聞かれアメリアは返答に困ってしまう。馬車はコーネリアスとオリバーで使ってアメリアだけ後から追いかける形になるはずと踏んでいたから、突然の方針変更にアメリアは戸惑うばかりである。


(気まぐれってやつかしら。馬車の自慢でもしたいわけ? めんどくさいなあ)


「私にはお構いなく」

「いや、乗せていく」


 強情なコーネリアスの態度にアメリアも面倒くささを感じてしまう。それでも表に出さないのが社会人の技量というものである。


(ここで乗る乗らないで揉めるのもまた面倒になるだけだし、ここは乗ってあげましょうか。なんて強情な王子なんだ、ったく)


「殿下が強くそう仰るのであれば、私は謹んでお受けいたします」


 感づかれない程度にイントネーションを強めてアメリアはお辞儀をする。


「アメリア嬢が承諾したのだ。オリバー、異論はないな」

「殿下がそう仰るのであれば、このオリバー、荷物の間に縮こまって行くことにいたしましょう」


 オリバーには悪いが、不毛なやりとりをするよりはマシだ。アメリアはオリバーにお辞儀をすると用意されていた小型の馬車に向かう。

 コーネリアスは王子なのだから先に乗るべきなのに、レディファーストの精神なのかアメリアに手を差し出して先に乗らせた。

 アメリアは愛想笑いを浮かべて馬車に乗り込むが、乗る場所はきちんと下座である。


(こういう所作は本物の王子らしく優雅なんだからなぁ。悔しくなるようなならないような……)


 むすっとしたままのアメリアとコーネリアスを乗せ、馬車は御用邸へと走っていく。
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。 ゲームにはほとんど出ないモブ。 でもモブだから、純粋に楽しめる。 リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。 ———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?! 全三話。 「小説家になろう」にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

帰ってきた兄の結婚、そして私、の話

鳴哉
恋愛
侯爵家の養女である妹 と 侯爵家の跡継ぎの兄 の話 短いのでサクッと読んでいただけると思います。 読みやすいように、5話に分けました。 毎日2回、予約投稿します。 2025.12.24 誤字修正いたしました。 ご指摘いただき、ありがとうございました。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした

佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。 その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。 長女ソフィア。 美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。 そして──もう一人。 妹、レーネ・アルヴィス。 社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。 姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。 だが彼女は知っている。 貴族社会では、 誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。 王立学園に入学したレーネは、 礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。 やがて── 軽んじていた者たちは気づく。 「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。 これは、 静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。