8 / 55
8.治療初日
しおりを挟む
治療の初日、まずは現状の把握からアメリアは始めた。朝食を済ませた後、早速診療室代わりの医務室でコーネリアスの具合を確かめていく。
手足、と腹部にそれぞれ裂傷がある。幸い急所は外れており、いずれも傷の深さのわりにダメージは少ない。とはいえ体を裂かれているのである。安静は基本中の基本だろう。
「まずは、無理なく安静になさることが一番ですね。湯治は腹部の傷の状態を見て行っていきますが……」
「他には、どんなことを気を付ければよい? できうる限りそなたの言葉に従おう」
御用邸に着いてからというものの、妙にコーネリアスが馴れ馴れしい。アメリアは治療に支障が出ないのであればそれで構わなかったが、だとしても初対面の時とは正反対な態度を取られると戸惑ってしまう。
「ええと、安静にするほか過度な運動は控えていただければと」
「わかった。善処しよう」
妙に素直なコーネリアスを不可解に思いながらも、アメリアはコーネリアスに腕を出すよう言った。
「それと、治癒魔法の効き具合を確かめたいので傷を見せていただきたく」
「構わない」
そう言ってコーネリアスは自分の腕に巻かれた包帯をほどき始めた。傷は外科手術の跡が残っており、痛々しい赤い傷を閉じるように縫い目が続いている。
アメリアはこういった傷には慣れていたから特に臆することなく手の平を傷口にかざす。
精神を集中させ、呪文を唱える。
「母なる大地の恵みをここに……ヒール」
ふわ、と柔らかな空気が傷口を包み込み、温かく光る。それに合わせて傷口がほんの少し治癒され、傷の端がわずかに再生した。
「なるほど。確かに一般的な怪我人に比べて治癒量が少ないですね」
アメリアの魔力ならこの程度の傷であれば一度の魔法で完全に治癒することも可能だ。だがそれがままならないとなると、コーネリアスとの感応はかなり難航していると捉えていい。
「む……そうか」
言葉は淡々としているものの、コーネリアスはあからさまにがっかりしている。自分で効きにくいと宣っていたわりには効果に注目するあたり、アメリアはコーネリアスの考えが読めない。
「殿下。魔法の効きに興味があるようでしたが」
アメリアが聞いてみると、コーネリアスは少し視線を下げた後、何事もなかったかのように答える。
「そなたのような優秀なヒーラーにかかってもなお治らない傷に、苛立ってしまってな」
「傷は一日で治るものではありません」
傷の治りを急ぐコーネリアスにアメリアはきっぱりと言った。
「私の魔法で一気に傷が治ったところで、その状態を安定させるまでに静養するのはごく当たり前のこと。体の自然治癒力が全ての基盤になりますから、そこを蔑ろにしてはいけません」
コーネリアスは目を丸くしていたが、やがて青い瞳に深い色を湛えると、その通りだと言わんばかりに頷いた。
「そなたの言う通りだ。私はどうやら焦りすぎていたらしい。だが、できる限り早く復帰したいのも事実。どうか協力してはくれまいか」
「協力は惜しみません。ですが、治療は私の意見が主導となります。私の意見も十分お聞きになった上でご判断ください」
「わかった。そこははき違えないようにしよう」
コーネリアスはアメリアに頷いたあと、少し困ったように視線を泳がせた。
「早く治したいのはやまやまなのだが、どうすればいいだろうか」
自分の状態を上手く言葉にできないのだろう。コーネリアスが言いよどむ中でアメリアは人呼びのベルを鳴らしてオリバーを呼ぶ。
「アメリア嬢?」
コーネリアスが声を上げる中、オリバーが現れる。アメリアはお茶の用意を頼み、応接用のテーブルにコーネリアスを招いた。
「ちょっと、お茶にしましょうか」
手足、と腹部にそれぞれ裂傷がある。幸い急所は外れており、いずれも傷の深さのわりにダメージは少ない。とはいえ体を裂かれているのである。安静は基本中の基本だろう。
「まずは、無理なく安静になさることが一番ですね。湯治は腹部の傷の状態を見て行っていきますが……」
「他には、どんなことを気を付ければよい? できうる限りそなたの言葉に従おう」
御用邸に着いてからというものの、妙にコーネリアスが馴れ馴れしい。アメリアは治療に支障が出ないのであればそれで構わなかったが、だとしても初対面の時とは正反対な態度を取られると戸惑ってしまう。
「ええと、安静にするほか過度な運動は控えていただければと」
「わかった。善処しよう」
妙に素直なコーネリアスを不可解に思いながらも、アメリアはコーネリアスに腕を出すよう言った。
「それと、治癒魔法の効き具合を確かめたいので傷を見せていただきたく」
「構わない」
そう言ってコーネリアスは自分の腕に巻かれた包帯をほどき始めた。傷は外科手術の跡が残っており、痛々しい赤い傷を閉じるように縫い目が続いている。
アメリアはこういった傷には慣れていたから特に臆することなく手の平を傷口にかざす。
精神を集中させ、呪文を唱える。
「母なる大地の恵みをここに……ヒール」
ふわ、と柔らかな空気が傷口を包み込み、温かく光る。それに合わせて傷口がほんの少し治癒され、傷の端がわずかに再生した。
「なるほど。確かに一般的な怪我人に比べて治癒量が少ないですね」
アメリアの魔力ならこの程度の傷であれば一度の魔法で完全に治癒することも可能だ。だがそれがままならないとなると、コーネリアスとの感応はかなり難航していると捉えていい。
「む……そうか」
言葉は淡々としているものの、コーネリアスはあからさまにがっかりしている。自分で効きにくいと宣っていたわりには効果に注目するあたり、アメリアはコーネリアスの考えが読めない。
「殿下。魔法の効きに興味があるようでしたが」
アメリアが聞いてみると、コーネリアスは少し視線を下げた後、何事もなかったかのように答える。
「そなたのような優秀なヒーラーにかかってもなお治らない傷に、苛立ってしまってな」
「傷は一日で治るものではありません」
傷の治りを急ぐコーネリアスにアメリアはきっぱりと言った。
「私の魔法で一気に傷が治ったところで、その状態を安定させるまでに静養するのはごく当たり前のこと。体の自然治癒力が全ての基盤になりますから、そこを蔑ろにしてはいけません」
コーネリアスは目を丸くしていたが、やがて青い瞳に深い色を湛えると、その通りだと言わんばかりに頷いた。
「そなたの言う通りだ。私はどうやら焦りすぎていたらしい。だが、できる限り早く復帰したいのも事実。どうか協力してはくれまいか」
「協力は惜しみません。ですが、治療は私の意見が主導となります。私の意見も十分お聞きになった上でご判断ください」
「わかった。そこははき違えないようにしよう」
コーネリアスはアメリアに頷いたあと、少し困ったように視線を泳がせた。
「早く治したいのはやまやまなのだが、どうすればいいだろうか」
自分の状態を上手く言葉にできないのだろう。コーネリアスが言いよどむ中でアメリアは人呼びのベルを鳴らしてオリバーを呼ぶ。
「アメリア嬢?」
コーネリアスが声を上げる中、オリバーが現れる。アメリアはお茶の用意を頼み、応接用のテーブルにコーネリアスを招いた。
「ちょっと、お茶にしましょうか」
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。
彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。
王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。
夫と婚姻してから三年という長い時間。
その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。
※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
悪役令嬢?いま忙しいので後でやります
みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった!
しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢?
私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
男爵令嬢なのにくじ引きで王子のいる生徒会の役員になりました!
らな
恋愛
男爵令嬢のリアはアルノー王国の貴族の子女が通う王立学院の1年生だ。
高位貴族しか入れない生徒会に、なぜかくじ引きで役員になることになってしまい、慌てふためいた。今年の生徒会にはアルノーの第2王子クリスだけではなく、大国リンドブルムの第2王子ジークフェルドまで在籍しているのだ。
冷徹な公爵令息のルーファスと、リアと同じくくじ引きで選ばれた優しい子爵令息のヘンドリックの5人の生徒会メンバーで繰り広げる学園ラブコメ開演!
リアには本人の知らない大きな秘密があります。
リアを取り巻く男性陣のやり取りや友情も楽しんでいただけたら嬉しいです。
ひみつの姫君からタイトルを変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる