元魔女ヒーラーの治療録~私にだけ甘えてくるんですがこのクソ真面目王子~

ことのはじめ

文字の大きさ
30 / 55

30.約束

「お恥ずかしい限りです」


 アメリアが謙遜すると、コーネリアスは構うことなく灯された炎ごとアメリアの手を取る。さすがに直に炎に触れるとは思ってもみなくてアメリアは驚いてしまった。


「こ、コーネリアス様?!」


 急いで灯した炎を消すも、少しコーネリアスの肌は焼けてしまったようだ。焼けた痛みにコーネリアスが僅かに柳眉を顰める。


「大丈夫ですか?! 魔法だとしてもいきなり炎に触れるなんてバカなんですか?!」


 焦り過ぎてアメリアはつい言葉遣いが乱れてしまった。だが、コーネリアスはそれでも構わないといった風にアメリアの手を握り続ける。


「バカで構わない。あなたに与えられるのなら、痛みだって愛おしい」

「いや、それはちょっと問題がありますってば」


 アメリアがツッコむもコーネリアスは変わらぬ様子でアメリアを見つめ続ける。


「アメリア。私はあなたのことを知れて嬉しい。あなたの正体が紅の魔女であろうとなんであろうと、私はあなたが好きだ」


 真っ直ぐに告白され、流石にアメリアも赤くなってしまう。


「それは、その。っ……ふふ」


 少しうろたえたものの、おかしくなってアメリアはくすくすと笑い出してしまう。


「本当に、もう……仕方のない人ですね、コーネリアス様は」

「アメリア」

「私がいなかったら、誰がそのやけど、治すんですか?」


 アメリアの言葉に、コーネリアスは表情を明るくする。そして握られた手を握り返し、優しい声音で呪文を唱えた。


「母なる大地の恵みをここに……」


 ふわりと暖かな空気がコーネリアスの手を包み込み、癒しの風が焼けてしまった肌をみるみるうちに元に戻していく。

 コーネリアスは心地よさそうに目を閉じ、アメリアはその手のひらを優しく包み込む。

 アメリアは包み込まれた手に目を細める。


「ずっと黙っていてすみませんでした」


「いや。あなたがどうであれ私の気持ちははじめから変わらない」


 コーネリアスの真摯な眼差しに、アメリアは優しく視線を投げ返す。


「お気持ち、謹んで受け取りたく思います」


 そしてアメリアはふわりと微笑んでコーネリアスを見上げた。

 コーネリアスの表情はみるみる明るくなり、それから包み込んでいたアメリアの手をそっと引き寄せる。

 アメリアはその動作に身を委ね、すとんとコーネリアスの腕の中に収まった。


「アメリア……」


 コーネリアスがアメリアを抱きしめる。アメリアも答えるようにコーネリアスの背に腕を回し、背中をぽんぽんと叩く。


「大丈夫ですよ、側にいますから」


 そしてなだめるように背中を撫でさすってやる。嬉しそうにしているのだろう、抱きしめる力だけでその喜びをアメリアは感じ、年に見合わずかわいらしい姿に口元を綻ばせた。


「アメリア、本当に……っ、ありがとう」

「今度は、治療ではなく頭を撫でてあげますから。ね?」


 アメリアがコーネリアスの腕の中から見上げ、いたずらっぽく笑う。どういう意味かわかったコーネリアスはほんのりと頬を赤らめて眉を下げた。

 それから何かを言おうとして言い出せずもじもじとコーネリアスは抱きしめる手を動かした。


「その、実は……」


 言いあぐねるコーネリアスが焦れったくて、アメリアはふう、と息を吐いて言った。


「はっきり言ってください。ほら!」

「あなたに言われたら、今とても……頭を撫でられたくなって」


 先ほどの立ち振る舞いとはまるで違う子犬のような態度にアメリアは吹き出してしまう。

 アメリアはコーネリアスに膝をつかせると、月の下見上げてくる瞳をそっと見つめた。

 その月の光と同じ色の髪をそっと手ですくう。さらさらと指から流れた髪から、そっと手の平をコーネリアスの頭に置いた。

 そのまま優しく頭を撫でれば、コーネリアスは心地よさそうに目を細めて微笑む。小さな子供のように喜ぶ姿に、アメリアもほほえましくなって愛しげにコーネリアスを見つめた。


「よしよし。これからも一緒にいますから」

「約束だぞ」

「ええ」


 清かな夜に、二人のささやかな約束が、そっと結ばれる。
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。 ゲームにはほとんど出ないモブ。 でもモブだから、純粋に楽しめる。 リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。 ———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?! 全三話。 「小説家になろう」にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

帰ってきた兄の結婚、そして私、の話

鳴哉
恋愛
侯爵家の養女である妹 と 侯爵家の跡継ぎの兄 の話 短いのでサクッと読んでいただけると思います。 読みやすいように、5話に分けました。 毎日2回、予約投稿します。 2025.12.24 誤字修正いたしました。 ご指摘いただき、ありがとうございました。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした

佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。 その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。 長女ソフィア。 美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。 そして──もう一人。 妹、レーネ・アルヴィス。 社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。 姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。 だが彼女は知っている。 貴族社会では、 誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。 王立学園に入学したレーネは、 礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。 やがて── 軽んじていた者たちは気づく。 「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。 これは、 静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。