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第四章 マドネリ村

第63話 転移ネットワーク計画3

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とりあえず、街までの移動さえできればよいのであるから、街には入らず、次の年を目指してしまってもよいのであるが・・・

街の城壁とゲートを確認したコジローは、転移で再びアルテミルへ戻った。初回という事で、まずは魔法陣の設置まで行ってみることになっていたのである。

アルテミルの領主の屋敷から、クリスとアレキシを伴って再びデンドビル近くの森の中に戻る。

そこからは歩いて城門から入り、代官所=領主の屋敷へと向かう。

城門では突然領主とアレキシが護衛の騎士も伴わず現れたので驚いていたが、お忍びであり、コジローは新しい領政官で護衛を兼ねている、今後遭うこともあるだろから覚えておくようにと紹介された。

しかし、領主の部下になったつもりはコジローはなかったので、冒険者であり、依頼があれば護衛を引き受ける事もあるが、領主の部下ではないとコジローは強調しておいたのであった。

クリスは少し嫌な顔をしていたが、なし崩し的に部下にされても困るので、はっきりさせておきたい。日本にいた頃、そうやって勝手に長が付く肩書で紹介されたあげく、責任を取らされた経験があったのである。



場内ではまっすぐ領主の館へと向かう。普段クリスは馬車で館に向かうので、歩いていくのは新鮮だなどと言っていた。

各都市の代官所は、領主の屋敷となっていることが多い。代官を置くような都市であれば、領主の屋敷が必ず用意されているのである。かなり大きな街であれば「代官所」を別に設置しているところもあるのだが、アルテミルやサンテミルなど、領主の館を代官所と兼ねてしまっている街のほうが多い。デンドビルもそのひとつである。

代官には領主の館を貸して使わせているが、当然、そこは領主の私邸なわけで、使用してよい部屋は限られている。しかし、前領主の目が届かなかった事もあり、代官が自分の屋敷であるかのように好き勝手に使っているというケースは多かった。

果たして、デンドビルも、そのような状況の一つであった。

領主の抜き打ち訪問で誤魔化す事もできず、クリスの嫌味に代官は冷や汗を流していた。領主はそんな代官に、屋敷を明け渡し、別の住まいから代官所に "通う" ように命じた。当然、屋敷の中で入ってよい部屋は代官の執務室と応接室等、一部のみとし、使用人達にはそれを守らせるよう厳命。屋敷の使用人も、領主に雇われている立場である。代官には貴族が多いため、自分の使用人を連れてきているケースもあるが、そういう者は屋敷からは出てもらう事とした。

そして、転移専用の部屋を用意し、今後は頻繁に領主やアレキシが様子を見に来る予定であると伝えた。ただし、転移で移動している事は絶対に口外しないよう厳命した。もし情報を漏らした場合は、代官は死刑、貴族であればその家も取り潰すと非常に厳しい脅しをかける。

屋敷の使用にも同様のことが厳命された。



屋敷の明け渡しと整備を明じ、屋敷の一室を、転移用の部屋として使うことを決めた。鍵は領主とアレキシ以外持たない。一応念のため、近日中に鍵を交換するよう手配した。

魔法陣の設置は、屋敷の明け渡しと鍵交換が済んでからという事になり、また後日ということになる。



実は、もう一つ問題がある。転移魔法陣は、二つで一対である。兼用はできない。(ゼフトならできるのかも知れないが・・・。)転移先には魔法陣を一つ設置すればよいが、どこか一か所からどこにでも行けるようにするためには、基点となる場所に、行先の数だけ魔法陣を設置する必要があるのである。

サンテミルとアルテミルの移動には、領主の部屋の準備室に魔法陣を設置したが、この先、主要都市だけで十七箇所、手に魔法陣を設置する予定である。当然、十七個もの魔法陣をどこに置くか、という問題が発生するのである。

本来は、ウィルモア領の主都であるブギルの街に置くべきかも知れないが、首都はかなりの都会であるので、建物がすでに密集して建っており、領主の屋敷といえども、新たに場所を用意するとなるとコストが高くつく。

また、クリスは、未だ建造中の街サンテミルが気になっていた。別の人間に任せてもよいはずであるが、自分が一から携わったプロジェクトであり、思い入れがある。できれば自分で見たかった。さらには、悪代官を放置していたアルテミルからも離れられない、街を自ら立て直すと住民に約束したからである。

結局、領主はアルテミルに転移魔法陣を集合させる事に決めた。アルテミルの屋敷であれば、使っていない部屋がたくさんある。それぞれに、魔法陣を設置してしまえばよい。

いずれは、屋敷の裏庭に空いた土地がかなりあるので、そこに転移魔法陣専用の建物を建てる事も考えていた。その時にはコジローにまた手間をかけさせる事となるが、仕方がない。

コジローとしては、タイムリミット付きの魔法陣で、定期的に更新を行うという契約で考えていたので、その都度魔法陣を設置しなおすことになるので、魔法陣の引っ越しは特に問題とは思わなかった。しかし、数が多くなると、コジローの管理の負担が増える事になるのだが・・・。

十七箇所設置し、それぞれの更新時期が異なるのであれば、十七回魔法陣設置に出向かなければいけなくなるのである。最初は一か月更新とコジローは考えていたが・・・・実際に運用するようになってみて、すぐに大変であることが分かり、年単位の更新に切り替える事になるのであった。



せっかくなので、領主とアレキシは、代官のデンドビルでの為政をチェックすることにした。書類をチェックする限りでは、この町の代官は、一応、まともに街の運営を行っていたようであった。

コジローは、書類チェックが終わるまで待たされることになってしまうが、その分、別途待機報酬も支払うとクリスは言った。しかし、準備金は既にもらっているとしてコジローは遠慮し、その代わり、街を散策する許可をもらった。

街の簡単な案内図をアレキシがくれたので、それを見ながら街をぶらついてみたコジロー。繁華街で屋台をみつけて、マロと一緒に買い食いをしながら夕方まで過ごした。

デンドビルはちょうど、都会と山岳地帯の境目といった場所であろうか、避暑地として有名な場所で、観光客も多くいた。子犬姿のマロを撫でてもいいかと何人か女の子が声をかけてきた。マロも大人しく撫でられていた。

午後になり、屋敷に戻ると、既にクリスとアレキシはお茶を飲んでいた。この街の監査は特に問題なかったようだ。

ただ、まるでコジローが遅いとでも言いたげな雰囲気を感じ、コジローは不満を感じた。約束の時間にはまだ30分はあるはずだが・・・

もちろん、伯爵も口に出して文句を言ったわけではのでコジローも何も言えず。二人をアルテミルまで送り届け、その日は終了になった。


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