パワハラで人間に絶望したサラリーマン人間を辞め異世界で猫の子に転生【賢者猫無双】(※タイトル変更-旧題「天邪鬼な賢者猫、異世界を掻き回す」)

田中寿郎

文字の大きさ
6 / 85
序章(プロローグ)

第6話 仲間を…見捨てるんですか?

しおりを挟む
■キムリ

『……それで、お前達は土まみれで何をやっとるのだ?』

俺はキムリ。騎士団長をやっている。
マニブール王国の辺境にあるワッツローヴという街の騎士団だ。

この街はワッツローヴ伯爵が治めているが、伯爵が来る前は別の名前で呼ばれていたらしい。

街には白鷲と黒鷲、ふたつの騎士団がある。伯爵家を守る騎士団が白鷲、俺が団長を務める黒鷲騎士団は主に街の治安を守り外敵と戦うのが仕事だ。

二時間ほど前、人間を殺した猫人が居るという通報があった。

ただ、その時点では、殺されたのが貴族だという報告がなかったので、どうせ、街のゴロツキが獣人を誂ってトラブルになったんだろうと判断し、俺は衛兵隊を向かわせた。

猫人一匹程度なら騎士が出る必要はないだろう。

(衛兵隊は街の平民から募兵された治安維持のための部隊だ。そのため戦闘力はあまりないし魔法も使えない。まぁ騎士団の雑用係のようなものだ。)

獣人の犯罪者は、捕らえたら拷問のうえ処刑、晒し首にする事になっている。裁判も不要。この国では、たとえ正当防衛だろうと獣人が人間を傷つけたら獣人が悪いという事になっているのだ。

理由は知らないが現国王は獣人を酷く嫌っており、戦争で人間が獣人に勝った後、そういう法律ができたのだ。街の平民の間では酷い法律だという意見もあるようだが、捕らえる側としては手続きが簡単になるので楽でよい。

だが、しばらくして、衛兵隊から騎士団の応援が欲しいという連絡が来た。犯人である猫人が思いのほか手強かったようで、衛兵達では手に負えないらしい。

まったく、何をやっているのか。猫一匹捕らえられないとは…。いくら平民とは言え、衛兵達は少し鍛え直す必要があるようだな。

今日はちょっとした行き違いで領主に理不尽に叱られムシャクシャしていたところだ。鬱憤バラシに獣人を甚振るのもいいか。

だが、その段になって、殺されたのがバンリー子爵家の五男であると報告があった。ほう…?

たしか、バンリー子爵の五男は冒険者をしており、かなりの強者だったはずだ。それが殺されたとなると、その猫人はかなり危険だという事になる。

俺は慌てて待機中の騎士団を集め、現場に向かった。

   ・
   ・
   ・

だが、現場についてみても肝心の猫人は見当たらず。

居たのはあちこち地面を掘り返して土まみれとなっている衛兵達であった。

衛兵隊長ターレスはどこに行ったんだ?」

衛兵1「その…中です」

「ああ? どこだって???」

衛兵1ピーター「地面の、そこの土の中です…」

ピーターが示した場所を何人か衛兵が掘り返している。

見ればちょうど、別の場所から一人、衛兵が掘り出され、ポーションを飲まされているところであった。どうやら衛兵達は生き埋め状態の仲間を掘り返して救出していたらしい。

だが、ここは街の中の広場である。平坦な場所で土砂崩れなど起きるはずもない。なぜ、衛兵達は地面の中に埋まっているのだ???

「一体何があったのだ? 猫人の犯罪者を捕まえに行ったんじゃないのか?」

ピーター「それが…その、その猫人は魔法を使いまして…」

「獣人が魔法? 魔法が使える獣人とは珍しいな」

ピーター「はい…その魔法は強力で、我々はまったく歯が立たず…」

「で、土魔法で埋められてこのザマか…」
「まぁ、魔法が使える獣人となると、魔法の使えない衛兵達では歯が立たんのは仕方ないか…」

やっと衛兵隊長ターレスが掘り返された。他の衛兵より掘り返した土の量が多い。それだけ深く埋められていたと言う事か。

掘り起こした衛兵がポーションを無理やり口に流し込んだが反応がない。衛兵は首を振った。

「ターレスは死んだか…。獣人に埋められて死ぬとはマヌケな奴だな…」
「ターレスなどどうでもいいが…貴族と衛兵を殺したその獣人……猫人? は重罪だな。楽に死なせてやるわけには行かん…。それでその猫人はどこへ行った?」

ピーター「はい、市場のほうへ向かいました…」

なんと、聞けば猫人は、衛兵達を手玉に取った後、逃げもせず市場へ買い物に向かったと言うではないか。不敵不敵しいふてぶてしい奴だ。

少し魔法が使えるからといって調子にのっているのだろうが…所詮は猫人。騎士に敵う訳がないことを思い知らせてやろう。

俺は部下の騎士達を引き連れて市場へ向かった。



  +  +  +  +



■妖精猫

俺は今、市場で爆買い中である。

最初、猫人に対して怪訝な顔をしていた市場の商売人達だったが、俺が金を持っていると知った途端、文字通り掌を返して揉み手しながら寄ってくるようになった。

さすがにこの頃になると、猫人(獣人)差別がある事を俺も薄々察していたが、商魂たくましい商人は金さえ払うなら人間だろうが獣人だろうが魔物だろうが関係ないようだ。

と言う事で俺は、市場で売られているモノをすべて買い占める勢いで買い物中である。【収納魔法】が使える俺は、本当に市場の品を全て買い占めたとしても問題ない。

『商品がなくなってしまうと困る』とか言われるかと思ったが、商人達は全然そこは気にしていないようだ。それよりも、ここぞ儲けるチャンスとやたらアピールしてくるのであった。





ちなみに、先程襲ってきた衛兵達は土の中に埋めてやった。土魔法? いや違う、【収納】の魔法の応用である。俺に攻撃しようとした衛兵の足元の土をごっそり収納してやっただけだ。

突然足元に開いた落とし穴に衛兵達は抵抗もできずに落ちていった。そして、収納した土を即座に穴の上に出してやれば、生き埋めの完了である。地中深く埋められたら助からないだろう。

一応警告はした。それでも襲ってくるなら、死んだとしても仕方あるまい。

ただ、優しい俺は、衛兵達を落とした穴は浅めにしておいてやった。彼らも命令に従っているだけだろうからな。

急いで掘り返せば助かる、そう言ってやると、衛兵達は慌てて埋められた仲間を掘り返し始めた。

だが、そこで衛兵の隊長? が、騒ぎ始めた。

隊長「何をしておる! 掘り返さんでいい、それより奴を捕えろ!」

衛兵A「……え? 隊長?」
衛兵B「仲間を…見捨てるんですか?」

隊長「自業自得だ! 簡単に罠に落ちるような間抜けはいらんのだよ! お前達も無能でないと言うなら成果を出して見せろ!」

だが、衛兵達は仲間のほうが大事なようで、誰も隊長の言うことを聞かず、地面を掘り続けていた。ちなみに土は一度収納されてひっくり返されているので柔らかく掘りやすくなっている。この分なら死ぬ前に助け出せるだろう。

だが、まだ隊長が叫んでいる。

隊長「お前ら! 俺の命令がきけないのか? この無能なクズどもが!! お前ら、全員後で罰を与えてやるからな! 覚悟し~」

「シャー!」

俺は隊長の足元にも穴を開け、隊長を落としてやった。前世の日本でパワハラ上司に散々苦しめられた記憶がフラッシュバックしてきて不愉快だったのだ……。






隊長を落とした穴は、感情がこもっていた分、他の隊員より深くなってしまったが仕方あるまい。

「簡単に穴に落ちるマヌケは、掘り返さなくて良いんだよにゃ?」

隊長「え…? まさか」

「じゃぁ埋めるぞ。大丈夫、仲間思いな連中みたいだから、すぐ掘り返してくれるにゃ」

隊長「待っ―」

隊長の声は埋め戻された土によって遮られた。それを見ていた衛兵の手が一瞬止まったが、すぐにまた掘り返し始めた。

「…助けてやらないにゃ?」

衛兵A「…仲間・・の救助が先だ!」
衛兵B「こっちが全員助けられたら、その後、隊長も助けに行くさ…」

埋められた衛兵は顔までは掘り返せているので、放っておいても死にはしないはずだが、全身掘り返すまで隊長の掘削には向かわないようだ。

俺は隊長(が埋められている場所)の上から叫んでやった。

「隊長~~~人望薄いにゃぁ~~~」

こうして、衛兵達が俺に構っている暇はなくなったので、俺は悠々と屋台で買った串焼きとお釣りを受け取り、市場に向かったというわけだ。





市場の買い物も進み、もう半分以上は商品が収納されてなくなっている。そんな頃、いかにも騎士であるという風体の男達がぞろぞろやってきた。

『みつけたぞ、ケダモノめ』


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...