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第一章 帝都の賢者
第72話 君なのか?! 私です!
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帝都の賢者の屋敷で、メイヴィスとは色々な話をした。
本当はすぐに帰るつもりだった。
まぁ帰ると言っても家ごと収納して歩いているヤドカリ状態なので、どこに帰るのか? という話ではあるのだが……人間がたくさん居る街の中よりは森の中のほうが妖精猫にはきっと居心地がいいだろうと思う。
だが……メイヴィスと話が盛り上がってしまい、ズルズルと長居してしまう。(それも、もしかしたらメイヴィスの掌の上で転がされているのかもしれないが。)
メイヴィスには人を惹きつける愉快な語り口を持っており、しかも転生前の日本の話は大いに盛り上がるネタである。さらにメイヴィスには転生してからの百五十年にも及ぶ異世界冒険譚と、それを面白おかしく語る話術もあったのだから。
メイヴィスのほうも、俺の話に興味津々であった。まず、日本での事を根掘り葉掘り聞いてくる。自分が死んだ後の日本がどうなったのか興味があったらしい。
最初、話はだいたい通じるので同じ時代の人間だと思ったのだが、微妙に話が食い違う部分がある事が分かった。例えば、彼の時代には携帯電話はあったが、スマホはまだなかった、という感じである。
生死年月日を尋ねてみたところ、メイヴィスは日本では昭和二十年の生まれだったそうだ。昭和二十年というと、終戦の年か…。戦争は経験していないが、戦後の高度経済成長時代を生き抜いた世代というわけだ。
そして、六十二歳で亡くなったそうだ。死ぬには少し早い年齢ではあるが、癌だったそうだ。
生年月日から計算すると、地球時代のメイヴィスと俺は、同じ時代を生きてはいたが、三十六歳年齢差がある事になる。多少ジェネレーションギャップがあるのは当然か。
俺が死んだのは……死んだ時の記憶はないのだが(※)、最後の記憶が。令和元年、2019年であった。元号が変わった年で、書類の和暦表示を切り替えるのに少し苦労したのではっきりと憶えている。たしか俺は三十八歳だった。
(※地球時代のカイトは夜眠っている間に心臓発作で突然死したので、死んだ時の記憶がない。)
地球時代のメイヴィスが亡くなった歳が六十二歳、俺と三十六歳差なのだから、俺はその時二十六歳か。俺が死んだのがその十二年後という事になる。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
少し時間的なズレが気になるが。
メイヴィスが死んでから、俺が死ぬまで十二年しか経っていないはずだが、メイヴィスはこの世界で既に百五十年もの時を過ごしているという。
まぁ、異世界と地球とでは時間軸が一致していないと言う事で納得するしかないだろう。もしかしたら浦島太郎も異世界転移だったのかもな…。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
なるほど、日本でのカイトとメイヴィスは、ほぼ同じ時代を生きたと言えるが、一部、例えば電子機器周りの変化などは、十年違えば別世界と感じるかも知れない。
……そう言えば、地球時代のメイヴィスの時代には、ラノベなどもまだ普及していなかった気がする。それなのに異世界転生して戸惑いはなかったのか?
その辺を尋ねてみると、子供頃から読書家で、ジャンルを問わず、ファンタジー作品なども読んでいたので特に問題なく対応できたそうだ。
そもそも、媒体の有無の違いはあれど、異世界や異星のファンタジー物語なんて、大昔からたくさんあったそうで、内容的にはそんなに珍しいものでもなかったらしい。
そういえば、子供の頃再放送で、ファンタジーなトンネルを抜けて異世界に召喚され、世界観は騎士と妖精がいる剣と魔法のファンタジー世界なのに昆虫型巨大ロボットに乗って戦うというロボットアニメを見た記憶がある。もっと古い時代のアニメで、不思議なハンマーで扉を開きヘンテコリンな世界に誘拐された少女を救出に行くというアニメなども見た気がするな。
言われてみれば確かに、ラノベの時代より前から、異世界転生なんて話はざらにあったわけだ。
そして、話が前世の日本で転生した時の話になった時、俺はメイヴィスの発した言葉に激しい衝撃を受ける事になった。
メイヴィス「日本で儂は凸凹商事という会社の営業としてバリバリやっておったのじゃが…ガンになってしまってのう。入院治療しておった記憶が最後なので、おそらくそのまま死んだのじゃろう……」
「……え?」
俺は耳を疑った。
凸凹商事?
それは……忘れもしない、俺が前世で勤めていた会社の名前だ!
そして、全てが繋がった。
何か、懐かしい話し方と雰囲気がすると感じていた理由……
「まさか……堀川部長?」
メイヴィス「何? どうして儂の前世の名を……まさか、お前も凸凹商事に勤めていたのか?!」
「俺ですよ! 鷲巣です! 鷲巣界渡ですよ!」
メイヴィス「何?! カイト君?! 君なのか?!」
凸凹商事で、俺はさんざんパワハラで苦しめられた。休みは半年に1日しかもらえず、最後には過労死(だと俺は思っている)させてくれたブラック企業である。
だが、最初からブラックだったわけではない。すこしは良かった時期もあったのだ。それが、堀川部長が生きていた時代である。俺はホリさんにはとても可愛がってもらったのだ。
高卒で俺は家を出て中小企業に就職した。毒親から離れるのが最優先だったので、どこでも良いと就職先を適当に選んでしまったのが良くなかった。正社員のはずなのにバイトと変わらない酷い待遇、家族経営で、家族の役員が会社を私物化し、業務と関係ない家事までやらされる。それだけならまだ良かったが、法的に問題のある事をさせられそうになり、正論を言って抵抗したところ、命令に従えない奴は要らないとクビを言い渡されてしまった。
薄給で貯金などほとんどできていない。だが月末には家賃を払わなければならない。少しでも早く再就職したかった俺は、またしてもじっくり選ぶ事ができず。即日で雇ってくれると言ってくれた小さな商社に中途入社した。それが凸凹商事である。
物流部門に中途入社したのだが、現場の古株の年寄り達に虐めを受けた。(これは俺だけではなく新人はみな経験するらしいが。それで新人が居つかず問題にもなっていたらしい。)
例えば、Aという品物を積んでおけと言われ、年寄り連中はタバコを吸いに行ってしまう。終わったと報告すると『違うだろ積むのはBだ! そんな事も分かんねぇのか?!』と怒鳴られる。指示が間違っていたと言っても、俺が勘違いした事にされ、やり直しさせられる、そんな感じであった。
俺は伝票を自分で確認して間違った指示をしてきたら指摘するようにして対抗したが、すると先輩社員達は俺に見られないように伝票を持ち歩き始めた。見せてくれと言ったが、新米のお前が見る必要はないと言われてお手上げである。もう少し業務に慣れてくれば、年寄連中に伝票が渡る前の段階でコピーを手に入れるなどできたと思うが、入社して間もなかった当時の俺では無理だった。
正直馬鹿らしいとは思ったが辞める事もできず、耐えるしかなかった。そんな俺を拾い上げてくれたのが当時営業部長だったホリさんだったのだ。
彼の下で一緒に仕事をするようになると、真面目に働く俺をホリさんはとても評価してくれて、社長に言ってすぐに係長にしてくれた。(まあ、その同じ部署で後の極悪パワハラ上司となる西谷課長とも出会う事になったのだが…。堀川部長が生きていた時は西谷はまだ大人しかった。)
ホリさんは、恰幅のよい、いかにも仕事ができる初老の営業サラリーマンという感じで、話術も面白く、俺は好きだった。古株の年寄り連中には、厳しい事を言うので嫌われていたが、俺は酷い事を言われた事はなかった。おそらく、きつい事を言われる人間というのは、言われるだけの理由があったのだと思う。普通に真面目に仕事をしていれば怒られる事などまず無かった。
堀川は、実は創業者の松岡社長と共に凸凹商事を立ち上げた人物である。社長は松岡だが、凸凹商事が急成長したのは堀川の営業力が大きかった。会社の取締役でもある堀川は、唯一、社長の松岡に対等にものが言える人物であったのだ。
だが、そんなある日、堀川部長がガンになってしまったのだ……
本当はすぐに帰るつもりだった。
まぁ帰ると言っても家ごと収納して歩いているヤドカリ状態なので、どこに帰るのか? という話ではあるのだが……人間がたくさん居る街の中よりは森の中のほうが妖精猫にはきっと居心地がいいだろうと思う。
だが……メイヴィスと話が盛り上がってしまい、ズルズルと長居してしまう。(それも、もしかしたらメイヴィスの掌の上で転がされているのかもしれないが。)
メイヴィスには人を惹きつける愉快な語り口を持っており、しかも転生前の日本の話は大いに盛り上がるネタである。さらにメイヴィスには転生してからの百五十年にも及ぶ異世界冒険譚と、それを面白おかしく語る話術もあったのだから。
メイヴィスのほうも、俺の話に興味津々であった。まず、日本での事を根掘り葉掘り聞いてくる。自分が死んだ後の日本がどうなったのか興味があったらしい。
最初、話はだいたい通じるので同じ時代の人間だと思ったのだが、微妙に話が食い違う部分がある事が分かった。例えば、彼の時代には携帯電話はあったが、スマホはまだなかった、という感じである。
生死年月日を尋ねてみたところ、メイヴィスは日本では昭和二十年の生まれだったそうだ。昭和二十年というと、終戦の年か…。戦争は経験していないが、戦後の高度経済成長時代を生き抜いた世代というわけだ。
そして、六十二歳で亡くなったそうだ。死ぬには少し早い年齢ではあるが、癌だったそうだ。
生年月日から計算すると、地球時代のメイヴィスと俺は、同じ時代を生きてはいたが、三十六歳年齢差がある事になる。多少ジェネレーションギャップがあるのは当然か。
俺が死んだのは……死んだ時の記憶はないのだが(※)、最後の記憶が。令和元年、2019年であった。元号が変わった年で、書類の和暦表示を切り替えるのに少し苦労したのではっきりと憶えている。たしか俺は三十八歳だった。
(※地球時代のカイトは夜眠っている間に心臓発作で突然死したので、死んだ時の記憶がない。)
地球時代のメイヴィスが亡くなった歳が六十二歳、俺と三十六歳差なのだから、俺はその時二十六歳か。俺が死んだのがその十二年後という事になる。
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少し時間的なズレが気になるが。
メイヴィスが死んでから、俺が死ぬまで十二年しか経っていないはずだが、メイヴィスはこの世界で既に百五十年もの時を過ごしているという。
まぁ、異世界と地球とでは時間軸が一致していないと言う事で納得するしかないだろう。もしかしたら浦島太郎も異世界転移だったのかもな…。
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なるほど、日本でのカイトとメイヴィスは、ほぼ同じ時代を生きたと言えるが、一部、例えば電子機器周りの変化などは、十年違えば別世界と感じるかも知れない。
……そう言えば、地球時代のメイヴィスの時代には、ラノベなどもまだ普及していなかった気がする。それなのに異世界転生して戸惑いはなかったのか?
その辺を尋ねてみると、子供頃から読書家で、ジャンルを問わず、ファンタジー作品なども読んでいたので特に問題なく対応できたそうだ。
そもそも、媒体の有無の違いはあれど、異世界や異星のファンタジー物語なんて、大昔からたくさんあったそうで、内容的にはそんなに珍しいものでもなかったらしい。
そういえば、子供の頃再放送で、ファンタジーなトンネルを抜けて異世界に召喚され、世界観は騎士と妖精がいる剣と魔法のファンタジー世界なのに昆虫型巨大ロボットに乗って戦うというロボットアニメを見た記憶がある。もっと古い時代のアニメで、不思議なハンマーで扉を開きヘンテコリンな世界に誘拐された少女を救出に行くというアニメなども見た気がするな。
言われてみれば確かに、ラノベの時代より前から、異世界転生なんて話はざらにあったわけだ。
そして、話が前世の日本で転生した時の話になった時、俺はメイヴィスの発した言葉に激しい衝撃を受ける事になった。
メイヴィス「日本で儂は凸凹商事という会社の営業としてバリバリやっておったのじゃが…ガンになってしまってのう。入院治療しておった記憶が最後なので、おそらくそのまま死んだのじゃろう……」
「……え?」
俺は耳を疑った。
凸凹商事?
それは……忘れもしない、俺が前世で勤めていた会社の名前だ!
そして、全てが繋がった。
何か、懐かしい話し方と雰囲気がすると感じていた理由……
「まさか……堀川部長?」
メイヴィス「何? どうして儂の前世の名を……まさか、お前も凸凹商事に勤めていたのか?!」
「俺ですよ! 鷲巣です! 鷲巣界渡ですよ!」
メイヴィス「何?! カイト君?! 君なのか?!」
凸凹商事で、俺はさんざんパワハラで苦しめられた。休みは半年に1日しかもらえず、最後には過労死(だと俺は思っている)させてくれたブラック企業である。
だが、最初からブラックだったわけではない。すこしは良かった時期もあったのだ。それが、堀川部長が生きていた時代である。俺はホリさんにはとても可愛がってもらったのだ。
高卒で俺は家を出て中小企業に就職した。毒親から離れるのが最優先だったので、どこでも良いと就職先を適当に選んでしまったのが良くなかった。正社員のはずなのにバイトと変わらない酷い待遇、家族経営で、家族の役員が会社を私物化し、業務と関係ない家事までやらされる。それだけならまだ良かったが、法的に問題のある事をさせられそうになり、正論を言って抵抗したところ、命令に従えない奴は要らないとクビを言い渡されてしまった。
薄給で貯金などほとんどできていない。だが月末には家賃を払わなければならない。少しでも早く再就職したかった俺は、またしてもじっくり選ぶ事ができず。即日で雇ってくれると言ってくれた小さな商社に中途入社した。それが凸凹商事である。
物流部門に中途入社したのだが、現場の古株の年寄り達に虐めを受けた。(これは俺だけではなく新人はみな経験するらしいが。それで新人が居つかず問題にもなっていたらしい。)
例えば、Aという品物を積んでおけと言われ、年寄り連中はタバコを吸いに行ってしまう。終わったと報告すると『違うだろ積むのはBだ! そんな事も分かんねぇのか?!』と怒鳴られる。指示が間違っていたと言っても、俺が勘違いした事にされ、やり直しさせられる、そんな感じであった。
俺は伝票を自分で確認して間違った指示をしてきたら指摘するようにして対抗したが、すると先輩社員達は俺に見られないように伝票を持ち歩き始めた。見せてくれと言ったが、新米のお前が見る必要はないと言われてお手上げである。もう少し業務に慣れてくれば、年寄連中に伝票が渡る前の段階でコピーを手に入れるなどできたと思うが、入社して間もなかった当時の俺では無理だった。
正直馬鹿らしいとは思ったが辞める事もできず、耐えるしかなかった。そんな俺を拾い上げてくれたのが当時営業部長だったホリさんだったのだ。
彼の下で一緒に仕事をするようになると、真面目に働く俺をホリさんはとても評価してくれて、社長に言ってすぐに係長にしてくれた。(まあ、その同じ部署で後の極悪パワハラ上司となる西谷課長とも出会う事になったのだが…。堀川部長が生きていた時は西谷はまだ大人しかった。)
ホリさんは、恰幅のよい、いかにも仕事ができる初老の営業サラリーマンという感じで、話術も面白く、俺は好きだった。古株の年寄り連中には、厳しい事を言うので嫌われていたが、俺は酷い事を言われた事はなかった。おそらく、きつい事を言われる人間というのは、言われるだけの理由があったのだと思う。普通に真面目に仕事をしていれば怒られる事などまず無かった。
堀川は、実は創業者の松岡社長と共に凸凹商事を立ち上げた人物である。社長は松岡だが、凸凹商事が急成長したのは堀川の営業力が大きかった。会社の取締役でもある堀川は、唯一、社長の松岡に対等にものが言える人物であったのだ。
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