勘違いしてはいけない

ホロホロ

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高校時代①~会津~

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 最初の印象は”にぎやかな奴”だった。
 同じクラスの高槻の友人らしく、休み時間に来て話し込んで帰っていくという姿を何度か見かけていた。
 表情を崩さないで時折相槌を打つだけの物静かな高槻とは対照的に、いつも身振りをつけながら楽しそうにマシンガントークを繰り出しているのが印象的だった。
 
「今度出るあの新作すっげー楽しみで、待ちきれないから取り敢えず旧作全部やりなおしてたらさ、前やってたときには気づかなかったバグがあって……」

 地声が大きいのか響く性質なのか、そいつが興奮してくると教室に話し声が響き渡るので内容はいつでも筒抜けだ。だから、羽柴(高槻がそう呼んでいた)が熱狂的なゲーム好きだということは偶然知った。
 それを知ったときから、俺は羽柴に話しかけたくて仕方なかった。なぜなら俺も、熱狂的にゲームが好きな人間だったから。
 周りの友人もゲームはするし話もする。けれど”ごく普通”で、流行のゲームをプレイしている時に限るし、何度も同じゲームを繰り返しやったり、新しい技や、効率よく進める方法、バグや隠しの発見、面白いゲームの発掘に時間を費やす奴は一人もいなかった。何より、みんなサッカーや女子のことに興味があるみたいで、なかなかゲームの話には食いついてきてくれない。
 そんな状況でも、慣れてしまえば寂しく思うこともなかった。最近はオンラインゲームも充実してるし、話そうと思えばSNSで仲間を見つけることも出来る。ゲーム好きな仲間は、ネット上では結構多かったのだ。
 だから今の状況で不満を覚えることなんてほとんどなかった。―――羽柴を知るまでは。

「大発見じゃん!ってネットに書き込もうとしたら、俺とおんなじような奴が他にもいたみたいで、既に話題になってんの!」

 悔しそうに、でもやっぱり楽しそうに高槻と話している羽柴の声が前の前の席から響いてきた。
 高槻の後ろの自席に座りながら友人とたわいない話をしている最中でも、羽柴たちの話題が気になってしょうがない。

 ―――それ知ってる。五週目の裏ボス戦で物理が効かない筈の相手に物理攻撃するとクリティカルが出るっていう……俺もそれ知って確かめた。

 へーと気の抜けた相槌をしている高槻に代わって俺が羽柴の話しに答えてやりたくてうずうずしてしまう。
 周りの友人たちはというと、昨日のイタリア対日本戦のサッカーの話で盛り上がっている。俺もサッカーは好きだし、その一戦をテレビで観ていた。日本チームの思いがけない攻防の嵐で、惜しくも敗北したが終始目の離せない試合内容だった。

 ―――それでも俺は、今、ゲームの話がしたい……!

 正直、サッカーの話ならいつでもできる。しかしリアルでゲームの話をこの熱量でできる人間は今まで居なかった。だからこそ、羽柴とゲームの話がしたくてしょうがない。
 今羽柴が話している高槻だって俺ほどゲームの話がしたいとは思っていないんじゃないだろうか。そんな中で高槻の興味の薄い受け答えをものともせず話し続ける羽柴に感服だし、なんなら不憫にさえ思えてくる。

 ―――俺ならその話に乗ってやれるのに。もっと深いとこまで語り合える自信がある。

「隆志?腹でも痛てぇの?」
 
 前の席の会話にしゃしゃり出てしまいそうになる自分を押さえようと、机に肘を立て組んだ手を額に押し付けていると、周りの友人たちが心配そうに声を掛けてくる。

「いや大丈夫、なんでもない。ほんと、やばかったよな昨日の試合」

 そういって俺はサッカーの話に戻った。だよなー!と口々にどこがすごかっただの、あの選手は別格だなどの会話がまた飛び交う。俺はそれを笑って聞きながら、心の隅でため息を吐く。こんな風に気兼ねなくゲームの話ができたらいうことないのに。
 何気なく前の席を盗み見るが、高槻の背中越しに羽柴の姿は見えなかった。時折身振りする手が覗くだけで、声しか届かない。

 今、羽柴はどんな顔して話しているんだろう。俺とゲームの話をしたらどんな反応をするんだろうか。ゲームのことをあまり知らないだろう高槻とでもあんなふうに楽しく会話できるのだから、きっともっと盛り上がるはず。
 俺はシューティング系が好きだけど、羽柴はどうかな?よく話題に出てるのは格闘系とRPGだよな……ネトゲとかもすんのかな?

 ―――一緒に遊んでみたい。

 高槻に誘いを断られてから、そればっかり考えている。高槻も練習するくらいには興味があるようだ。だからこそ、羽柴の話に―――上の空のようにも見えるが―――付き合っているのかもしれない。それはそれで、少し羨ましい。俺の周りなら興味がない話はすぐに別の話題に変えられるから。
 高槻の腕前はどれくらい上がったんだろうか?練習のことが話題にあがらないところをみると、あまり上達していないのかもしれない……とそこまで考えて、俺は良いことを思いついた。
 
 ―――俺も練習に付き合えばいいんじゃないか?

 何も高槻が上手くなるまで待たなくていい。羽柴と俺で教えた方が、早く上手くなるんじゃないだろうか?
 部活のある日はまず無理でも、土日なら時間が取れる。たまに部活のない日だってあるし、確か高槻と羽柴は帰宅部だったはずだから、その辺は心配ないはずだ。
 そうだ、それがいいと俺は勢い込んで高槻のほうを見た。すると、ちょうど席を立ったところの羽柴が、高槻の頭の上から顔を覗かせていた。
 ふわっと逆立った薄い茶色の髪と、赤いフレームの眼鏡の奥に見える大きい瞳が高槻を見つめて笑っている。

「じゃあそろそろ行くな。今日も練習、忘れんなよ」
「わかってる」

 ―――練習!しかも今日!
 
 今日はコーチが体調不良で部活は自主練習になっていた。が、サッカーの強豪校でもないので自主練の日は休みたい奴は休んでよいことになっている。
 このチャンスを逃す手はない。高槻に手を振って教室を出ていこうとする羽柴の背中を追いかけようと、俺は俄かに席を立った。

「どこ行くんだよ、もうすぐ休み時間終わるぜ?」
「やっぱり腹が痛くなってきた。ちょっとトイレ行ってくるわ」

 驚いた友人がそう声を掛けてくるのに、俺はその場しのぎの嘘を吐いた。

「大丈夫か?先生には上手く言っといてやるから、安心して行って来い」

 そう言って送り出してくれる気のいい友人に嘘をついてしまった罪悪感から俺は苦笑して礼を言った。
 ふと、高槻がこちらを向いているのに気づいた。相変わらず読めない表情をしている。俺はと何となくその目を見ていると、高槻は慌てたように正面に向き直った。
 なんだったのかと不思議に思いつつ、気づけば羽柴の姿が消えてしまっていたので、俺は急いで教室を出た。
 羽柴は上階にあるクラスだから、走れば追いつく―――そう思って階段に続く教室の角を曲がった時、ちょうど階段を登ろうとしている目当ての姿を見つけた。

「羽柴!」

 羽柴は名前を呼ばれて驚いたように振り返った。そして俺を見て「え!?」と声を上げて二度驚いた。

「あ、会津?何の用?」

 俺の名前を知っていたらしい羽柴が、戸惑いながらもわざわざ階段を下りて近くで立ち止まった。
 上目遣いで見上げる羽柴の肩に手を置いて、俺はずっと言いたかった言葉を口にした。

「俺、お前と一緒にゲームしたいんだ」

 すると羽柴は怪訝な顔をして「なんで?」と首をかしげた。そしてゆっくり俺の手を肩から外した。

「前に高槻からも聞いたけど、どうして俺と遊びたいんだ?俺らこうやって話すのも初めてだろ?」

 言われてみればそうだ。こっちは勝手に仲間意識を持ってしまっていたけれど、羽柴にしてみたら会話すらしたことない他所のクラスの奴に突然”一緒にゲームがしたい”なんていわれたら怪訝に思うだろう。

「高槻とゲームの話してるの聞いたんだ。……実は俺もゲーム好きで。結構やりこんでる方だけど、身近に同じような奴って居ないからさ、お前と一緒に遊べたら楽しいだろうなってずっと思ってたんだ」
「まじで!俺もネットぐらいしかゲーム友達って言えるような相手いな……って、ちょっと待って」

 羽柴は嬉しそうに顔を輝かせたと思えば、とたんに片手で顔を覆って、小さく「落ち着け……」と呟いた。

「いや、でも、高槻を差し置いて遊ぶわけには……」

 うーんと唸りながら考え込んでいる羽柴は、高槻のことを気にしているようだった。

「もし良かったら俺もお前らの練習に混ぜてくれよ」
「……上手くなってから一緒に遊ぶって約束したんじゃなかったのか?」

 どうやら一通りのことは高槻から聞いているらしい。

「そう言ったけど、練習するなら色々な奴と遊んでみた方が上達が早くなるじゃないかと思ってさ」
「んーまー、そう……かな……?」

 まだどこか腑に落ちないでいる羽柴を納得させるために、さらに言い募る。

「誰かがプレイしているとこ見るのも勉強になるだろうし、それに」

 そして俺は最終兵器を持ち出した。

「この間まだネットに出てないスマフラの隠しキャラ見つけ……」
「今日の放課後時間ある!?」

 羽柴は思ったとおりに食いついて、その顔をぐいと近づけてきた。大きな目がこぼれそうなほど見開かれ、興奮しきった様子に俺は思わず笑って宥めるように頭をぽんと抑える。案外さわり心地のいい髪に手を埋めながら、俺も嬉しさから満面の笑みを浮かべて頷いた。

「放課後高槻と練習するから、会津も来いよ」
「羽柴たちがいいなら、もちろん」

 そのつもりで声を掛けたとは言えずにいたが、羽柴は嬉しそうに「じゃあ決まりな!」といってガッツポーズをとった。無邪気に喜ぶ姿が子犬がはしゃいでいる様子に似ていて、なんだかずっと見ていたいくなる。
 俺たちの教室で待ち合わせをし三人で羽柴の家に向かおうと約束して、羽柴は自分の教室へ戻って行った。

「ははっ」

 ひとしきり喜んで、小躍りしそうな調子で教室へ帰って行く羽柴の姿を思い出して、俺は堪えていた笑いを漏らしてしまう。

「……やべ、かわいい」

 キンコンと鐘が鳴りだして、俺は余韻をかみ締めつつ、再び笑いを堪えて教室へ戻った。
 放課後また会えることを楽しみにしながら。
 
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