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閑話
しおりを挟むピコピコと電子音が響く室内でディスプレイにかぶりつきになりながら、ああでもない、こうでもないと一向に進まない会話を交わす二人の少年がいた。
少年たちの前にあるディスプレイには、沢山のキャラクターで埋まったゲーム画面が写し出されている。どうやら、格闘ゲームで扱うキャラクターを選んでいる最中のようだった。
「強そうなのがいいんだって」
焦げ茶の髪の少年がゲームのコントローラーを握りながらこれぞと思ったキャラクターを選択しようとすると、その隣に座る赤い眼鏡の少年がすかさずコントローラーを奪い取り、こっちの方がいい等と言いながら青いロボットのようなキャラクターからポインターを移動させる。
「初心者向けのキャラにしとけったら。その方が扱いやすいから最初は強いんだよ、ほらこいつとか」
そういって改めてポインターを置かれたのは、黄色い電気ネズミのキャラクターだ。それを見た焦げ茶の髪の少年はあからさまに不満げな顔をして、弱そうと一言こぼす。
先程赤い眼鏡の少年に奪われたコントローラーを再び奪い返した彼は、ひしめくように並ぶキャラクターたちを品定めして画面に食い入った。
「この格闘家みたいなの強そうじゃね?」
「確かに強いけど技を出す手順が多くて扱いづらいぜ」
「ならこのおっさん」
「コンボ繋げられたら強い。けど動きが遅いから慣れないと標的にされるぞ」
「じゃあこの騎士みたいなやつ」
「リーチが短いんだよなぁ。その上飛びやすいし。もうちょっと重量あるやつにすれば?」
「飛ぶとか重量とか意味わかんねぇ……こいつは?」
「ゴリラ」
「見りゃわかる。そうじゃなくて、なんか強そうだろ?ゴリラだし。重そうじゃん」
「んーバランス取れてるし弱い訳じゃないけど、強くもないかな。同じ重量系ならこのワニはどうだ?」
「バカ言うな、手足の長いゴリラの方がワニより強いに決まってんだろ」
「なんだよその理屈!」
終わらない押し問答に疲れたのか赤い眼鏡の少年が肩を落とすと、もう片方の少年は画面から隣の少年へと視線を移し、首をかしげた。
「俺の選ぶキャラはそんなにだめか」
「強いキャラでも、上手く動かせないなら弱いのと同じだって言ってるんだよ。初心者にあったキャラにした方が良いって」
「じゃあどれなら納得するんだ」
「それ俺の台詞だからな?……だから最初に言ったやつ、あの電気ネズミ」
「ネズミなんかあいつらにかかったら一口で終わるぞ」
「スマフラをなんのゲームだと思ってんだ。―――よし、わかった。一旦休憩しようぜ!まさかこの時点で行き詰まるとは思わなかったけど、こういうときは別のものに目を向けてみるのもいいもんだよ!」
眼鏡の少年はそう言って、部屋の一角にある物がうず高く積まれた辺りをがさこそと探り、一つの箱を掘り出した。中にはグレーの機体が一つに、コントローラーが2つ、そしてCDケースのようなものが幾つも納められていた。
「おじさんからもらった古いゲームだけど、結構面白いやつ多いんだぜ?」
「ゲームの休憩でゲームするって斬新だな」
焦げ茶の少年はそう言いつつも、CDケースのようなもののパッケージに目を通した。どうやらゲームソフトのケースらしいと思い至った少年は、その中でも異彩を放つソフトを手に取った。
「ときめけ!メモリーズ……?」
少女が描かれたパッケージの題名を口にすると、室内に複数あるディスプレイの内、少し体をずらした先にある一つにゲームのセッティングをはじめていた眼鏡の少年が「ああ、それね」と続けた。
「恋愛シミュレーションゲームだよ。当時は新しかったんだってさ」
「そうか」
男臭いパッケージの中に埋もれてポツンと場違いのようにあるそれに、ある種の男の憧れや繊細さを見た気がした少年は、そっと元の場所に戻そうとした。
「せっかくだからそれやってみる?スマフラと毛色が違って息抜きになりそうだし」
「おじさんの過去を盗み見るようでなんか悪いんだけど」
「そんな大層なもんじゃないって!」
眼鏡の少年はケラケラと笑って、戻しかけたソフトを掴んで慣れた手つきで機体へ入れた。
機体の起動にブォンと音が鳴る。
眼鏡の少年が横にいる少年を手招きして、ディスプレイの前に来るように促した。それに従いながら、止める間もない出来事に黙って見ているしかなかった少年も、オープニングが始まる頃には好奇心が沸いてきた様子で、流れる映像をじっと見ていた。
ゲームのあらすじはこうだ。
―――主人公(プレーヤー)が入学した高校の裏庭には古いつり橋がかかっている。その上で卒業式の日に女の子から愛を告白すると不思議と上手くいき、結ばれた二人は永遠に幸せになれるという伝説があった。主人公は愛の告白を受けるため、己を切磋琢磨し、女の子たちと交流を深めながら高校生活を送る―――
といったような内容だった。
「それっていわゆる“つり橋効果“ってやつじゃねーの?」
焦げ茶の少年から素朴な疑問を投げかけられた眼鏡の彼は、ぶんぶん頭を振って否定した。
「つり橋効果じゃ永遠の幸せは手に入らないだろ?伝説になるくらい恋する人間にご利益のある場所なんだよ。今でいうパワースポット的な」
「パワースポット」
その言葉に納得したようなしていないような微妙な反応を見せながら、少年は頷いた。
すると眼鏡の少年は今まで持っていたコントローラーを隣の彼にすっと差し出した。
「なんだよ、俺はいい。やり方わかんないし」
「こうゆうの俺も専門外だからやったことないんだ。難しい操作もないだろうし、ウォーミングアップだと思ってやってみろよ」
操作方法が載っている説明書を広げながら、「俺は説明係な」と眼鏡の少年はいたずらっぽく笑った。
「ふむふむ。最初から出てる女の子は主人公の幼馴染の“高嶺 華子“か。才色兼備な学校のマドンナだってさ。その他の子は様々な条件をクリアしないと出てこないと……あ、進めといてくれていいからな」
説明書とネットを駆使しながら次々に情報を仕入れていく眼鏡の少年を横目に、強制的にコントローラーを渡された少年は最後の抵抗を見せる。
「おい、俺はやるとは言ってないぞ」
「小まめに好感度上げて、目当ての子に合わせたスキルを上げる……なるほどね」
「聞きゃしねぇ……」
諦めた少年は仕方なく画面に表示された文章を読み進めながら、渋々ボタンを押していく。
「まずは高嶺ちゃんで感覚掴んでいくか―――あ、下校のシーン!」
焦げ茶の少年がひたすらにボタンを押しつづけていると、画面が夕暮れ時の校門前の絵に切り替わり、
“さー家に帰ろう。あ、あそこに華子がいるぞ“
という文章が表示された。その後、声をかけるかかけないかの二択を迫られた画面で、手が止まる。
「どうするんだ?」
「一緒に帰ることでも好感度上がるみたいだから、ここは声かけとこう」
「一緒に帰るのか?女子と?」
ぎょっとした表情で少年が信じられないと言ったふうに首を振る。
「こいつは勇者か何かなのか?」
「俺ら女子と接点ないから、こんなシチュエーションありえないもんな……」
そんな隣の友人の肩を叩き、眼鏡の少年は同調するように頷いた。
「でも幼馴染で家も近くみたいだし、声をかけないのもよそよそしいんじゃないか?」
「それもそうだな―――」
友人の言葉に背中を押され、少年は“声をかける“を選択し恐る恐るボタンを押した。
主人公が高嶺華子に声をかける描写のあと、画面上にふっと少女の立ち絵が登場した。
薔薇のように赤いロングヘアーを靡かせた美しい少女だ。切れ長の瞳とつぶらな鼻と口が上品さを醸し出し、涼しげな表情が近づきがたい印象に拍車をかけている。
“なに主人公君。私に用でもあるの?“
「……なんか言い方キツくないか?それに顔も怖い」
「そうか?俺は結構好みだけど」
焦げ茶の髪の少年は友人の意外な趣味に驚きつつ、一緒に帰らないかと誘う主人公の台詞を読みながら次へとボタンを進めた。
“えっ……私とあなたが?何かの冗談?……恥ずかしいから嫌よ“
少女が困ったような表情をして、じゃあねと言って去っていく。
「嘘だろ」
「あー断られちゃったか」
目を見開いて驚愕する少年とは打って変わって、眼鏡の少年は落ち着いたものだ。
「断られるなんて聞いてない。この子幼馴染じゃなかったのか?何でこんなに邪険にされるんだ」
「思春期だし、気恥ずかしいんじゃね?」
「気恥ずかしいって、家近くなんだろ?断られたって行く先は同じじゃないか……離れて歩くのか?そっちの方が気まず過ぎんだろ」
少女の台詞に驚きを隠せない少年は、まるでゲームの主人公そのもののような見事な狼狽えっぷりをみせた。 眼鏡の少年はその様子に笑いを圧し殺しながら、宥めるように再びその肩を叩く。
「最初は高確率で断られるらしいから、気にすんなよ」
「ゲームとはいえ、俺は負わなくていい傷を負ったぞ」
「始めはみんなこうやって高嶺ちゃんの洗礼を受けるんだってさ。これを乗り越えて攻略するのが醍醐味なんだよ」
「このゲームのプレイヤーはみんなドMなんだな」
「難しいほど攻略したくなるのがゲーマーの性ってもんだ。一筋縄ではいかない最強クラスのヒロインだからこそ、攻略したくなるんだよ」
「この子最強なのか……」
「どうする?オッケーもらうまでやり直すか?」
「なんだよその地獄……俺はもういい。心が折れた」
そう言ってげっそりした顔でコントローラーを置く少年を見て、眼鏡の少年は「打たれ弱すぎ」とまたケラケラと笑った。
「まあ、ここまでにしとくか。あんまりやってもスマフラできる時間なくなるし。休憩終わり!」
「ぜんっぜん休憩した気がしない」
「そうか?」
休憩前より疲れた様子を見せる彼に首をかしげつつも、眼鏡の少年は労う意味を込めてお菓子を差し出す。棒状のチョコレート菓子を差し出されるまま口に運んだ友人に満足して、最初に居たディスプレイ前に移動した。
黒い画面のディスプレイに電源を着けると、先程のキャラクターの選択画面が表示された。
「で、キャラクター何にする?」
「―――電気ネズミ」
「おぉ!どういう風の吹き回し」
先ほどまで散々渋っていたというのにあっさりと決めた少年は、自身でコントローラーを操り言った通りのキャラクターを選択する。
「自分の身の丈に合わないと玉砕するって思い知った」
「やっぱ高嶺ちゃんは最強だな……」
友人の心変わりに思わず唸りつつ、眼鏡の少年もコントローラーを手に取り、素早く世界一有名な人気キャラクターを選択した。
「昔からそのキャラクター好きだよな」
「俺の中の最強だからな!よし、じゃあまずは地上技から―――」
そうしてゲームが進み、電気ネズミの操作がなんとか形になってきたところで、教授していた少年のプレイにも熱が入りだし、次第に声が大きくなっていく。
部屋の外にも響こうかという声に隣の少年が顔をしかめ出した頃、スマホのアラームが鳴った。
「親帰ってくる時間だ。流石に練習してないと何言われるかわかんないし、そろそろ帰るな」
焦げ茶の髪の少年がスマホのアラームを止めると、コントローラーを離し傍の鞄を掴んで帰り支度を始めた。
「もうそんな時間か、あっとゆう間だったな……高槻と遊ぶの久々で楽しかったー!」
帰ろうとする友人の肩を叩いて、残った菓子をつまんで相手の口元へ持っていくと、パクリとそれを咥えた。
「おう、まあまあ楽しかった」
もぐもぐと咀嚼しながら言う高槻の返答を聞いて、眼鏡の少年は嬉しそうにぱっと顔を明るくする。玄関まで着いていき、靴を履く友人の背中に向かってふと思い付いた事をいう。
「俺、コンビニ行くからついでに送るわ」
「俺んちとコンビニ真逆だぞ」
「たいした距離じゃないし、別にいいよ」
笑って肘で背中をつつくと、高槻は途端に嫌な顔をして、後ろの彼に振り返った。
「俺が嫌だよ。どうして羽柴に送ってもらわなきゃならないんだ、恥ずかしい」
「…………?!」
拒否されるとは思わなかった羽柴は、まさかの返答に珍しく声を出すことを忘れて固まった。
「子供じゃないんだから一人で帰れる」
「あ、あぁ、そうゆう……」
「じゃあ、また明日な」
そう一言残してさっさとドアを出ていく高槻の姿を見送りながら、羽柴は一人胸を撫で下ろしつつ、力が抜けたように壁にもたれた。
高槻の無意識だろう言動に羽柴は苦笑いを浮かべ、誰にともなく一言呟いた。
「これ結構くるな…………」
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