勘違いしてはいけない

ホロホロ

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高校時代②~会津~

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 体育祭の季節が近づいてきた。
 うちの高校では夏に大会のある部活を考慮して6月の頭に開催されるので、新入生にとっては学校で行うはじめての大きなイベントになる。

 朝一番からホームルームと1限を使ってクラスの担任が体育祭の説明をするのを聞きつつ、俺はこみ上げてくる欠伸をかみ殺した。

 ―――ぱっとしねぇな。

 クラスの委員長が1年が参加する競技を黒板に記していくが、その中に心引かれる競技がないことに落胆する。
 徒競走、各種リレー、障害物競走、二人三脚、借り物競争なんかの走る競技。
 綱引き、玉入れ、ダンスなんかの団体競技。
 そして全校生徒参加の応援合戦。
 変わったところで言うなら、うちの高校の名物なんて言われている仮装リレーがあるくらいだろうか。
 この学校は各学年ごとに4クラスで編成されているので、体育祭ではクラスごとに赤・青・黄・緑で色分けされたチームを組み、これらの競技を競い合うことになる。
 ちなみに今年は1組が黄、2組が青、3組が緑、4組が赤で決まった。
 俺のクラスは1組なので黄色だ。

 正直言って、つまらない。
 思わず机に肘をつけ、頬杖をついてしまう。
 体育祭を楽しみにしていただけに、小中の頃とほとんど代わり映えしない内容にがっかりした。
 高校にもなれば、少しくらい派手な種目が解禁されるんじゃないかと思っていたんだ。
 例えば騎馬戦とか棒倒しとか。
 五つはなれた兄がこの高校に通っていた頃は存在していたと聞いたのに、安全上での考慮なんだろう、体育祭の花形とも言われる競技は今やないらしい。
 
 ―――やってみたかったなあ。

 一番感心のあった部分が無いと判明して、眠気の中でも僅かに沸いていた興味がそがれてしまった。その瞬間再び欠伸が出そうになって、慌てて顔を伏せて誤魔化した。
 その時、机に入れていたスマホの通知ランプがチカチカと光っているのに気がついた。
 前で説明している担任に気取られないようアプリを起動すると、昨夜一緒にオンラインゲームで夜更かしをしあった羽柴からメッセージが来ていた。

 ”昨日楽しかったな!”
 ”つか会津のクロスボウさばきヤバすぎだろ!”
 ”俺らのチーム、半分お前のお陰で勝ったようなもんだしw”
 ”またやろーぜ!”

 羽柴らしいビックリマークだらけの文面にくすりとする。
 ほんと楽しかったよな。
 昨日のボイスチャットを介した協力戦での羽柴の興奮振りを思い出して、今度は漏れそうになる笑いをかみ殺した。
 ゲームが始まり徐々に白熱して声量が増し、夜中に大声出すなと母親に怒られてシュンとしながらも勝利時は小さく歓声を上げるところまでの一通りの流れはさすがに笑ってしまった。
 羽柴とのプレイは楽しいけど、それ以上になんていうか、最近は羽柴の生態そのものが俺には面白くって仕方ない。

 ”俺もすげー楽しかった”
 ”次いつやる?”

 そう打ち込んで送信する。
 最近の俺の楽しみはもっぱら羽柴と遊ぶことだ。なんなら今日誘われてもまた寝る間を惜しんでやるだろうと思うくらいには、はまっている自覚がある。

 そろそろ前を向いていないと注意を受けそうだと顔を上げると、丁度担任が競技の出場者を集っているところだった。

「足に自信がある奴は積極的に徒競走に参加してくれ。足に自信がない奴でも仮装リレーなら順位よりも芸術点が重要視されるから、ぜひ参加を頼む」

 体育祭で芸術点が採用されるなんて、ダンスや応援合戦以外には知らない。今まで経験してきた体育祭の似たり寄ったりな内容が並ぶ中では、仮装リレーは異彩を放っている。
 でも、順位より芸術性が上の競技って、リレーでやる意味あるのか?むしろ体育祭でやることなのか?と純粋な疑問がわいてくる。

 それにこの競技、以前から兄や部活の先輩達から聞き知っていた―――が、その限りじゃあ、あれは担任の言うような気軽な競技じゃない。
 この学校で言えば、仮装リレーこそ体育祭の花形競技だ。

 面をつけたり被ったり、コスプレや男装・女装は当たり前。近年ではその過激性や派手さも高まり、知り合いのつてを使って映画さながらのゾンビ特殊メイクを施した者や、とある演歌歌手のように歩けないほどの大型特殊装飾で着飾って台車で運ばれる走者まで出たという。
 仮装リレーにかかる費用は理事長のポケットマネーから支払われるというから、常識の範囲内であれば予算を考えずに準備できることもあいまって、まかり間違って100均で売っているような粗末な衣装で身を固めて登場すればブーイングの嵐を巻き起こし、減点の対象にされるという熾烈な競技だ。
 まさに学校ぐるみで仮装の本気を試されている。
 得点も体育祭の中で大きな割合を占めているとのことで、色分けされたチームの中から学年につき一名ずつ選抜される選り抜きの走者は、体育祭の勝敗の要とまで言われている。
 それ故、この競技に抜擢される人間は、期待や(時には)重量も一身に受けて走る、身も心も強靭な猛者でなければいけない。……らしい。

「会津!」

 先輩たちから聞いた話を思い返し「……そんな屈強な奴が校内に何人もいるのか?」などとボーっと考えていたところ、ふいに担任から名前を呼ばれた。

「はい!」

 ぼんやりとしていたところで名を呼ばれ、俺は体育会系の性で反射的に返事をして背筋を伸ばした。
 担任は体育の授業で図ったタイム表を見ながら「会津には100m走とクラス対抗リレーに参加してもらいたいんだが、いいか?」と尋ねてきた。

「かまいません」
「そうか。お前の足の速さは学年でも上位だからな。助かる」

 断る理由もなかったので即諾すると担任は満足そうに頷き、黒板の前でチョークを構えて待機していた委員長に目で合図して競技名が書かれた横に俺の名前を付け加えさせた。
 確か個人種目で参加できるのは三つまでだが部活関係の競技に出る生徒は一つ免除されるはずだ。部活対抗リレーに参加する予定の俺は出場競技がこれですべて埋まったことになる。
 特に参加したい競技があるわけでもなかったから、さっさと決まってラッキーだ。

 ―――騎馬戦できないのは残念だけど仕方ねぇな。何だかんだいって今までの体育祭も楽しんできたんだし、とりあえずは優勝できるように頑張るか!

 俺が気持ちを切り替えようとしたところで、どこからかええー!という批判めいた声が聞こえて来た。

「会津君には仮装リレー出てほしい!」
 
 その言葉にぎょっとしたのもつかの間、今まで静かだった他の生徒もそうだそうだと囃し立てるように騒ぎ出し、「うちの会津を世界の会津に!」などとふざけた言葉と共に、俄かに教室中が会津コールに包まれた。
 いや、恥ずかしい。今すぐやめてほしい。
 羞恥を煽るコールに包まれた俺は、それ以上に込みあがる拒否感から、嫌な汗が背中に流れてぞっとする。

「いやいや!俺はもう出場する競技埋まったし……!」
「部活競技に出る生徒の負担を考えて一つ免除されるというだけで、会津が出たいなら参加してもかまわんぞ」
「俺は出場したくな―――」
「やったー!よかったね会津君!」
「待って、俺は」
「会津が出てくれるんなら絶対優勝できるな」
「俺は嫌なん……」
「皆で応援するよ!」

 担任の一言でわっとクラス中が色めきたち、俺の言葉はかき消されてしまって周りに全く届かない。一言も出たいとは言っていない中、俺の意思を置き去りに当然のように出場する方向で話が進んでいるのが理解できない。

 ―――頼むから俺の話を聞いてくれ!
 
「冗談だろ」
 
 思わず小さく呟いてしまう。俺は苦笑いを顔に貼り付けながら焦って拒否の意味をこめて手を振るが、その動作がなぜか益々教室内を沸き立たせてしまった。
 興奮気味のクラスメイトたちにはどうしてか上手く伝わってくれない。
 頭を抱えてその場で踞りたい衝動に駆られ、思わず握った掌にまで汗が滲む。

 この体育祭で特に出たい競技はない。
 が、特に出たくない競技ならある。
 それが今俺に推しに推されている仮装リレーだった。

 絶対出場したくない―――!


 ……―――俺には一つ、どうにも乗り越えられないトラウマがある。

 この日本では、仮装と聞けばとある番組を思い浮かべる人が多いんじゃないだろうか。
 俺の両親はその番組の大ファンだった。
 地元で子供向けのサッカー教室を開いていた両親は、ある時チームワークを高める名目でそこの生徒と自分の子供を巻き込んで出場した。
 母扮するゴールキーパーに向けて、顔をサッカーボールに仕立て黒い全身タイツを着させられた子供たちが、父扮するサッカー選手がボールを蹴る動作にあわせて「わー!」と声を上げながらゴールへ突っ走っていくという簡素で感動も何もない出し物だったが、なぜか数回の予選を潜り抜け決勝まで登りつめてしまった。
 喜んだのは両親だけで、どうせ落ちるだろうと高をくくっていた俺含む他の子供たちは、自分たちの不恰好な姿とお粗末な出し物をテレビで放映されることに恐怖に近い絶望を味わい、当日は皆諦めの境地の中死んだ魚のような目でボールを演じきった。
 その姿が審査員のどこかに刺さり高得点を叩き出したものだから、地元で大騒ぎになった。
 何かイベントがあるごとにその出し物をさせられるはめになり、親が調子に乗ってサッカーの練習そっちのけでイベント巡業を始めた頃、「仮装させるために教室に入れたんじゃない」と複数の保護者から苦情が入って数名の生徒が辞めていくという事態に発展した。
 そうなってやっと正気を取り戻した両親はきっぱり仮装を辞め、本業へ再び身を入れなおしたのだが、しかし俺にとってはもはや手遅れで、やりたくもないことを強制させられる屈辱感やら羞恥やら絶望感やらを味わいきってすっかり仮装が嫌になってしまっていた。

 今では例の番組を見ることすらできない。死んだ魚のような目で無理やり出演させられた自分を思い出し、重ね合わせ、とても楽しいとは思えないからだ。
 このトラウマは嫌悪というよりむしろ恐怖に近いから、俺にとってあの番組はホラーだ。
 最近は仮装イベントも多くなってきて誘われることも多々あったが、俺はそのどれも断り続けている。万が一にも仮装に参加させらることがないように―――……。


 だからこそ、この学校の身の毛もよだつ花形競技を聞いたとき、絶対に参加拒否だと固く誓ったというのに!

 仮装レースの盛り上がりを聞けば案外仮装をやりたい奴は多いのだろうし、わざわざやりたくない俺にお鉢が回ってこようとは露とも思わず、こんなに期待に満ち溢れた空気になることを想像すらしていなかった。

 年末番組のような派手な衣装?特殊メイク?被り物?……絶対無理だ!
 考えただけで悪寒が走る。あんな思いは二度とごめんだった。
 だいたい、誰か他に立候補したい奴はいないんだろうか?
 ……他にだれか?
 そこではっと思い出した。
 同じサッカー部であるクラスメイトの一ツ橋と桑名は両親のサッカー教室に通っていた頃からの幼馴染で、共に同じ苦痛を味わい俺が仮装嫌いであることを知っている数少ない友人だったことを。
 二人はあの事があってからも特にトラウマを抱えることなく、ハロウィンなんかには仮装を楽しんでいた気がする。

 俺は一縷の望みをかけて二人を見ると、一ツ橋はふっと顔ごとそっぽを向き、桑名は無理無理とでも言うように、顔の前で手を左右に振った。
 教室の雰囲気に二人とも飲まれてしまっているのか、とても割って入る気にはなれないようだ。
 助けは得られないことを悟って、今度こそ俺は机に突っ伏したくなった。

 ―――俺は猛者に相応しくない男なんだ!みんな諦めてくれ!

 そう心の中で息巻いてみても誰も気づきはしないし、コールをやめてもくれない。
 クラスメイトたちがなぜこうも俺を仮装リレーに推したがるのか分からず、思わず眉根を寄せてため息を吐いた。
 このままでは本当に仮装レースに参加させられそうだ。
 他の競技ならともかく、これだけは無理だ。無理なものは無理だ。

 ……期待に添えなくて悪いけど、担任の審判が下る前にここははっきりと拒否しよう。

 そう心に決めて、俺は言葉を発するために息を吸った―――その時、ふと、こちらを振りかえって窺いみている高槻と目があって、息を止める。
 高槻はこの異様な盛り上がりを見せる教室の中で、コールに参加せず面白がるでもなく暫くこちらを見ていた。
 最近こういう風に度々高槻と目が合う。その度、何を考えているのか分からず戸惑うのだが、例の如く何度か遊んだ今もその表情は読めない。
 どうしたのか。声を掛けようとしたとき、高槻は再びふっと正面に向き直った。
 
「先生」
 
 そしてスッと手を上げながら席を立ち、教室に充満した高揚を抑え付けるように声を張って担任を呼んだ。
 ぴたっと止んだ周囲の声と共に、担任だけではなくクラスの全員が高槻に注目した。
 
「どうした高槻」 
「仮装リレーに出場したいです」
 
 その瞬間、教室中がざわめいた。
 俺も突然の高槻の発言に驚いて、思わず息を呑んだ。
 どうしたって、高槻が仮装リレーに出たがるようなタイプには見えないからだ。

「俺は運動苦手なのでクラスに貢献できそうなことと言えば、これくらいかしかないと思います」

 ぽつりとその理由を担任に伝える高槻の言葉にはなんの迷いもなかった。

 走るのが遅いからとはいえ、高槻は色物競技に出たがるようなキャラだっただろうか?
 高槻を俺自身深く知っているわけじゃないが、数回遊んだ限りでは、そんな風には見えなかった。
 ますます高槻という人物が分からなくなり一人で混乱していると、高槻の動機を聞いた担任は手持ちの資料をパラリとめくり、ふむ……と鼻息ともつかない声を出す。

「そうか。だが、仮装レースの走者は各色ごとに1年から3年が一名ずつ選抜されるものでな。二名選ぶことはできないんだ。……どうする、会津?」
「あ、えっと……」

 願ってやまなった助け舟が出たにもかかわらず、意外な立候補者に驚いて「辞退します」の一言が出てこず、俺は答えに窮してしまった。
 恐らく高槻は知らないのだ、この仮装リレーの熾烈さを。
 単純に仮装して走ればいいだけだと思っているのだとしたら、高槻はきっと後悔する。
 現実を前にして悪目立ちしながら死んだ魚のような目をした高槻が脳裏をよぎり、俺は思わず高槻に声を掛けた。

「おい、高槻本当にいいのか?」

 眼前の背中に向けて小声でそう聞くと、高槻はチラリと振り返り頷いた。
 
「知ってるか?仮装レースって、仮装して走るってことだぞ!?」

 当たり前のことをいう俺に高槻は少し戸惑った様子をみせながらも、もう一度頷いた。
 俺も相当動揺しているようで、思ったように言葉がでないもどかしさから高槻の腕を引いた。

「ほんとのほんとに……!この競技高槻が思ってるほど―――」

 高槻は引かれるまま、少し体をそらせた。驚いたように眼を見開いた高槻の珍しい表情を気にする余裕もなく、考え直すべきだとさらに言い募ろうとしたところ、またしても外野から声が上がって思わずその手を離した。

「会津君がいいよー!」
「仮装も絵になりそうだもんね」
「ぜったい会津の方が応援してる方も盛り上がると思う!」
「確かに高槻じゃなあ……」

 次第にさざめき出した教室内は、先ほどとは毛色の違う批判で満たされていた。
 口々に言いたいことを言い出し、高槻をチラリと窺い見てはふっと隣の者同士で笑う。
 その様子に俺はぐっと胸が悪くなった。

「静かにしろ!」

 担任がクラスの様子に痺れを切らして、パンパンと大きく手を打ち鳴らした。
 ぴたりとざわめきが止まったところで、担任は改めて俺を見据えて聞いてきた。

「で、どうするんだ、会津」

 どうするもこうするも、やりたくないに決まってる。そもそも立候補したわけでもない。気持ちは拒否で固まっているのに、益々口が動かないでいる。
 静まり返る教室の中で、以前立ったままでいる高槻の背中を見た。あのざわつきを経験しても尚、高槻は気にもならない様子で正面を見つめていた。

 ―――俺が推薦を受けたら、騒いでた奴らは満足だろう。その変わり高槻は仮装レースに出場できないかもしれない。
 
 ―――俺が拒否したら、他に立候補者もいないし高槻が走者で決まる。そしたら……高槻がまたあの空気に晒されんのは目に見えてる。

 それは、死んだ魚の目をして無理やり出場させられる子供よりも酷い状況に思えた。
 込み上げる不快感をぐっと堪え、俺は腹を決めて項垂れながら力なく腕を上げた。

「出場します……」

 その言葉とともに「嬉しいー!」だとか「返事ためすぎだろ!」とか、様々な歓声が上がった。

「会津……」

 こちらの心情とは間逆の状況に全く喜べないでいたが、すぐ近くで呼ばれた自分の名前に顔を上げた。

「本気か?」

 驚きに開いた目でこちらを見ながら高槻が聞いてきた。
 これじゃあさっきと逆だ。
 なんとなく普段より眉根を寄せた表情の高槻を見て、もしかしていらぬお節介だったかもしれない、と気づいた。しかし俺は既に腹を決めた身。仮装レースに出たがっていた高槻に少し申し訳なく思いながらも、「ああ」と答えた。
 すると高槻はその表情を益々歪める。文句の一つも言われるか……と思っていると、高槻はふいに俺から視線をはずしてポツリと言った。

「ごめん」

 思いも寄らない一言に、今度は俺が目を見開く番だった。

「高槻が謝ることないだろ」

 いったい何に謝られたのかも分からない。
 むしろ謝るのは俺のほうか?
 すると再び担任が手を叩いて再び騒ぎ出した生徒をたしなめる。

「まだ出場者が決まったわけじゃないぞ。立候補者が2名になったので、くじ引きで出場者を決める。高槻。会津。前に出て来い」

 そういって、事前に用意されていたらしい紙縒りが二本入った箱を委員長がどこからともなく取り出した。
 最後の最後にこんな救済措置が残っていたとは!
 腹を決めたとはいえ、運の導きに従わない手はない。
 再び活路を見出した高槻と俺は、お互い顔を見合わせて力強く頷きあった。 
 最後の望みを掛けて祈るような気持ちで前に出る。
 隣に立つ高槻を窺い見ると、真剣さを纏わせた目で睨むように箱を見ていた。

「先が赤くなっている紙縒りを引いた方が出場者に決定だ」

 ジャンケンで引く紙縒りを決めろと言われ、先攻を勝ち取ったのは俺だった。
 俺は左の紙縒り、高槻は残った右の紙縒りを掴む。
 
「せーの!」

 教師の合図に従って、同時に紙縒りを引き抜く。

 ―――ああ神様。どうか俺のトラウマをそっとしておいてください。
 
 目をつぶる余裕もなく、一瞬でも結果を見逃さないよう乾く目を開く。
 
 「あ」

 見てしまった。いや、見えてしまった。
 自身の手で手繰り寄せる紙縒りの先の、ほの暗い箱の底から競りあがってくる赤い印が―――。
 
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