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第二章/取り憑かれたようです。
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咄嗟に口を押さえる。しかし、驚きすぎると人間、却って叫べないみたいだった。呼吸音がしないよう、細心の注意を払って深呼吸をし、改めて社の中を覗きこむ。
「あ……あの、惟花ちゃんっ……そ、そんな……しげしげと、眺めないでっ……」
きのうと同じように、壁際にタオルを敷き腰を下ろした泉澄が、たどたどしい口振りで抗議した。手でもスカートを押さえているが、何故だか、あまり力が入っていないらしい。正面で四つん這いになった惟花に裾を大きくめくり上げられ、俺の位置からでもチラリと覗けてしまうくらい、下着が露わになっていた。
「さっき来たばっかりなのに、ショーツにほんのり、染みが浮いておられる……いったいいつから、こんな状態なのです……?」
「っ……じゅ、授業が終わる……少し前、から……」
「いったい、どんなことをお考えだったのです?」
「べ、別に……変なこと、なんて……考えて、ないもん……」
惟花の質問に、泉澄は頬を染め唇を尖らせる。恥じらいに頬を火照らせたその表情に、俺は不覚にもドキッとしてしまった。
「変なこととは、具体的には何ですかな……? 恋い焦がれるどなたかと、睦み合うところでも想像されたのですか……?」
「っ……そ、そんな、こと……泉澄は……」
「恥ずかしがることはありませぬ。愛おしいどなたかと肌を合わせる光景を夢想するのは無論のこと……まだ慕う相手もなかったとしても、肉体的な快楽に関心を抱くのは、ごく自然なことです……」
「あ、ひゃ――っ?!」
いたわりの言葉に気を取られた隙に、惟花に太腿をそっと開かれ、泉澄は跳ねるような悲鳴を上げる。泉澄が膝を閉じるより先に、惟花が身体を両脚のあいだに割り込ませてそれを制した。
「おみ足がしっとりと汗ばんでおられる……これでは、さぞかし授業に身が入らなかったことでしょうな……」
そう言って太腿を撫でていた掌を、惟花はおもむろに泉澄の内股へと滑らせていく。同時に、身体を更に進め、泉澄の足の付け根近くまで寄せていった。
「はぁぁ……泉澄どのの女陰から、乙女の甘酸っぱい芳香が溢れておられます……」
「やめてっ……匂い、嗅いだりしないでよぉ、惟花ちゃんっ……」
大胆すぎる行動に、受け身だった泉澄もさすがに抵抗を試みる。でも、足のあいだに惟花の肩が割り込んで、閉じることを許さなかった。お陰で、俺の位置から泉澄の秘めやかな部分は見えない――安心ともどかしさ、それよりも強い罪悪感が、ひとかたまりになって俺の心の中で渦を巻いた。
「前から……こんな風に、勉学のさなかに激しく昂ぶることはあったのですか……?」
「な……ないよぉ……でも、なのにっ……泉澄も、よく解んない……」
「……急に、昂ぶるようになったのですな? やはり……」
問いかけにおぼつかない答を返す泉澄に、惟花はしたり顔で頷く。
「ならば、間違いないでしょう。恐らく泉澄どのには、この社に入り込んだ“淫らな鬼”が取り憑いたのです」
「――え?」
当然、というべきか、泉澄は惟花の推論が咄嗟に理解できなかったみたいだった。
「社は本来、神聖な領域。しかし、管理が行き届かなくなるとその結界は衰え、邪なものの侵入を許してしまうのです。
それは人知れず、この社に棲み着き……何かのきっかけで、泉澄どのに目をつけた、と思われます」
「……きっかけ、って……泉澄、そんなの……心当たり、ないよ……」
「心当たりがないのは当然です。“鬼”はほんの僅か、生じた心の隙に取り憑くものです。日頃から抱いているほんの些細な悩みでも……長年引きずっている何らかの欲望でも、付け入る隙さえあれば、侵入してくるのです。
それはもはや、泉澄どのが明確に自覚していない段階でもお構いなしです。この“淫らな鬼”はそうして、泉澄どのが心に秘めた、ほんのささやかな欲望に取り憑いた、と愚生は推察しております」
改めて聞いても、荒唐無稽な推理だと思う。でも泉澄は、反論することもなく、固唾を呑むような表情で耳を傾けていた。
「そして“淫らな鬼”は、泉澄どのがぼんやりと抱いていた、邪な感情に訴えかけ、自制心を奪い……ここに呼び寄せ、自らを慰めるように仕向けたのでしょう……」
「……そ、そうなのかな……泉澄、そのせいで……こんな、風に……?」
……なんか、納得してるっぽい。
その事実に、俺は動揺した。だって、納得する、っていうことは心当たりがある、ってことで、それはつまり泉澄にも、邪な感情を抱く――エッチな感情を覚えてしまう相手がいる、ってわけで。知らないぞ俺は。相談を受けたことも、そもそも好きな奴の話じたい聞いたことないぞ?!
いや、でも、惟花は《泉澄が自覚してない段階でも》って言ってた。だとしたら、泉澄は自分の気持ちや願望をはっきりと自覚してなくて、性的な好奇心だけを刺激されてしまった、みたいな可能性もあるのか? それなら、俺が聞かされてなくても当然――って、こんな惟花の無茶苦茶な憶測に完全に乗っかっちゃっていいのか?
「泉澄どのにその妄執がある限り、泉澄どのはこの社に繰り返し惹き寄せられ……取り憑いたもののために幾度となく痴態を演じさせられる羽目になるやも知れませぬ……」
「それは……こ、困るよ……」
「さあらば……泉澄どのの妄執を、取り除くことと致しましょう」
「と、取り除く、って……? もう、泉澄、何回も……し、してるんだよ? でも……やめられなくて……」
「恐らく、泉澄どのの妄執は、自ら慰めた程度では満たされない種類のものなのでしょう。快楽は得られても……それは決して、泉澄どのの求めるものではないからです」
泉澄は、痛いところを突かれたみたいに、きゅっ、と唇を噛む。俺は改めて確信した。泉澄には、思い当たる節がある。
「どれほど焦がれようと、泉澄どのの心にある妄執の対象は……おいそれと本心を伝えられる相手ではない……違いますかな?」
ゆるゆる、と力なく泉澄は首を振った。でも、声には出て来ない。ようやく絞り出した言葉は、身振りとは反対のものだった。「ちがわ……ない……」
「ならばせめて……そのお相手に成り代わって、この愚生が……泉澄どのを導いてさしあげます……」
惟花の囁きに、泉澄は怯えた表情を浮かべる。けれど、言葉にも態度にも拒絶は示さなかった。
その反応を、承認と捉えたのか、惟花は頷くと、泉澄に並んで座る。戸惑い、きゅっ、と身を縮めた泉澄の背中に腕を回すと、惟花はその手で泉澄の乳房を服の上から包み込んだ。
「あ……あの、惟花ちゃんっ……そ、そんな……しげしげと、眺めないでっ……」
きのうと同じように、壁際にタオルを敷き腰を下ろした泉澄が、たどたどしい口振りで抗議した。手でもスカートを押さえているが、何故だか、あまり力が入っていないらしい。正面で四つん這いになった惟花に裾を大きくめくり上げられ、俺の位置からでもチラリと覗けてしまうくらい、下着が露わになっていた。
「さっき来たばっかりなのに、ショーツにほんのり、染みが浮いておられる……いったいいつから、こんな状態なのです……?」
「っ……じゅ、授業が終わる……少し前、から……」
「いったい、どんなことをお考えだったのです?」
「べ、別に……変なこと、なんて……考えて、ないもん……」
惟花の質問に、泉澄は頬を染め唇を尖らせる。恥じらいに頬を火照らせたその表情に、俺は不覚にもドキッとしてしまった。
「変なこととは、具体的には何ですかな……? 恋い焦がれるどなたかと、睦み合うところでも想像されたのですか……?」
「っ……そ、そんな、こと……泉澄は……」
「恥ずかしがることはありませぬ。愛おしいどなたかと肌を合わせる光景を夢想するのは無論のこと……まだ慕う相手もなかったとしても、肉体的な快楽に関心を抱くのは、ごく自然なことです……」
「あ、ひゃ――っ?!」
いたわりの言葉に気を取られた隙に、惟花に太腿をそっと開かれ、泉澄は跳ねるような悲鳴を上げる。泉澄が膝を閉じるより先に、惟花が身体を両脚のあいだに割り込ませてそれを制した。
「おみ足がしっとりと汗ばんでおられる……これでは、さぞかし授業に身が入らなかったことでしょうな……」
そう言って太腿を撫でていた掌を、惟花はおもむろに泉澄の内股へと滑らせていく。同時に、身体を更に進め、泉澄の足の付け根近くまで寄せていった。
「はぁぁ……泉澄どのの女陰から、乙女の甘酸っぱい芳香が溢れておられます……」
「やめてっ……匂い、嗅いだりしないでよぉ、惟花ちゃんっ……」
大胆すぎる行動に、受け身だった泉澄もさすがに抵抗を試みる。でも、足のあいだに惟花の肩が割り込んで、閉じることを許さなかった。お陰で、俺の位置から泉澄の秘めやかな部分は見えない――安心ともどかしさ、それよりも強い罪悪感が、ひとかたまりになって俺の心の中で渦を巻いた。
「前から……こんな風に、勉学のさなかに激しく昂ぶることはあったのですか……?」
「な……ないよぉ……でも、なのにっ……泉澄も、よく解んない……」
「……急に、昂ぶるようになったのですな? やはり……」
問いかけにおぼつかない答を返す泉澄に、惟花はしたり顔で頷く。
「ならば、間違いないでしょう。恐らく泉澄どのには、この社に入り込んだ“淫らな鬼”が取り憑いたのです」
「――え?」
当然、というべきか、泉澄は惟花の推論が咄嗟に理解できなかったみたいだった。
「社は本来、神聖な領域。しかし、管理が行き届かなくなるとその結界は衰え、邪なものの侵入を許してしまうのです。
それは人知れず、この社に棲み着き……何かのきっかけで、泉澄どのに目をつけた、と思われます」
「……きっかけ、って……泉澄、そんなの……心当たり、ないよ……」
「心当たりがないのは当然です。“鬼”はほんの僅か、生じた心の隙に取り憑くものです。日頃から抱いているほんの些細な悩みでも……長年引きずっている何らかの欲望でも、付け入る隙さえあれば、侵入してくるのです。
それはもはや、泉澄どのが明確に自覚していない段階でもお構いなしです。この“淫らな鬼”はそうして、泉澄どのが心に秘めた、ほんのささやかな欲望に取り憑いた、と愚生は推察しております」
改めて聞いても、荒唐無稽な推理だと思う。でも泉澄は、反論することもなく、固唾を呑むような表情で耳を傾けていた。
「そして“淫らな鬼”は、泉澄どのがぼんやりと抱いていた、邪な感情に訴えかけ、自制心を奪い……ここに呼び寄せ、自らを慰めるように仕向けたのでしょう……」
「……そ、そうなのかな……泉澄、そのせいで……こんな、風に……?」
……なんか、納得してるっぽい。
その事実に、俺は動揺した。だって、納得する、っていうことは心当たりがある、ってことで、それはつまり泉澄にも、邪な感情を抱く――エッチな感情を覚えてしまう相手がいる、ってわけで。知らないぞ俺は。相談を受けたことも、そもそも好きな奴の話じたい聞いたことないぞ?!
いや、でも、惟花は《泉澄が自覚してない段階でも》って言ってた。だとしたら、泉澄は自分の気持ちや願望をはっきりと自覚してなくて、性的な好奇心だけを刺激されてしまった、みたいな可能性もあるのか? それなら、俺が聞かされてなくても当然――って、こんな惟花の無茶苦茶な憶測に完全に乗っかっちゃっていいのか?
「泉澄どのにその妄執がある限り、泉澄どのはこの社に繰り返し惹き寄せられ……取り憑いたもののために幾度となく痴態を演じさせられる羽目になるやも知れませぬ……」
「それは……こ、困るよ……」
「さあらば……泉澄どのの妄執を、取り除くことと致しましょう」
「と、取り除く、って……? もう、泉澄、何回も……し、してるんだよ? でも……やめられなくて……」
「恐らく、泉澄どのの妄執は、自ら慰めた程度では満たされない種類のものなのでしょう。快楽は得られても……それは決して、泉澄どのの求めるものではないからです」
泉澄は、痛いところを突かれたみたいに、きゅっ、と唇を噛む。俺は改めて確信した。泉澄には、思い当たる節がある。
「どれほど焦がれようと、泉澄どのの心にある妄執の対象は……おいそれと本心を伝えられる相手ではない……違いますかな?」
ゆるゆる、と力なく泉澄は首を振った。でも、声には出て来ない。ようやく絞り出した言葉は、身振りとは反対のものだった。「ちがわ……ない……」
「ならばせめて……そのお相手に成り代わって、この愚生が……泉澄どのを導いてさしあげます……」
惟花の囁きに、泉澄は怯えた表情を浮かべる。けれど、言葉にも態度にも拒絶は示さなかった。
その反応を、承認と捉えたのか、惟花は頷くと、泉澄に並んで座る。戸惑い、きゅっ、と身を縮めた泉澄の背中に腕を回すと、惟花はその手で泉澄の乳房を服の上から包み込んだ。
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