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第二章/取り憑かれたようです。
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腰を浮かせたところで、俺は固まってしまう。
泉澄は口許を隠し、焦ったように親友を見やって、すぐさま目を伏せた。どうやら、俺が覗き見していることに気づいて思わず声に出した、というわけではないらしい。
――でも、だとしたら、つまり。
俺の衝撃に追い打ちをかけるように、惟花が小さく息をついて、言った。
「……やはり、左様でございましたか」
「あ、あの……惟花ちゃん、わたし……そういう、わけじゃ……」
「愚生に弁解は不要です。感情は、決して己の理性に従うわけではありませぬ。想いが募るのは、致し方のないこと……そして、泉澄どのはずっと、その想いが溢れるのを、堪えておられたのでしょう……?」
「……………………」
惟花の問いかけに、泉澄は唇を噛み、睫毛を伏せる。頬は、先ほど親友に愛撫されていたときよりも更に桃色に染まっていた。
「……本来、禁じられるべき感情だ、と解っておられればこそ、その努力は切実であった、とお察しします。あまりにも懸命に、その想いを抑圧してしまったが故に、泉澄どののなかに鬱屈が生まれた。そしてそこに、禍々しきモノは憑依したのです……」
俺たち兄妹と、惟花付き合いは古い。惟花のオカルトな理論を適当に受け流すのには慣れていたはずだった。でも、この展開のせいで、妙な説得力を感じてしまう。衝撃でいくぶん冷静になっていた俺でさえそうなのだから、さんざん弄ばれて興奮し、更に動揺した泉澄には託宣のように響いてしまったみたいだった。
「……ゆ、惟花ちゃん」
「はい」
「どうしたら……いいのかな? 私……このままじゃ、きっと……」
余熱に蕩けた、けれど露わな不安を滲ませた声で、泉澄は問いかける。惟花は宙空をしばし見つめて、ゆっくりと応えた。
「泉澄どのの心を占める殿方が誰であれ、対処は変わりませぬ。抑圧せず、適度に感情を解き放って、欲望を発散させることです。
しかし――ただの異性であれば話は簡単ですが……そのお相手では、本物のお力を借りるのは難しいでしょうな」
「ち、力を借りるって――」
「想いを告げる。もし受け入れられたなら、そのお身体を捧げるのです」
弾かれたように惟花を見たが、すぐに泉澄は首を戻し俯く。その顔は、まるで茹で上がったみたいに真っ赤だった。
……力を、借りる? それって、つまり、俺の――?!
心拍数が急上昇する。覗き見しながらパニックに陥る俺をよそに、惟花は穏やかな口調で言葉を継いだ。
「さすがに、岳どのをここにお連れすることは、愚生にも出来かねる。しかしその代わり……岳どのに成り代わって、泉澄どのをお慰めすることは、出来ます……」
「あ……や、あっ、ゆ、んっ、惟花ちゃ――あぁんっ……♡」
不意打ち気味に愛撫が再開して、泉澄は呼吸を乱す。背中から伸びた惟花の腕を縋るように掴んだ泉澄に、惟花はもういちど囁いた。
「……愚生の指とお思いになるな。これは、岳どのの……大好きなお兄ちゃんの指とお思いなされ」
「うぁ、んひゅっ……あぁ、んあ、おに、んっ♡ おにい、くっ、あ、あう、んんん♡」
鋭い感覚に翻弄されて、思わず口にしそうになった言葉を、噛み殺している。傍目にも明らかなその仕草に、俺は胸を締め付けられる心地がした。呼吸が、乱れる。
「ひぁ、ああぁ?! しょこ、んん~っ♡」嬌声が激しく跳ねた。身をよじり、惟花の肩に頭を押しつけて狂おしげに悶える。「いや、あぁっ、ゆいっ――んく、そこ、び、びんか、あ、うぁ♡ あ、んく、くふぁ、んああぁ……♡」
攻めてくる快感から身を守るかのように、懸命に閉じていた膝が、気づけば軽く開いていた。それでも俺の位置から惟花の指のある位置、動きは見えない。けれど、見えないからこそ掻き立てられる想像が、悩ましかった。
「ふぁ、あ、だ、ダメっ……!」翻弄されるがままだった泉澄が、不意に惟花の手首を掴み愛撫を遮る。「惟花ちゃっ、ナカは……まだ、私……い、入口ぐらいしか、挿れて……なくて……」
またしても本当の名を呼ばれて惟花は眉をひそめたが、しかしすぐに労るような微笑みを覗かせて、
「承知しました。では……」
「う……んあ、あいっ……?! はぅぅ、んんっ♡ んあ、やっ、乳首、一緒に、なんて、んあ、あっ、あやあああんっ♡」
しばらく手隙だった乳首を同時に攻められて、泉澄は激しく反応した。惟花の腕の中で、肢体をくねらせる。
不意に鼻先を、むわっと酸っぱい匂いが掠めた。たぶん、愛撫に興奮したふたりの少女が分泌した汗や愛液の薫り。微かな嫌悪感と、それを凌駕する背徳感を煽る芳香に、俺は眩暈さえ覚えた。
「ふぅ……んっく、くふう、うぁ、んんっ……♡ はあ、あぁん、うぁ、あぁぁっ……やぁ、あぅっ、んくぅっ……♡」
「はぁ…………はぁ、ふぅ…………ん、んふ……ふはぁ…………ん♡」
攻められている泉澄だけでなく、惟花の吐息も熱く、荒い。薄暗い堂内に差し込む僅かな陽光が、ふたりの少女の素肌に浮いた汗を煌めかせていた。爽やかで美しく、でも悩ましい光景。気づかないうちに自分の股間の膨らみを圧迫していた手を、俺は自分で押さえつけた。
「はふ、あぁぁ、やあぁぁんっ、あふっ、おにっ、んっ、うはぁ、ああっ……♡ ああ、もう、ダメ、だよぉ、きちゃ、んふっ♡ 来ちゃ、来ちゃうよおぉっ……♡」
「……耐える必要はありませぬ。どうぞ、心ゆくまで、法悦を味わってくだされ……♡」
惟花がトドメを刺しにかかったらしい。俺の位置から指先は見えないが、細かに揺れる腕に合わせ、泉澄はびくん、びくん、と身体を弾ませた。
「ひゃん! んあ、あっ、はっく、ぅん、きゅふんっ……♡ もう、んっ、ホントにぃっ、うぁぁ、ああっ、やあ、やぁん♡♡」
「いいよ、泉澄……俺の指で、イって……」
「ひ、いんっ……?!」
それまで以上に大きく身体を跳ねさせ、足の指をぎゅう、っと折り曲げる。力強く、小刻みに呼吸したかと思うと、締め付けられるような声を漏らした。
「ん、くっ、ふぅ、うぁ、ふぐ、くっ……んんんんんんんんん~~~~っ♡♡♡」
「ひゃっ?! お、おお……」
絶頂におののく泉澄を抱き締めていた惟花が、らしからぬ可愛い悲鳴を挙げ、手を離す。けれど視線は、泉澄の淫部に釘付けになっていた。
「ああ……私、こんな……溢れて……あ、惟花ちゃん……汚れちゃってない……?」
泉澄は気怠い声で、しかし申し訳なさそうに訊ねる。惟花は笑って、かぶりを振った。
「お気になさるな。愚生が仕向けたが故の結果ゆえ、一向に構いません。それに」薄明かりに、泉澄の愛液で濡れた指をかざして眺め、惟花は呟く。「泉澄どのの蜜の香りが染みこんだままの制服で家路に就く、というのも乙なものです……ふふっ」
「っ…………か、帰ったら、ちゃんと洗ってよっ……!」
快感の余韻で腰に力が入らないのか、泉澄は優香に手を突いて、いつの間にか遠くに飛ばされてしまった鞄のほうへと四つん這いで向かった。
俺は、は、っとなって、一歩退く。姿勢を低くし、足音を殺して、ゆっくりと社から距離を取った。ある程度離れたところで、スピードを速め、階段に走る。
道に人気がないのがありがたかった。滾ったままの股間のせいで、腰が伸ばせない。けっきょく、家が近づくまでずっと、内股に猫背という歩き方をしなきゃならなかった。
家に帰りつき、一向に整理のつかない頭の中身をぶちまけるような気分でベッドに飛び込む。その途端に携帯電話が鳴った。
画面に表示された惟花の名前に、一瞬動揺する。どうにか呼吸を落ち着けて、通話に切り替えた。
『岳どの、朗報です!』
あまりの音量に一瞬、電話を耳許から遠ざけてしまう。
『無事に解決しました! これでもう、泉澄どのは問題ありませぬ!!』
「……とりあえず声のボリュームを下げてくれ。鼓膜がキーンってなるから」
『おお、これは失敬』
こほん、と軽く咳払いをしてから、惟花はさっきより穏やかな、それでも興奮が隠し切れないトーンで言った。
『……ともかく、泉澄どのの件ですが、先ほど対処いたしました。これ以降、泉澄どのが危険な遊びをされることはなくなることでしょう!』
……本気で、あれが対処のつもりなのか?
咄嗟にそう問い質したくなるのを、辛うじて飲みこむ。
「……よく解らないけど……なにか、話し合ったりしたのか? 女の子同士で……」
『まあ、そんなところですな。いずれにせよ、恐らくもう心配はございませぬ。僭越ながら、愚生の手で昇天まで導いてさしあげましたからな!』
「昇天」
『さよう、昇天!』
「……どういう意味?」
思わずツッコんでしまった。惟花は一瞬、絶句する。
『……こっ、言葉通り……と言うしか、あ、ありませぬな!』
どうやら、泉澄をおかしくしていたのは“淫らな鬼”だった、という設定を貫くつもりらしかった。俺も、迂闊に深掘りすると、またしても覗き見していた罪を漏らしてしまいそうなので、とりあえず乗ることにする。
「それはつまり、泉澄に取り憑いてた……その、なんだ、“悪いモノ”をお祓いすることに成功した、っていう意味か?」
『さようです! まあ……愚生も玄人ではありませぬ故、絶対の成功は保証いたしかねますが』
「……それじゃあ、もし、まだ取り憑かれたままだったら?」
当然の疑問を突きつけると、惟花はしばし沈黙した。
『がっ、岳どの、愚生は哀しい……! そんなにも愚生は信用がございませぬか?!』
「保証しかねる、って言ったの惟花のほうだろ。それに、キャラクターの割にそこそこまともな知識を持ってる奴だ、くらいには信用してるけど……この件に関しては、鵜呑みにしてない。
取り憑かれてるにせよ、そうじゃないにせよ……本当にそんなあっさりと解決するのか、って」
『むー……』
不服そうに唸る。だが、ややあって聞こえてきた声は、曰くありげで、どこか楽しげだった。
『……まあ、もし解決してなかった場合……たぶん、必要となるのは、岳どのの力でしょう』
「俺? なんで、俺……?」
『妹君が苦しんでおられるのですよ? 力になりたい、とはお考え召さぬか……?』
「それ……は……」
もちろん、力になりたい。泉澄を悩ませていることを解決する協力は、してやりたい。たったひとりの兄として。
――でも、この場合、俺が“力になれる”こと、って何だ?
そこまで考えて、脳味噌にブレーキがかかるような感覚がした。心の奥深くにある安全装置が、それ以上の思考を遮ろうとしている。
俺が言葉に詰まっているあいだに、惟花は静かに、労るような口調で言った。
『どうか……泉澄どのを、温かく見守ってさしあげてくだされ』
通話が切れる。
俺は液晶画面を見つめたまま、しばらく身動きできなかった。
泉澄は口許を隠し、焦ったように親友を見やって、すぐさま目を伏せた。どうやら、俺が覗き見していることに気づいて思わず声に出した、というわけではないらしい。
――でも、だとしたら、つまり。
俺の衝撃に追い打ちをかけるように、惟花が小さく息をついて、言った。
「……やはり、左様でございましたか」
「あ、あの……惟花ちゃん、わたし……そういう、わけじゃ……」
「愚生に弁解は不要です。感情は、決して己の理性に従うわけではありませぬ。想いが募るのは、致し方のないこと……そして、泉澄どのはずっと、その想いが溢れるのを、堪えておられたのでしょう……?」
「……………………」
惟花の問いかけに、泉澄は唇を噛み、睫毛を伏せる。頬は、先ほど親友に愛撫されていたときよりも更に桃色に染まっていた。
「……本来、禁じられるべき感情だ、と解っておられればこそ、その努力は切実であった、とお察しします。あまりにも懸命に、その想いを抑圧してしまったが故に、泉澄どののなかに鬱屈が生まれた。そしてそこに、禍々しきモノは憑依したのです……」
俺たち兄妹と、惟花付き合いは古い。惟花のオカルトな理論を適当に受け流すのには慣れていたはずだった。でも、この展開のせいで、妙な説得力を感じてしまう。衝撃でいくぶん冷静になっていた俺でさえそうなのだから、さんざん弄ばれて興奮し、更に動揺した泉澄には託宣のように響いてしまったみたいだった。
「……ゆ、惟花ちゃん」
「はい」
「どうしたら……いいのかな? 私……このままじゃ、きっと……」
余熱に蕩けた、けれど露わな不安を滲ませた声で、泉澄は問いかける。惟花は宙空をしばし見つめて、ゆっくりと応えた。
「泉澄どのの心を占める殿方が誰であれ、対処は変わりませぬ。抑圧せず、適度に感情を解き放って、欲望を発散させることです。
しかし――ただの異性であれば話は簡単ですが……そのお相手では、本物のお力を借りるのは難しいでしょうな」
「ち、力を借りるって――」
「想いを告げる。もし受け入れられたなら、そのお身体を捧げるのです」
弾かれたように惟花を見たが、すぐに泉澄は首を戻し俯く。その顔は、まるで茹で上がったみたいに真っ赤だった。
……力を、借りる? それって、つまり、俺の――?!
心拍数が急上昇する。覗き見しながらパニックに陥る俺をよそに、惟花は穏やかな口調で言葉を継いだ。
「さすがに、岳どのをここにお連れすることは、愚生にも出来かねる。しかしその代わり……岳どのに成り代わって、泉澄どのをお慰めすることは、出来ます……」
「あ……や、あっ、ゆ、んっ、惟花ちゃ――あぁんっ……♡」
不意打ち気味に愛撫が再開して、泉澄は呼吸を乱す。背中から伸びた惟花の腕を縋るように掴んだ泉澄に、惟花はもういちど囁いた。
「……愚生の指とお思いになるな。これは、岳どのの……大好きなお兄ちゃんの指とお思いなされ」
「うぁ、んひゅっ……あぁ、んあ、おに、んっ♡ おにい、くっ、あ、あう、んんん♡」
鋭い感覚に翻弄されて、思わず口にしそうになった言葉を、噛み殺している。傍目にも明らかなその仕草に、俺は胸を締め付けられる心地がした。呼吸が、乱れる。
「ひぁ、ああぁ?! しょこ、んん~っ♡」嬌声が激しく跳ねた。身をよじり、惟花の肩に頭を押しつけて狂おしげに悶える。「いや、あぁっ、ゆいっ――んく、そこ、び、びんか、あ、うぁ♡ あ、んく、くふぁ、んああぁ……♡」
攻めてくる快感から身を守るかのように、懸命に閉じていた膝が、気づけば軽く開いていた。それでも俺の位置から惟花の指のある位置、動きは見えない。けれど、見えないからこそ掻き立てられる想像が、悩ましかった。
「ふぁ、あ、だ、ダメっ……!」翻弄されるがままだった泉澄が、不意に惟花の手首を掴み愛撫を遮る。「惟花ちゃっ、ナカは……まだ、私……い、入口ぐらいしか、挿れて……なくて……」
またしても本当の名を呼ばれて惟花は眉をひそめたが、しかしすぐに労るような微笑みを覗かせて、
「承知しました。では……」
「う……んあ、あいっ……?! はぅぅ、んんっ♡ んあ、やっ、乳首、一緒に、なんて、んあ、あっ、あやあああんっ♡」
しばらく手隙だった乳首を同時に攻められて、泉澄は激しく反応した。惟花の腕の中で、肢体をくねらせる。
不意に鼻先を、むわっと酸っぱい匂いが掠めた。たぶん、愛撫に興奮したふたりの少女が分泌した汗や愛液の薫り。微かな嫌悪感と、それを凌駕する背徳感を煽る芳香に、俺は眩暈さえ覚えた。
「ふぅ……んっく、くふう、うぁ、んんっ……♡ はあ、あぁん、うぁ、あぁぁっ……やぁ、あぅっ、んくぅっ……♡」
「はぁ…………はぁ、ふぅ…………ん、んふ……ふはぁ…………ん♡」
攻められている泉澄だけでなく、惟花の吐息も熱く、荒い。薄暗い堂内に差し込む僅かな陽光が、ふたりの少女の素肌に浮いた汗を煌めかせていた。爽やかで美しく、でも悩ましい光景。気づかないうちに自分の股間の膨らみを圧迫していた手を、俺は自分で押さえつけた。
「はふ、あぁぁ、やあぁぁんっ、あふっ、おにっ、んっ、うはぁ、ああっ……♡ ああ、もう、ダメ、だよぉ、きちゃ、んふっ♡ 来ちゃ、来ちゃうよおぉっ……♡」
「……耐える必要はありませぬ。どうぞ、心ゆくまで、法悦を味わってくだされ……♡」
惟花がトドメを刺しにかかったらしい。俺の位置から指先は見えないが、細かに揺れる腕に合わせ、泉澄はびくん、びくん、と身体を弾ませた。
「ひゃん! んあ、あっ、はっく、ぅん、きゅふんっ……♡ もう、んっ、ホントにぃっ、うぁぁ、ああっ、やあ、やぁん♡♡」
「いいよ、泉澄……俺の指で、イって……」
「ひ、いんっ……?!」
それまで以上に大きく身体を跳ねさせ、足の指をぎゅう、っと折り曲げる。力強く、小刻みに呼吸したかと思うと、締め付けられるような声を漏らした。
「ん、くっ、ふぅ、うぁ、ふぐ、くっ……んんんんんんんんん~~~~っ♡♡♡」
「ひゃっ?! お、おお……」
絶頂におののく泉澄を抱き締めていた惟花が、らしからぬ可愛い悲鳴を挙げ、手を離す。けれど視線は、泉澄の淫部に釘付けになっていた。
「ああ……私、こんな……溢れて……あ、惟花ちゃん……汚れちゃってない……?」
泉澄は気怠い声で、しかし申し訳なさそうに訊ねる。惟花は笑って、かぶりを振った。
「お気になさるな。愚生が仕向けたが故の結果ゆえ、一向に構いません。それに」薄明かりに、泉澄の愛液で濡れた指をかざして眺め、惟花は呟く。「泉澄どのの蜜の香りが染みこんだままの制服で家路に就く、というのも乙なものです……ふふっ」
「っ…………か、帰ったら、ちゃんと洗ってよっ……!」
快感の余韻で腰に力が入らないのか、泉澄は優香に手を突いて、いつの間にか遠くに飛ばされてしまった鞄のほうへと四つん這いで向かった。
俺は、は、っとなって、一歩退く。姿勢を低くし、足音を殺して、ゆっくりと社から距離を取った。ある程度離れたところで、スピードを速め、階段に走る。
道に人気がないのがありがたかった。滾ったままの股間のせいで、腰が伸ばせない。けっきょく、家が近づくまでずっと、内股に猫背という歩き方をしなきゃならなかった。
家に帰りつき、一向に整理のつかない頭の中身をぶちまけるような気分でベッドに飛び込む。その途端に携帯電話が鳴った。
画面に表示された惟花の名前に、一瞬動揺する。どうにか呼吸を落ち着けて、通話に切り替えた。
『岳どの、朗報です!』
あまりの音量に一瞬、電話を耳許から遠ざけてしまう。
『無事に解決しました! これでもう、泉澄どのは問題ありませぬ!!』
「……とりあえず声のボリュームを下げてくれ。鼓膜がキーンってなるから」
『おお、これは失敬』
こほん、と軽く咳払いをしてから、惟花はさっきより穏やかな、それでも興奮が隠し切れないトーンで言った。
『……ともかく、泉澄どのの件ですが、先ほど対処いたしました。これ以降、泉澄どのが危険な遊びをされることはなくなることでしょう!』
……本気で、あれが対処のつもりなのか?
咄嗟にそう問い質したくなるのを、辛うじて飲みこむ。
「……よく解らないけど……なにか、話し合ったりしたのか? 女の子同士で……」
『まあ、そんなところですな。いずれにせよ、恐らくもう心配はございませぬ。僭越ながら、愚生の手で昇天まで導いてさしあげましたからな!』
「昇天」
『さよう、昇天!』
「……どういう意味?」
思わずツッコんでしまった。惟花は一瞬、絶句する。
『……こっ、言葉通り……と言うしか、あ、ありませぬな!』
どうやら、泉澄をおかしくしていたのは“淫らな鬼”だった、という設定を貫くつもりらしかった。俺も、迂闊に深掘りすると、またしても覗き見していた罪を漏らしてしまいそうなので、とりあえず乗ることにする。
「それはつまり、泉澄に取り憑いてた……その、なんだ、“悪いモノ”をお祓いすることに成功した、っていう意味か?」
『さようです! まあ……愚生も玄人ではありませぬ故、絶対の成功は保証いたしかねますが』
「……それじゃあ、もし、まだ取り憑かれたままだったら?」
当然の疑問を突きつけると、惟花はしばし沈黙した。
『がっ、岳どの、愚生は哀しい……! そんなにも愚生は信用がございませぬか?!』
「保証しかねる、って言ったの惟花のほうだろ。それに、キャラクターの割にそこそこまともな知識を持ってる奴だ、くらいには信用してるけど……この件に関しては、鵜呑みにしてない。
取り憑かれてるにせよ、そうじゃないにせよ……本当にそんなあっさりと解決するのか、って」
『むー……』
不服そうに唸る。だが、ややあって聞こえてきた声は、曰くありげで、どこか楽しげだった。
『……まあ、もし解決してなかった場合……たぶん、必要となるのは、岳どのの力でしょう』
「俺? なんで、俺……?」
『妹君が苦しんでおられるのですよ? 力になりたい、とはお考え召さぬか……?』
「それ……は……」
もちろん、力になりたい。泉澄を悩ませていることを解決する協力は、してやりたい。たったひとりの兄として。
――でも、この場合、俺が“力になれる”こと、って何だ?
そこまで考えて、脳味噌にブレーキがかかるような感覚がした。心の奥深くにある安全装置が、それ以上の思考を遮ろうとしている。
俺が言葉に詰まっているあいだに、惟花は静かに、労るような口調で言った。
『どうか……泉澄どのを、温かく見守ってさしあげてくだされ』
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