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櫻井の難題
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放課後のグランドでは、数枚の落ち葉がノックする櫻井の足元を猫のようにまとわりついていた。堀井が前走のバトンを受け取るように櫻井が後ろに回した手にボールを置いていた。
「ハイ。ハイ。ハイ。」
リズムよく、堀井が渡し、櫻井はリズムよくバットで弾いた。
「先生、ノックうまくなりましたね。」
「サンキュー。」
櫻井は後ろを振り返り、うれしそうに応えた。
「よっしゃ!」
調子にのった瞬間、空振りした。
「どうした、ノッカー。」
尽かさず、小河原が揶揄した。
「ほめるなよ。ほめられるとプレッシャーになって。」
櫻井は大人げなく堀井のせいにした。
「伊藤!ゲームなんかやってないで、練習しろよ!」
櫻井は体育館の軒下のコンクリートの階段でゲーム機に食い入る伊藤を大声で叱った。というより八つ当たりをした。というより八つ当たりが伊藤にできるようになった。勿論、櫻井の一方通行には変わりなかった。
因みにその階段が城南高校野球部の部室だった。
5時30分、職員室は節電のため一部の蛍光灯がついているだけで薄暗かった。櫻井は柱をなでるようにして、スイッチを探した。ノックをした後は必ず肩を回しながら歩いた。別に筋肉痛だからと言うわけでなく癖であった。最近は年齢の成果、その筋肉痛も一日置いてやって来くるようになった。流しで節水のためにチョロチョロとしか出ない水で顔を洗うと、また、お決まりのようにふっとため息をついた。
「先生!」
櫻井は、ブルッと震えた。伊藤が背後に立っていた。
「何だ、脅かすなよ。いつからそこにいた。」
「 ・・・・・」
伊藤は無言である。いつになく深刻な顔であった。
「何だ。暗がりから急にヌーと出てきて、何にも言わなきゃ、幽霊といっしょだろ。オイ。」
気味の悪さを払拭するように、櫻井は大きな声を出した。
「専門のことで。」
「学校見学、行ってみたか?」
「ああ。」
「それで、どうだった。」
「無理だ。あきらめた。」
自分の意志を揺るがされないように、伊藤は語気を強めた。
「何で。・・・金の事か。」
「・・・。そうだよ。」
伊藤の傲慢さもいつになく力がなかった。
「そうか。専門学校も金かかるからな。でもな、奨学金で行くって手もあるし、諦めるのはまだ早いぞ。そうそう、国の教育ローンなんてどうだ。利息なんか安いし、自分が仕事してからゆっくり返せばいい。」
櫻井は伊藤に息吹を注入するように、まくし立てた。
「無理だよ。」
伊藤は言い捨てた。
「無理って、お前、行きたいんだろ。」
「・・・・」
櫻井は胸に重苦しいものを感じた。
「ちゃんと資格とか技術を身につけて、仕事した方が絶対いい。フリーターは駄目だ。すごく大変だけど、新聞奨学生はどうだ。」
伊藤は黙っていた。
「とにかく、自分の将来のことだ。やけくそになるな。お前の親は何て言ってる。応援してくれるって言ってんだろ。」
「関係ねえよ。親は。」
「でもな。」
「関係ねえ。」
「でもな、親だろ。」
「俺のバイトの金も勝手に使ちゃうような親を当てにできるわけねえじゃん。『なにぃ奨学金。人様に金借りて学校行ってなんになる。ゲームの専門学校、くだらねえ。学校行くより、早く、土方でもいいから金稼げ。』っていうのに決まってる。」
「でもな、伊藤の一生のことだからな。」
「俺の一生なんて、先生には関係ねぇよ。」
櫻井は伊藤から視線を落とした。
「先生が暗くなったって、しょうがねえよ。うん、諦めた。もういい」結論は出たというように伊藤は椅子からスッと立った。
「でもな。」
櫻井が力を喪失しながら食い下がった。
伊藤は結論とは逆に清々した顔で職員室を出ていった。
櫻井は頭をかいた。机の上には野球部の集合写真が立てかけてある。伊藤はユニフォームの前ボタンを全部はずし、ふんぞり返って横柄であった。
*
滑り台もない小さな公園にメモ用紙を片手に櫻井がいた。葉が落ちた木々の中に電話ボックスがあった。公園の街灯は薄暗く、電話ボックスの中が一際明るかった。スーツ姿の櫻井はその中で、メモを見ながら携帯電話をかけていた。
「もしもし、城南高校の櫻井です。伊藤さんのお宅ですか?」
「先生かよ。」
伊藤は何か予期していたように応えた。
「お前か。今、お前の家の近くにいるんだ。」
「え、マジかよ。」
伊藤は驚きというより落胆に近い声であった。
「そうだ。」
「マジかよ。困るよ。いいから帰ってくれよ。」
「いいか。お前の事で、お前の将来のことだぞ。お父さんにきちんと話して理解してもらおう。」
「いいよ。いいってば。余計なお世話でしょ。ホント、マジかよ。」
県営住宅の古びた階段は子供の玩具や三輪車、がらくたが踊り場に散らかっていてあがりづらかった。
「お家にはいれてあげないから、おもてにいなさい。」
叱りつける母親の声が上から響いた。
「ギャー!」
同時に子供の悲鳴がコンクリートの狭い階段から落ちてきた。櫻井の足取りはさらに重くなった。4階だと聞いていながらも、階を上がるたびに表札を確認していた。3階の踊り場を見上げると、涙と鼻水だらけの女の子と目があった。もう羞恥心というものが芽生えているのだろう、櫻井と目が合うと泣き声を抑えた。鼻に真一文字に貼られたバンビのバンドエイドがいじらしかった。4階の表札は厚紙でできていてガムテープで貼り付けてあった。『伊藤』という字はマジックを使い、強い筆圧で書かれていた。表札を見ながら櫻井は小さく深呼吸して、玄関のブザーを押した。
「ビービービー」
部屋の中に響き渡っているのが外にいても分かった。小走りの音が近づいてきてドアが開いた。櫻井が笑顔を作るのが早いか伊藤はドア越しに帰ってくれという仕草であった。
「いいから、俺に任しとけ。」
櫻井は小声で、中を窺いながら伊藤が閉めようとしているドアを押し返した。
「茂雄、誰か来たのか。」
中から、太い威圧的な声がした。
伊藤は両手を箒のように使い、『帰れ。』という仕草をまたした。櫻井はそれを制して玄関をあがった。
「夜分、すいません。」
茶の間でナイター中継を見ていた父が振り返った。
「誰だ。ん?」
父親は櫻井の後にいる伊藤に向かって怪訝そうな顔で言った。
「誰だ。ん?」
「しょうがねえな。・・・先生だよ。高校の。」
伊藤は櫻井のシャツをひっぱって、事がこじれていったら、櫻井のせいだと無言で訴えていた。
「城南高校の櫻井といいます。」
父親は下から睨めつけるように櫻井を見た。
櫻井は深々と、お辞儀をした。櫻井が頭を上げると、そこには父親に耳をつかまれ、引きずり倒された伊藤がいた。
「てめぇ、また、なんかしでかしたな。」
「してねぇよ。ほんと何にもしてねぇよ。こいつが勝手に来ただけだよ。先生、どうにかしてくれよ。だから、帰ってくれっていっただろ。」
櫻井は貧農が悪代官にいたぶられている時代劇の一場面を見ているようであった。櫻井が見たことのない虐げられた伊藤がそこにいた。
「そうじゃないです。お父さん。」
「じゃ、先生が何の用事ですかね。」
「お子さんの進路のことで。ご相談がありまして、参りました。」
「へー」
父親は無関心を装い、座り直してテレビを見はじめた。
「お子さんの進路のことで、お話があります。」
無視された櫻井は、テレビの音量を超えるように繰り返した。
父親は『早く帰れ。』と言わんばかりに手元のリモコンで音量を上げた。県営住宅の一室は、東京ドームの内野席と同じ音量の歓声になった。
「お父さん!」
櫻井の声は自分の耳だけに聞こえた。
「・・・・・」
「お父さん!」
櫻井は大声を出した。
「もういいから、帰ろうよ」
櫻井は伊藤の口の動きを見て多分そう言ってるのだと思った。伊藤は櫻井が斜めに傾ぐくらいの力で櫻井の腕を引っ張った。
父は大音量の中でグラスの下の方にあるビールを飲み干した。
「お父さん!」
櫻井はしぶとく、また叫んだ。
父親は電源をオフにすると、リモコンを櫻井の足元に投げつけた。リモコンの中の電池が飛び出した。
「進路って何のことだよ。」
「伊藤君、夢があるんですよ。悩んでいるんですよ。」
櫻井は言葉を遮る伊藤を振り払った。伊藤はなるようになれと力を抜いて、櫻井から離れた。
「へー。」
「へーじゃないでしょう。」
脳の常識を管理する部位を素通りして言葉が櫻井の口から出た。
「へー。」
「お父さん!」
櫻井は自分自身を奮い立たせるように大声を出した。もう、口の中はカラカラで唇はアカギレのようにカサカサになった。
「高校中退したやつに、夢なんかあるもんか。なあ。通信制の分際で。」
父親は伊藤の顔をのぞきこんだ。伊藤は体育座りをして俯いていた。
「何でですか。夢もってはいけないんですか。お父さん!」
櫻井は自分の声が裏返ったのが分かったが、気にとめることはなかった。そんな余裕がなかった。
「俺は、教員てやつが大嫌いなんだ。だいたい、おめえら税金で食ってるくせに、偉そうなこといいやがって。」
「お子さんは、将来のこと、真剣に考えているんです。話し合ったっていいでしょう。」
絶対、恐怖心ではないのだが、何かが栓をして、櫻井が推敲して来たたくさんの説得の言葉は出てこなかった。
「余計なお世話だよ。」
逆に主導権をとってしまった父親は落ち着いた低い声で諭した。
「父親でしょ。お父さん。お子さん、ゲームクリエーターになりたいって、そのために、専門学校へ入りたいって。そのためには、お金をどうしようかって。」
櫻井がまた、火をつけた。伊藤はこじれていく様子を体育座りして見ているしかなかった。
「ゲームクリ。なんだそれ。そんなものになるために学校へ行きたい?あきれて、ものもいえねえや。だいたい、何やっても、続かねえんだよ。こいつは。」
「そんなことはない。彼は真剣です。」
「真剣、真剣って、おめえにこいつのことがわかるのかよ。親より。」父親は立ち上がった。
「痛いほど、わかります。」
「偉そうなこと言いやがって。」
父親は櫻井の胸ぐらを掴んだ。
櫻井は父親の毛むくじゃらな腕にトクホンが貼ってあるのをただ見つめるだけで無抵抗だった。毛が邪魔で浮いてしまっていたトクホンから湿布特有の臭いがした。
座っていた伊藤は不本意ながらも間にはいるしかなかった。
「帰ってくれよ!」
テレビの消えた部屋に伊藤の大声が響いた。
*
小さな公園のブランコに櫻井が座っていた。綱に繋がれた犬がリードを伸ばし櫻井の足元の臭いを嗅いだ。
「コラッ!」
飼い主は犬の首が反るほど綱を引いて、遠ざけた。櫻井はせっかく善意で近寄ってきた犬に笑顔を返そうと思ったのに、犬は櫻井の目の前からゴム縄で引かれたように飛んでいった。その時、櫻井の足元にはサンダル履きの素足があった。上を見上げると、周囲の枯れ木とアンバランスのTシャツ姿の伊藤がいた。
「お前、寒くないか?・・・」
「・・・・悪かったな。」
伊藤はサンダル履きの足を揃えて、頭を櫻井に下げた。
「お前、本当に寒くないか?」
「大丈夫だよ。俺、先生みてぇに年じゃないから。」
「そうか。」
「元気出せよ。」
いつの間にか立場が逆転しているようだった。
「ああ。」
「しかし、親父もよく言うよな。税金も払ってねえのに。税金で食ってるやつが、きにくわねえ、なんてな。先生。」
意気消沈している櫻井を伊藤は作り笑いまでして慰めた。子どもの照れ隠しのように無意味に伊藤は木の葉をジャンプして取ろうとした。かろうじて枝にしがみついていた茶色い葉っぱが地面にはらはらと落ちた。
「元気出せよ。先生。」
今度は、落ちている空き缶を蹴飛ばした。転がっていく空き缶の軌跡を見届けた櫻井が、拾いに行った。
「まあ、しょうがあんめい。あの親から産まれたんだし。頭もねぇし、金もねぇし。なにやっても長続きしねぇし。やめたやめた。」
伊藤はやけくそ気味だが、自分の気持ちを吹っ切るように大きな明瞭な声で言った。
櫻井は空き缶をくずかごに力一杯投げ入れた。振り返ると、伊藤の顔を睨みつけて唇が震えた。
「親のせいか。そんなせいにするな。家や学校や友達が悪かってからか。そんなせいにもするな。人間はな、そんな風に自分ではどうしようもない遺伝や環境で、すべてが決まるんじゃない。それじゃ、おもしろくないだろ。親がどうしようもなかったら、その子もそうなるのか。戦争ばっかしの国で生まれたら、不幸のままか。人間には人間にしかないもってないものがある。それはな、自分で、変えていこうとする意志だよ。どうしようもないことがあったって、それに支配されて身動きできないで潰されるのを待ってることなんてありえないだんだ。そんなことに負けないで、自分をよくしていこうという意志があるんだ。・・・人間には・・・。それが、絶対、生い立ちだとか。生まれついての悪いところなんかも追いだしていくんだ。」
いつもは、おたおた話すことの多い櫻井は立て板に水のように断言している自分に違和感を感じた。唇の震えは止まらず、また、のどが異常に乾いた。水飲み場の水道を思い切り捻って、顔を横にして、がぶ飲みした。
*
校長室の壁には歴代の校長の写真が金縁の額に入って並んでいた。櫻井はそれを見るたびに退職近くの年齢では禿げる率は約六十%であるということを計算していた。櫻井が県の緊縮財政には不釣り合いな大きな深いソファに座ると、目の前の教頭が不愉快な顔を突き出した。
「櫻井先生、好奇心で生徒の家庭へ首をつっこむのは、どうでしょうか。先生にもお考えはあると思いますが、教師の仕事の範疇を越えているのではないですか。」
「はあ。」
櫻井は空返事であった。
「まあ、県民の目があることですから、慎重におねがいします。」
教頭の横に腰掛けてきた校長が同調した。大きなソファに座りなれているように、体躯を埋めた。
「はあ。」
櫻井は『はあ?』とおじさん臭に辟易して、生徒のように『違うだろうおめぇよ。』と否定の意味のアクセントで言いたかったが、できずに肯定した。
「学籍番号62541の伊藤君のお父さんから、クレームがありました。いきなり押し掛けて、頭ごなしに、親の指導がなってないって、校長はそんな無礼な教師を放っておくのか。」
教頭はメモを見ながら鬼の首をとったように言うと、校長の横顔を見て自分の手柄を自慢していた。
「え。それは。」
弁解しようと櫻井は考えたが経験則により止めた。
「教頭先生は先生の家庭訪問を非難しているのではありませんよ。ただ、何の事前の報告なしに、行くのはよくありません。教頭先生には先生方の管理義務がありますから。」
校長は手柄を立てた家来を労った。
「はあ。」
櫻井はまた心なく肯定した。
校長の机の上の電話が鳴った。教頭がとった。教頭は櫻井の方を向き、電話を取るように催促した。
「失礼します。」
櫻井は校長に小さくお辞儀をした。
「もしもし。」
電話の向こうには佐々木がいた。
「先生、大変。大変。大変。」
「どうしました?大変だけではわかりません。」
急に泣き声に変わった。
「どうしたんですか?」
「嫁を殺しちゃった。」
そう言うと鳴き声は一段と強くなった。
「何、言ってるんですか。」
「ツゥーツゥー。」
電話がとぎれた。事の顛末を暗示しているようで、櫻井は不安になった。
櫻井は時計を見た。頭を両手で抱えた。説得力を持たせようと瞬時に考えた芝居をうった。
「失礼します。急用が出来たもので。教頭先生、休み、これから取ります。」
「何ですか、急に。まだ、校長先生からお話があるんですよ。」
「実家で、母が。母が、倒れました。」
心の中で櫻井は母親に『ごめん』といいながら、迫真の演技をしている自分にこんな一面があったかと不思議に思った。
「それはいけない、早く帰りなさい。」
校長はソファに埋まった身体を肘掛けに片手をついて起き上げた。
「失礼します。」
櫻井はドアに向かってお辞儀をして出ていった。
「休みの届けは出してください!」
教頭は廊下を追いかけてきて櫻井の背中に自らの職責を全うする言葉を投げつけた。
「ハイ。」
感情のない大きな言葉が櫻井のサンダルの音とともに昇降口に消えていった。下足に履き替え、校門を突き抜けようとしたとき、櫻井は自分が佐々木の家を知らないのに気がついた。急いで、2階の職員室にあがり、佐々木の生徒カードを引っ張り出し、コピーした。
「何してるのですか?」
教頭が後ろにたって、コピーしているものを覗き込んでいた。
「何でもないです。」
その少し不気味な執拗さをはねつけると櫻井はサンダルの音を木霊させながら階段を駆け下りた。
「明日の朝、一番で届けを出してくださいね。」
また、同じ言葉が上から投げられてきた。
「明日の朝、一番で届けを出してくださいね!」
「ハイ。ハイ。ハイ。」
リズムよく、堀井が渡し、櫻井はリズムよくバットで弾いた。
「先生、ノックうまくなりましたね。」
「サンキュー。」
櫻井は後ろを振り返り、うれしそうに応えた。
「よっしゃ!」
調子にのった瞬間、空振りした。
「どうした、ノッカー。」
尽かさず、小河原が揶揄した。
「ほめるなよ。ほめられるとプレッシャーになって。」
櫻井は大人げなく堀井のせいにした。
「伊藤!ゲームなんかやってないで、練習しろよ!」
櫻井は体育館の軒下のコンクリートの階段でゲーム機に食い入る伊藤を大声で叱った。というより八つ当たりをした。というより八つ当たりが伊藤にできるようになった。勿論、櫻井の一方通行には変わりなかった。
因みにその階段が城南高校野球部の部室だった。
5時30分、職員室は節電のため一部の蛍光灯がついているだけで薄暗かった。櫻井は柱をなでるようにして、スイッチを探した。ノックをした後は必ず肩を回しながら歩いた。別に筋肉痛だからと言うわけでなく癖であった。最近は年齢の成果、その筋肉痛も一日置いてやって来くるようになった。流しで節水のためにチョロチョロとしか出ない水で顔を洗うと、また、お決まりのようにふっとため息をついた。
「先生!」
櫻井は、ブルッと震えた。伊藤が背後に立っていた。
「何だ、脅かすなよ。いつからそこにいた。」
「 ・・・・・」
伊藤は無言である。いつになく深刻な顔であった。
「何だ。暗がりから急にヌーと出てきて、何にも言わなきゃ、幽霊といっしょだろ。オイ。」
気味の悪さを払拭するように、櫻井は大きな声を出した。
「専門のことで。」
「学校見学、行ってみたか?」
「ああ。」
「それで、どうだった。」
「無理だ。あきらめた。」
自分の意志を揺るがされないように、伊藤は語気を強めた。
「何で。・・・金の事か。」
「・・・。そうだよ。」
伊藤の傲慢さもいつになく力がなかった。
「そうか。専門学校も金かかるからな。でもな、奨学金で行くって手もあるし、諦めるのはまだ早いぞ。そうそう、国の教育ローンなんてどうだ。利息なんか安いし、自分が仕事してからゆっくり返せばいい。」
櫻井は伊藤に息吹を注入するように、まくし立てた。
「無理だよ。」
伊藤は言い捨てた。
「無理って、お前、行きたいんだろ。」
「・・・・」
櫻井は胸に重苦しいものを感じた。
「ちゃんと資格とか技術を身につけて、仕事した方が絶対いい。フリーターは駄目だ。すごく大変だけど、新聞奨学生はどうだ。」
伊藤は黙っていた。
「とにかく、自分の将来のことだ。やけくそになるな。お前の親は何て言ってる。応援してくれるって言ってんだろ。」
「関係ねえよ。親は。」
「でもな。」
「関係ねえ。」
「でもな、親だろ。」
「俺のバイトの金も勝手に使ちゃうような親を当てにできるわけねえじゃん。『なにぃ奨学金。人様に金借りて学校行ってなんになる。ゲームの専門学校、くだらねえ。学校行くより、早く、土方でもいいから金稼げ。』っていうのに決まってる。」
「でもな、伊藤の一生のことだからな。」
「俺の一生なんて、先生には関係ねぇよ。」
櫻井は伊藤から視線を落とした。
「先生が暗くなったって、しょうがねえよ。うん、諦めた。もういい」結論は出たというように伊藤は椅子からスッと立った。
「でもな。」
櫻井が力を喪失しながら食い下がった。
伊藤は結論とは逆に清々した顔で職員室を出ていった。
櫻井は頭をかいた。机の上には野球部の集合写真が立てかけてある。伊藤はユニフォームの前ボタンを全部はずし、ふんぞり返って横柄であった。
*
滑り台もない小さな公園にメモ用紙を片手に櫻井がいた。葉が落ちた木々の中に電話ボックスがあった。公園の街灯は薄暗く、電話ボックスの中が一際明るかった。スーツ姿の櫻井はその中で、メモを見ながら携帯電話をかけていた。
「もしもし、城南高校の櫻井です。伊藤さんのお宅ですか?」
「先生かよ。」
伊藤は何か予期していたように応えた。
「お前か。今、お前の家の近くにいるんだ。」
「え、マジかよ。」
伊藤は驚きというより落胆に近い声であった。
「そうだ。」
「マジかよ。困るよ。いいから帰ってくれよ。」
「いいか。お前の事で、お前の将来のことだぞ。お父さんにきちんと話して理解してもらおう。」
「いいよ。いいってば。余計なお世話でしょ。ホント、マジかよ。」
県営住宅の古びた階段は子供の玩具や三輪車、がらくたが踊り場に散らかっていてあがりづらかった。
「お家にはいれてあげないから、おもてにいなさい。」
叱りつける母親の声が上から響いた。
「ギャー!」
同時に子供の悲鳴がコンクリートの狭い階段から落ちてきた。櫻井の足取りはさらに重くなった。4階だと聞いていながらも、階を上がるたびに表札を確認していた。3階の踊り場を見上げると、涙と鼻水だらけの女の子と目があった。もう羞恥心というものが芽生えているのだろう、櫻井と目が合うと泣き声を抑えた。鼻に真一文字に貼られたバンビのバンドエイドがいじらしかった。4階の表札は厚紙でできていてガムテープで貼り付けてあった。『伊藤』という字はマジックを使い、強い筆圧で書かれていた。表札を見ながら櫻井は小さく深呼吸して、玄関のブザーを押した。
「ビービービー」
部屋の中に響き渡っているのが外にいても分かった。小走りの音が近づいてきてドアが開いた。櫻井が笑顔を作るのが早いか伊藤はドア越しに帰ってくれという仕草であった。
「いいから、俺に任しとけ。」
櫻井は小声で、中を窺いながら伊藤が閉めようとしているドアを押し返した。
「茂雄、誰か来たのか。」
中から、太い威圧的な声がした。
伊藤は両手を箒のように使い、『帰れ。』という仕草をまたした。櫻井はそれを制して玄関をあがった。
「夜分、すいません。」
茶の間でナイター中継を見ていた父が振り返った。
「誰だ。ん?」
父親は櫻井の後にいる伊藤に向かって怪訝そうな顔で言った。
「誰だ。ん?」
「しょうがねえな。・・・先生だよ。高校の。」
伊藤は櫻井のシャツをひっぱって、事がこじれていったら、櫻井のせいだと無言で訴えていた。
「城南高校の櫻井といいます。」
父親は下から睨めつけるように櫻井を見た。
櫻井は深々と、お辞儀をした。櫻井が頭を上げると、そこには父親に耳をつかまれ、引きずり倒された伊藤がいた。
「てめぇ、また、なんかしでかしたな。」
「してねぇよ。ほんと何にもしてねぇよ。こいつが勝手に来ただけだよ。先生、どうにかしてくれよ。だから、帰ってくれっていっただろ。」
櫻井は貧農が悪代官にいたぶられている時代劇の一場面を見ているようであった。櫻井が見たことのない虐げられた伊藤がそこにいた。
「そうじゃないです。お父さん。」
「じゃ、先生が何の用事ですかね。」
「お子さんの進路のことで。ご相談がありまして、参りました。」
「へー」
父親は無関心を装い、座り直してテレビを見はじめた。
「お子さんの進路のことで、お話があります。」
無視された櫻井は、テレビの音量を超えるように繰り返した。
父親は『早く帰れ。』と言わんばかりに手元のリモコンで音量を上げた。県営住宅の一室は、東京ドームの内野席と同じ音量の歓声になった。
「お父さん!」
櫻井の声は自分の耳だけに聞こえた。
「・・・・・」
「お父さん!」
櫻井は大声を出した。
「もういいから、帰ろうよ」
櫻井は伊藤の口の動きを見て多分そう言ってるのだと思った。伊藤は櫻井が斜めに傾ぐくらいの力で櫻井の腕を引っ張った。
父は大音量の中でグラスの下の方にあるビールを飲み干した。
「お父さん!」
櫻井はしぶとく、また叫んだ。
父親は電源をオフにすると、リモコンを櫻井の足元に投げつけた。リモコンの中の電池が飛び出した。
「進路って何のことだよ。」
「伊藤君、夢があるんですよ。悩んでいるんですよ。」
櫻井は言葉を遮る伊藤を振り払った。伊藤はなるようになれと力を抜いて、櫻井から離れた。
「へー。」
「へーじゃないでしょう。」
脳の常識を管理する部位を素通りして言葉が櫻井の口から出た。
「へー。」
「お父さん!」
櫻井は自分自身を奮い立たせるように大声を出した。もう、口の中はカラカラで唇はアカギレのようにカサカサになった。
「高校中退したやつに、夢なんかあるもんか。なあ。通信制の分際で。」
父親は伊藤の顔をのぞきこんだ。伊藤は体育座りをして俯いていた。
「何でですか。夢もってはいけないんですか。お父さん!」
櫻井は自分の声が裏返ったのが分かったが、気にとめることはなかった。そんな余裕がなかった。
「俺は、教員てやつが大嫌いなんだ。だいたい、おめえら税金で食ってるくせに、偉そうなこといいやがって。」
「お子さんは、将来のこと、真剣に考えているんです。話し合ったっていいでしょう。」
絶対、恐怖心ではないのだが、何かが栓をして、櫻井が推敲して来たたくさんの説得の言葉は出てこなかった。
「余計なお世話だよ。」
逆に主導権をとってしまった父親は落ち着いた低い声で諭した。
「父親でしょ。お父さん。お子さん、ゲームクリエーターになりたいって、そのために、専門学校へ入りたいって。そのためには、お金をどうしようかって。」
櫻井がまた、火をつけた。伊藤はこじれていく様子を体育座りして見ているしかなかった。
「ゲームクリ。なんだそれ。そんなものになるために学校へ行きたい?あきれて、ものもいえねえや。だいたい、何やっても、続かねえんだよ。こいつは。」
「そんなことはない。彼は真剣です。」
「真剣、真剣って、おめえにこいつのことがわかるのかよ。親より。」父親は立ち上がった。
「痛いほど、わかります。」
「偉そうなこと言いやがって。」
父親は櫻井の胸ぐらを掴んだ。
櫻井は父親の毛むくじゃらな腕にトクホンが貼ってあるのをただ見つめるだけで無抵抗だった。毛が邪魔で浮いてしまっていたトクホンから湿布特有の臭いがした。
座っていた伊藤は不本意ながらも間にはいるしかなかった。
「帰ってくれよ!」
テレビの消えた部屋に伊藤の大声が響いた。
*
小さな公園のブランコに櫻井が座っていた。綱に繋がれた犬がリードを伸ばし櫻井の足元の臭いを嗅いだ。
「コラッ!」
飼い主は犬の首が反るほど綱を引いて、遠ざけた。櫻井はせっかく善意で近寄ってきた犬に笑顔を返そうと思ったのに、犬は櫻井の目の前からゴム縄で引かれたように飛んでいった。その時、櫻井の足元にはサンダル履きの素足があった。上を見上げると、周囲の枯れ木とアンバランスのTシャツ姿の伊藤がいた。
「お前、寒くないか?・・・」
「・・・・悪かったな。」
伊藤はサンダル履きの足を揃えて、頭を櫻井に下げた。
「お前、本当に寒くないか?」
「大丈夫だよ。俺、先生みてぇに年じゃないから。」
「そうか。」
「元気出せよ。」
いつの間にか立場が逆転しているようだった。
「ああ。」
「しかし、親父もよく言うよな。税金も払ってねえのに。税金で食ってるやつが、きにくわねえ、なんてな。先生。」
意気消沈している櫻井を伊藤は作り笑いまでして慰めた。子どもの照れ隠しのように無意味に伊藤は木の葉をジャンプして取ろうとした。かろうじて枝にしがみついていた茶色い葉っぱが地面にはらはらと落ちた。
「元気出せよ。先生。」
今度は、落ちている空き缶を蹴飛ばした。転がっていく空き缶の軌跡を見届けた櫻井が、拾いに行った。
「まあ、しょうがあんめい。あの親から産まれたんだし。頭もねぇし、金もねぇし。なにやっても長続きしねぇし。やめたやめた。」
伊藤はやけくそ気味だが、自分の気持ちを吹っ切るように大きな明瞭な声で言った。
櫻井は空き缶をくずかごに力一杯投げ入れた。振り返ると、伊藤の顔を睨みつけて唇が震えた。
「親のせいか。そんなせいにするな。家や学校や友達が悪かってからか。そんなせいにもするな。人間はな、そんな風に自分ではどうしようもない遺伝や環境で、すべてが決まるんじゃない。それじゃ、おもしろくないだろ。親がどうしようもなかったら、その子もそうなるのか。戦争ばっかしの国で生まれたら、不幸のままか。人間には人間にしかないもってないものがある。それはな、自分で、変えていこうとする意志だよ。どうしようもないことがあったって、それに支配されて身動きできないで潰されるのを待ってることなんてありえないだんだ。そんなことに負けないで、自分をよくしていこうという意志があるんだ。・・・人間には・・・。それが、絶対、生い立ちだとか。生まれついての悪いところなんかも追いだしていくんだ。」
いつもは、おたおた話すことの多い櫻井は立て板に水のように断言している自分に違和感を感じた。唇の震えは止まらず、また、のどが異常に乾いた。水飲み場の水道を思い切り捻って、顔を横にして、がぶ飲みした。
*
校長室の壁には歴代の校長の写真が金縁の額に入って並んでいた。櫻井はそれを見るたびに退職近くの年齢では禿げる率は約六十%であるということを計算していた。櫻井が県の緊縮財政には不釣り合いな大きな深いソファに座ると、目の前の教頭が不愉快な顔を突き出した。
「櫻井先生、好奇心で生徒の家庭へ首をつっこむのは、どうでしょうか。先生にもお考えはあると思いますが、教師の仕事の範疇を越えているのではないですか。」
「はあ。」
櫻井は空返事であった。
「まあ、県民の目があることですから、慎重におねがいします。」
教頭の横に腰掛けてきた校長が同調した。大きなソファに座りなれているように、体躯を埋めた。
「はあ。」
櫻井は『はあ?』とおじさん臭に辟易して、生徒のように『違うだろうおめぇよ。』と否定の意味のアクセントで言いたかったが、できずに肯定した。
「学籍番号62541の伊藤君のお父さんから、クレームがありました。いきなり押し掛けて、頭ごなしに、親の指導がなってないって、校長はそんな無礼な教師を放っておくのか。」
教頭はメモを見ながら鬼の首をとったように言うと、校長の横顔を見て自分の手柄を自慢していた。
「え。それは。」
弁解しようと櫻井は考えたが経験則により止めた。
「教頭先生は先生の家庭訪問を非難しているのではありませんよ。ただ、何の事前の報告なしに、行くのはよくありません。教頭先生には先生方の管理義務がありますから。」
校長は手柄を立てた家来を労った。
「はあ。」
櫻井はまた心なく肯定した。
校長の机の上の電話が鳴った。教頭がとった。教頭は櫻井の方を向き、電話を取るように催促した。
「失礼します。」
櫻井は校長に小さくお辞儀をした。
「もしもし。」
電話の向こうには佐々木がいた。
「先生、大変。大変。大変。」
「どうしました?大変だけではわかりません。」
急に泣き声に変わった。
「どうしたんですか?」
「嫁を殺しちゃった。」
そう言うと鳴き声は一段と強くなった。
「何、言ってるんですか。」
「ツゥーツゥー。」
電話がとぎれた。事の顛末を暗示しているようで、櫻井は不安になった。
櫻井は時計を見た。頭を両手で抱えた。説得力を持たせようと瞬時に考えた芝居をうった。
「失礼します。急用が出来たもので。教頭先生、休み、これから取ります。」
「何ですか、急に。まだ、校長先生からお話があるんですよ。」
「実家で、母が。母が、倒れました。」
心の中で櫻井は母親に『ごめん』といいながら、迫真の演技をしている自分にこんな一面があったかと不思議に思った。
「それはいけない、早く帰りなさい。」
校長はソファに埋まった身体を肘掛けに片手をついて起き上げた。
「失礼します。」
櫻井はドアに向かってお辞儀をして出ていった。
「休みの届けは出してください!」
教頭は廊下を追いかけてきて櫻井の背中に自らの職責を全うする言葉を投げつけた。
「ハイ。」
感情のない大きな言葉が櫻井のサンダルの音とともに昇降口に消えていった。下足に履き替え、校門を突き抜けようとしたとき、櫻井は自分が佐々木の家を知らないのに気がついた。急いで、2階の職員室にあがり、佐々木の生徒カードを引っ張り出し、コピーした。
「何してるのですか?」
教頭が後ろにたって、コピーしているものを覗き込んでいた。
「何でもないです。」
その少し不気味な執拗さをはねつけると櫻井はサンダルの音を木霊させながら階段を駆け下りた。
「明日の朝、一番で届けを出してくださいね。」
また、同じ言葉が上から投げられてきた。
「明日の朝、一番で届けを出してくださいね!」
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