鈴音さんのおと

追憶劇場

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鈴音さんの音

鈴音さんの音 3 旧暦1750年頃 詳細不明

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「ここっすか、先輩?」
神無州国某所
人気の無いコインランドリーにスーツ姿の男女が居た。
先輩と呼ばれた女が、男が弄っている洗濯機の隣に指をさして言った。
「そこ。も一個左。ほら、青い印有るだろ、そこひっぱんの。」
「これっすか…おっ、開きましたよ先輩!」
「そりゃ扉んなってるからな。入るぞ。」
「あっちょっと待ってくださいよ先輩!」
女が洗濯機に付いている青い印を捻り、そのまま引っ張ると奥に通路が出現した。
「ねえ先輩、自分何も知らされてないんですけど、どこ行くんすか?と言うかまず先輩と直接会ったのも今日初めてっすよね。今までメールばっかだったし…先輩って普段何してんすか?」
「…」
「シカトっすかぁ!?」
しばらく沈黙が続き、曲がり角に着いたところで女がおもむろに口を開いた。
「そう言えば…お前名前なんだっけ」
「そう言えば自己紹介もしてなかったっすね。俺の名前は―」
「着いたぞ。」
「…言わせてくださいよ」
「言われたところでどうせすぐ忘れる。明日にぁ居ないかもしれんしな。」
「それってどう言う…?」
話している内に、二人は病院のように見える施設の問を潜っていた。
「今から警告しておく。鈴の音が聞こえてきたらすぐ耳塞げ。無理なら死ぬと思え。」
「新型の…兵器っすか?」
「…そう言っても過言でぁ無いかもな。」
その後、二人は一室に通された。
「ここは…なんすか?」
「…『鈴音さん』の部屋だ。くれぐれも失礼の無いようにな。」
「その鈴音さんって誰っすか?友達?」
「今にわかる。」
女が言い終わると同時に、部屋の奥から
チリン
と、鈴の音色が聞こえた。


「調子はどうだね、須賀君。」
2時間後。
2人がいる部屋に白衣を纏った男が入ってきた。
「見ての通り、絶好調よ。」 
須賀君と呼ばれた女がそばにいる男を一瞥して言った。
どこを見るでもなくただ座って言葉にならない音を発している。
須賀が頬をつついたが反応を示さない。
「そうか、うん。まぁ廃人…だな。」
白衣の男は手に持ったボードに二言程書き込んだ後、須賀を連れて部屋から出た。
「あれどうすんの?」
「うむ、あれは処分だろうな。」
「処分、ねぇ…」
「何だい?愛着でも沸いたかな?」
「いや、別に…」
 部屋から出る直前、また男を一瞬みて須賀が言った。
「ただ、勿体ないなと思っただけ。」

自分の部屋に戻る途中、須賀は鈴音さんに出会った。
チリン
と微笑まれた。
「あれ…また部屋から抜け出してきたの…」
ぼんやりする頭を振って正気を取り戻すと、須賀は鈴音さんをつれて部屋へ戻った。
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