記憶を探して

夏樹

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2話

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「...い...!おい!聞いているのか!!」

目の前には少し怒った様子の青年が立っていた。

「やっと目を覚ましたか」

「...」

その瞬間、大きな不安が身を包んだ。
さっきまで、腕の中で眠っていた赤ん坊がいないのだ。

だが最悪の場合を考えてしまい、それを知りたくない恐怖に青年に赤ん坊の安否を聞くことは出来ず、ぱくぱくと情けなく口を開閉する他なかった。

「赤ん坊は部下に面倒を見させている。安心しろ、殺してなんぞいない」

こちらの様子を察してか、聞く前に向こうから答えてくれた。
青年は、悪ガキの様な活発そうな見た目に反し、大人びた喋り方で冷静であった。

「それよりも、今はお前達の取り調べを進めなければならない」

取り調べとは面白い。何も覚えていない俺に向かって思い出せというのか。

「お前の名前を言え」

「な...まえ...?」

「そうだ」

「なま...え...俺の...うっっ...!!!」

瞬時、前と比べ物にならないほどの強大な衝撃が頭を打った。
強すぎる衝撃に目眩がする。



















『悪魔ノ子』




『罪ニン』




『来るナ』




『ミるな』




『キエテシマエ』











『Διάβολος』



















「ディア...ボロ...ス???」

「はあ?」

青年は確かめるようにもう一度聞いた。

「お前の、名前を、言え」

誰かが、大勢の誰かが名前を呼んでいた。
来るなと、見るなと、『消えてしまえ』と、、
そして一斉に叫んだ。

「ディア...ディアブロ...??」























『違うよ』




『君は悪魔なんかじゃない』




『名前が無いのなら僕がつけてあげる』




『君にぴったりの名前かあ、そうだなあ...』




『ゆう、優...優!!それがいい!!!』




『異国の言葉でね、優しいっていうのと、優れているって意味があるんだ』




『君にぴったりだろう?』













『君は誰よりも優しい声をしているから』


























「ゆ...う...?」

「ゆう?それがお前の名前か?」

こくこくと頷き、震える指先で地面をなぞる。
さらさらとした砂質の地面に一つの文字が浮かび上がった。

「優」

「異国の文字か。これでゆうと読むのか?」

「優。俺の名前」

優の返答に青年は一息ついて言った。

「そうか、もうディアブロだなんて笑えない嘘はつかない事だな。聞いていたのが俺じゃなければ最悪殺されていたぞ」

「死ぬのは嫌だな。以後気をつけよう」

苦笑してはいたが直感的に彼の言うことが本当なのだと悟り、間違いでも言わないようにしようと心に誓った。

「俺の名前はルイス。小規模だがこの班の班長を任されている」

「そうか、よろしく」

「話を戻すがお前達はどこから来たんだ?」

一番困る質問だ。

「覚えていない」

そう答えるしかない。

「覚えていないということは無いだろう。誰かがここまで運んだというのか?」

「何も思い出せないんだ、何も。いや、さっき名前は思い出せたな。撤回する。名前以外思い出せない」

するとルイスは大きなため息を着いたあと、言った。

「思い出せないって...じゃああの赤ん坊は誰の子だ?お前の子か?まさかそれも思い出せないなんて言うんじゃないぞ」

「いや、あの子は俺の子じゃないさ。泣き声が聞こえてきてな、ここで見つけた」

「親は」

「周りには誰もいなかった」

「お前ら揃って孤児というわけか...」

自分の年齢が幾つであるかなんて覚えているわけでもないが、孤児という年齢では無いだろう。せいぜい17~8くらいだ。

「まあ俺はともかくあの赤ん坊はそうだな」

「ならあの赤ん坊だけでもあずか...」

「嫌だ!!!」

あの赤ん坊のためにもそれがいいということは重々承知していた。
自分にその権利も知識もないこともわかっていた。
絶対に苦労させてしまうこともわかっていた。
生かしてやることが出来るかも不安だった。
でも、それでも、あの赤ん坊を手放すことだけは、それだけは優の本能が拒絶していた。

「そ、そうか、ならお前も拠点に来るといい」

急な大声に驚かせてしまったようだったが、彼の口から出たのは戒めの言葉ではなく新たな提案だった。それも「お前も」というこれ以上ないものであった。

「いいのか?」

「ああ、孤児はもちろん、記憶をなくした異国人を野放しには出来ないからな。これも仕事だ」

そう微笑むルイスはやはり活発そうな印象をうける。だが仕事だと言いながらもこちらを気遣ってくれているようで、意外と優しい奴なのかも知れない。

「班長!荷台の修理が終わりました!いつでも出発可能です!」

ルイスの部下らしき男が報告してきた。
いつまでも出発しないでここで話をしていた理由は馬車の荷台が壊れてしまったのを修理していたからだそうだ。

「ほらよ」

そう言って渡されたのは綺麗に体を拭かれた赤ん坊だった。

「その赤ん坊の名前はどうするんだ?お前が付けるんだろう?」

名前。そんなもの見た時から決まっているさ。

「名前は」

自分の名前の隣に指を滑らせた。

「葵」

「なんと読むんだ?」 

「あおい、葵だ。俺の大切な人が教えてくれた...気がする」

「...気がする、か」

そう言って苦笑しながらも、「いい響きだ」と褒めてくれた。

「お前は葵だってよ」

と、葵の頬をふにふにといじっていた。その光景は兄と弟のようで、とても微笑ましいものであった。















































初めてあったにしてはこいつのことを気に入りすぎただろうか、、
こいつとは初めてあった気がしない。
そんな臆測も馬鹿な考えだと言い聞かせた。

































これで何度目だろう。
ふとそんなことを考えたが、なんのことを言っているのか自分でも分からなかった。
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