黒竜使いの少女ナタリア

杏栞しえる

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小さな剣士

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 ジルは使用人の子供たちとすぐに仲良くなった。今では私の弟としてこのお城に住まわせてもらっている。エデンさんやシアンさんともすっかり仲良しだ。私たちは今日も城内の森で練習を開始した。ジルは子供でも持ちやすい軽い素材の剣で必死についてこようと剣を振るっている。
「腕がいい」
 木陰で休んでいるエデンさんがジルに笑いかけた。
「ありがとう!」
 ジルはとっても嬉しそうだ。
「僕、強くなってお兄ちゃんたちを助けに行くんだ!」
「お兄ちゃんたち?」
 私は聞き間違えかと思った。
「うん! 古いお城に置いて来ちゃったけど、五人兄弟なんだ」
 ジルの相手をしていたシアンさんも手を休め、三人で顔を見合わせる。
「お兄ちゃんたちのこと、詳しく聞かせてくれるかい?」
 柔らかい口調でシアンさんが言うと、ジルは快く話し出した。
 暗い森の中にひっそりと建つ古城で父を名乗る黒いマントの男に育てられたという。ジルを含め子供は五人。ゴールド、ルビー、エメラルド、サファイア。ジルは一番下だったそうだ。宝石の名前だと教えてあげると、驚いていた。その子たちにとっては、兄弟たちの名前なのだ。それから父がよく言っていたことを教えてくれた。強さ。強さが全てだと。死んでも負けるな。そう言われていたという。ジルは小さい頃から訓練させられていたのだ。元からセンスがあるとか、それ以前の話だった。
「ぼく、もっと強くなりたい」
 一通り聞いた後だとその言葉の重みがわかる。ジルは母という存在すら知らなかった。奥森で何が起こっているのか、早々に確かめに行かなければ。

 その夜、シアンさんの部屋で作戦会議が開かれた。
「明日の朝、ここを出よう」
 エデンさんは落ち着きはらって言う。
「奥森までの道はわかるのかい?」
 シアンさんが驚いたように彼の方を見た。
「いや、正直手探りだ」
 その言葉にジルの目が輝いて、
「ぼくなら詳しく知ってるよ」
 そう活き活きと言う。私が心配な眼差しを向けると、ジルはまっすぐ私の方を見た。
「こっちに来る途中で町があったんだ」
「町? 私のおばあちゃんは人が住まないって言っていたけれど」
「森を抜けたら人もいたよ」
 彼が嘘をついているようには思えなかった。
「おばあちゃんとお母さんに手紙を書くわ。それで聞いてみる!」
「じゃあ、明日行くのは無理そうだね」
 シアンさんの言葉を誰も否定しない。作戦会議はお開きとなった。
 翌朝、フォリンに託した手紙は夕方に返ってきた。今度はエデンさんの部屋で集まっている。
「バボンという職人の町があるんだって」
 手紙の内容を披露する。
「もしそこに行きたいなら必ずマントで身を隠しなさいとも書いてあるわ」
「元からそのつもりさ」
 そう言うと、エデンさんは茶色のマントを持ってきた。四人分だ。
「明日の朝だな」
「フォリンに四人も乗れるの?」
 シアンさんが私を見る。
「狭くなりますが乗れますよ」
 男性陣は剣の手入れをし始めた。私も弓を丁寧に拭く。フォリンは大きないびきをかいていた。
「すまないが、今日は皆この部屋で寝てもらう」
 私が口を開こうとすると、エデンさんはそのまま続けた。
「レディにはベッドで寝てもらわなきゃな」
「い、いえ。私は床で」
「そういう訳にはいかないよ。僕たちは狩りで慣れているんだから」
 シアンさんも私に譲ってくれた。ジルもうなずいている。
「じゃ、じゃあ、ありがとうございます」
 枕元のランプを消すと、空には星が浮かんでいた。そのまま皆眠りにつく。

 まだ空気が澄んで冷たい頃、私は揺すり起こされた。身支度を済ませると、フォリンとジルを起こす。王子二人はとっくに準備を終えていた。あまり音を立てないように窓を開け放つと、フォリンに飛び乗った。ジルを先頭に、私は彼を包むように支えた。私のすぐ後ろにはエデンさんがいて、その後ろはシアンさんだ。フォリンは優雅に羽ばたいた。森は霧で覆われ私たちの頬を濡らす。
「茶竜を見かけたら何があってもすぐに退散しよう」
「ええ」
「だからフォリンからはなるべく離れないように」
 エデンさん曰く作戦の前にはルール決めが必要だそうだ。咄嗟の判断が命取りになることも多いらしい。ジルの指示もあまり気にせずに、フォリンはまるで家にでも帰るかのようにすいすいと進んだ。奥森には古城があるとして、その周辺に職人の町もあるはずだ。手紙によるとラパーニュ国の設備はかなりこの町から仕入れられているらしい。そしてバボンから引き抜いた武器職人は、私の弓やエデンさんの剣の作り手でもある。だから、なのかもしれない。バボンを訪れたとき懐かしい感覚に襲われたのは。
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