黒竜使いの少女ナタリア

杏栞しえる

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五色の竜

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 私とエデンさんは城の端に設置された職人たちの作業場に向かって走っていた。丁寧な作りの建物も彼らが作ったものである。花細工が施された銀の扉を開けると、一斉に視線が注がれた。
「ティディアントはいるか」
 エデンさんの声に皆の視線はある老人に向けられる。
「ちょっと来てほしい」
 老人は表情を変えずにとぼとぼと歩き出した。外に出てくると、老人は彼の顔をまじまじと見る。
「どうかいたしましたか」
「バボン出身だろう?」
 老人はその地に思いをはせる目をした。
「ええ、そうです」
「今日、そこに行ってきた」
 すると無表情だった老人が目を瞠った。
「よくぞ、ご無事で……」
 すがるように彼に抱き着いている。
「バボンのこと、詳しく聞かせてくれないか」
「ええ、ええ、私の知っていることならば全てお話いたしましょう」
 涙を流しながら、バボンで密かに語り継がれる伝説について教えてくれた。
 ずっと遠い昔、世界には五種類の竜がいた。金竜、黒竜、白竜、青竜、茶竜。最も力があったのは金竜だったが、進化していく人間たちに狩られてしまう。同時進行で竜の中でも権力争いが巻き起こった。圧倒的な強さの金竜がいなくなったこの土地で黒竜は新たな地位を築き上げた。黒竜は気性が荒く、扱いにくい。他の竜たちは人間と共存する道で生き永らえたが、黒竜だけは違った。そこへ黒竜を駆逐する部隊が他の竜と人間たちで組まれる。その戦いでも多くの血が流れた。二千年以上前のことだ。黒竜も大きく数を減らした。時代と共に人間と竜はさらに共同生活を送るようになっていく。特に魔法使いたちの間では重宝されたのだ。一見収まったかに思われた争いは魔法使いたちの間で再燃してしまった。そこで強かったのが、ダーコイル一族だ。彼らは一族で強力な力を発揮するとその地に住む人々を守った。そして、約千年前。彼らに奇襲をかけた者がいた。かつて同じ土地を支配していたエリダム一族だ。エリダム一族はまだ幼いナターシャという女の子を森で殺害した。無抵抗な子だったそうだ。それがきっかけで彼女の兄は以前にも増して、誰にも負けない強さを求めた。伝説の竜と協力な絆を結んで。
「私、フォリンという黒竜と友達なんです」
 書でも読むかのように語る老人に私は思わず口を挟んだ。
「フォリン? まさか、黒竜はもう絶滅したはずじゃ……」
 エデンさんもすかさず口を開いた。
「茶竜もいます。僕はこの目で見た」
 老人は静かにうなずいた。
「そう、苔色の混じった茶竜。ダラクサスはダーコイル一族に仕えていると聞きます。今でも」
「……バボンの方々は彼らにお金を脅し取られているんですか?」
 彼は悔しそうに服の袖で涙を拭っていた。
「お金だけじゃない。若い娘がときどき犠牲になるんだ。……子孫繁栄のためにね」
 その言葉に私たちは目を見合わせる。
バボンでは若い娘が攫われるという。抵抗して奥森に出向いた者はもう二度と町へは戻ってこなかったそうだ。ずっと昔からダーコイル一族がバボン町を見張っている。不自然に町を離れてはいけない。お金を納めなければいけない。娘が生まれた家は災難だったという。ちょうど私くらいの年齢になると黒いマントの男が引き取りに来る。無駄な動きをすれば一家は壊滅。家族は涙を呑んで送り出すらしい。
「茶竜、ダラクサスを倒すと言ったらバボンの人は協力してくれますか」
 エデンさんが聞くと老人は顔を上げた。
「水面下で準備を進めている者もいると聞きます。ただ、バボンにはダーコイル一族もやってくる。気づかれたら、長年の努力が無駄になってしまいます」
 だんだんと流れが見えてきた。今もバボンに住んでいるというティディアントさんの友人の店を教えてもらう。私たちはその人に会いに行くことにして、彼に話してくれたお礼を言った。
部屋に戻るとフォリンが部屋の中を旋回しているところだった。ジルとシアンさんも部屋にいる。事情を話すとシアンさんは珍しく深刻な顔つきになった。
「今日のことあるから四人での行動は避けた方がいいかもしれないね」
「シアンさん、ジルと一緒に古城を調べてもらえますか」
 彼は静かにうなずく。
「ナタリアと僕は明日の朝、バボンに向かおうと思ってる。ここからは二手に分かれよう」
「わかった。ジル君もそれでいいね?」
「うん!」
 日が沈む前にそれぞれの部屋に戻り、静かに出発の時を待った。
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