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とある湖
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「ごめん、君を危険な目に遭わせるところだった」
「ううん。私、なんだか全然っ理解出来なくて。どうして奪っていくのかな」
怒りで声が震える。彼は振り向くと顔色を変えた。
「ナタリア、目が……」
「目?」
「赤くなってる」
「え……」
今朝見たルビー色の目を思い出す。深呼吸しているうちに鼓動も落ち着いていった。
「あ、いつもの色になった」
エデンさんの声を聞いてほっとした。そして一気に脱力する。しばらく目を閉じて再び開けると、彼がフォリンに場所のイメージを伝えているところだった。迷いながら飛んでいるフォリンを見てはっとする。
「フォリン、私がいた湖よ! わかる?」
「グおん!」
急に方向転換したかと思うと、今度は迷わず飛び始めている。
上空から見ると豆粒のように見えた水溜まりも、いざ近くで見ると大きな湖だった。その地に足を踏み入れると、どこか埃っぽい香りがした。フォリンを縮めてポケットに入れる。
職人の家を見つけるのは地図のおかげで非常に簡単だった。山小屋のようで、周りには純白の星々のように美しいツウィンベルの花が咲いている。彼が描いた絵とそっくりだ。私たちは湿った土に気をつけながら家の前まで行き、木製のドアを軽く叩いた。しばらくして無言で扉が開く。中からは無精ひげの生えた男性が出てきた。
「君は……」
私の顔を見るなりいきなり抱き着いてくる。フリーズしているとエデンさんの力強い手で離された。
「彼女になにするんですか」
不機嫌な声で言うとエデンさんは私の肩を抱き寄せた。その人は何故か泣きそうな顔で私たちを見ている。
「彼女はサザリンの生き写しだ」
家に上がらせてもらい、事情を聞く。すると、サザリンさんとはどうやら彼の昔の恋人らしかった。
「バボンでは若い娘が頻繁に行方不明になっているんだ」
彼の声は昔話を語るように淡々としている。
「私、夢でおそらく母を見たんです。サザリンさんの髪の色は、私と同じブリュネットですか?」
そう尋ねると彼は何度もうなずいて泣いていた。話を聞いていくと、エデンさんを助けてくれたのもやはり彼らしい。マントを外すまでわからなかったそうだ。
「この湖の辺りにはまだ何軒か家があるんだ」
そう説明してくれる彼はさっきとは別人のように生き生きとしている。この辺りの家は地下空間で繋がっているのだという。彼に連れられるまま私たちは地下へと降りた。
土に埋め込まれたオレンジ色の光には、見覚えがあった。ワンピースの裾をつけないよう、優しく持ち上げる。長い地下空間はひんやりとしていて、男性を先頭に歩いていくとやがて大きな広場に出た。
「ここがメインエリアだよ」
私たちはその場の空気に圧倒された。沢山の人が住めるであろう仕切りのあるスペース。日持ちする木の実などの食糧。そして、天井にまで及ぶ武器の数々。それだけで多くの人が関わってきたのだと伝わってくる。
「じゃあ、地下組織の方は沢山いらっしゃるんですか?」
目を輝かせて聞いた私はバカだった。彼は力なく笑う。
「今では町の人もその大半は諦めてしまっていてね」
「え……」
「私はサザリンを救うために十六の時からずっとここにいる。しかし、生活はままならないさ。ここにある食糧は救い出した人々に向けたものだ。私が食べるわけにはいかないからね」
思わず彼の肩に手を乗せていた。長年の努力を労わるように。そして、かばんから食料を取り出す。硬く焼かれたパンを彼に渡すと恥ずかしそうに食べていた。私は多分、この人の顔を生涯忘れることはないだろう。痩せ細った彼の体がたくましくさえ思えたのだから。
許可を得て簡易ベッドに腰かけると、どっと疲れが押し寄せた。その様子を見て男性はゆっくりしていってと言ってくれる。さらには、彼の提案で今日はこの地下空間で寝かせてもらえることになった。
私がもらったタオルで髪の水気を取っていると、隣のベッドから微かに寝息が聞こえてきた。エデンさんも相当疲れが溜まっていたのだろう。フォリンは私の横を陣取り気持ちよさそうに眠っている。彼らの呼吸を聞いていると、自然と眠気が襲ってきた。そのまま、ふっと意識が途切れる――
「ううん。私、なんだか全然っ理解出来なくて。どうして奪っていくのかな」
怒りで声が震える。彼は振り向くと顔色を変えた。
「ナタリア、目が……」
「目?」
「赤くなってる」
「え……」
今朝見たルビー色の目を思い出す。深呼吸しているうちに鼓動も落ち着いていった。
「あ、いつもの色になった」
エデンさんの声を聞いてほっとした。そして一気に脱力する。しばらく目を閉じて再び開けると、彼がフォリンに場所のイメージを伝えているところだった。迷いながら飛んでいるフォリンを見てはっとする。
「フォリン、私がいた湖よ! わかる?」
「グおん!」
急に方向転換したかと思うと、今度は迷わず飛び始めている。
上空から見ると豆粒のように見えた水溜まりも、いざ近くで見ると大きな湖だった。その地に足を踏み入れると、どこか埃っぽい香りがした。フォリンを縮めてポケットに入れる。
職人の家を見つけるのは地図のおかげで非常に簡単だった。山小屋のようで、周りには純白の星々のように美しいツウィンベルの花が咲いている。彼が描いた絵とそっくりだ。私たちは湿った土に気をつけながら家の前まで行き、木製のドアを軽く叩いた。しばらくして無言で扉が開く。中からは無精ひげの生えた男性が出てきた。
「君は……」
私の顔を見るなりいきなり抱き着いてくる。フリーズしているとエデンさんの力強い手で離された。
「彼女になにするんですか」
不機嫌な声で言うとエデンさんは私の肩を抱き寄せた。その人は何故か泣きそうな顔で私たちを見ている。
「彼女はサザリンの生き写しだ」
家に上がらせてもらい、事情を聞く。すると、サザリンさんとはどうやら彼の昔の恋人らしかった。
「バボンでは若い娘が頻繁に行方不明になっているんだ」
彼の声は昔話を語るように淡々としている。
「私、夢でおそらく母を見たんです。サザリンさんの髪の色は、私と同じブリュネットですか?」
そう尋ねると彼は何度もうなずいて泣いていた。話を聞いていくと、エデンさんを助けてくれたのもやはり彼らしい。マントを外すまでわからなかったそうだ。
「この湖の辺りにはまだ何軒か家があるんだ」
そう説明してくれる彼はさっきとは別人のように生き生きとしている。この辺りの家は地下空間で繋がっているのだという。彼に連れられるまま私たちは地下へと降りた。
土に埋め込まれたオレンジ色の光には、見覚えがあった。ワンピースの裾をつけないよう、優しく持ち上げる。長い地下空間はひんやりとしていて、男性を先頭に歩いていくとやがて大きな広場に出た。
「ここがメインエリアだよ」
私たちはその場の空気に圧倒された。沢山の人が住めるであろう仕切りのあるスペース。日持ちする木の実などの食糧。そして、天井にまで及ぶ武器の数々。それだけで多くの人が関わってきたのだと伝わってくる。
「じゃあ、地下組織の方は沢山いらっしゃるんですか?」
目を輝かせて聞いた私はバカだった。彼は力なく笑う。
「今では町の人もその大半は諦めてしまっていてね」
「え……」
「私はサザリンを救うために十六の時からずっとここにいる。しかし、生活はままならないさ。ここにある食糧は救い出した人々に向けたものだ。私が食べるわけにはいかないからね」
思わず彼の肩に手を乗せていた。長年の努力を労わるように。そして、かばんから食料を取り出す。硬く焼かれたパンを彼に渡すと恥ずかしそうに食べていた。私は多分、この人の顔を生涯忘れることはないだろう。痩せ細った彼の体がたくましくさえ思えたのだから。
許可を得て簡易ベッドに腰かけると、どっと疲れが押し寄せた。その様子を見て男性はゆっくりしていってと言ってくれる。さらには、彼の提案で今日はこの地下空間で寝かせてもらえることになった。
私がもらったタオルで髪の水気を取っていると、隣のベッドから微かに寝息が聞こえてきた。エデンさんも相当疲れが溜まっていたのだろう。フォリンは私の横を陣取り気持ちよさそうに眠っている。彼らの呼吸を聞いていると、自然と眠気が襲ってきた。そのまま、ふっと意識が途切れる――
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