黒竜使いの少女ナタリア

杏栞しえる

文字の大きさ
27 / 36

とある湖

しおりを挟む
「ごめん、君を危険な目に遭わせるところだった」
「ううん。私、なんだか全然っ理解出来なくて。どうして奪っていくのかな」
 怒りで声が震える。彼は振り向くと顔色を変えた。
「ナタリア、目が……」
「目?」
「赤くなってる」
「え……」
 今朝見たルビー色の目を思い出す。深呼吸しているうちに鼓動も落ち着いていった。
「あ、いつもの色になった」
 エデンさんの声を聞いてほっとした。そして一気に脱力する。しばらく目を閉じて再び開けると、彼がフォリンに場所のイメージを伝えているところだった。迷いながら飛んでいるフォリンを見てはっとする。
「フォリン、私がいた湖よ! わかる?」
「グおん!」
 急に方向転換したかと思うと、今度は迷わず飛び始めている。
 上空から見ると豆粒のように見えた水溜まりも、いざ近くで見ると大きな湖だった。その地に足を踏み入れると、どこか埃っぽい香りがした。フォリンを縮めてポケットに入れる。
職人の家を見つけるのは地図のおかげで非常に簡単だった。山小屋のようで、周りには純白の星々のように美しいツウィンベルの花が咲いている。彼が描いた絵とそっくりだ。私たちは湿った土に気をつけながら家の前まで行き、木製のドアを軽く叩いた。しばらくして無言で扉が開く。中からは無精ひげの生えた男性が出てきた。
「君は……」
 私の顔を見るなりいきなり抱き着いてくる。フリーズしているとエデンさんの力強い手で離された。
「彼女になにするんですか」
 不機嫌な声で言うとエデンさんは私の肩を抱き寄せた。その人は何故か泣きそうな顔で私たちを見ている。
「彼女はサザリンの生き写しだ」
 家に上がらせてもらい、事情を聞く。すると、サザリンさんとはどうやら彼の昔の恋人らしかった。
「バボンでは若い娘が頻繁に行方不明になっているんだ」
 彼の声は昔話を語るように淡々としている。
「私、夢でおそらく母を見たんです。サザリンさんの髪の色は、私と同じブリュネットですか?」
 そう尋ねると彼は何度もうなずいて泣いていた。話を聞いていくと、エデンさんを助けてくれたのもやはり彼らしい。マントを外すまでわからなかったそうだ。
「この湖の辺りにはまだ何軒か家があるんだ」
 そう説明してくれる彼はさっきとは別人のように生き生きとしている。この辺りの家は地下空間で繋がっているのだという。彼に連れられるまま私たちは地下へと降りた。
土に埋め込まれたオレンジ色の光には、見覚えがあった。ワンピースの裾をつけないよう、優しく持ち上げる。長い地下空間はひんやりとしていて、男性を先頭に歩いていくとやがて大きな広場に出た。
「ここがメインエリアだよ」
 私たちはその場の空気に圧倒された。沢山の人が住めるであろう仕切りのあるスペース。日持ちする木の実などの食糧。そして、天井にまで及ぶ武器の数々。それだけで多くの人が関わってきたのだと伝わってくる。
「じゃあ、地下組織の方は沢山いらっしゃるんですか?」
 目を輝かせて聞いた私はバカだった。彼は力なく笑う。
「今では町の人もその大半は諦めてしまっていてね」
「え……」
「私はサザリンを救うために十六の時からずっとここにいる。しかし、生活はままならないさ。ここにある食糧は救い出した人々に向けたものだ。私が食べるわけにはいかないからね」
 思わず彼の肩に手を乗せていた。長年の努力を労わるように。そして、かばんから食料を取り出す。硬く焼かれたパンを彼に渡すと恥ずかしそうに食べていた。私は多分、この人の顔を生涯忘れることはないだろう。痩せ細った彼の体がたくましくさえ思えたのだから。
 許可を得て簡易ベッドに腰かけると、どっと疲れが押し寄せた。その様子を見て男性はゆっくりしていってと言ってくれる。さらには、彼の提案で今日はこの地下空間で寝かせてもらえることになった。
 私がもらったタオルで髪の水気を取っていると、隣のベッドから微かに寝息が聞こえてきた。エデンさんも相当疲れが溜まっていたのだろう。フォリンは私の横を陣取り気持ちよさそうに眠っている。彼らの呼吸を聞いていると、自然と眠気が襲ってきた。そのまま、ふっと意識が途切れる――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編) 王冠を手に入れたあとは、魔王退治!? 因縁の女神を殴るための策とは。(聖女と魔王と魔女編) 平和な女王様生活にやってきた手紙。いまさら、迎えに来たといわれても……。お帰りはあちらです、では済まないので撃退します(幼馴染襲来編)

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...