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ゆらめく灯り
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翌朝、私はフォリンのいびきに起こされた。その気配でエデンさんも起きてしまう。身の回りを整え、すぐに男性の家の方へ向かった。道の途中、何度か動物の鳴き声のような地鳴りが聞こえた。フォリンはその度に耳をピンと立て、目をきょろきょろさせている。私はエデンさんとアイコンタクトを取ってその場に止まった。しばらくすると音はぷつんと途絶える。そして私たちは足音を立てないように再び歩き出した。昨日よりもオレンジの灯りはゆらゆらと不安定で、足元は見えづらい。最後はほとんど手探り状態だった。もう、彼の家の扉は頭上にある。私はフォリンの吐き出した小さな火で取っ手の位置を確かめた。握って少し押し開けようとした時。女の人の声がこちらまで響いた。エデンさんが息をのむのがわかる。私も必死に気配を消そうとした。
「ぼさぼさ頭の坊や、嘘はついてないだろうね?」
聞き覚えのある、ゆったりとした声。
「何度も言ってるじゃないですか。こんなところへは誰も来ないって」
「そう?」
日傘の女性だった。
「そうですよ」
自信のなさそうに揺れる声がこちらまで届く。
「ふーん?」
彼女は面倒くさそうにそう言うと、大きな音を立てて出ていった。彼女の気配が完全に消えると、男性はため息をつく。
「もう出てきていいよ」
私が恐る恐る扉を開くと、手が差し伸べられた。
「ありがとうございます」
部屋の空気は依然として張りつめている。続けてエデンさんとフォリンが上がってきた。
「多分、ここはもうだめだ」
テーブルには重たい空気が流れていた。紙を取り出すと、男性はさらさらと何かを描き始める。地下空間の地図だ。私たちに見せ、すぐにビリビリと破く。
「それ、燃やしちゃって」
フォリンは得意げに鼻をならすと、小さい炎で紙を燃やした。
「証拠が見つかっちゃうとまずいからね」
私たちは音もなくうなずく。彼の首には小さな傷があって、血が滲んでいる。私の視線に気が付くと、気まずそうに笑った。
「かっこ悪いだろ? 何も抵抗出来ないなんてさ」
私は首を必死に横に振った。
「そんなことないです。少なくとも私たちは助けられました」
男性は目を細める。
「君も本当に優しい人だ。彼女を思い出すよ」
その時下から誰かの口笛が聞こえ始めた。男性は目を閉じその音に聴き入ると、
「大丈夫。彼女は仲間だ」
と言ってドアを開けに行った。地下の扉を開けた瞬間から煙草のにおいが漂い、思わずそちらを見た。
「あら、早速私の服を着てくれてるのかしら?」
男性の手を借りて上がってきたのは、濃い紫の布を纏った女性だった。彼女が話す度に回りの空気が動いているように見える。彼女は服への情熱を一方的に語ると、突然思い出したようにため息をついた。
「もう時間がないわ。早く行くわよ」
「そうしよう」
彼女たちは迷わず地下空間へと入り、呆気にとられながら私たちもそれに倣う。地下のオレンジ色の灯りは足元まで及び、今度はもっとずっと歩きやすかった。前を歩く姿をぼーっと眺めていると、濃いリップが似合う顔が振り返りざまに口角を上げた。
「あなた、ダーコイル一族の者ね」
「え?」
「あなたのその目。気配。間違いないわ」
私が戸惑っていると、彼女はこう付け加えた。
「でも大丈夫。今の彼らの血は大分薄まっているから。それにあなたは別の場所で育った。違う?」
「どうしてわかるんですか」
得意げな笑みを浮かべると、彼女は前を向きながら話し始めた。
「ダーコイル一族はね、千年前までその強大な魔力を民を守るために使っていたの。それを破ったきっかけを作ったのはある兄妹。妹はナターシャと言って平和を好む子だったらしいわ。一方兄のナイトは強さを求めた」
彼女の話を聞いている間。私はずっと夢での光景を思い出していた。争う茶竜と黒竜。乱暴な兄にぼろぼろになっていく妹。あんなに小さな子を……。
「ぼさぼさ頭の坊や、嘘はついてないだろうね?」
聞き覚えのある、ゆったりとした声。
「何度も言ってるじゃないですか。こんなところへは誰も来ないって」
「そう?」
日傘の女性だった。
「そうですよ」
自信のなさそうに揺れる声がこちらまで届く。
「ふーん?」
彼女は面倒くさそうにそう言うと、大きな音を立てて出ていった。彼女の気配が完全に消えると、男性はため息をつく。
「もう出てきていいよ」
私が恐る恐る扉を開くと、手が差し伸べられた。
「ありがとうございます」
部屋の空気は依然として張りつめている。続けてエデンさんとフォリンが上がってきた。
「多分、ここはもうだめだ」
テーブルには重たい空気が流れていた。紙を取り出すと、男性はさらさらと何かを描き始める。地下空間の地図だ。私たちに見せ、すぐにビリビリと破く。
「それ、燃やしちゃって」
フォリンは得意げに鼻をならすと、小さい炎で紙を燃やした。
「証拠が見つかっちゃうとまずいからね」
私たちは音もなくうなずく。彼の首には小さな傷があって、血が滲んでいる。私の視線に気が付くと、気まずそうに笑った。
「かっこ悪いだろ? 何も抵抗出来ないなんてさ」
私は首を必死に横に振った。
「そんなことないです。少なくとも私たちは助けられました」
男性は目を細める。
「君も本当に優しい人だ。彼女を思い出すよ」
その時下から誰かの口笛が聞こえ始めた。男性は目を閉じその音に聴き入ると、
「大丈夫。彼女は仲間だ」
と言ってドアを開けに行った。地下の扉を開けた瞬間から煙草のにおいが漂い、思わずそちらを見た。
「あら、早速私の服を着てくれてるのかしら?」
男性の手を借りて上がってきたのは、濃い紫の布を纏った女性だった。彼女が話す度に回りの空気が動いているように見える。彼女は服への情熱を一方的に語ると、突然思い出したようにため息をついた。
「もう時間がないわ。早く行くわよ」
「そうしよう」
彼女たちは迷わず地下空間へと入り、呆気にとられながら私たちもそれに倣う。地下のオレンジ色の灯りは足元まで及び、今度はもっとずっと歩きやすかった。前を歩く姿をぼーっと眺めていると、濃いリップが似合う顔が振り返りざまに口角を上げた。
「あなた、ダーコイル一族の者ね」
「え?」
「あなたのその目。気配。間違いないわ」
私が戸惑っていると、彼女はこう付け加えた。
「でも大丈夫。今の彼らの血は大分薄まっているから。それにあなたは別の場所で育った。違う?」
「どうしてわかるんですか」
得意げな笑みを浮かべると、彼女は前を向きながら話し始めた。
「ダーコイル一族はね、千年前までその強大な魔力を民を守るために使っていたの。それを破ったきっかけを作ったのはある兄妹。妹はナターシャと言って平和を好む子だったらしいわ。一方兄のナイトは強さを求めた」
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