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全ての始まり
16. 入学日前日
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次の日、魔法学校入学日前日。本来というか普通であれば大抵の学生はもう1週間前には準備を終わらし新しく行く学校に思いをはせながら家にいたり友人と話したりするだろう。
しかし、私は違った。前日である今日に明日必要な物をすべて買いに行くのである。
転生する日が決まっていることも含めしょうがないことではあるのかもしれない。
そんなことを考えながら私は師匠の運転する車に乗り、道路を走っていた。行先も告げられずに。
しかし、この時の私はもっと別の意味で不機嫌だった。車内は重い空気だった。
「……」
「なあ、いい加減その顔止めない?そんな顔のままじゃ運転しづらいんだが」
「その原因を作ったのは師匠でしょうに」
「いや、まあそうっちゃそうだが」
2時間ほど前のことである。
「……ろ、……きろ、起きろアリス」
師匠の声で私は目を覚ました。しかし、少し考える。
(師匠の声がする……朝か……ん?ここどこだ?確か新しく自分のになった部屋のベッドに寝ていたはず……うん……寝心地もそれだ……なら何故師匠の声が?)
私は嫌な予感と共に声の方向に顔を向けた。
「起きたか……今何時だかわかる……うごふ!」
もはや恒例だが、私は師匠の顔を認識できた瞬間腹を蹴った。理由がないわけではない。
「師匠……なんで女子の部屋に……しかも無断で……モラルって言葉ご存じで?」
「残念だが……うぐ……知ってるよ。じゃあお前に問うが……人としての常識はご存じで?」
「は?何言って知ってるに決まってるじゃないですか……何言って……」
「じゃあ今何時かわかるか?」
そう言われると私は机に置いてある、時計を確認する。現在時刻は8時だ。
「8時です……ん?8時?」
「そうだ……じゃあ俺は何時に玄関に来いといった?」
「……えーとー、8時?」
思いっきり頭に拳骨を食った。
「痛ったー!何すんですか!?」
「いいか?お前がちゃんと時間通りに玄関に来ていれば希望通りにお前の部屋に入ることは無かった!……がモラルどうこう言う前に時間を守るっていう常識は守れ」
そして今、時間を守らなかったことに対しての反省はしているが……不機嫌のは別の理由である。
「確かに時間を守らなかったのは謝ります。でもそれとこれは別!なんで女子の部屋に勝手に入るかなー!」
「弟子だから」
「弟子だったらプライベートは無しか!?ほかの女子に頼めばいいじゃないですか!?友里さんとか!ほかの女性も寮にいるんでしょう?」
「今住んでるのはお前だけだ。ほかの奴らは仕事先の寮にいるかもう寮を出て出勤したよ。あと、友里に関しては普段は寮にいない」
「え?なんで?」
「友里は基本的に魔法学校の寮で暮らしてるからだ。転生者が来て学校に入れる必要がある場合だけ寮にいる。それ以外は学校の事務員専用の寮暮らしだよ」
「……じゃあ今日から寮はあたし一人だけってこと?」
「いや?お前は明日から魔法学校に通学すんだから学校の寮に入寮する。菊生寮は転生者が仕事を見つけるか、結婚するまでの仮住居なんだ、長居は基本的にしない」
「師匠は普段どこで寝泊まりしてるんの?」
「別に俺結婚してないし、仕事も特殊だし基本的には荷物も含めて菊生寮だよ。だが、これも不老不死ゆえなのかもしれんが……俺ベッド使わんのよ」
「……は?どういう意味で?」
「人間として本来必要なのは理解してるから形としてはやってはみてるが……俺にはどうやら睡眠が必要ないようなんでね」
(それはもはや人間としてどうなんだ。……というかもしかしてだけど)
「もしかしてお腹もすかない?」
「ああ、残念ながら」
不老不死だからとかそういう問題ではなくもはや師匠が人間をやめていることに驚きつつ初めて師匠と出会った日のことを思い出す。
「でも私が転生したときの夜……思いっきりご飯食べてたじゃん!」
「それはなみんなから言われるんだよ。いつか呪いが解けて、感覚が全部戻った時にのために食べ物の味は覚えておいた方がいいってな。味は分かるし、匂いも感じ取れはするから」
「まじか……」
「マジだ……ていうかもう着くな」
師匠の言葉で外の景色を見てみる。確かに日本の景色ではなかった、それどころか私が待ち望んでいた異世界……中世ヨーロッパの景色が広がっていた。
「ほ、ほほほ!すげー!これぞ異世界じゃん!ここどこ?」
ここまであまりにも日本の景色を見て半ば魔法オンリーだった異世界への憧れ…興奮がここで爆発する。
「マギーロ魔法学園都市」
(なんだそのどっかの学園都市みたいな名前は……)
「ステア魔法学校を中心とした学園都市だ。といっても学生しか住んでいるわけではない、魔法の研究に従事する者、魔法関係の道具や書物を売る者、とまあつまりここに来れば魔法関係のものなら大抵揃う。ステアに通うのであればここで全部揃う」
「へー」
師匠の言葉はもう聞こえていなかった。
「街並みはずいぶん日本と違うようで」
「ここは統合自治区でな、日本人以外……ほかの国の人間も通うことができる。まあ管理してんの日本人だけどな。この都市を作るときデザインを決めるときに、やっぱり魔法関連の都市なんだから旧世界のハリーポッター準拠じゃないとっていう意見が多数でこうなった」
「さっすがー!日本人…っていうより識人分かってるなー!」
魔法都市を走り、中心部に着いた私たちはまずは制服を買いに行った。
本来であれば入学する数週間前…余裕があれば1か月前に寸法を取り注文するものだが、私の場合、もう時間がない。まあこれに関しては仕方がないことなので店に行くと軽く寸法を取り、出来上がっている(大きさは少し合わない)制服を入学式用で持ち帰るために買い、ちゃんと寸法を取った方をこれからの学校生活用に注文した。
店員の話によるとオーダーメイドだと製作する場所の関係で午前中じゃないと注文ができないらしい(ここで初めて朝が早い理由が理解できた。師匠の説明不足である)。
「さてと、午前中の大きい用事は済んだな」
(朝から揚げ物……重くないっすかね?)
服の注文が済んだ私たちは遅めの朝食をとっていた。適当に入った、喫茶店で何故かあったフィッシュアンドチップスである。
(てかなんでフィッシュアンドチップスあんの?ここもハリーポッター準拠?でも朝食には重いっすよ)
「食べれないなら残りよこせ」
「あーい」
半分ほど残ったフィッシュアンドチップスを師匠が平らげる。
「さて残りは…教科書と杖か……」
「どうしたの?」
「お前……入学祝ほしいか?」
今まで(4日程度)の師匠のからは想像できない言葉が聞こえて驚いてしまう。
「頭打った?」
「なんでそうなる。友里に言われたんだよ、弟子なら師匠と同じものを使いたいと思うもの、入学祝で何かあげてみたらどうだってな」
(友里さんに言われたってこと言わなきゃポイント高いのに……)
「そうだなー、師匠が使ってる時計!」
「無理」
即答である。
「なんでー?そんなに大切な物?師匠にもらったとか?」
「俺の師匠は400年前に死んでる、そんな昔に時計なんてあると思うか?」
「いや、無いか。じゃあなんで?」
「これはずいぶん前にその時の……この世界の日本の天皇から頂いたものだから」
(おっとー……これは予想外)
「ああ、なるほどそりゃあ駄目だわ」
(確かに旧日本でももし私が天皇陛下から何かもらったら家族だろうが友人だろうがあげる気とか失せるわ)
「時計が欲しいのか?まあお前には必要かもな、いろんな意味で」
「一言よけい!師匠と同じのが良かったんだけどなー。師匠とおそろいとかなんかほかの魔法使いと差別化出来てかっこいいし」
「そうか……なら懐中時計でいいか……じゃあ買って来よう。その間お前にはお使いを頼みたいんだが……いいか?」
「なんなりと!」
すると師匠はある場所を指さす、どうやら本屋のようだ。
「あの本屋が何か?」
「ここでお前の学校の教科書を買ってくるんだ。この袋を持っていくといい。それと……」
小さな紙きれ2枚に持っていた筆で何か書き込み私に手渡す。
(筆て……)
「何買うか分からんだろうから店員に渡せ、必要な物をそろえてくれるはずだ。それともう一つの紙に杖を買う場所と買うものが書いてあるから一緒に買ってきてくれ。いずれは一人……友人とここで買い物するだろう、その訓練だ。わかるな?」
「大丈夫……です!」
「そうか、なら行ってくる。あ、あともう一つ言い忘れた。杖を買ったからって使うんじゃないぞ?魔法学校や高校生未満の子供は保護者の同意または保護者が不在の状況で魔法使うと法律違反で補導されるから」
(あっぶねー!今聞いといてよかったー!使う気満々だったー!)
時計を買いに行く師匠を見送ると私は教科書を買いに本屋に向かった。
『菊乃屋書店』
「……」
(何も言うまい……何も言わんぞ)
中は表にあった名前とはだいぶ違う雰囲気であった。天井の隅にまで本がぎっしりと収められており、そこら中に本が平積みされており異国の本屋に来たのかと錯覚させられるほどである(異世界なのである意味間違いではない)
(ははーん、店の名前適当だな?とりあえず日本っぽい名前つけとけばいいって思ったか)
「何かお探しですか?」
すると店員らしき女性が話しかけてきた。
「ええと、明日からステア魔法学校に通うので教科書とか買いに来たんです。これリストです」
「あ、明日!?あ!ああ!もしかして識人の方?」
「ええ、まあ」
(これだけで分かるのか……)
即座に識人だとばれた。
「分かるんですか?」
「そりゃあもちろん!大抵の新入生は2.3週間前には買いに来るから」
「なるほど」
「じゃあリストを拝見しますね……えっと……ん?」
紙を見た瞬間、女性の顔が険しくなる。
「あの……どうかしました?」
一瞬、間違った紙を渡したのかと思うがポケットに入れずに来たのだ間違えるはずない。
「あのー、これ読めないんだけど、何語?」
「はい?」
紙を私も見る。
「あ、あー、そういうことか」
紙には英語でなければフランス語でもない、ちゃんとした日本語が書かれていた……はずである。ただ、昔の人が書いた古文かとツッコミたくなるような字が崩された文字だ。
(確かに読めん、旧日本ですら読める人間少ないんじゃないかこれ。あの人日ごろからこんな文字しか書けんのか?)
「どうかしましたかな?」
いつの間にいたのだろう、今度は老人…ここの店主と思われる人が声をかけてくる。
「あ、店長」
(あ、やっぱり店長か)
「この子識人で明日からステア魔法学校に通うらしいですが、教科書のリストが読めなくて……」
「どれどれ」
今度は店長がリストに目を通す。しかし文字を読んだ瞬間、目を見開く。
「君!これを書いたのは龍さんではないかい?」
「え?はいそうです」
「そうか、なぜ龍さんが君にこれを?」
「何故って言われても……私があの人の弟子になったから?」
その瞬間、その場が静まり返った。まるで聞いてはいけない言葉を聞いてしまったかのように。
「あ、あれ?」
「本当かい?でもこの文字は確かに龍さんの文字だ」
「あの……師匠が弟子をとることがそんなに変ですか?」
「そりゃあね、あの人は400年間一度も弟子をとったことが無いからだよ。周りの人たちからはいい加減弟子をとって隠居しろって言われるぐらいに」
(ああ、そういうこと……)
何となく納得がいった……が、私が龍の弟子と聞いた瞬間の周りの視線が痛いくらいに集まる。
「おっと、失礼。私がリストに書かれているものを持ってこよう、何か袋は持ってきてるかい?」
「えっと、師匠に渡された袋ならここに」
師匠から渡された袋を渡す。
「うーん、ちゃんと魔法掛かっているんだね。なら袋に詰めてくるから終わるまで店の中を自由に見て回るといい、いろんな魔法についての本がいっぱいあるからね面白いよ」
「ありがとうございます」
そういうと老人は奥に消えていった。いつの間にか女性もいなくなっている。
「……」
(自由に見ていいといわれてもなあ、ありすぎて逆に悩むんだけど)
「ねえ!あなた本当に龍さんの弟子なの?」
背後から声がした。声的に女の子だ。
(これは……ラノベ的にもハリーポッター的にも仲間フラグ……だがどっちだ?ロンか?ハーマイオニー?それとも…マルフォイか?フォイさんは仲間では……なかったけど)
意を決して振り返る。そこには女の子がいた……が二人……しかもどちらも瓜二つ……つまり双子である。両方とも髪が黒く長い……しかもぱっつん前髪でお姫様のようだ。顔もほぼ同じだった。唯一外見的特徴で見分けがつくとすれば、一方の胸が大きく、一方は小さいことぐらいだろうか。ただそれも服の上からだと同じに見えてしまい、やはり見分けが付きにくい。
そう服のせいである(断言)。だが、一つだけ言えることがあるそれは……
(ちょーーーーー、かわいいいいいいい!なにこれ!俗に言う姫様カット!?ここまで似合う人間がいるのか!?しゃべらなければくりそつな等身大の人形にしか見えんぞ!?やべー!光ってるよ!光り輝いてるよ!まぶしいよ!うわー!抱き着きてええ!髪触りてえええ!)
超が付くほどの美少女なのである。
必死ににやけるの抑える。
「え、うーんと……あれ?どっち?」
双子の片方が話す。
「あなた本当に龍さんの弟子なの?」
「まだ分からないわ、この子の虚言かもしれないじゃない」
今度は別の片方が話す。しかもほとんど同じ声質である、ますます訳が分からない。おかげで少し正気に戻った。
「ちょっとストップ!」
「「わ!びっくりしたー!」」
今度は同時、しかも声が似てるから一人の声として頭が認識してしまう。
私は頭を抱えた。
(おいおい、訳わかめだぞこれ。どちらかが腹話術ってことは無いっすかね?そうであってくれ頼む!それでなくても双子ってよく性格までは似ないって言うじゃない!たとえ一卵性だろうが二卵性だろうが…まあ正確まで瓜二つってパターンもあるけど)
「ふふふ」
「ふふふ」
双子が笑い出す。
「今度は何!?」
「ははは!ごめんね!あまりにも反応が面白いからからかちゃった!」
「は?」
「声は作ってるだけだよ?」
途端に双子の片方の声が低くなる。
「へ?ほあ?」
「声だけは似なかったんだよね!声と性格……それと体形以外は一緒!だから親も少しだけ安心してた!見分けがつくから」
(それはそれで親としてどうなん?ていうか二人がこれなら両親はどんなイケメンで?)
「私は霞 幸【かすみ さち】よ!」
声が変わらない方が自己紹介する。
「そして私は幸【こう】よろしくね」
続いて声が低い方。
「「二人とも漢字が幸せって書くんだよ!」」
またまた同じ声である。正直気味が少々悪い。
「気持ちが悪いかな?」
さちが聞いてくる。
(正直……ちょっと気味が悪いのはあるかな……でも)
昨日友里さんに言われたことを思い出す。
『主人公ならどんな困難でも立ち向かっていくもんでしょう?』
(正直これが友里さんの言う困難とは思いずらい……けど、見るからに私と同じ年齢……ってことは同級生かもしれいない……しかも飛び切りの美少女姉妹!なら選択肢は一つ!)
「声を同じにしないなら別に大丈夫……かな?」
途端に双子の顔が明るくなる。
「本当に!?ごめんねただのいたずらだったからもうしないよ。私たち……今年ステア魔法学校に入学するんだ……それでね?よければなんだけど友達になってくれないかなって?」
(来たあああ!)
「もちろん!私はアリス。よろしくね!」
私はさちとこう……二人と熱い握手を交わした。
(……っしゃあ!同姓でしかも同い年の美少女友人ゲットォォォォ!ああ!なんであたし男じゃないんだ!男なら姉妹丼なのにいいいい!)
「へえ、没落した名家の忌子と友達になるのか、龍さんの弟子は結構なもの好きなんだな」
今度は頭上、ちょうど真上の階段のところから声がした。男の子の声である。
と同時にさちとこうの顔色が曇った。どの単語であろうか……いや全部であろう。
(はーい、確定―!こっちがマルフォイでしたー!ありがとうございました!……ってか忌子?没落した家から生まれたから?それとも双子だから?もし後者ならこの世界の日本はまだそんな迷信信じてるってことになるけど……やっぱ旧だろうが新だろうが日本は情報の扱いが発展途上なんだなあ)
私があきれながらゆっくり見上げるとそこには階段の上からうすら笑うような表情でこちらを見下ろしている男の子がいた、こっちも年齢的に同い年だろう。
「何か用?」
「いや?2階にいたら龍さんの弟子だって言うのが聞こえたからさどんな奴だろうって見に来たんだ、ただの見物客さ」
(おいおいそれじゃあまるであたしたちが檻に入れられた動物みたいじゃん)
「そう?じゃあ見学料取るよ?そうだなあ、まだ子供だし5千円でいいわ」
とっさに旧日本の通貨で言ったは良いものの、まだこの世界……この日本の通貨を見たことが無かった私は金額が通じるか不安であった。まだこの国の貨幣価値もわからないのだから。
「5千円で良いのか?俺は一応名家の長男だぜ?それくらいならたやすいな」
恐らく男の子は私がマウントを取りに来ているのだろうと思っているのだろう、引き下がる気配はない…が私は違った。
(何でもいい、この世界に関する情報が欲しい……少なくとも、ここに住む15歳の日本人が知っていて当たり前な情報が……確かにこの国にとって識人は貴重なのだろう……しかしそれは旧世界の知識や常識だ、この世界で通用する確証はない。まあ私の前にも転生者はいっぱい来てるだろうし旧日本の常識はいくらかこの国でも浸透してるんだろう、だがそれでもそれを合わせたこの世界…日本のルール、法律はあるはず……普通の異世界転生の主人公なら主人公ルールで生前の常識を異世界の住人に押し付けるのだろうが……それではつまらない。郷に入っては郷に従え……日本人らしい考えだよなあ……知識や常識はあくまで武器……それを使ってこの世界で生きていくならその知識や常識をこの世界のルールに合わせて作り替え、戦う必要がある……それにはまず大前提としてルールを知らなければならない……とりあえずはこの国に住む15歳が知っていて当たり前の知識……常識……法律を!さあもっと情報をよこせ!)
「ふーん、まあ冗談だよ!本気にしないでもらえる?ところで聞きたいんだけど。その師匠……龍さんてそんなに有名人なの?あたし識人でさあ、つい先日にこの世界に来たばっかなんだよね!あんまり龍さんのことしらなくてさあ!」
恐らく名家であるということを前に出したかったのであろう男の子を軽くあしらい、今この時点で一番欲している情報……師匠に関することを聞いてみた。
今思えば、たった数日とはいえこの世界に転生してからずっと一緒にいるし師弟関係にもなった、しかし私は師匠に関して何も知らない……この世界の住人が知っておかねばならないことを……それは弟子としてはあまりにも恥ずかしいのである。
……が、軽くあしらわれたからかそれとも龍のことを師匠と呼んだからなのか……男の子の顔が突然険しく(先ほどの女性とは違う意味で)すぐに嫌な笑みに代わる。
「お前ー!龍さんの弟子なのにそんなことも知らないのかよ!まあ識人ならしょうがないかー!日本人なら幼稚園で習うぜ?この国で一番尊敬しなければならないのは天皇と龍さんだってよ!」
(あ、やっぱ日本だ。幼稚園あるんすね……ていうか陛下つけろよクソガキ……まだガキだからわかんないか!残念!)
「……はあ、有名なのはもう知ってるよ……周りの反応見れば……私が聞きたいのは内容!何か凄いことをして功績を上げないと有名にはならないでしょ?しかも天皇陛下と地位が同等って何すればそんなことになんのよ」
「そこまでは知らねえよ!学校でも400年間生きてて、400年前に大きな戦争を終わらせて英雄になったとか……日本とほかの国が戦争になった時に仲を取り持って戦争を回避したとか……それぐらいしか習ってないし」
「ふーん」
(意外と情報が出てこないな、天皇陛下と同等の地位になるくらいだし、400年分だから教科書丸々1ページ師匠の功績が書いてあるかと思ったけど、そうでもない。機密情報だから載せられないのか……あの師匠のことだから自分の功績が見られるの嫌で載せないように圧力かけたか……どれもありうる。っていうかますますオブザーバーが何なのかが分からなくなってくるなこれ)
ここで私は別のことに気づいた。さちとこうが震えていたのだ、明らかに尿意を我慢してるのではないそれならとっくにトイレ行ってるはずだ。
恐らく、先ほどの『没落した名家の忌子』という言葉を言った男のにおびえていた。
この世界で初めてできた友人を傷付けらた。しかも震えている二人は助けを求めるように私を見てくる……なら助けるのが友人の務め。私は笑顔なれど脅すような口調で謝罪を求めた。
「ちょっと気になったんだけど、没落した名家の忌子って何?てか友人がおびえてるんだわ!一言謝ろうか?」
しかし帰ってきた返答は予想外だった。
「は?謝るわけねえだろ。その二人霞家の人間だ、内の東条とは犬猿……いやそれ以上かな……憎みあってんだ、まあ主にこっちが一方的に憎んでる形だけどな。大昔は結構仲良かったらしいぜ?でもその大昔……霞家が禁忌を犯した……結果今では名前だけの没落した名家状態だな。東条家の人間は幼いころ頃から教え込まれるんだよ、決して霞家となれ合うな……彼らは禁忌を犯した罪人だってな」
「その禁忌について詳しく!」
「は?霞家でも東条家でもねえお前になんで話す必要あんの?」
(ですよねー)
「まあどうしても知りたかったらそこの二人に聞いてみたらどうだ?でもたとえ友人でも話せないかもしれないけどな!」
私は二人を見る……がやはりおびえていてそれどころではない様子である。
その時だった、恐らく今話している男の子のだろう、名前を呼ぶ声がした。そちらに顔を向けると階段の下に二人の男の子がいた。
「真一郎くん……」
(へー、こいつ真一郎っていうのか……覚えておいて損はないかな。……取り巻きってまんまマルフォイさんじゃないっすか……興味ないから名前忘れたけど…)
「なんだよ!こっちは識人と話してんだ、いいじゃねえか!お前らも聞いといた方が良いんじゃないか?貴重な識人様の旧日本とやらの話が聞けるぜ?」
「いいえ、帰る時間ですよ真一郎」
仲間が来てドヤ顔が炸裂していた真一郎だったが、今度は入り口から聞こえた女性の声を聴いた瞬間青ざめた。
見てみると、いかにも名家!というオーラが全身から駄々洩れている着物を着た女性が立っていたのだ。
「は、母上!」
(母上って……いつの時代だよ。てかあいつのお母さんか確かにいかにも名家って感じだな……そりゃあこんな人に教育されたら誰でもこうなるわ!つーかさっきの脅しが通じないのも納得したよ、あのお母さんに比べたらあたしの脅しなんて屁でもないだろうよ。てか人と話すときは見下ろすような形にしろって教わったのかね?)
真一郎の母は、真一郎のもとへ歩いてくると私とさちやこうを見た。真一郎とは違う……キリっとした目が印象的である。真一郎は恐らく父親似なのだろう。この目を見れば誰だって委縮してしまう……そんな目だった。
「真一郎が失礼をしなかったらかしら?」
「へ?」
「母上!そこの二人は霞家の人間です謝ることは無いはずでは?」
「それは知っています。でもこちらのお嬢さんは違うでしょう?」
この世界……いや、旧日本でもお嬢さんという呼び方はされた記憶はないため少し口がにやけてしまう。
「いやー、お嬢さんだなんて」
「でもそいつは識人です」
「識人だからなんだというのです?あなたは何か勘違いをしているのではないですか?私たち東条家が敵対しているのはあくまで霞家です。識人の方々は逆にこの世界に来るたびに私たちの生活を豊かにしてくれる旧日本の知恵や知識を持ってくるではありませんか。それを考えたら逆に感謝するのは当然でしょう?あなたは何をむきにになっているんですか?」
「………」
真一郎は完全論破されてしまった。返す言葉が見つからないようで視線を下げてしまう。
「ごめんなさいね、お名前は何というのかしら?お嬢さん?」
「あ、アリスって言います。つい4日前にこの世界にやってきました。明日からステア魔法学校に入学します」
「そう、アリスさんね。明日から……じゃあ真一郎と同じ学級になるのね。まあこの子がこれだから無理だと思うかもしれなけど出来たら仲良くしてあげてくださいな。……それと……」
お母さんはさちとこうを見る。二人は真一郎以上に委縮している。
「ねえアリスさん?真一郎から聞いたかも知れないけど、この二人の家……霞家はね昔禁忌を犯した罪人の家系なの。そして数ある名家の内、破門されて没落の名家になったのは霞家だけ。今や名家の中には政治家になっている方もいらっしゃるわ、あなたも識人ならこれから政府関係者……まあ言葉を崩せば偉い人ね、その方たちと会うのに霞家と交流があるのは何かと不便なこともあるかもしれないわ。今からでも私たちと仲良くするのがあなたのためだと思うわよ?よく考えなさいね?」
「……」
正直、私は今すぐにでもこの人を殴りたかった。でもそれとは裏腹に脳や体がそれを全力で阻止した。
さちとこうを見ると今にも泣きそうだ。まるで飼い主に捨てられそうな犬みたいである。そしてお母さんの顔を見る。表情は変わらず自分が正しいと信じ切っている、恐らく彼女の曇りなき善意による言葉なのだ。
(確かに、あたしはこの世界に来てまだ日が浅い……いや浅すぎるくらいかな。何も知らないからその辺の事情もよく分からない。多分だけどこの人の言う通り東条家と霞家は何かしらの因縁はあるのだろうね。しかもよっぽどのことが。でもさ、別に子供だからとかじゃないけど……今さっき友達になったばかりだよ?それなのに大人の事情でもう縁を切れって?いやに決まってるじゃん!でも暴力は駄目だ、私はこの人に殴られてもはたかれてもいない…言葉で殴られた…なら言葉で殴り返せばいい、ただそれだけ)
今一度さちとこうの顔をじっと見る、そして『大丈夫だよ』という意味で満面の笑顔を二人に向ける。二人はその笑顔に対して疑問の表情だった、おびえすぎて笑顔が『安心して』か『さようなら』とで迷っているのだろう。
そして真面目な顔に戻すと、顔をお母さんの方へ向ける。そして自分なの精一杯の敬語で返す。
「お誘いは嬉しいですが、私は二人と別れる……縁を切ることは無いです。二人はこの世界で初めて出来た友人なんです。そんな理由で縁を切るなんて私の選択肢には無いです」
「でも、見た感じついさっき友人になった感じではなくて?あまりお互いのことをよく知らないんじゃないのかしら?それで友人?おかしな話ね」
「違いますよお母さん……友達ってのは、例え一緒に話した時間が何時間…何分…何秒だろうが互いが友人だと認め合えば、もう友人なんです。お互いのこと?これから知っていけばいい、ただそれだけです。あともう一つ、二人と別れるなんてできない絶対的な理由があります」
「なにかしら」
私は二人の後ろに回り、両手で二人の方を掴む。
「こんんんんんなに可愛い二人の友達をやめろ不可能な話でしょ!見てくださいよ!この髪!すべすべで長くて綺麗!前髪は姫様カット!知ってますか!?姫様カットはですねファッションにもよりますが似合う女性以外がやると微妙……もしくはふつうになります。でもここまで完璧で似合うものは顔の造形が姫様カットにあった造形じゃないと無理です!前提小顔!プラス顔の形!それらのバランスが整った最高の姉妹ですよ!?例え何億、何兆積まれようが友達をやめるって選択肢は発生しえない!はぁはぁはぁ」
思いっきり力説して、吐き出した結果酸欠になりかけた。
(思いっきり公衆の面前で性癖暴露しちまったぜ、だが後悔はしていない……けど二人のほうがこれで友達止めたらどうしよっかなあ、ここまで言ったんだぞ?自殺もんだわ)
数十秒間沈黙が続いた。私だけが非常に空気が重いし、視線が超痛い。
沈黙を破ったのは意外にも真一郎だった。
「さ、さすがだな。やっぱり物好きなんだな、変り者って言われる龍さんの弟子になるだけのことはあるわ」
「っ!」
「え?マジ?」
「マジで?」
驚いたのは後から入ってきたお母さんと取り巻きだ。まあ後から入ってきたので無理もない。
「アリスさん本当かしら?それ」
「本当です。詳しくは言えませんが龍に弟子になれと言われてまあほぼ強制的に弟子にさせられました。……えっと、東条家さんは名家なんですよね?なら政治家等やいろんな所にコネがあるんでしょうから確かめてみたらどうでしょう?」
少しでもやり返す思いでちょっと言葉を含んで言い返す。
すると、お母さんの表情が無表情から驚き……そしてどこか悔しい?と見える表情になった。
「話が違うわね。真一郎、すぐに帰るわ確認しなきゃいけないことがあるから」
「え?あ、はい」
お母さんは真一郎を連れて足早に外へ行こうとした。
「あ、ちょっと待ってください!二つだけ聞きたいことがあるんです!」
お母さんは立ち止まり振り返った。
「二つだけよ?」
「一応聞きたいのですが、お母さんのお名前は……」
「冬香『とうか』よ覚えておきなさいまた会うかもしれないからね」
「はい……あと、もう一つ……簡単で良いので師匠……龍さんが英雄になった経緯を知りたいんです」
「弟子なのにそんなことも知らないのかしら?」
(すみませんね!こちとら転生して師匠と会って四日しかたってないんじゃ!この世界の情報を集めることに必死で師匠の事情なんて二の次だったんじゃい!度々疑問はあったけど)
「師匠は自分のあまり……全然話す人間ではないようなので」
「そう、私もあまり詳しい方じゃないけど教えてあげるわ。これは有名な話よ、およそ400年前……この世界で初めて大きな戦争が起きたの、闇の魔法使いの軍勢と当時の日本や諸外国による連合国との大規模な戦争よ、戦争が起きたのはもう少し前らしいけど文献が残ってないから分からないらしいわ。でもね戦争が終結したのは記録にあるらしいわ、それでもほとんど残ってないらしいけどね。その時に闇の軍勢のトップ…闇の女王『ファナカス』を単独で撃退したのが龍様……そしてその時に闇の女王の呪いを受けて不老不死になったらしいわ。あとは自分で調べるかご本人に聞いてちょうだい」
そういうと冬香さんは真一郎や取り巻きを連れて店の外に出ていった。
「……」
だが、私はさほど気にならなかった。新たに得た情報の価値がやばすぎて脳が早急に整理し始めたのだ。
(……闇の女王?闇の帝王でなくて?ヴォルデモートでなくファナカス?誰だそりゃ?この世界でのヴォルデモートの立ち位置なの?しかも闇の女王の呪いで不老不死になった?ていうか撃退したってことは生きてるってこと?でも終結したって言ってたし…情報が少ないからなりを潜めてるのかもう死んだのか分からない……でも死んだのなら、師匠の呪いは解けてると思うし、駄目だ。情報がまだ少ない)
「あ、アリス?」
「あ、ごめん」
こうが話しかけ来た。急に黙ったから心配したのかもしれない。
振り向くと二人が突然抱き着いてきた。よく見ると二人とも泣いている。
「ど、ど、どうしたの?」
「ありがどうーーーーー!」
「……」
「へ?」
「ごめん…ね、でもほん……とうにうれじぐて……」
「分かった分かった。とりあえず落ち着こうか」
しかし、私は違った。前日である今日に明日必要な物をすべて買いに行くのである。
転生する日が決まっていることも含めしょうがないことではあるのかもしれない。
そんなことを考えながら私は師匠の運転する車に乗り、道路を走っていた。行先も告げられずに。
しかし、この時の私はもっと別の意味で不機嫌だった。車内は重い空気だった。
「……」
「なあ、いい加減その顔止めない?そんな顔のままじゃ運転しづらいんだが」
「その原因を作ったのは師匠でしょうに」
「いや、まあそうっちゃそうだが」
2時間ほど前のことである。
「……ろ、……きろ、起きろアリス」
師匠の声で私は目を覚ました。しかし、少し考える。
(師匠の声がする……朝か……ん?ここどこだ?確か新しく自分のになった部屋のベッドに寝ていたはず……うん……寝心地もそれだ……なら何故師匠の声が?)
私は嫌な予感と共に声の方向に顔を向けた。
「起きたか……今何時だかわかる……うごふ!」
もはや恒例だが、私は師匠の顔を認識できた瞬間腹を蹴った。理由がないわけではない。
「師匠……なんで女子の部屋に……しかも無断で……モラルって言葉ご存じで?」
「残念だが……うぐ……知ってるよ。じゃあお前に問うが……人としての常識はご存じで?」
「は?何言って知ってるに決まってるじゃないですか……何言って……」
「じゃあ今何時かわかるか?」
そう言われると私は机に置いてある、時計を確認する。現在時刻は8時だ。
「8時です……ん?8時?」
「そうだ……じゃあ俺は何時に玄関に来いといった?」
「……えーとー、8時?」
思いっきり頭に拳骨を食った。
「痛ったー!何すんですか!?」
「いいか?お前がちゃんと時間通りに玄関に来ていれば希望通りにお前の部屋に入ることは無かった!……がモラルどうこう言う前に時間を守るっていう常識は守れ」
そして今、時間を守らなかったことに対しての反省はしているが……不機嫌のは別の理由である。
「確かに時間を守らなかったのは謝ります。でもそれとこれは別!なんで女子の部屋に勝手に入るかなー!」
「弟子だから」
「弟子だったらプライベートは無しか!?ほかの女子に頼めばいいじゃないですか!?友里さんとか!ほかの女性も寮にいるんでしょう?」
「今住んでるのはお前だけだ。ほかの奴らは仕事先の寮にいるかもう寮を出て出勤したよ。あと、友里に関しては普段は寮にいない」
「え?なんで?」
「友里は基本的に魔法学校の寮で暮らしてるからだ。転生者が来て学校に入れる必要がある場合だけ寮にいる。それ以外は学校の事務員専用の寮暮らしだよ」
「……じゃあ今日から寮はあたし一人だけってこと?」
「いや?お前は明日から魔法学校に通学すんだから学校の寮に入寮する。菊生寮は転生者が仕事を見つけるか、結婚するまでの仮住居なんだ、長居は基本的にしない」
「師匠は普段どこで寝泊まりしてるんの?」
「別に俺結婚してないし、仕事も特殊だし基本的には荷物も含めて菊生寮だよ。だが、これも不老不死ゆえなのかもしれんが……俺ベッド使わんのよ」
「……は?どういう意味で?」
「人間として本来必要なのは理解してるから形としてはやってはみてるが……俺にはどうやら睡眠が必要ないようなんでね」
(それはもはや人間としてどうなんだ。……というかもしかしてだけど)
「もしかしてお腹もすかない?」
「ああ、残念ながら」
不老不死だからとかそういう問題ではなくもはや師匠が人間をやめていることに驚きつつ初めて師匠と出会った日のことを思い出す。
「でも私が転生したときの夜……思いっきりご飯食べてたじゃん!」
「それはなみんなから言われるんだよ。いつか呪いが解けて、感覚が全部戻った時にのために食べ物の味は覚えておいた方がいいってな。味は分かるし、匂いも感じ取れはするから」
「まじか……」
「マジだ……ていうかもう着くな」
師匠の言葉で外の景色を見てみる。確かに日本の景色ではなかった、それどころか私が待ち望んでいた異世界……中世ヨーロッパの景色が広がっていた。
「ほ、ほほほ!すげー!これぞ異世界じゃん!ここどこ?」
ここまであまりにも日本の景色を見て半ば魔法オンリーだった異世界への憧れ…興奮がここで爆発する。
「マギーロ魔法学園都市」
(なんだそのどっかの学園都市みたいな名前は……)
「ステア魔法学校を中心とした学園都市だ。といっても学生しか住んでいるわけではない、魔法の研究に従事する者、魔法関係の道具や書物を売る者、とまあつまりここに来れば魔法関係のものなら大抵揃う。ステアに通うのであればここで全部揃う」
「へー」
師匠の言葉はもう聞こえていなかった。
「街並みはずいぶん日本と違うようで」
「ここは統合自治区でな、日本人以外……ほかの国の人間も通うことができる。まあ管理してんの日本人だけどな。この都市を作るときデザインを決めるときに、やっぱり魔法関連の都市なんだから旧世界のハリーポッター準拠じゃないとっていう意見が多数でこうなった」
「さっすがー!日本人…っていうより識人分かってるなー!」
魔法都市を走り、中心部に着いた私たちはまずは制服を買いに行った。
本来であれば入学する数週間前…余裕があれば1か月前に寸法を取り注文するものだが、私の場合、もう時間がない。まあこれに関しては仕方がないことなので店に行くと軽く寸法を取り、出来上がっている(大きさは少し合わない)制服を入学式用で持ち帰るために買い、ちゃんと寸法を取った方をこれからの学校生活用に注文した。
店員の話によるとオーダーメイドだと製作する場所の関係で午前中じゃないと注文ができないらしい(ここで初めて朝が早い理由が理解できた。師匠の説明不足である)。
「さてと、午前中の大きい用事は済んだな」
(朝から揚げ物……重くないっすかね?)
服の注文が済んだ私たちは遅めの朝食をとっていた。適当に入った、喫茶店で何故かあったフィッシュアンドチップスである。
(てかなんでフィッシュアンドチップスあんの?ここもハリーポッター準拠?でも朝食には重いっすよ)
「食べれないなら残りよこせ」
「あーい」
半分ほど残ったフィッシュアンドチップスを師匠が平らげる。
「さて残りは…教科書と杖か……」
「どうしたの?」
「お前……入学祝ほしいか?」
今まで(4日程度)の師匠のからは想像できない言葉が聞こえて驚いてしまう。
「頭打った?」
「なんでそうなる。友里に言われたんだよ、弟子なら師匠と同じものを使いたいと思うもの、入学祝で何かあげてみたらどうだってな」
(友里さんに言われたってこと言わなきゃポイント高いのに……)
「そうだなー、師匠が使ってる時計!」
「無理」
即答である。
「なんでー?そんなに大切な物?師匠にもらったとか?」
「俺の師匠は400年前に死んでる、そんな昔に時計なんてあると思うか?」
「いや、無いか。じゃあなんで?」
「これはずいぶん前にその時の……この世界の日本の天皇から頂いたものだから」
(おっとー……これは予想外)
「ああ、なるほどそりゃあ駄目だわ」
(確かに旧日本でももし私が天皇陛下から何かもらったら家族だろうが友人だろうがあげる気とか失せるわ)
「時計が欲しいのか?まあお前には必要かもな、いろんな意味で」
「一言よけい!師匠と同じのが良かったんだけどなー。師匠とおそろいとかなんかほかの魔法使いと差別化出来てかっこいいし」
「そうか……なら懐中時計でいいか……じゃあ買って来よう。その間お前にはお使いを頼みたいんだが……いいか?」
「なんなりと!」
すると師匠はある場所を指さす、どうやら本屋のようだ。
「あの本屋が何か?」
「ここでお前の学校の教科書を買ってくるんだ。この袋を持っていくといい。それと……」
小さな紙きれ2枚に持っていた筆で何か書き込み私に手渡す。
(筆て……)
「何買うか分からんだろうから店員に渡せ、必要な物をそろえてくれるはずだ。それともう一つの紙に杖を買う場所と買うものが書いてあるから一緒に買ってきてくれ。いずれは一人……友人とここで買い物するだろう、その訓練だ。わかるな?」
「大丈夫……です!」
「そうか、なら行ってくる。あ、あともう一つ言い忘れた。杖を買ったからって使うんじゃないぞ?魔法学校や高校生未満の子供は保護者の同意または保護者が不在の状況で魔法使うと法律違反で補導されるから」
(あっぶねー!今聞いといてよかったー!使う気満々だったー!)
時計を買いに行く師匠を見送ると私は教科書を買いに本屋に向かった。
『菊乃屋書店』
「……」
(何も言うまい……何も言わんぞ)
中は表にあった名前とはだいぶ違う雰囲気であった。天井の隅にまで本がぎっしりと収められており、そこら中に本が平積みされており異国の本屋に来たのかと錯覚させられるほどである(異世界なのである意味間違いではない)
(ははーん、店の名前適当だな?とりあえず日本っぽい名前つけとけばいいって思ったか)
「何かお探しですか?」
すると店員らしき女性が話しかけてきた。
「ええと、明日からステア魔法学校に通うので教科書とか買いに来たんです。これリストです」
「あ、明日!?あ!ああ!もしかして識人の方?」
「ええ、まあ」
(これだけで分かるのか……)
即座に識人だとばれた。
「分かるんですか?」
「そりゃあもちろん!大抵の新入生は2.3週間前には買いに来るから」
「なるほど」
「じゃあリストを拝見しますね……えっと……ん?」
紙を見た瞬間、女性の顔が険しくなる。
「あの……どうかしました?」
一瞬、間違った紙を渡したのかと思うがポケットに入れずに来たのだ間違えるはずない。
「あのー、これ読めないんだけど、何語?」
「はい?」
紙を私も見る。
「あ、あー、そういうことか」
紙には英語でなければフランス語でもない、ちゃんとした日本語が書かれていた……はずである。ただ、昔の人が書いた古文かとツッコミたくなるような字が崩された文字だ。
(確かに読めん、旧日本ですら読める人間少ないんじゃないかこれ。あの人日ごろからこんな文字しか書けんのか?)
「どうかしましたかな?」
いつの間にいたのだろう、今度は老人…ここの店主と思われる人が声をかけてくる。
「あ、店長」
(あ、やっぱり店長か)
「この子識人で明日からステア魔法学校に通うらしいですが、教科書のリストが読めなくて……」
「どれどれ」
今度は店長がリストに目を通す。しかし文字を読んだ瞬間、目を見開く。
「君!これを書いたのは龍さんではないかい?」
「え?はいそうです」
「そうか、なぜ龍さんが君にこれを?」
「何故って言われても……私があの人の弟子になったから?」
その瞬間、その場が静まり返った。まるで聞いてはいけない言葉を聞いてしまったかのように。
「あ、あれ?」
「本当かい?でもこの文字は確かに龍さんの文字だ」
「あの……師匠が弟子をとることがそんなに変ですか?」
「そりゃあね、あの人は400年間一度も弟子をとったことが無いからだよ。周りの人たちからはいい加減弟子をとって隠居しろって言われるぐらいに」
(ああ、そういうこと……)
何となく納得がいった……が、私が龍の弟子と聞いた瞬間の周りの視線が痛いくらいに集まる。
「おっと、失礼。私がリストに書かれているものを持ってこよう、何か袋は持ってきてるかい?」
「えっと、師匠に渡された袋ならここに」
師匠から渡された袋を渡す。
「うーん、ちゃんと魔法掛かっているんだね。なら袋に詰めてくるから終わるまで店の中を自由に見て回るといい、いろんな魔法についての本がいっぱいあるからね面白いよ」
「ありがとうございます」
そういうと老人は奥に消えていった。いつの間にか女性もいなくなっている。
「……」
(自由に見ていいといわれてもなあ、ありすぎて逆に悩むんだけど)
「ねえ!あなた本当に龍さんの弟子なの?」
背後から声がした。声的に女の子だ。
(これは……ラノベ的にもハリーポッター的にも仲間フラグ……だがどっちだ?ロンか?ハーマイオニー?それとも…マルフォイか?フォイさんは仲間では……なかったけど)
意を決して振り返る。そこには女の子がいた……が二人……しかもどちらも瓜二つ……つまり双子である。両方とも髪が黒く長い……しかもぱっつん前髪でお姫様のようだ。顔もほぼ同じだった。唯一外見的特徴で見分けがつくとすれば、一方の胸が大きく、一方は小さいことぐらいだろうか。ただそれも服の上からだと同じに見えてしまい、やはり見分けが付きにくい。
そう服のせいである(断言)。だが、一つだけ言えることがあるそれは……
(ちょーーーーー、かわいいいいいいい!なにこれ!俗に言う姫様カット!?ここまで似合う人間がいるのか!?しゃべらなければくりそつな等身大の人形にしか見えんぞ!?やべー!光ってるよ!光り輝いてるよ!まぶしいよ!うわー!抱き着きてええ!髪触りてえええ!)
超が付くほどの美少女なのである。
必死ににやけるの抑える。
「え、うーんと……あれ?どっち?」
双子の片方が話す。
「あなた本当に龍さんの弟子なの?」
「まだ分からないわ、この子の虚言かもしれないじゃない」
今度は別の片方が話す。しかもほとんど同じ声質である、ますます訳が分からない。おかげで少し正気に戻った。
「ちょっとストップ!」
「「わ!びっくりしたー!」」
今度は同時、しかも声が似てるから一人の声として頭が認識してしまう。
私は頭を抱えた。
(おいおい、訳わかめだぞこれ。どちらかが腹話術ってことは無いっすかね?そうであってくれ頼む!それでなくても双子ってよく性格までは似ないって言うじゃない!たとえ一卵性だろうが二卵性だろうが…まあ正確まで瓜二つってパターンもあるけど)
「ふふふ」
「ふふふ」
双子が笑い出す。
「今度は何!?」
「ははは!ごめんね!あまりにも反応が面白いからからかちゃった!」
「は?」
「声は作ってるだけだよ?」
途端に双子の片方の声が低くなる。
「へ?ほあ?」
「声だけは似なかったんだよね!声と性格……それと体形以外は一緒!だから親も少しだけ安心してた!見分けがつくから」
(それはそれで親としてどうなん?ていうか二人がこれなら両親はどんなイケメンで?)
「私は霞 幸【かすみ さち】よ!」
声が変わらない方が自己紹介する。
「そして私は幸【こう】よろしくね」
続いて声が低い方。
「「二人とも漢字が幸せって書くんだよ!」」
またまた同じ声である。正直気味が少々悪い。
「気持ちが悪いかな?」
さちが聞いてくる。
(正直……ちょっと気味が悪いのはあるかな……でも)
昨日友里さんに言われたことを思い出す。
『主人公ならどんな困難でも立ち向かっていくもんでしょう?』
(正直これが友里さんの言う困難とは思いずらい……けど、見るからに私と同じ年齢……ってことは同級生かもしれいない……しかも飛び切りの美少女姉妹!なら選択肢は一つ!)
「声を同じにしないなら別に大丈夫……かな?」
途端に双子の顔が明るくなる。
「本当に!?ごめんねただのいたずらだったからもうしないよ。私たち……今年ステア魔法学校に入学するんだ……それでね?よければなんだけど友達になってくれないかなって?」
(来たあああ!)
「もちろん!私はアリス。よろしくね!」
私はさちとこう……二人と熱い握手を交わした。
(……っしゃあ!同姓でしかも同い年の美少女友人ゲットォォォォ!ああ!なんであたし男じゃないんだ!男なら姉妹丼なのにいいいい!)
「へえ、没落した名家の忌子と友達になるのか、龍さんの弟子は結構なもの好きなんだな」
今度は頭上、ちょうど真上の階段のところから声がした。男の子の声である。
と同時にさちとこうの顔色が曇った。どの単語であろうか……いや全部であろう。
(はーい、確定―!こっちがマルフォイでしたー!ありがとうございました!……ってか忌子?没落した家から生まれたから?それとも双子だから?もし後者ならこの世界の日本はまだそんな迷信信じてるってことになるけど……やっぱ旧だろうが新だろうが日本は情報の扱いが発展途上なんだなあ)
私があきれながらゆっくり見上げるとそこには階段の上からうすら笑うような表情でこちらを見下ろしている男の子がいた、こっちも年齢的に同い年だろう。
「何か用?」
「いや?2階にいたら龍さんの弟子だって言うのが聞こえたからさどんな奴だろうって見に来たんだ、ただの見物客さ」
(おいおいそれじゃあまるであたしたちが檻に入れられた動物みたいじゃん)
「そう?じゃあ見学料取るよ?そうだなあ、まだ子供だし5千円でいいわ」
とっさに旧日本の通貨で言ったは良いものの、まだこの世界……この日本の通貨を見たことが無かった私は金額が通じるか不安であった。まだこの国の貨幣価値もわからないのだから。
「5千円で良いのか?俺は一応名家の長男だぜ?それくらいならたやすいな」
恐らく男の子は私がマウントを取りに来ているのだろうと思っているのだろう、引き下がる気配はない…が私は違った。
(何でもいい、この世界に関する情報が欲しい……少なくとも、ここに住む15歳の日本人が知っていて当たり前な情報が……確かにこの国にとって識人は貴重なのだろう……しかしそれは旧世界の知識や常識だ、この世界で通用する確証はない。まあ私の前にも転生者はいっぱい来てるだろうし旧日本の常識はいくらかこの国でも浸透してるんだろう、だがそれでもそれを合わせたこの世界…日本のルール、法律はあるはず……普通の異世界転生の主人公なら主人公ルールで生前の常識を異世界の住人に押し付けるのだろうが……それではつまらない。郷に入っては郷に従え……日本人らしい考えだよなあ……知識や常識はあくまで武器……それを使ってこの世界で生きていくならその知識や常識をこの世界のルールに合わせて作り替え、戦う必要がある……それにはまず大前提としてルールを知らなければならない……とりあえずはこの国に住む15歳が知っていて当たり前の知識……常識……法律を!さあもっと情報をよこせ!)
「ふーん、まあ冗談だよ!本気にしないでもらえる?ところで聞きたいんだけど。その師匠……龍さんてそんなに有名人なの?あたし識人でさあ、つい先日にこの世界に来たばっかなんだよね!あんまり龍さんのことしらなくてさあ!」
恐らく名家であるということを前に出したかったのであろう男の子を軽くあしらい、今この時点で一番欲している情報……師匠に関することを聞いてみた。
今思えば、たった数日とはいえこの世界に転生してからずっと一緒にいるし師弟関係にもなった、しかし私は師匠に関して何も知らない……この世界の住人が知っておかねばならないことを……それは弟子としてはあまりにも恥ずかしいのである。
……が、軽くあしらわれたからかそれとも龍のことを師匠と呼んだからなのか……男の子の顔が突然険しく(先ほどの女性とは違う意味で)すぐに嫌な笑みに代わる。
「お前ー!龍さんの弟子なのにそんなことも知らないのかよ!まあ識人ならしょうがないかー!日本人なら幼稚園で習うぜ?この国で一番尊敬しなければならないのは天皇と龍さんだってよ!」
(あ、やっぱ日本だ。幼稚園あるんすね……ていうか陛下つけろよクソガキ……まだガキだからわかんないか!残念!)
「……はあ、有名なのはもう知ってるよ……周りの反応見れば……私が聞きたいのは内容!何か凄いことをして功績を上げないと有名にはならないでしょ?しかも天皇陛下と地位が同等って何すればそんなことになんのよ」
「そこまでは知らねえよ!学校でも400年間生きてて、400年前に大きな戦争を終わらせて英雄になったとか……日本とほかの国が戦争になった時に仲を取り持って戦争を回避したとか……それぐらいしか習ってないし」
「ふーん」
(意外と情報が出てこないな、天皇陛下と同等の地位になるくらいだし、400年分だから教科書丸々1ページ師匠の功績が書いてあるかと思ったけど、そうでもない。機密情報だから載せられないのか……あの師匠のことだから自分の功績が見られるの嫌で載せないように圧力かけたか……どれもありうる。っていうかますますオブザーバーが何なのかが分からなくなってくるなこれ)
ここで私は別のことに気づいた。さちとこうが震えていたのだ、明らかに尿意を我慢してるのではないそれならとっくにトイレ行ってるはずだ。
恐らく、先ほどの『没落した名家の忌子』という言葉を言った男のにおびえていた。
この世界で初めてできた友人を傷付けらた。しかも震えている二人は助けを求めるように私を見てくる……なら助けるのが友人の務め。私は笑顔なれど脅すような口調で謝罪を求めた。
「ちょっと気になったんだけど、没落した名家の忌子って何?てか友人がおびえてるんだわ!一言謝ろうか?」
しかし帰ってきた返答は予想外だった。
「は?謝るわけねえだろ。その二人霞家の人間だ、内の東条とは犬猿……いやそれ以上かな……憎みあってんだ、まあ主にこっちが一方的に憎んでる形だけどな。大昔は結構仲良かったらしいぜ?でもその大昔……霞家が禁忌を犯した……結果今では名前だけの没落した名家状態だな。東条家の人間は幼いころ頃から教え込まれるんだよ、決して霞家となれ合うな……彼らは禁忌を犯した罪人だってな」
「その禁忌について詳しく!」
「は?霞家でも東条家でもねえお前になんで話す必要あんの?」
(ですよねー)
「まあどうしても知りたかったらそこの二人に聞いてみたらどうだ?でもたとえ友人でも話せないかもしれないけどな!」
私は二人を見る……がやはりおびえていてそれどころではない様子である。
その時だった、恐らく今話している男の子のだろう、名前を呼ぶ声がした。そちらに顔を向けると階段の下に二人の男の子がいた。
「真一郎くん……」
(へー、こいつ真一郎っていうのか……覚えておいて損はないかな。……取り巻きってまんまマルフォイさんじゃないっすか……興味ないから名前忘れたけど…)
「なんだよ!こっちは識人と話してんだ、いいじゃねえか!お前らも聞いといた方が良いんじゃないか?貴重な識人様の旧日本とやらの話が聞けるぜ?」
「いいえ、帰る時間ですよ真一郎」
仲間が来てドヤ顔が炸裂していた真一郎だったが、今度は入り口から聞こえた女性の声を聴いた瞬間青ざめた。
見てみると、いかにも名家!というオーラが全身から駄々洩れている着物を着た女性が立っていたのだ。
「は、母上!」
(母上って……いつの時代だよ。てかあいつのお母さんか確かにいかにも名家って感じだな……そりゃあこんな人に教育されたら誰でもこうなるわ!つーかさっきの脅しが通じないのも納得したよ、あのお母さんに比べたらあたしの脅しなんて屁でもないだろうよ。てか人と話すときは見下ろすような形にしろって教わったのかね?)
真一郎の母は、真一郎のもとへ歩いてくると私とさちやこうを見た。真一郎とは違う……キリっとした目が印象的である。真一郎は恐らく父親似なのだろう。この目を見れば誰だって委縮してしまう……そんな目だった。
「真一郎が失礼をしなかったらかしら?」
「へ?」
「母上!そこの二人は霞家の人間です謝ることは無いはずでは?」
「それは知っています。でもこちらのお嬢さんは違うでしょう?」
この世界……いや、旧日本でもお嬢さんという呼び方はされた記憶はないため少し口がにやけてしまう。
「いやー、お嬢さんだなんて」
「でもそいつは識人です」
「識人だからなんだというのです?あなたは何か勘違いをしているのではないですか?私たち東条家が敵対しているのはあくまで霞家です。識人の方々は逆にこの世界に来るたびに私たちの生活を豊かにしてくれる旧日本の知恵や知識を持ってくるではありませんか。それを考えたら逆に感謝するのは当然でしょう?あなたは何をむきにになっているんですか?」
「………」
真一郎は完全論破されてしまった。返す言葉が見つからないようで視線を下げてしまう。
「ごめんなさいね、お名前は何というのかしら?お嬢さん?」
「あ、アリスって言います。つい4日前にこの世界にやってきました。明日からステア魔法学校に入学します」
「そう、アリスさんね。明日から……じゃあ真一郎と同じ学級になるのね。まあこの子がこれだから無理だと思うかもしれなけど出来たら仲良くしてあげてくださいな。……それと……」
お母さんはさちとこうを見る。二人は真一郎以上に委縮している。
「ねえアリスさん?真一郎から聞いたかも知れないけど、この二人の家……霞家はね昔禁忌を犯した罪人の家系なの。そして数ある名家の内、破門されて没落の名家になったのは霞家だけ。今や名家の中には政治家になっている方もいらっしゃるわ、あなたも識人ならこれから政府関係者……まあ言葉を崩せば偉い人ね、その方たちと会うのに霞家と交流があるのは何かと不便なこともあるかもしれないわ。今からでも私たちと仲良くするのがあなたのためだと思うわよ?よく考えなさいね?」
「……」
正直、私は今すぐにでもこの人を殴りたかった。でもそれとは裏腹に脳や体がそれを全力で阻止した。
さちとこうを見ると今にも泣きそうだ。まるで飼い主に捨てられそうな犬みたいである。そしてお母さんの顔を見る。表情は変わらず自分が正しいと信じ切っている、恐らく彼女の曇りなき善意による言葉なのだ。
(確かに、あたしはこの世界に来てまだ日が浅い……いや浅すぎるくらいかな。何も知らないからその辺の事情もよく分からない。多分だけどこの人の言う通り東条家と霞家は何かしらの因縁はあるのだろうね。しかもよっぽどのことが。でもさ、別に子供だからとかじゃないけど……今さっき友達になったばかりだよ?それなのに大人の事情でもう縁を切れって?いやに決まってるじゃん!でも暴力は駄目だ、私はこの人に殴られてもはたかれてもいない…言葉で殴られた…なら言葉で殴り返せばいい、ただそれだけ)
今一度さちとこうの顔をじっと見る、そして『大丈夫だよ』という意味で満面の笑顔を二人に向ける。二人はその笑顔に対して疑問の表情だった、おびえすぎて笑顔が『安心して』か『さようなら』とで迷っているのだろう。
そして真面目な顔に戻すと、顔をお母さんの方へ向ける。そして自分なの精一杯の敬語で返す。
「お誘いは嬉しいですが、私は二人と別れる……縁を切ることは無いです。二人はこの世界で初めて出来た友人なんです。そんな理由で縁を切るなんて私の選択肢には無いです」
「でも、見た感じついさっき友人になった感じではなくて?あまりお互いのことをよく知らないんじゃないのかしら?それで友人?おかしな話ね」
「違いますよお母さん……友達ってのは、例え一緒に話した時間が何時間…何分…何秒だろうが互いが友人だと認め合えば、もう友人なんです。お互いのこと?これから知っていけばいい、ただそれだけです。あともう一つ、二人と別れるなんてできない絶対的な理由があります」
「なにかしら」
私は二人の後ろに回り、両手で二人の方を掴む。
「こんんんんんなに可愛い二人の友達をやめろ不可能な話でしょ!見てくださいよ!この髪!すべすべで長くて綺麗!前髪は姫様カット!知ってますか!?姫様カットはですねファッションにもよりますが似合う女性以外がやると微妙……もしくはふつうになります。でもここまで完璧で似合うものは顔の造形が姫様カットにあった造形じゃないと無理です!前提小顔!プラス顔の形!それらのバランスが整った最高の姉妹ですよ!?例え何億、何兆積まれようが友達をやめるって選択肢は発生しえない!はぁはぁはぁ」
思いっきり力説して、吐き出した結果酸欠になりかけた。
(思いっきり公衆の面前で性癖暴露しちまったぜ、だが後悔はしていない……けど二人のほうがこれで友達止めたらどうしよっかなあ、ここまで言ったんだぞ?自殺もんだわ)
数十秒間沈黙が続いた。私だけが非常に空気が重いし、視線が超痛い。
沈黙を破ったのは意外にも真一郎だった。
「さ、さすがだな。やっぱり物好きなんだな、変り者って言われる龍さんの弟子になるだけのことはあるわ」
「っ!」
「え?マジ?」
「マジで?」
驚いたのは後から入ってきたお母さんと取り巻きだ。まあ後から入ってきたので無理もない。
「アリスさん本当かしら?それ」
「本当です。詳しくは言えませんが龍に弟子になれと言われてまあほぼ強制的に弟子にさせられました。……えっと、東条家さんは名家なんですよね?なら政治家等やいろんな所にコネがあるんでしょうから確かめてみたらどうでしょう?」
少しでもやり返す思いでちょっと言葉を含んで言い返す。
すると、お母さんの表情が無表情から驚き……そしてどこか悔しい?と見える表情になった。
「話が違うわね。真一郎、すぐに帰るわ確認しなきゃいけないことがあるから」
「え?あ、はい」
お母さんは真一郎を連れて足早に外へ行こうとした。
「あ、ちょっと待ってください!二つだけ聞きたいことがあるんです!」
お母さんは立ち止まり振り返った。
「二つだけよ?」
「一応聞きたいのですが、お母さんのお名前は……」
「冬香『とうか』よ覚えておきなさいまた会うかもしれないからね」
「はい……あと、もう一つ……簡単で良いので師匠……龍さんが英雄になった経緯を知りたいんです」
「弟子なのにそんなことも知らないのかしら?」
(すみませんね!こちとら転生して師匠と会って四日しかたってないんじゃ!この世界の情報を集めることに必死で師匠の事情なんて二の次だったんじゃい!度々疑問はあったけど)
「師匠は自分のあまり……全然話す人間ではないようなので」
「そう、私もあまり詳しい方じゃないけど教えてあげるわ。これは有名な話よ、およそ400年前……この世界で初めて大きな戦争が起きたの、闇の魔法使いの軍勢と当時の日本や諸外国による連合国との大規模な戦争よ、戦争が起きたのはもう少し前らしいけど文献が残ってないから分からないらしいわ。でもね戦争が終結したのは記録にあるらしいわ、それでもほとんど残ってないらしいけどね。その時に闇の軍勢のトップ…闇の女王『ファナカス』を単独で撃退したのが龍様……そしてその時に闇の女王の呪いを受けて不老不死になったらしいわ。あとは自分で調べるかご本人に聞いてちょうだい」
そういうと冬香さんは真一郎や取り巻きを連れて店の外に出ていった。
「……」
だが、私はさほど気にならなかった。新たに得た情報の価値がやばすぎて脳が早急に整理し始めたのだ。
(……闇の女王?闇の帝王でなくて?ヴォルデモートでなくファナカス?誰だそりゃ?この世界でのヴォルデモートの立ち位置なの?しかも闇の女王の呪いで不老不死になった?ていうか撃退したってことは生きてるってこと?でも終結したって言ってたし…情報が少ないからなりを潜めてるのかもう死んだのか分からない……でも死んだのなら、師匠の呪いは解けてると思うし、駄目だ。情報がまだ少ない)
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※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
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