アリス 観察者《オブザーバー》の弟子

御魂

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全ての始まり

18. 自分の杖

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 本当に数分だった。ていうかさっきいた場所から店が見えていたんではないかという距離である。



 さちとこうは目的の場所に着くと帰路についていった。



(まあ明日学校で会うだろうし、運が良ければクラスが一緒にになるかもだし、こっちはこっちでやることしますか……とはいえ)



 目の前にある杖を売っているであろう店……の看板を凝視する。



『おりばんだーの杖』



「……」



(まんまやんけ!いや、日本語表記ならカタカナにしろや!なんでひらがななん?原作に多少気でも使ったのかい?ここ異世界でっせ?)



「とりあえず入るか……」



 店のドアを押して中に入る。



 中は外の素朴な外観とは打って変わり魔法で拡張されているのだろう広かった。先ほどの本屋並みだ、違うとすれば棚に入っているのが本ではなく杖が入っているとみられる細長い箱があるくらい。



 だが、先ほどの本屋とは違い人が一人もいなかった、他の客どころか店員すら一人もいない状況である。



(もしかして定休日てきな感じ?でも表に何もなかったし入り口も鍵閉まってなかったし……店員が一人なら店を開けるときに看板とか立ててるはずだしなあ……それにしても静かだ)



 まるでこの店全体に防音関係の魔法が使われているのではと思えるほどの静けさ、それがまた一段と不安を感じさせる。



 ここでふとカウンターに目を運ばせた。すると何やら小さい板のようなものが立てかけられている。



『御用の方は作業中のため奥にお進みください』



「ははーん、そいうことか」



 連絡事項のようなものが書かれているのを確認したので私は躊躇なく奥へ進んでいった。



 すると広い場所に出た。見渡すと円形状の広間のような感じだ、壁には高い天井まで棚が設けられており中にはこれでもかというほどの箱が敷き詰め目られている。



 それに床には大きな魔法陣が書いてあった。



(はー、ひっろ!天井たけえ!てか魔法陣あるじゃん!複雑すぎて意味わからんけど)



 入り口の反対側には小さい机と椅子があり、一人の男性が椅子に座り何やら書いていた。



「あのー」



「ん?」



 私の声に気づいた男性がこちらに振り向く、見る感じ50代から60代といったところか。白髪交じりではあるがどことなくダンディーさを感じる、着こなしてる背広と一緒にこれぞ大人というオーラを放つほどだ



(ここまでスーツが似合う男性も珍しいなあ、おじさんは趣味じゃないけどドストライクの女性が見たら即惚れるなこれ)



「君は……?」



「あ!はい、えっと……師匠……じゃなかった、龍さんに言われてきました」



「龍さん?師匠?ああ、そうか君が龍さんの弟子になったっていうアリス君だね?……先ほど龍さんから電話があってね、こちらにアリスという私の弟子が来るから杖を見繕ってくれって。待っていたよ」



「あ、そうなんですか?すみません遅れちゃいました」



「いや、気にしなくてもいいよ。龍さんからは君がつい先日この世界に来た識人だと伺っているからね、マギーロの風景で寄り道するかもしれないと……だから気長に待ってくれと言われたんだ。

 私としては意外にも早かったかなというぐらいかな、だから気にすることはないよ」



「えーと、ありがとうございます」



「それよりもだ、さっそく杖を選ぼうじゃないか。おっと、自己紹介がまだだったね。

 『おりばんだーの杖』店主の斎藤孝明だ。ここで一人杖を売っているよ」



「……」



(普通に日本人じゃん、オリバンダー要素どこ行ったよ)



「どうかしたかね?」



「え?いや……店の名前っておりばんだーですよね?なんでそうなったんのかなって」



「ああ、私がこの店を引き継ぐときにね。識人から言われたんだよ、『斎藤杖店よりもオリバンダーの杖のほうが識人的に喜びます!出来ればオリバンダーに店名を変更しませんか?』ってね。

 まあ私としてはどちらでも良かったんだよ、店を残せれば。結果的にこの店はおりばんだーの杖として生まれ変わり昔以上に繁盛してるよ特に識人からね、あの時の識人には感謝しかないね」



(確かに最近転生してくる識人にとってはオリバンダーと聞けば何の店かは一目瞭然だと思うし、私も名前見てピンと来たし……まあ結果的には良いんじゃないかな?店主ご本人が喜んでるんだし)



「さてとだ、アリス君。この魔法陣の内側においで。今から君に合った杖を選ぼうじゃないか。あ、因みにだが魔法陣に入っても何も魔法使いに被害は無いから安心してくれ」



 後半話が入ってこなかった。



 私に合った杖を選ぶ……このワードだけで心臓が高鳴る、それどころかあのシーンだと思えば思うほど興奮して顔がにやけてくる。



(……やっべー!杖を選ぶ?つまりはあれだろ?私が杖を選ぶんじゃなくて杖が私を選ぶてきなあれだろ?つまり…だ!あ、あれじゃないか!原作一巻!映画一作目!ハリーがヴォルデモートの兄弟杖に選ばれたあの時だろ?なんかふわーってするシーン……やっべ、興奮してきたよ?あー頭にあのシーンが当たり前によぎてくるよ?旧日本から転生してきた人間なら絶対興奮すんの必須だろ?おっほほほほ!顔がにやけるううう!)



「どうかしたかい?」



「い、いえなんでもないです」



 私は斎藤さんに促されて魔法陣の中央で立ち止まる。



 すると斎藤さんは広間の壁にある棚の箱を一つ一つ見始める。ここで私は聞きたかったことを聞く。



「あの……斎藤さん」



「なんだい」



「やっぱり杖って持ち主を選ぶんですか?」



「ははは!なるほど、やっぱり識人だねえ!だが、それは表現の問題だね」



「表現の問題?」



「君は杖の素材が何だか知ってるかい?」



 あらためて師匠が持っていた杖を思い出してみるが何の変哲もないハリーポッターで出てきた杖だ。材質はもちろん木だろう。



「木……木材ですよね?」



「そう、君が転生した場所覚えてる?識人はみんなあの場所に転生してくるんだけど、あの場所一体を魔杖の森と呼ばれてるんだ。何故か分かるかい?」



「魔杖の森……」



 確か、転生してきた初日だったか二日目に師匠がそんなことを言っていたような気がするが、あの時はそんなことを覚えている場合でも精神状態でもなかった。



 だが、確かにそんなことを言ったような記憶が片隅にあるのも事実だ。



「その…魔杖の森の木でしか魔法が使えないとか?」



「その通り、あの辺一体は少々特殊らしいんだ。だから一般的に人の立ち入りを制限してるんだよ、杖となる木を伐採する職人とオブザーバー……そして識人以外はね。そしてここからが問題だ、学校の魔法の授業とかで使われる杖には入ってないが個人が携帯している杖には芯が入ってる。それとの相性があるんだ、それが杖が持ち主を選ぶ要因だね……っとまずはこれを試してみようか……ウィビシの髪の毛」



 斎藤さんは棚から一つの箱のふたを取って、杖を渡してくる。私はこれを受け取ってじっくり観察した。



 微妙にだが師匠の杖とはデザインが違う、それ以外は太さも長さも一緒である。



「……でこれをどうするんですか?」



「魔素球は知ってるかい?それをどこでもいい放ってみるんだ」



「え?」



 魔素球は初日でもう知っている、小さい球でも木の皮をえぐるだけの威力があるのだ。それをこの部屋でやってしまっては綺麗に積まれた箱や棚が破壊されるのではないかと思うとやはり躊躇してしまう。



「ああ、魔素球については知っているのか……問題ないよ。私が言うんだ、打ってみてごらんなさい」



「はあ」



 私は杖の先に集中して魔素球を作り出す……がやはり体が遠慮してるんだろう、大きさがゴルフボール並みになってしまう。



「そんな遠慮しなくても大丈夫だ。もっと大きく!」



「……ふん!」



 魔素球は大きくなりサッカーボール並みになる。



(おいおい、大きすぎじゃね?こんなの棚にぶつかってみろよ大惨事っすよ?)



「さあ、思いっきり放ってみよう!」



 私のそんな思いとは裏腹に早く撃てと催促してくる。



(あー、分かったよどうなっても知らないからな?本人がああ言ってるから私被害者だぜ?責任持たないからな?)



「おおりゃあ!」



 私は出来上がった魔素球を目の前に放った……するとどうだろう、魔素球は1メートル進んだところで突如形を崩し、そのまま空中で溶けてるように無くなってしまった。



「へ?」



 あまりの出来事に私は唖然としてしまった。



(なして?魔素球……無くなった……しかも溶けた……なして?)



 驚きつつ斎藤さんを見る。



「言ったでしょ?大丈夫だって、この床に魔法陣が書いてあるでしょ?それはね、魔法陣の内側にいる限りあらゆる魔法は魔素球以外打ち消される魔法が練られているんだ。まあ複製しようとしても何千何万という魔法を一つの魔法陣に練りこんだから複雑すぎて私も含めて誰も書けないんだよね」



「へ、へえ。でもなんでこれが相性の合った杖を探すのに役立つんです?」



「それはまだ秘密!さっきの魔素球は溶けたけどちゃんと相性の良い杖と出会うとね魔素球の反応が違うんだ。見てのお楽しみだよ!さ、次行こうか!」



 それから私と斎藤さんの相性の合った杖を探す作業に入った。



 ウィビシの髪の他に、ウィビシの心臓、ドラゴンの鱗、ドラゴンの心臓、ドラゴンの毛、エルフの髪などを試したがどれも魔素球が解けるだけだった。



 その時に初めてこの世界にドラゴンがこの世界にいるということが分かった、エルフがいることは師匠に教わったので知ってはいたのだ。



「うーん、難しいねえ」



 斎藤さんは試した杖が駄目だと分かると考えこんでしまった。



「斎藤さん……普段の人はこんなに試すんですか?」



「いや、大抵の人は3本目……4本目には合う杖が見つかるはずなんだけどなあ……さあどうしようか……そういえば……」



 斎藤さんが何か思い出したのか、黙り込んでしまった。



「どうしました?」



「いやね?さっき龍さんから電話もらったって言ったでしょ?その時にね『あいつは俺と同じかもしれん……確証はないが……試す価値はあるかもしれない』と言っていたんだ。最初何言っているのか良く分からなかったのだけどね、もしかすると……ちょっと待っててくれないかい?」



「あー、は、はあ」



 そういうと斎藤さんは私が来た通路へ……入り口のほうへ戻ってしまった。



 数分後、戻ってきた斎藤さんの手には3つの鍵が握られていた。



 そのまま机の前に移動すると、上にある引き戸が付いてる棚の南京錠を1つ目の鍵を使い、取り出した木製の箱をもう1つの鍵で開けた。すると、中には杖が入ってそうな形で厳重に南京錠が付けられた木製の箱が出てきたのだ。



 それを机の上に置くと最後の鍵で箱の南京錠の鍵を開ける、そして中に入っていた杖をこちらに差し出す。



「えっと……これは?」



「うーん、龍さんと同じならこの杖かなと思ってね、まあとりあえず試してみてよ」



「は、はあ」



 私は斎藤さんから差し出された杖を観察した。



 先ほどまで試した杖より圧倒的にシンプルに素朴だった。というかほとんど模様がない……とりあえず杖の形にしてみましたレベルである。



 そして、杖を受け取った……その瞬間だった。



 突如体が見えない何かに包まれる感覚がした。温かく……それでいて何かほっとするような不思議な感覚だ。



「……」



「どうかしたかい?」



「え?あ、いえなんでもないです」



(今のは一体……、なに?ものすごく温かくて全身を包み込んでくれるような感じ……すごく安心する……不思議な感覚……さっきまでそんなことは無かったのに)



 流れるように魔素球を作り出す、ただ、この時、感なのか何なのかよく分からなかったが何か起きる気がした。



 そして、魔素球を放つ……するといつも通り1メートルほど進んだ……その後だった。



 今まで消えてた魔素球が急速に形を変え始めた。そして…透明な結晶として綺麗な一輪花の形を形成した。



(わー綺麗……)



 が終わらなかった。花は茎や弦を次々に生やしていく、質量保存の原理どこ行った?と思われるほどに次々と新しい花を咲かせていく……大きな花束を作っていくかのように。



「え?……お?……はい?」



(おいおい……何起きてんの?すんげえ綺麗だけど相性が良いとこんな風になるん?これが普通なん?)



 佐藤さんのほうを見ると同じく驚いていた……が恐らく顔を見るに私とは別の意味で驚いているのだろうと察することが出来た。



 花は最終的に高さ2メートル……3メートルほどまで高く花を咲かせた。そして頂上に生えたのはどの花よりも大きく……美しい……一輪の菊だった。



「えっと……斎藤さん?相性が合うとこうなるんですか?秘密と言ってましたけどここまでとは」



「え?いやいやいやいや!こんなの初めて見るよ!普段だったら相性が合う杖で魔素球放つと普通は一輪や二輪程度なんだけど…ここまで大きく咲くのは生まれて初めて見たよ。

 やはり君には何かあるみたいだ」



(この人は知らないだろうけど、私はそういうもんなんです!主人公ですもん!理由は言えないんですけどねー!それよりも杖の方が気になるんじゃ!)



「それより杖の方が気になるんですけど……」



「えっとね、この杖はいろいろな噂やら伝説やらあってね…ていうかこの杖……龍さんがここに保管してくれって持ってきたやつなんだ」



「師匠が?」



「そう、でこの杖は使うとか使えるとかは全て相性次第、相性が良くない限り魔素球すら使えないらしいんだ。しかも現状……この杖使えるの龍さんと君だけになる……そして問題は杖に入ってる芯だね」



「よほど特別な芯が入ってるとか?」



「うーん……特別というか噂とか伝説ってレベルだけど……神様の髪の毛を使っているっていう噂が…」



「へ?」



 思っていたレベルとは桁違いだった、例えば昔の大魔法使いの髪の毛とか英雄の髪の毛が入っているのかと予想していたのだが、まさかの神様だった。



「この世界に神様とか実在するんですか?」



 神様というのは本来宗教……昔は人々に法律やモラル等を教えるために作った……もしくは国の成り立ちにを調べるうちにどんどん伝説見が生まれて最終的に人々を導くもの……皆が信仰するものとして作り上げた偶像……というのが私なりの意見だが、この世界は少し違うらしい。



「さあ?」



(あ、これは本当に伝説とか噂レベルや)



「ていうか、この杖の芯の伝説って誰が言ったんですか?」



「龍さん」



(うわーお……)



「この杖……本来はもっと大きくて長い形らしいんだけどこの一本は今の時代の形にしたらしいよ。しかもこの杖は計3……いや2本あるらしいけどもう一本はステア魔法学校の校長が校長先生の証として魔法学校建立時に龍さんが送ったらしいから校長は使えない…本当にただの飾りらしいね」



「今3本あるって言いかけませんでした?」



「ああ、残念ながら3本目は理由は分からないけど昔紛失したらしいんだ。だから今現存する杖はこれと校長のだね。龍さんは使う気ないらしいからここに置いてあるし、ここに置いたときに『俺以外の誰か使える奴が現れたときに譲る……それまでここに保存しておくか』ってね」



「へ、へえ」



「龍さんが選んだ弟子がこの杖を使える……これも何かの縁なのかもねえ。持っていくといい、これは私からの龍さんの弟子になったお祝いとしてのプレゼントだ。

 お金はいらないよ、本来はこれ……使える人間がいなさ過ぎて飾りと化してたからね、杖は本来魔法を使うものだ、飾るものではない。使える人間が現れてくれて本当に良かった。

 どうか大事に使ってやってくれ」



「はい!ありがとうございます!」

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