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CASE1.可憐な子爵令嬢の結婚詐欺
本心 ②
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「前の奥様とは会ったことはないのですか?」
「わたしを引き取ることで揉めたと聞いたわ。わたしが父の所へ引き取られたときにはもうすでに実家に帰っておられたの。
その後離婚が成立したの。わたしは一度も会っていないわ」
「5年間、子爵と二人きりの生活だったんですよね。その間に子爵に恋人がいるような雰囲気とかはありましたか?」
「なかったと思うの。でも、わたしもその頃は学園に通っていて、父とは食事の時しか会わないような生活になっていたし」
エレナは、後悔を滲ませるように、目を伏せる。
「紹介されたのは、急だったのですね?」
「ええ。突然だったのもびっくりしたけど、あれだけ、わたしの産みの母に執着していて、前の奥様にもそれがもとで離縁されているのに。また繰り返すのかと思ったわ。
だけど、父にだって幸せがあっていいと思ったの。
わたしは本当に父の血を引いているかどうかは分からない。調べようと思えばできると聞いたけど、父は自分の血が入っているかどうかが重要なのじゃなくて、産みの母の面影が大事なのだと言って、私に婿を取るか、親戚の子を引き取るかで子爵家を維持するってずっと言っていたの。
でも、子爵家の血筋じゃないかもしれないわたしが跡を継ぐなんて、正直非常識だし。できれば真っ当に父の子が継ぐのがいいと思ってはいたのよ。
だから、あの人を紹介されたとき、わたしはあまり好きになれない人だけど、彼女が嫁いでくることに反対はしなかった。
すでにお腹にゴードンがいたしね」
エレナの義母、イザベラはグリード子爵と婚姻をしたときにはすでに妊娠していた。
調査によれば、事は、サマル家も参加していた小規模の夜会で起きた。同じ派閥の集まりで、その年に獲れたワインの試食が目的だった。
子爵は特に酒に弱いわけではない。なのに、その日に限って飲み過ぎたらしい。
途中からの記憶もなく、目覚めたら隣にイザベラが寝息を立てていたのだという。そして、後日、イザベラが妊娠していることが判ったと連絡をサマル伯がグリード子爵に書簡で送っている。。
子爵はその時の責任を取る形でイザベラを娶ることになった。
「だから、表向きは仲良くしたの。あの人が嫌な感じを持ってる女だって分かっていても、それはあくまでわたしの感覚でしかないもの。
それにお父様は、わたしに『こんなことになるなんて申し訳ない』って言ってたし。
だから、せめてわたしを大事にしてくれそうな誠実な人にわたしを嫁がせたいって思ってくれていたのも分かっていたのよ」
そうして、父から何人か男性を紹介されたのだ。
「でもあの人から、『すぐに相手を決めては駄目よ』と言われて、父から紹介された男性を吟味するように指示されたの。
たぶん、男の人と逢う時は、あの人の見張りがついていたと思う」
エレナは徐々に、そんなイザベラの行動に疑問を持ったのだと言った。
おそらく相手は父が見繕った相手。でもすぐに結婚を決めないよう、相手を焦らすように指示したのはイザベラ。
そしてその間にサマル伯爵とイザベラは相手にどの程度の資産があるのか調べたのではないかと。
「エレナさんは、イザベラ夫人に確かめましたか?」
「直接は聞いていないわ。ただ、家の中のことはちょっと疑問に思うことがあって、調べてもらったことはあるわ」
「どのようなことを?」
「……帳簿よ。だんだん資産が減っているような気がするってお父様と執事が話しているのを聞いたのよ。
表面上は何も間違っているようには見えないの。だけど、全体的に目減りしている。何か絡繰りがあるんじゃないかって思って。大きく減っているわけじゃないの。だけど、細かく並べてみるといくつかおかしなところがあって。
専門的なことを知っている人に、相談に乗ってもらったわ」
その相手が先日訪ねてきたラッセルだ。漠然とエレナの中にあった不安が、形になった瞬間だったはずだ。
「で、エレナさん、貴女はどうしたいと思っていますか?」
相手はサマル伯爵。エレナが調べられることには限界がある。
それにこれ以上、エレナが首を突っ込むと、おそらくサマル伯爵は、エレナを物理的に消すだろう。
彼らの計画に邪魔だから。
「裁判所は、わたしがすべてを話して相談したら助けてくれるの」
「事によりますが、犯罪を見逃すのは本意ではありません。もしエレナさんが犯罪に巻き込まれているのなら、その真偽を確かめてしかるべき対処をすることを約束します」
フィオナの言葉に、エレナが小さく頷いた。
そうして、ひとつ小さく息を吐き、視線をフィオナに戻した。
青い瞳が、真っ直ぐにフィオナを捉えた。
「お父様を助けたいの。例え血が繋がっていなくても、父はわたしを引き取って育ててくれた。慈しんでくれたわ。
その恩は返さなくてはならない…… いいえ、返したいの。
このままあの親子に父が搾取されるのを見てはいられないし、申し立てた人たちにもちゃんと全てを弁済したい」
エレナの心が決まった。
「わたしを引き取ることで揉めたと聞いたわ。わたしが父の所へ引き取られたときにはもうすでに実家に帰っておられたの。
その後離婚が成立したの。わたしは一度も会っていないわ」
「5年間、子爵と二人きりの生活だったんですよね。その間に子爵に恋人がいるような雰囲気とかはありましたか?」
「なかったと思うの。でも、わたしもその頃は学園に通っていて、父とは食事の時しか会わないような生活になっていたし」
エレナは、後悔を滲ませるように、目を伏せる。
「紹介されたのは、急だったのですね?」
「ええ。突然だったのもびっくりしたけど、あれだけ、わたしの産みの母に執着していて、前の奥様にもそれがもとで離縁されているのに。また繰り返すのかと思ったわ。
だけど、父にだって幸せがあっていいと思ったの。
わたしは本当に父の血を引いているかどうかは分からない。調べようと思えばできると聞いたけど、父は自分の血が入っているかどうかが重要なのじゃなくて、産みの母の面影が大事なのだと言って、私に婿を取るか、親戚の子を引き取るかで子爵家を維持するってずっと言っていたの。
でも、子爵家の血筋じゃないかもしれないわたしが跡を継ぐなんて、正直非常識だし。できれば真っ当に父の子が継ぐのがいいと思ってはいたのよ。
だから、あの人を紹介されたとき、わたしはあまり好きになれない人だけど、彼女が嫁いでくることに反対はしなかった。
すでにお腹にゴードンがいたしね」
エレナの義母、イザベラはグリード子爵と婚姻をしたときにはすでに妊娠していた。
調査によれば、事は、サマル家も参加していた小規模の夜会で起きた。同じ派閥の集まりで、その年に獲れたワインの試食が目的だった。
子爵は特に酒に弱いわけではない。なのに、その日に限って飲み過ぎたらしい。
途中からの記憶もなく、目覚めたら隣にイザベラが寝息を立てていたのだという。そして、後日、イザベラが妊娠していることが判ったと連絡をサマル伯がグリード子爵に書簡で送っている。。
子爵はその時の責任を取る形でイザベラを娶ることになった。
「だから、表向きは仲良くしたの。あの人が嫌な感じを持ってる女だって分かっていても、それはあくまでわたしの感覚でしかないもの。
それにお父様は、わたしに『こんなことになるなんて申し訳ない』って言ってたし。
だから、せめてわたしを大事にしてくれそうな誠実な人にわたしを嫁がせたいって思ってくれていたのも分かっていたのよ」
そうして、父から何人か男性を紹介されたのだ。
「でもあの人から、『すぐに相手を決めては駄目よ』と言われて、父から紹介された男性を吟味するように指示されたの。
たぶん、男の人と逢う時は、あの人の見張りがついていたと思う」
エレナは徐々に、そんなイザベラの行動に疑問を持ったのだと言った。
おそらく相手は父が見繕った相手。でもすぐに結婚を決めないよう、相手を焦らすように指示したのはイザベラ。
そしてその間にサマル伯爵とイザベラは相手にどの程度の資産があるのか調べたのではないかと。
「エレナさんは、イザベラ夫人に確かめましたか?」
「直接は聞いていないわ。ただ、家の中のことはちょっと疑問に思うことがあって、調べてもらったことはあるわ」
「どのようなことを?」
「……帳簿よ。だんだん資産が減っているような気がするってお父様と執事が話しているのを聞いたのよ。
表面上は何も間違っているようには見えないの。だけど、全体的に目減りしている。何か絡繰りがあるんじゃないかって思って。大きく減っているわけじゃないの。だけど、細かく並べてみるといくつかおかしなところがあって。
専門的なことを知っている人に、相談に乗ってもらったわ」
その相手が先日訪ねてきたラッセルだ。漠然とエレナの中にあった不安が、形になった瞬間だったはずだ。
「で、エレナさん、貴女はどうしたいと思っていますか?」
相手はサマル伯爵。エレナが調べられることには限界がある。
それにこれ以上、エレナが首を突っ込むと、おそらくサマル伯爵は、エレナを物理的に消すだろう。
彼らの計画に邪魔だから。
「裁判所は、わたしがすべてを話して相談したら助けてくれるの」
「事によりますが、犯罪を見逃すのは本意ではありません。もしエレナさんが犯罪に巻き込まれているのなら、その真偽を確かめてしかるべき対処をすることを約束します」
フィオナの言葉に、エレナが小さく頷いた。
そうして、ひとつ小さく息を吐き、視線をフィオナに戻した。
青い瞳が、真っ直ぐにフィオナを捉えた。
「お父様を助けたいの。例え血が繋がっていなくても、父はわたしを引き取って育ててくれた。慈しんでくれたわ。
その恩は返さなくてはならない…… いいえ、返したいの。
このままあの親子に父が搾取されるのを見てはいられないし、申し立てた人たちにもちゃんと全てを弁済したい」
エレナの心が決まった。
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