真実の愛は罪か否か

KAORU

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不実な婚約者は【真実の愛】を謳う(※タイトル変更しました)

7.問題ある子爵令嬢

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 フェリアは、ぷくりと頬を膨らませながらフェリアを睨み付ける一人の子爵令嬢と対峙していた。

「貴女でしょう? アラン様の婚約者は!」

 それは間違いない。幼い頃から決められたフェリアの婚約者はアランである。

 「取り澄ましちゃって、嫌な女ね! アラン様がほかに癒しを求められるのも分かるわ」

 目の前の令嬢はそう言って少し馬鹿にしたように笑う。
 隣に並んだ友人のアイリスが小さく舌打ちをしたのが分かった。アイリスは、グリーフィルド侯爵家の親戚筋の貴族であるハーラー伯爵家の令嬢である。窘めるように目線を送ると、小さな声で令嬢の名がデイジー・ヨーク子爵であると教えてくれた。

「アラン様はね、わたしとお付き合いをしているの! 貴女と婚約をしているから結婚は出来ないと言われたのよ。聞いていたでしょ?」

 あの場面をフェリアが見ていたことを、デイジー嬢はちゃんと知っていたらしい。
 確かに聞いてはいた。しかし、だからと言ってフェリアに出来ることは何もない。

「なんで黙ってるのよ! 貴女がアラン様を手放せば、彼はわたしのものになるのよっ。貴女って真面目で面白みのない令嬢だって噂じゃない。アラン様には似合わないのよっ」

 フェリアは、そんなデイジーの喚き声を聞きながら、頭の中でヨーク子爵の情報を思い出していた。
 領地経営が上手く行っていないと専ら噂の子爵家であるのに、支援をしてくれていた正妻と離縁し、デイジーの母親を後妻に据えたのは最近の事である。
 正妻との間に長男がいたが、その嫡子となるはずだった男子は、離縁された母について家を出ている。
 連れ子のデイジーは、子爵の愛人の子で、おそらく子爵とは血がつながっている。後妻となった愛人は、平民であり、デイジーも母親が再婚するまでは平民として暮らしていたという。

 なので、この態度は頷ける。貴族令嬢として礼儀作法は【不可】であっても、子爵を虜にしたという母に似たふわふわの小動物のような庇護を駆り立てる容姿は、貴族令嬢の澄ました態度が気に入らない男性にとってはとして【可】なのであろう。

 世の中の男性は勝手である。
 妻には、権力も財力もある程度あり、教養も礼儀も身に着けた貴族令嬢を望むのに、惹かれるのはこういう感情も露に、甘えて泣いて怒る礼儀の成っていない女なのだという。
 女側にも勝手なものがいる。
 たとえ男に決まった相手がいたとしても、男の心さえ奪えば勝ちだと思う女である。上玉を狙うのであれば、泣いて甘えて庇護欲をそそる女に擬態するのが近道であるから、凡そ、貴族男性の不義の相手とはそのような女であることが多い。

 中には、本当に弱者で守ってやらねばならない女性もいる。そういう女性は、囲われる側となった時も弁えるものだ。
 囲われる者にはそれ相応の立ち位置があって、そこをはみ出すことは本来許されないと分かっている場合はあまり問題にならない。

 ただ、デイジーのようなタイプは別である。擬態した上で、最終的に搾取せねば気が済まない者たちだ。
 ヨーク子爵家は、嫡男が家を出たため、デイジーが婿を取る予定なのであろう。そして、デイジーには高位貴族の次男以降を捕まえる必要がある。
 出来れば見目は自分の好みがいい。デイジーの思惑はそんなところだろう。

「マクドエル伯爵子息に、似合うかどうかは問題ではありません。あくまで子息の婚約者は、グリーフィルド侯爵令嬢なのですよ」

 フェリアが相手をするまでもないとアイリスが冷たく答えた。

「あんたに聞いてないっ。そこの女に言ってんのよっ。家のためって何よ、侯爵家だったら他にも相手は見つかるじゃないっ。
 結婚は好きな者同士がするものなのよ!」

 平民はそうであろう。市井では恋愛結婚が主流である。
 貴族の中にも一部そういう者がいるが、それは恋愛と家の利害とが一致しなければ成立はしない。
 だから法律が出来たのだ。【好きな者同士で結婚したい、だから婚約は破棄する】と一方的に契約を覆すのであれば、平民になればいい。
 デイジーの場合は、が正しいが。それに、言葉遣いは平民のころから全く変わっていないから、その方が生きやすいかもしれない。

「では、お二人とも平民になられるということ?」

 フェリアは全く無表情のまま、そうデイジーに尋ねた。
 問われたデイジーは、怒りで顔を真っ赤にした。

「そうじゃないわ! わたしの子爵家に婿に来てもらうのよっ」

「なぜ? アラン様は我がグリーフィルドに婿入りなさることが国に届けられているの。婿入り先を変更するという通達は来ていないわ」

「なぜって! わたしとアラン様は、愛「フェリア」

 デイジーの言葉を遮って、低いけれど優しい声が背後からフェリアの名を呼んだ。振り向かずともわかるその声に、フェリアは小さく溜息をついた。
 
「アラン」

「今日は君のお父上にフェリアを邸まで送るよう言い遣っていてね。なかなか馬車まで君が来ないから迎えに来てしまった」

 それまでの空気を一新する爽やかな語り口に、フェリアは振り向いた。
 いつもの柔らかい笑顔に、

 ―― また、演技だわ

 とフェリアは思う。父からの言いつけなど存在しない。フェリアは何も聞かされていないからだ。
 アランの好青年の仮面を、婚約をした当時のフェリアは好ましく思っていた。
 でもこのところ、この顔は外向きの演技であることがようやく分かってきた。でもこの場をこれ以上大事にせずに退場するにはアランの演技に乗るのが最上だろう。

「ごめんなさい。貴方を待たせてしまって。行きましょうか」

 
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