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不実な婚約者は【真実の愛】を謳う(※タイトル変更しました)
24.婚約者の矜持
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教室を移動するために歩いていたフェリアは、突然現れた一団に道を塞がれた。
フェリアの隣にはアイリスがいて、僅かにフェリアを庇うように前に出ていた。
相手は一国の大公の娘である。そして、彼女が自国から連れてきた従者のような留学生二人と、この国で付けられた世話係のうち女生徒二人。
数で言えば圧倒的に彼方が優勢である。
フェリアはそっと、自身を庇うように伸ばされたアイリスの手を引いた。
「大丈夫よ、アイリス」
「しかし、フェリア様」
「大丈夫。これだけ人目があるのですもの。大事にはならないわ」
フェリアから手出しをすることは絶対にない。アイリスが手を出してしまう方が恐ろしい。あちらが手出しをすれば、それは国際問題である。
「貴女がアランの婚約者?」
既視感満載の台詞であった。
先日、同じ台詞をぶつけてきたのは市井上がりの子爵令嬢であったとフェリアは頭の片隅で思う。
同じ言葉であっても、こうも言い方が違えば、気分を害するものなのかと感心した。子爵令嬢は、感情そのままにフェリアと対峙したが、この公女様は違う。上から目線で馬鹿にしたような響きが言葉に乗っているのだ。
「…… わたくしは、グリーフィルド侯爵家嫡女、フェリアにございます。仰せの通り、わたくしの婚約者は、マクドエル伯爵家次男のアラン様です」
「ふぅん。大した女じゃないわね。貴女、アランを婿に取るそうじゃない。それって貴女が侯爵になるってことよね?」
名乗りもしない公女様は、そのまま居丈高な態度で一歩フェリアに近づいた。まるで品定めをするかのように、上から下まで舐めるように視線を走らせる。
背の丈は、フェリアより若干小さい。一応、フェリアのほうが身分としては下なので、見下ろすわけにはいかない。
フェリアは少し片足を引いて、姿勢を落とした。
「はい。次期侯爵となるべく、研鑽を積んでおります最中ですわ」
「だとしたら、別にアランはいらないわね。わたくしが持って帰りたいの。貰ってもいいかしら?」
ピタリとフェリアの目線に、公女の視線が合う。
暗に【断らないわよね?】とその視線に乗せてくる。
「失礼ながら、ガレッティ公女様はアラン様にどのようなお役目をお望みなのですか?」
フェリアは至って冷静にそう問い返した。フェリアにはアランに望むものがある。それと同等か、それ以上のものがなければ、譲る理由がないのだ。
「役目? それはどういう意味かしら。アランはわたくしを愛し、わたくしはアランを愛するの。それ以上に大事なものがあるのかしら?
こちらの国では、国の利が優先されるらしいけれど、ピエモンテは愛の国だわ。愛以上に優先されるものなどないのよ。
だから、わたくしは政略という義務で結婚を約束している貴女より、アランを幸せにできるわよ。それ以上の役目はあるのかしら」
「公女様は、アラン様を侮辱なさるのですか。アラン様は、愛人などという役目に甘んじるような男性ではございません」
毅然と言い切ったフェリアに、公女は目を見開いた。
その表情は意外なことを言われたと言わんばかり。
「貴女、たかが侯爵の娘の癖に、何を言うのかしら。貴女の婿になるより、公女であるわたくしの愛人になることの方がずっと地位が高いわ。いえ、婿にしてもいいわ、3人いても問題ないもの。それなら文句はないでしょ?」
「もう一度伺いますが、その【公女様の婿】というのは、どのようなお役目を負うのでしょうか。
アラン・マクドエルは、マクドエル伯爵家の次男ですけれど、幼少期より算術の才は飛び抜けていたと聞き及んでおります。それを買われて我が侯爵家の婿に選ばれたのです。
我が侯爵家は、王家の財務を取り仕切る家。お役目は世襲ではございませんが、秘匿性の高い役でございますの。代々のグリーフィルド家の男子は、その役目を引き継ぐべく励んで参ったと聞いております。
当代、子はわたくしだけですから、自ずとわたくしの婿がその役を引き継ぐこととなります。その役を全うできる人物として、アラン様は選ばれたのですわ」
「侯爵は貴方が継ぐのでしょう? 彼に爵位が回るわけではなく、役目だけをさせるの? そんなのかわいそうじゃないの。
わたくしの元へ来れば、わたくしを愛するだけでいいの。生活は保障されるし、そこらの貴族よりずっと贅沢もできるわ。
比べることすら烏滸がましい。御託を並べていないで、素直にわたくしにアランを渡すと言いなさい。貴女が勝てることなんてマンに一つもないのよ?」
フェリアの中には、デイジーの時には感じなかった怒りの感情がふつふつと湧き上がる。
フェリアは知っている。アランがグリーフィルドの婿になるべくどんな努力をしているのか。生家を離れ、他家に婿入りするために、そしてその家がグリーフィルドという特殊性を持つ家であるがために、アランは他の後継者とは違う教育も受けているのだ。
フェリアも女とは言え、グリーフィルドの人間だ。財務を請け負う家に生まれ、それに通ずる教育は少なからず受けている。
将来、アランは王宮へ出仕し、フェリアは領地運営と家政を担う。今のフェリアの父母がそうしているように。ただ、侯爵位は血筋のフェリアが受け継ぐだけなのだ。
貴族には、愛だけでは賄えない仕事がある。少なくともこのハイラントではそうである。
「公女様は、アラン様のここまでの努力を無駄になさるおつもりですか。アラン様は愛でるだけの人形ではございませんわ。能力もあり、その能力を伸ばす努力もされているのです。
それを使わないというのは、アラン様に対する冒涜です。
―― 我が家は、アラン様を手放すつもりはございません。婚約の解消など致しません」
フェリアの隣にはアイリスがいて、僅かにフェリアを庇うように前に出ていた。
相手は一国の大公の娘である。そして、彼女が自国から連れてきた従者のような留学生二人と、この国で付けられた世話係のうち女生徒二人。
数で言えば圧倒的に彼方が優勢である。
フェリアはそっと、自身を庇うように伸ばされたアイリスの手を引いた。
「大丈夫よ、アイリス」
「しかし、フェリア様」
「大丈夫。これだけ人目があるのですもの。大事にはならないわ」
フェリアから手出しをすることは絶対にない。アイリスが手を出してしまう方が恐ろしい。あちらが手出しをすれば、それは国際問題である。
「貴女がアランの婚約者?」
既視感満載の台詞であった。
先日、同じ台詞をぶつけてきたのは市井上がりの子爵令嬢であったとフェリアは頭の片隅で思う。
同じ言葉であっても、こうも言い方が違えば、気分を害するものなのかと感心した。子爵令嬢は、感情そのままにフェリアと対峙したが、この公女様は違う。上から目線で馬鹿にしたような響きが言葉に乗っているのだ。
「…… わたくしは、グリーフィルド侯爵家嫡女、フェリアにございます。仰せの通り、わたくしの婚約者は、マクドエル伯爵家次男のアラン様です」
「ふぅん。大した女じゃないわね。貴女、アランを婿に取るそうじゃない。それって貴女が侯爵になるってことよね?」
名乗りもしない公女様は、そのまま居丈高な態度で一歩フェリアに近づいた。まるで品定めをするかのように、上から下まで舐めるように視線を走らせる。
背の丈は、フェリアより若干小さい。一応、フェリアのほうが身分としては下なので、見下ろすわけにはいかない。
フェリアは少し片足を引いて、姿勢を落とした。
「はい。次期侯爵となるべく、研鑽を積んでおります最中ですわ」
「だとしたら、別にアランはいらないわね。わたくしが持って帰りたいの。貰ってもいいかしら?」
ピタリとフェリアの目線に、公女の視線が合う。
暗に【断らないわよね?】とその視線に乗せてくる。
「失礼ながら、ガレッティ公女様はアラン様にどのようなお役目をお望みなのですか?」
フェリアは至って冷静にそう問い返した。フェリアにはアランに望むものがある。それと同等か、それ以上のものがなければ、譲る理由がないのだ。
「役目? それはどういう意味かしら。アランはわたくしを愛し、わたくしはアランを愛するの。それ以上に大事なものがあるのかしら?
こちらの国では、国の利が優先されるらしいけれど、ピエモンテは愛の国だわ。愛以上に優先されるものなどないのよ。
だから、わたくしは政略という義務で結婚を約束している貴女より、アランを幸せにできるわよ。それ以上の役目はあるのかしら」
「公女様は、アラン様を侮辱なさるのですか。アラン様は、愛人などという役目に甘んじるような男性ではございません」
毅然と言い切ったフェリアに、公女は目を見開いた。
その表情は意外なことを言われたと言わんばかり。
「貴女、たかが侯爵の娘の癖に、何を言うのかしら。貴女の婿になるより、公女であるわたくしの愛人になることの方がずっと地位が高いわ。いえ、婿にしてもいいわ、3人いても問題ないもの。それなら文句はないでしょ?」
「もう一度伺いますが、その【公女様の婿】というのは、どのようなお役目を負うのでしょうか。
アラン・マクドエルは、マクドエル伯爵家の次男ですけれど、幼少期より算術の才は飛び抜けていたと聞き及んでおります。それを買われて我が侯爵家の婿に選ばれたのです。
我が侯爵家は、王家の財務を取り仕切る家。お役目は世襲ではございませんが、秘匿性の高い役でございますの。代々のグリーフィルド家の男子は、その役目を引き継ぐべく励んで参ったと聞いております。
当代、子はわたくしだけですから、自ずとわたくしの婿がその役を引き継ぐこととなります。その役を全うできる人物として、アラン様は選ばれたのですわ」
「侯爵は貴方が継ぐのでしょう? 彼に爵位が回るわけではなく、役目だけをさせるの? そんなのかわいそうじゃないの。
わたくしの元へ来れば、わたくしを愛するだけでいいの。生活は保障されるし、そこらの貴族よりずっと贅沢もできるわ。
比べることすら烏滸がましい。御託を並べていないで、素直にわたくしにアランを渡すと言いなさい。貴女が勝てることなんてマンに一つもないのよ?」
フェリアの中には、デイジーの時には感じなかった怒りの感情がふつふつと湧き上がる。
フェリアは知っている。アランがグリーフィルドの婿になるべくどんな努力をしているのか。生家を離れ、他家に婿入りするために、そしてその家がグリーフィルドという特殊性を持つ家であるがために、アランは他の後継者とは違う教育も受けているのだ。
フェリアも女とは言え、グリーフィルドの人間だ。財務を請け負う家に生まれ、それに通ずる教育は少なからず受けている。
将来、アランは王宮へ出仕し、フェリアは領地運営と家政を担う。今のフェリアの父母がそうしているように。ただ、侯爵位は血筋のフェリアが受け継ぐだけなのだ。
貴族には、愛だけでは賄えない仕事がある。少なくともこのハイラントではそうである。
「公女様は、アラン様のここまでの努力を無駄になさるおつもりですか。アラン様は愛でるだけの人形ではございませんわ。能力もあり、その能力を伸ばす努力もされているのです。
それを使わないというのは、アラン様に対する冒涜です。
―― 我が家は、アラン様を手放すつもりはございません。婚約の解消など致しません」
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