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第23章 クレイジージャーニー in 【獣王闘国】
第194話
しおりを挟む村の上空を埋め尽くす程に浮かび上がった武器が、その切っ尖を俺達に向けてピタリと停止する。
「よくも皆んなをイジめたな!《念動魔法》!いっけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ‼︎ 」
子守熊人の子の両眼が一層強く輝くと、宙に浮かんでいた武器が一斉に襲い掛かってきた。
『イジめた…って、先に手を出してきたのはそっちなんだがなぁ…… 』
『仕方ありませんよマスター、元々勘違いされてるんですから 』
《念動魔法》ねえ?
◇ ワイン 子守熊族 女 九歳
ありゃ、女の子だったか。しかも九歳⁉︎そんな小さな女の子を荒事の場に出していいのか?
『獣人族はどの種族よりも実力主義ですし、この魔力量ならば問題無いという判断でしょう 』
『確かに、あんな小さいのに凄まじい魔力波動だもんな』
と、呑気にアイと話してはいるが、この間もワインに操られた剣や槍が猛スピードで迫って来ている。けどまぁ……。
「甘いな!」
剣の腹や槍の柄の部分を叩き、逸らし、打ち払う。ダイは言うに及ばず、ソニアやゴウナム達も余裕で捌いている。
討ち払われた剣や槍は、再び地面へと……、転がってない⁉︎
深々と地面に突き立ってしまったものを除き、弾き飛ばされたものは空中で再び向きを変え、巻き上げられた落ち葉が旋風に舞うように、何度打ち払おうと縦横無尽に俺達を襲ってくる。
「ヤバいな、キリが無えぞ?」
だがその時、周囲を舞う武器達とは別に、空を切り裂く鋭い音が聞こえた。
「甘いわね!私の耳は誤魔化されないわ。もうひとり隠れているのは分かっているのよ!」
パァン!と、兎耳の少女が子守熊の子を抱いたまま、腰に挿した小剣を抜き放って一閃させ、氷の弾丸を斬り払う。
続けざまに飛んで来た第二射も、返す刀で粉砕され、砕け散った氷の破片がキラキラと舞う。
そして暫しの間を置き飛来する三発目の弾丸。しかしそれも難無く迎撃され、白い粉を撒き散らしながら粉々に砕け散る。
「何度やっても無駄よ!多少位置を変えたくらいで……は…ヒッ…、クシュン!…なっ!何コ…レ、ハックシュンっ⁉︎ ちょ、待ぁ…クシュン!クシュン!」
「クチュン!クチュン!クチュン!」
"白い粉"に包まれた途端、激しくクシャミを繰り返す兎耳の娘と子守熊の子。
"白い粉"の正体は、"胡椒"だ。しかも長く空中に漂い、吸い込みやすくなるように、出来る限り粒度を細かくした特注品。つまり三発目の弾丸とは、胡椒を用いた"催涙弾"だった訳だ。
催涙ガスなどを使用した実際の催涙弾を知る人から見れば、『な~んだ、ただの胡椒か 』と思うかもしれないが、たかが胡椒、たかがクシャミと侮るなかれ。たとえば花粉症の人などは、車などを運転中の時に、不意のクシャミの所為で怖い思いをした、という経験が一度ならずともあるだろう。
咳やクシャミ、シャックリなどは一度出始めれば中々に厄介で、これ等の抗えない生体反応は、"通常の行動を阻害する"という点において充分に"状態異常"に値する。それが証拠に、クシャミの所為で集中が出来なくなってしまったのだろう、さっきまで俺達の周りを煩く飛び回っていた剣や槍は、操っていた見えない糸を断たれたかのように、全て落下してしまっていた。
しかし、さすがはアーニャ。グッジョブだ。ターゲットが聴力に優れた兎人族と見るや、通常の氷の弾丸をわざと低速で撃ち、迎撃は容易いと誤認させ、本命である三発目を確実に撃ち墜とさせるとは。
初めに低速で飛んで来たからこそ、回避ではなく撃ち落とすという選択をとったのだろうし、しかも恐らくはアーニャが狙いを着けていたのは子守熊の子。
小さな子に狙いを着けるなんて非道い!と思うかもしれないが、そこもアーニャの計算の内なのだ。何故なら、そのまま素直に兎耳の娘に狙って撃っていたら、たぶん回避されてしまっていただろう。だが、子守熊の子に狙いを定めたからこそ、回避ではなく迎撃、という選択をしたに違いないからだ。
結果、二発の低速の弾丸という釣りと、子供を狙うというブラフで確実に"胡椒催涙弾"を撃墜させて二人いっぺんに無力化させた。しかもまったくの無傷でだ。これは後でよ~く褒めてやらないとな。
「オフィランサス⁉︎ ワイン⁉︎ くっ!貴様ぁ、二人に何をしたぁっ‼︎ 」
リーダーらしき黒い狼耳の青年が、激昂して殴りかかって来た。
「おっと!別に?特に害は無い、ただの胡椒さ。まあ、胡椒だし、目にでも入ったら少し沁みたりはするかもしれないけどな?」
「ふざっ!けるなぁぁぁぁぁっ!」
二撃、三撃と拳や蹴りを放ってくる青年。中々鋭いが、まだまだだな?モーションがデカいし、動きに無駄がありすぎる。出会った頃のソニア達と同じで、獣人族特有のスピードとパワーにモノを言わせているだけだ。
『警告! マスター、後方の黒い魚人の魔力波動が高まっています。何かを仕掛けてくる可能性があります。お気をつけ下さい!』
『ああ、ありがとうアイ。まあ、何をしてくるのか見てやろうじゃないか 』
狼耳の青年の攻撃を捌きながら、意識の一部を魚人の方へと向けると、アイの警告通り、陸上だというのにエラを広げた魚人の顔、というか口元に魔力波動が集中している。さて、何をするつもりかな?
直後、カパリと魚人が口を開けると ーーーー ?
ーーー ズッバアァァァァァァァァァァァァァァァッ‼︎ ーーー
魚人の口から、白く細長い閃光のようなものが放たれ、そしてそれは手前から俺の方へと凄い勢いで一直線に迫ってきた。
「うおっ⁉︎ 」
危なっ!何だありゃ⁉︎
『恐らくですが、《水属性魔法》で発生させた水に超高圧力をかけて撃ち出したものと推察されます。同じ原理のモノで言うなら"ウォーターメス"、いえ、これだけの攻撃力でしたら、コレはもう"ウォーターレーザーとでも呼ぶべきでしょう。さすがは《水属性》に親和性の高い魚人ですね♪』
と、アイが驚きと共に楽しそうに分析と考察を語ってくれているが… 。
ーーー ズバァァァァァァァァァッ! ーーー
「おわっ!」
ーーー ザパァアァァァァァァァァッ! ーーー
「っとぉっ⁉︎ 」
まるで某狩ゲーのガノ○トスのように、 次々とウォーターレーザー?を撃ち放ってくる黒い魚人。
しかし…、魚人は表情が読めん!目線を読もうにも魚人種の目は魚と同じ"魚眼レンズ"、ほぼ360°全てが見えていると言っていいだろう。おかげで狙う位置も判別し辛いことこの上ない⁉︎
まあ、〈壱乃牙 覚〉で射出の瞬間に方向を見定めて、尚且つ〈弐乃牙 虚〉で狙いを外させてはいるが、魚人相手がこんなにやり辛いとは思わなかったよ!
しかもそれだけじゃない、コイツら、チームというのは伊達じゃない。魚人のウォーターレーザーの間隙を突いて狼耳の青年が、狼耳の青年の攻撃を避けたところにすかさずウォーターレーザーが、と中々の連携攻撃を仕掛けてくるのだ。
「はあっ!」
「ほっ!とぉっ、中々良い連携だなぁっ!」
「くっ!悪党のクセに、腕前だけは確かなようだ。だが、その余裕もここまでだ!ぐぅるるるるルルルルルルゥッ‼︎ 」
狼耳の青年の気合いの声が唸り声へと変わり、それと共にその身体にも変化が訪れる。
先程までは獣人族と判る特徴は、耳と尻尾、指先の鋭い爪と口元から覗く犬歯ぐらいだったが、今やその全身は一回りも大きく逞しく変化し、黒く毛足の長い獣毛が包み込んでいる。
顔ももはや人のそれではない、鼻面は長く伸びて、僅かに覗く程度だった犬歯は完全な"牙"となり、狼そのものだ。
おおぉ…、カッコええ……⁉︎ この現象は…獣化?そう〈獣化現象〉だ。一部の獣人族は自身の獣化率を自由に変化させることが出来ると前に聞いたことがある。…って、誰に聞いたんだっけ?
まあいいや、今や俺達がよく知る狼男…、いや"漆黒の狼男"の姿となった青年は、先程までとは段違いのスピードとパワーを持った存在へと変化したはずだ。
「ほぉ…、そいつがお前さんの奥の手か?そういえば今までの奴等と違って、まだ名前を聞いてなかったな?」
「グル…、いいだろう。死に行く者への礼儀だ。俺は【ナインゼ・ロゼイロ】リーダー、黒狼人族のジョウ!そして…!」
「……………………… 」
「……か、彼の名は黒鱗族マーピュン!中々の手練れと見受けるが、悪事に手を染めた報いだ。己が悪業を悔やみながら散るがいい!」
う~~ん?マー…ピュン?「彼」と言っているから男性らしいが、無口なの…か?つくづく読み辛い相手だな……。
そんなことを考えている内に、黒狼と化したジョウが超加速で肉薄してくる。確かに段違いのスピードのようだ。筋力が向上している為か、切り返しも早い。
変化はもうひとつ。マーピュンの援護射撃だ。今までは薙ぎ払うかのような攻撃だったが、ジョウの攻撃速度が上がった事での誤射、所謂"フレンドリーファイア"を恐れたのだろう、少々威力を落とし、代わりにSMGの連射のような攻撃に切り替えたようだ。
だが、それは俺に言わせれば悪手。さっきまでより逆に読みやすくなっただけだ。
何故か?それは、ジョウの攻撃スピードが上がった事で、二人の連携力が下がってしまったからだ。
さっきまでは、ジョウの攻撃からの逃げ道を塞ぐようにマーピュンは高圧水流のレーザーを放ち、またその逆、レーザーを避けた先へと回り込むようにジョウは動いていた。
だが、ジョウのスピードが上がった事で、マーピュンはジョウには当てないように予測射撃をするしかなくなり、〈弐乃牙 虚〉に騙されやすくなってしまった。連射なのはその不利を覆したいが為の悪足掻きに過ぎない。
また、ジョウ自身も確かにスピードは上がったが、ただ"それだけ"だ。並みの相手なら良かったのかもしれないが、俺には通じない。逆に上がったスピードに振り回され、攻撃が直線的になり過ぎて今の腕前では更に攻撃の軌道が読みやすくなっただけだ。
つまり、二人が二人共、ジョウのスピードに翻弄されてしまい、却って攻撃力を落としてしまっているのだ。
「クッ!何故だっ?何故当たらないっ⁉︎ 」
おうおう、焦ってるなー。ま、コイツらは本来なら敵じゃない。上杉謙信じゃないが、ちょいと教育してやるかね?本人にとっちゃあ、相当塩っぱい経験になるだろうがな?
『…て、訳で、悪いがアイちゃん、マーピュンの方よろしくね?』
『イエス、マイマスター。手っ取り早く無力化しますね~!』
「~~~~っ⁉︎」
そうアイが言った途端、マーピュンの頭上から幾筋も電光が疾ると、マーピュンは声にならない悲鳴を上げて小さく痙攣し、ドサリと地面に倒れ伏した。
う~~ん、《水属性》の魚人のマーピュンには『こうかはバツグンだ!』だったらしい。本当に"手っ取り早く"、《雷属性》であっさり麻痺させてしまった。
「マーピュンっ⁉︎ 貴様あぁぁぁっ!」
雷撃を受け、突然倒れたマーピュンの姿に激昂するジョウ。更に勢いを増して襲い掛かってくるが、そんな勢いだけに任せて冷静さを欠いた攻撃など当たるはずもない。
アイテムボックスから"颶風"を取り出し、鞘に納めたままの状態でジョウが繰り出してくる拳を、蹴りを、爪を、打ち、払い、時々カウンターも交えながら悉く回避してみせる。
「ぐうっ⁉︎ クッ!何故だ!何故俺の攻撃が届かないっ⁉︎ 」
不思議だろう?俺は別にそんなに速く動いている訳じゃない。獣人族であるお前さんの方がスピードも反応速度も上。しかも奥の手である〈獣化〉まで果たしているのに、何故か攻撃は当たらない。
焦るジョウの目を見詰め、さらにニヤリと笑ってやる。すると、面白いように激昂の度合いを高めるジョウ。あ~あ、そんなんじゃ相手の思うツボだぜ?
「ナメるなぁぁぁぁっ!《加速魔法》‼︎ 」
奥歯をガチッと嚙み鳴らし、さらにスピードアップするジョウ。もはや常人の目には"黒い風"のようにしか映らない程のスピードだ。ここまで来ると、本来なら同じように《身体強化》を使わなければ対処出来ない程のスピードなのだが……。
それでも俺は敢えて使わない。獣人族の身体能力にモノを言わせているだけの今のコイツでは使う必要が無い。
突っ込んで来た一撃を紙一重で躱し、反転しようと極僅か動きを止めた一瞬…。ここだ。
颶風の先端、鞘の先でジョウの肩口に"突き"を放つ。
「ぐああああああああああああああああっ⁉︎ 」
突きによって体勢を崩され、止めて反転するはずだった自身の力とスピードそのものでぶっ飛んでいくジョウ。
ゴロゴロと転がりながら家屋の壁に激突して、漸くその動きを止める。
「う…っ!グルルッ、クソッ!まだだっ!」
立ち込める埃の中、何とか立ち上がり、それでもまだその瞳に闘志を燃やすジョウだったが、この場に踊り込んできた第三者によって、その横っ面を殴り飛ばされた。
「この愚か者があああああああああああっ‼︎ 」
「ぐっはああああああああああああああああっ⁉︎ 」
再びゴロゴロと転がって行くジョウ。そんな彼に一瞥だけ残し、乱入者である第三の人物は俺の前で跪いた。
「御無沙汰しておりますヒロト様 」
「ああ、久し振りだな、ヤヒッティさん 」
そう、乱入者とは、「秀真の國」隠密、狼人族のヤヒッティだった ーーーー 。
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本当に、ありがとうございます。
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