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第25章 対決‼︎ 元祖ゴーレム研究会
第221話
しおりを挟むーーー メギャアァァァァァァンッッ‼︎‼︎ ーーー
セイリアからの"忠告"に従い、レンドルがゴーレムとタワーシールドの《構造強化》を一段階引き上げた時だった。
視線の先に居た"黒い鋼の獣"の姿が目眩を覚えたかのようにブレて見えたかと思うと、無理矢理金属を引き裂いたかのような激しく耳障りな音が響き、レンドルのゴーレムは…正しくはその構えたタワーシールドが凄まじい衝撃に襲われたたらを踏む。
「…んなっ!何が…⁉︎ 」
一段階強化していたことで、大きく吹き飛ばされることも、盾を取り落すようなこともなく、多少姿勢を崩した程度だ。だが、そうであっても尚、今のはとんでもない衝撃だった。
何をされたか?などは分かっている。何故ならば今目の前で「盾に攻撃する」とセイリア自ら宣言されたのだから。
しかし、ダメージを確認する為に己が操るゴーレムに目をやったレンドルは、驚愕に目を見開くことになる。
「ば、馬鹿な…!タ、タワーシールドが裂けているだと………っ⁉︎ 」
《構造強化》の魔法によって強度を上げ、鉄の合板を貼り合わせた強固なはずのタワーシールドの半端までが、無理矢理力を加えられて引き裂かれたように無残な傷跡を曝してひしゃげていたのだ。
(「あ、あり得ないっ‼︎ いったいどのような力を加えればこのような真似が出来るのだ….⁉︎ 」)
レンドルの焦燥を余所に、そのあり得ない攻撃を成したセイリアとノアは、攻撃の反動で高く跳び上がったにも関わらず、その巨体の重量を全く感じさせない挙動でふわりと地面へと降り立った。
制御用魔晶石と融合し、今や"鋼の躯体"を得たノアのその姿は、金属でありながら逞しく、尚且つしなやかな四肢を備えたその姿は正に"黒豹"であった。
「ふむ?やはり見所がある。彼奴こちらを見縊らず、素直に防御を固めたぞ?」
「フフフ、ならば相手をするには腐った連中よりもよほど良い。だが、彼には悪いが手加減は無しだ。言葉だけでも私とヒロト様を引き裂こうとした者に、それがどれ程罪深いことであったか思い知らせてやらなければならないのでな‼︎ 」
「やれやれ…、セイリアには一番言うてはならない事を言った報いか。仕方ない、あの小僧には気の毒だが、ひとつ"格の違い"を見せつけてやるとしよう 」
そんな会話をひとりと一匹が交わしている間に、レンドルは僅かではあったか平静を取り戻していた。
(「いかん!やはりこのゴーレムも規格外、ただジッと守りに入っていてもやられるだけだ!ジリ貧に陥る前に、こちらから討って出ねばっ‼︎ 」)
「行けっ!前に出て攻撃しろっ‼︎ 」
そう判断したレンドルは、盾を前面に押し出してゴーレムを前進させ、右手に構えたメイスをセイリア目掛けて叩き付けた。
ーーー ドゴォッ‼︎ ーーー
約十メートルの高さからの、巨大な超重量武器の攻撃である。土砂は巻き上がり、地面は大きく陥没してその威力は小規模なクレーターが出来上がるほど強力なものだった。
しかし、当然ながらそこに"鋼の黒豹"の姿は無い。僅か一瞬の挙動で攻撃を避け、メイスの攻撃範囲から大きく飛び退っていたのだ。
だが、レンドルの方も今の一撃で決められるなどと甘い事は考えていなかった。
「まだまだぁっ‼︎ 」
魔力によって常に変化させることで動くゴーレムの動きは、術者の"練度"と〈制御能力〉に左右される。
二撃、三撃と、油断する事無く連続してメイスを振るい続けるレンドルのゴーレムのその動きは、十メートル前後の中型サイズのゴーレムでありながら、先程登場したコモーノやヤーネンの操る小型のゴーレムよりもキレがあり、よほど素早かった。それだけで、レンドルの〈制御能力〉の高さや、思い通りにゴーレムを駆使する為に、日頃からどれ程レンドルが研鑽を積んでいるかが見て取れた。
しかし、渾身の一撃、またはメイスを振るうと見せかけてのタワーシールドでのシールドバッシュなど、フェイントを絡めたレンドルの攻撃も、その全てをひらり、ひらりといとも簡単に躱されてしまう。これがその辺りの魔獣程度なのであれば、とうの昔に余裕で討ち倒す事が出来ただろう。だが、今レンドルが相対しているのは〈制御用魔晶石〉に上位闇精霊であるノアが融合したゴーレム。つまりはノアそのものだ。そもそも前提からして違うのだ、その動き、反応速度は"遠隔操作"である通常のゴーレムとは比べ物にならない。
(「く…っ!当たらない、何て反応の良さだ⁉︎ おまけにゴーレムが飛び跳ねるだと?何の冗談だっ⁉︎ 」)
また、秘密はそれだけではない。魔獣…いや、"四足の獣型"という事自体にも意味がある。
唐突だが、飼っている愛犬が逃げ出して、捕まえるのに苦労した。などという経験のある人はいないだろうか?
足も速く、追いついたとしても素早い身のこなしで捕まえようとしても簡単に躱されてしまう。四足獣のあの素晴らしい運動能力の秘密は、その身体構造、そして重心の低さにある。
自転車やバイクなどで考えてもらうと分かりやすいと思うが、走行中より急激にカーブなどを曲がる為には、深く車体を倒さねばならない。つまり、地面に対してより近い位置にまで重心位置を持って行かねばならないのだ。
人体の場合、その動きの基点は膝だ。膝を曲げ、そのバネを使って様々な動きを成すが、重心の位置は実は腰の辺りにある。
サッカーやバスケなどの中継を見ていれば解るが、フェイントで対戦相手を抜き去ろうと思えば、まず膝を大きく曲げ、身体を傾けて重心の位置をズラし、膝のバネを使って大きくステップ。人が急激な挙動を取る為には、実はこれだけのプロセスを踏まねばならないが、対して四足獣の動きの基点はその背骨にある。元々低い重心に、背骨を基点とした全身をバネとした挙動。つまり、四足獣の場合、ステップを切ろうと膝を縮めた瞬間には、既に重心の移動は終了しているのだ。これでは人間が追いつけるはずがない。
〈制御用魔晶石〉に融合し、今やノアそのものとなったこの"黒豹型"ゴーレムも、形態は違えど人型であった新型ゴーレムと根幹は同じ。まったく同様ではないが、金属の骨格を【魔導人工筋肉】という金属の筋肉で繋ぐという、生体を模した構造を持っている。その身体を構成する組成物が違うというだけで、真に"鋼の獣"と呼ぶべき存在なのだ。
「"ただの"ゴーレムにしてはなかなか良い動きだな。それに思い切りも良い! 」
「そうだな。日々の研鑽を怠っていないのだろう。〈回帰主義派〉などには勿体ない人材のようだ。それだけに……惜しいな 」
「うむ。この対戦で敗北すれば、下級貴族である彼の立場はあまり良くはないだろう。これ程の人材だ、引き抜けないか、あとでゼル兄様達に相談してみよう 」
「おおっ、それは良いな!ならば後顧の憂い無し。先ずは決着を着けるとしよう 」
「ははっ!ヒロト様流に言うなら、『ここからは私達のターンだ!』だな!」
「ふははははははっ‼︎ 」
必死になってゴーレムにメイスを振るわせ続けるレンドルが聞けば、思わず涙目になりそうなほど呑気な会話を交わしていたセイリアとノアだったが、本気になったその眼差しはギラリと鋭い光を放つ。
「「征くぞっ‼︎ 」」
回避に専念していた動きが一転して攻めへと変わり、レンドルのゴーレムは嵐の如き暴威に曝される。
先程と同じように何度も構えた盾に衝撃が走り、その傷跡は深く、どんどんと引き裂かれていく。遂には ーーーー。
ーーー グッギャアァァァァァァンッ‼︎ ーーー
城砦の如き威容を放っていた巨大なタワーシールドは、鋼の獣の爪の前にズタズタに引き裂かれ、"くの字"に折れ曲がって弾き飛ばされてしまった。
「くおぉっ…⁉︎ いったいあの身体のどこにこれ程のパワーがっ?」
あまりの出来事に、内心の戦きを思わず口に出してしまうレンドル。
実は、レンドルの立てていた作戦とは、セイリアの駆るゴーレムを、"魔力切れ"の状態に陥らせて戦闘続行不可能にする。というものだった。
従来型、新型問わず、その躯体を稼働させる動力源、それは"魔力"に他ならない。
既に一千年以上の歴史を持つ従来型のゴーレム術に比べ、魔道具を用いた新型では、その技術の蓄積が圧倒的に足りなさ過ぎる。にも関わらずこちらを圧倒する程のパワーを発揮するのであれば、例えその魔力の源とする魔晶石が同サイズであったとしてもその消費量や燃費は馬鹿にならないはずだ。故にその弱点を露見させない為に、先の奇妙なゴーレムも圧倒的な火力で早々に勝負を決めたのではないか?との予測をレンドルは立てていたのだ。
先程から当たらないにも関わらず、レンドルがメイスを振り回し続いていたのは、無駄な回避行動を取らせてノアの魔力を消費させるという狙いの為だったのだ。
「何故だ!何故これ程のパワーを発揮しながら、まだ動き続けていられる⁉︎ いったい何処にこれ程の魔力を……っ⁉︎ 」
だが、鋼の黒豹も当然〈魔導ジェネレーター〉を搭載しており、周囲に魔素が存在する限り"魔力切れ"は起こりえない。その存在を知らぬが故ではあるが、レンドルは自身の立てた作戦によって、益々困惑の度合いを深めてしまうのだった。
「さぁて、ではそろそろ私も行こうか。ノア、頼むぞ!」
「うむ、任せよ!」
ニヤリと不敵に笑ったセイリアは、ノアに装着してあったホルダーから、ヒロトから贈られ、新たな愛刀となった黒刀【夜叉王】をスラリと抜き放つ。が、それだけではおわらなかった。現れた黒く艶光る刀身にノアの魔力が絡み付き、長い長い新たな刀身を形作っていく。
そして顕れたのはゼルドの愛刀よりも更に長い程の超大太刀。ゼルドの持っていたものに比べて遥かに細身ではあるが、その刀身は更に長く、刃渡りは三メートルにも届かんとする程に長かった。
「征くぞ、ノアっ‼︎ 」
「応っ‼︎ 」
爆発的な加速を以ってレンドルのゴーレムへと肉薄するセイリアとノア。盾は弾き飛ばされてしまったものの、更に《強化》を施した左腕で、レンドルは防御を試みるが…!
ーーー ド…ズゥン…‼︎ ーーー
ノアの駆け抜けた後の一拍を置いて、重々しい音を立てて地面へと左腕が落下し、崩れて土塊へと変わる。ゴーレム本体側に残された滑らかな斬り口の断面は、大太刀の斬れ味がどれ程の物かを雄弁に物語っていた。
「ば、馬鹿なっ‼︎ あれ程の《強化》を、こうも容易く斬り裂くなんてっ…⁉︎ 」
もはやレンドルも、その驚愕を隠すことも出来ない。何故なら、今施したのは巨獣の一撃すら止められるはずの《強化》だったのだ。それをこうも容易く斬り裂かれては、驚くなと言う方が無理であろう。
着地と共にすぐさま反転するノアに騎乗したセイリアによって、レンドルのゴーレムは次々と斬り裂かれていく。素が土塊であるゴーレムには多少の欠損ならば自動的に修復する機能が付与されているが、受ける攻撃が多過ぎて修復が間に合わない状態へと追い込まれていくレンドルのゴーレム。
だが、レンドルにはある秘策があった。それこそがゴーレムのサイズをわざわざ落とした原因であり、レンドルはその緊迫した表情の裏側で、その秘策を実行する隙の出来るタイミングを、虎視眈々と狙っていたのだ。
「…⁉︎ ここだっ!《岩槍》ぅぅぅぅぅぅっ‼︎ 」
《土人形創造》を使える程の《土属性》魔法使いは例外無く優秀である。という事は、他の《土属性》魔法についても如何なくその威力を発揮出来るという事ではあるが、普通、ゴーレム術の行使中には例え同系列の《土属性》であろうと術者は他の魔法は使わない。わざわざレンドルがゴーレムのサイズを落としてまで魔力に余裕を持たせたのは、そうしたセオリーの裏を掻き、絶好のタイミングで必殺の一撃をセイリアに対して見舞う為だったのだ。
ノアが着地し、こちらを振り向く瞬間を狙って発動された術式に従って、地より生じた鋭き岩槍が、鋼の黒豹を貫かんと迫るが…?
ーーー グゥワキッ!…バギィィィンッ‼︎ ーーー
必殺のタイミングで放ったにも関わらず、その鋼の顎門に文字通り喰い止められ、粉々に噛み砕かれる岩槍。今度こそ、本当の意味でレンドルの目は驚愕に見開かれる事になった。
「何故だっ?まさかそれすらも読んでいたというのか…っ⁉︎ 」
「良い手ではあったが、ゴーレム術に比べて他の魔法は〈魔力操作〉がまだまだ杜撰だな?魔力波動の流れで何をしたいかなどバレバレだ 」
「まあ、ノアは元々魔力の塊であるしなぁ…。さて、ノア。彼も"隠し球"を披露してくれたのだ。こちらも"必殺技"で最後を飾るとしようか?」
「ふははっ、心得た‼︎ しっかりと掴まっておれよセイリア‼︎ 」
「応ともっ‼︎ 」
レンドルの動揺を表すかのように、棒立ちとなったゴーレムに、更に加速を増して吶喊していくノア。その背に跨るセイリアが後方に構えた大太刀の刀身が、更に更に長く伸びていき、遂には四メートルを超える程の超超大太刀へと変化を遂げる。
「ィああああああああああああああああっっ‼︎‼︎ 」
神速を以って駆けるノアの背に跨がりながら、裂帛の気合いと共にセイリアが振り抜いた黒き大太刀は、横一文字にゴーレムの巨体を斬り裂き切断した。
「まだまだぁっ‼︎ 《千裂龍咆 漆黒の輪舞》‼︎ 」
直後、ノアの闇の魔力波動を纏った巨大な黒い竜巻がゴーレムを天高く巻き上げ、その巨体をズタズタに引き裂いていく。
こうなってしまえば核である魔晶石がどうこうなど関係無い。
その全てが粉々に粉砕され、後にはただ、細かな砂粒が、天空よりパラパラと舞い落ちるのみであった。
『そ、そこまで…っ⁉︎ しょ、勝者、「第二ゴーレム研究会」、セイリア・キサラギ三回生…っ‼︎ 』
ーーー ドゥルドゥルドゥル…グオオオォォォォォォォォォォォンッ‼︎ ーーー
セイリアの勝利を告げるアナウンサーの声に、ワァッ‼︎と大歓声に包まれる会場に、ノアの勝利の雄叫びが響き渡ったのだった。
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