〜転移サイボーグの異世界冒険譚〜(旧題 機械仕掛けの異世界漫遊記) VSファンタジー!

五輪茂

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第4章 闇の聖獣 クーガ

第22話

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「さて、『死合う』とするかの?ヒロトよ 」

 爺さんは口の端をニヤリと吊り上げて己の得物を構えた……。

 爺さんの構えは正眼。力みも無く、淀みも無く。攻守において、そのどちらにも即座に対応出来る、剣においてあまりにも”当たり前”の構え。

 だが、【黒き武神】がひと度この構えを取れば、その構えには一分の隙も無く、攻めるに難攻不落、鉄壁にして堅牢なる構えと化す。そして僅かにでも隙を見せたならば刹那の内に攻守は逆転し、こちらが命を刈り取られる事になるだろう。

 だが…………、

「なーにが『死合うとするかの?』だ、ついにボケたか、クソ爺い? 」

 俺は手に持った”木刀”で肩をトントンと叩きながら、呆れた目で爺さんを見やったのだった。
 


 ここはキサラギの屋敷の側にある「練武場」つまりは道場である。俺達はその武道場のほぼ中央で対峙し、セイリアやレイナルドさんは上座側、後は壁際にダークエルフや獣人達が、道着姿でズラリと並んで正座をしている。
 何故かタテワキのおっさんまでがレイナルドさんの横に座っているけど、暇なのか?

 子供達と別れた後、俺達は探しに来た(はず)の爺さんと一緒にこの練武場に訪れた。爺さんから、褒美として貰った『颶風』のレクチャーをしてもらう為だ。

 練武場の中からは、木刀を叩きつける音や、ダンッ!と言う足を踏み込む時の大きな音、剣を振る際の気合いを込めた声が幾つも響いていた。

「爺さん、道場の中で教えてくれるのか? 」

 先を歩いている爺さんに尋ねると、

「いや、お主の魔力と『颶風』がどれくらい反応をするかは分からんのでな、練武場裏の広場の方に行こう。其処ならばそこそこ広いのでな、安心して試せるじゃろう 」

 ”霊刀”とは、つまるところ「魔剣」と呼ばれる類いのものらしく、魔力を込めることで様々な効果を現すことが出来るらしい。

 この辺は”愛読書”での予備知識と一緒だな。もともと、朝『颶風』を受け取った時に、普通の刀ではない事は分かっていたんだが、新しい装備だ、きちんとレクチャーしてもらった方がいい、とアイテムボックスの中に仕舞っておいたのだ。

「よし、ここならええじゃろう。ヒロトよ、『颶風』を貸してみよ 」

 広場に着くと、早速爺さんが『颶風』を出せ、と言ってきた。確かにここなら遮蔽物も無く、充分な広さがあるな。

 ここには真剣での試し斬りの為の巻き藁や、剣技以外の弓や魔法の練習に使用する的などが設置してある。他にも何人かが弓や魔法の鍛錬をしていたが、其れ等は安全面を考慮してかなり広めに間隔が取られているので、得物の取回しも特に問題が無さそうだ。

 アイテムボックスから『颶風』を出して爺さんに渡すと、ーーシャリンッーー と涼しげな音と共に蒼く美しい刀身があらわれる。

「さて、この『颶風』の特性じゃが、まずはコレじゃな 」

 そう言いながら爺さんが魔力を込めると、ーーバチッ!ーーという音と共に、蒼い刀身が電光を纏い出した。

「この『颶風』の属性は、見ての通り【雷】いかづちじゃ。魔力ちからを込めるほど威力が上がり、魔力防御も無しにこの刀を受け止めれば、軽くても麻痺、どんどん威力を上げていけば一瞬で雷に打たれたように黒コゲになるじゃろうのう。じゃが、この刀の最も恐ろしいのは其処では無い。………そうじゃな?ヒロトよ、そこでよく見ておれよ? 」
 そう言って爺さんは改めて『颶風』を構えて、”型”に沿って素振りを始めた。

 爺さんが真剣での素振りを始めた事で、他に鍛錬をしていた者達もその手を止めて見詰めている。
 いや?”見惚れている”と言った方が正しいかもしれない。

 流れるような所作で刀を振る爺さん。一体どれだけの修練を積んできたのか…。 その一太刀ひと太刀は怖気がする程美しく、凄まじい。
 
 だが、何処かがおかしい?何故、違和感を感じるんだ?

「………っ!? な….! 」

 思わず驚きの声を上げた俺に気付いた爺さんが、ニヤリと笑みを浮かべてその動きを止める。

「気付いたか、ヒロトよ?そうじゃ、この『颶風』の最大の特徴は、刀身の長さを自在に変えられる・・・・・・・・ことにあるのじゃ 」

 あまりの驚きに直ぐに声を出すことが出来なかった。何故、これ程までに驚いているのか、分かってもらえるだろうか?
 
 この刀は…ヤバい。

 剣士は…、いや、どんな分野の戦士であろうと最も重要視するもの。ーー【間合い】ーー まさに血を吐く思いで手に入れて来たであろう”それ”を、この刀はいとも簡単に蹂躙し、毀す。

 かの剣豪として名高い宮本武蔵は、度重なる死闘、熾烈とさえ呼べる程の修行の果てに完璧な見切りを身に付け、額に貼り付けた米粒だけを斬らせてみせたと云う。

 そんな血の滲むような努力を容易く無意味に変えてしまうのだ。

「恐ろしい刀じゃろう?この刀の前では、長年に渡る研鑽も、一瞬で水泡と化す。じゃがの?そんな正統な剣士ほど、「己の間合い」に囚われてしまうのもまた事実。いくら強力であろうと、自身の創り上げた【間合い】を崩してしまう刀など、扱う事は出来んのじゃよ 」

 確かに。熟達した者ほど、何処までが自身の攻撃範囲内かを知っている。野球でもそうだろ?バットの届かない場所を振ったところで所詮アウトにしかならない。

「ヒロトよ、実を言えば我がキサラギ家が所蔵する刀槍の中には、この『颶風』よりも威力の高い物はまだ幾つもある。 じゃが、お主の【玖珂クーガ流魔闘術】は、相対した者の呼吸を読み、逆に己の呼吸に乗せてしまう技術に長けておるのではないか?そして、何より「勝つ」事に重きを置き、”剣術そのもの”には拘ってはおらんように感じるのじゃ。…ならば、我等のような正統剣術に対せば、どちらかと言えば外道、邪流の類いになるのかもしれぬ。じゃが、それだけにこの刀を渡すのが一番”面白い”と思うてのう 」

 流石だ……。まだ一度も手合わせすらしていないのに、そこまで見透かされているか。
 爺さんは少し意地が悪いような、仕掛けた悪戯が上手くいくかどうかワクワクしている、あの”悪ガキ”のような笑みで刀身を鞘に納め、改めて『颶風』を渡して来た。

 さっき朝飯の時に渡された時とは、まるで違う感覚が俺の中から込み上げてくる。

「さて、ではヒロトよ、そんなに楽しそうに嗤って・・・おらずに、自分でも試してみてはどうじゃ? 」

 爺さんに促され、セイリア達から離れた所まで進み出る。……いかんな、「嗤って・・・」いたか。何だか出撃前の気分に似ている。それほどにこの刀『颶風』は……”面白い”。

 その後は暫く『颶風』の使い心地や性能実験を繰り返したが、確かに魔力を込めるほど威力が上がり、一度結構多めに魔力を込めて、試し斬り用の巻き藁を居合いの要領で斬りつけてみたんだが…、

ーーズッドォォンッ!!ーー

 落雷に似た轟音と閃光が疾り、セイリアやラーナちゃんを含めた周りで見物していた者達が、驚きに身を竦ませる。
 見れば、巻き藁どころかその杭の根元から焼失してしまっていて、皆目を丸くして驚いていた。

 少々やり過ぎだったかな?

 それからもう一つ、「自在に長さを変えられる」能力を試している内に、ある事を思い付いて試してみたのだが、結果は上々、爺さんですら思いつかなかった使い方までも編み出してしまった。

 面白い!いいぜ『颶風』!! 気に入った!!

 俺は大満足で『颶風』の試し斬りを終えようと思ったんだが、ここで、まったく想像もしていなかった問題が発生してしまったのだ。

 ……それは………、

「良い、良いなあ…、ヒロトよ。やれやれ、年甲斐も無く血が滾ってきたではないか。済まんがの、ヒロトよ、ちと儂と遊んで死合ってもらえんかのう? 」

 そう言って ニタリッと嗤い・・かけてきたのだ。


……………で、現在…。


「こりゃ!ヒロトよ、お主、儂の扱いが「ぞんざい」どころか「粗末」になって来ておるぞ!? 」

 爺さんが木刀をぶんぶん振り回しながら抗議をしてくるが、こればっかりは仕方ない。

「粗末に扱われる様な事ばっかりしてるからだろうが!? まったく、碌でもない悪戯ばっかりしやがって…。どうせ、昔っからレイナルドさんやタテワキのおっさん達にもそうやって迷惑ばっかりかけてきたんだろ?粗末に扱われたくなけりゃ、ちっとは反省しろや、このクソ爺い!」

 俺と爺さんのやり取りに、爺さんを「英雄」て仰ぐ周りの者は唖然と。「身内」のセイリアやラーナちゃんは思わず、といった感じでプッ!と吹き出して笑いながら。レイナルドさんとタテワキのおっさんはウンウンと大いに頷いて、タテワキのおっさんなどは涙目になっていた。

「何でレイはさん付けで、儂はクソ爺いなんじゃ!? 差別じゃー! 」
「違う!「区別」だっ!! 」

 むき~~っ!と、地団駄を踏む子供爺い。『見た目は子供、頭脳は大人!? 』どころか、『見た目は子供、頭脳はもっと・・・子供!」だったよ………。

「くっ!斯くなる上は、力尽くで尊敬を勝ち取ってやるわい!! 」

 改めて構えを取ったかと思った次の瞬間!


ーーギャリィィィンッ!! ーー


 懐に刹那の間に飛び込んでいた爺さんの木刀と、受けた俺の木刀が、とても木刀同士が立てるとは思えない音を響かせて”火花”を散らして交錯する。

「「「………っ!?」」」

「なっ!? お祖父様、いつの間に!?  ヒロト様も?」
「先代様!?まさかその様な技まで!? 」

 各人の驚くポイントは違うみたいだが、皆一様に驚愕に目を瞠っているのが分かる。

 瞬間移動じみた踏み込みで左逆袈裟に斬り上げてきた木刀を、一瞬の判断で受け止めたのだ。しかし………、

ーーギャリギャリギャリギャリギャリッ………!!ーー

 受け止め、鍔迫り合いの状態になったはいいが、木刀と木刀が合わさっているとは思えない音が、互いの木刀の合わせ目から、火花と共に連続して響いていた。

「ほう…、やっぱりヤル・・のう、ヒロトよ?受け止めただけでなく、儂の【魔刃刀】をここまで防ぐとはな 」
「まあな、お褒めに与かり光栄だ。しかし、随分エグい技を使ってくるじゃないか。ヘタすりゃ真っ二つだったぜ? 」

 この連続した甲高い音の正体は、俺と爺さんが木刀に纏わせた魔力がぶつかり合っている音だ。
 しかも、爺さんはただ纏わせているだけじゃない、連続した音と火花で分かる通り、木刀のきっさきから鍔元まで連続した魔力が高速で疾っている。

 なるほどな、これが【魔刃刀】の正体か。まるで魔力で出来たチェーンソーみたいだ。
 
 この世界では、程度の差はあれ魔力で強化する事は当たり前になっている。それこそ魔法を使えない魔獣であっても魔素を取り込み身体能力や防御力、攻撃力を上げるどころか、一定ランク以上の魔獣になってくれば、魔力を直接変化させて”魔術”として魔法とほぼ同等の属性攻撃をしてくるらしく、魔素を取り込めるのか、出来ないかが普通の獣と魔獣の違いだという。

 爺さんは流石【黒き武神】と称されるだけはあり、魔力操作、密度共に段違いだ。この爺さんに比べたら、先の「墓場の風グレイブ ウィンド」の連中の防御力など紙も同然である。

 それだけじゃない、この【魔刃刀】という技は、パッと見はよく分からないかもしれないが、その実、非常に繊細な魔力操作が必要な技で、常に均一の魔力を細かく、しかも高速で刃に疾らせなくてはならない。

 解り辛いかな?そうだな、じゃあ刃がデコボコのノコギリを想像してみてくれ。そんなモノを使っても、まずマトモに切ることなんか出来ないだろ?しかも高速で動かしてるんだぜ?戦いながら・・・・・な。

 後から聞いたが、この【魔刃刀】は、数ある技の中でも爺さんの代名詞とも呼ぶべき技で、かっての大乱の際には、分厚い装甲で全身を覆った敵軍の重装甲兵を、紙でも切り裂くが如くその盾や鎧ごと真っ二つに切り捨てていったという。

「ほれほれ、どうしたヒロトよ?このままではいずれ得物ごと真っ二つじゃぞ? 」

 ーーギャギャギャギャギャギャギャギャッ!!ーー

 口調こそ戯けているものの、やってる事はまったく笑えない。爺さんは更に【魔刃刀】の魔力の密度を高く、かつ高速回転にしてきやがった。だが…、

「舐めてもらっちゃ困るぜ、爺さん? 」

 科学技術の殆んど発達していないこの世界イオニディアで、チェーンソーに似た技を編み出したのは賞賛に値する。しかし、こっちは22世紀末の世界地球から来たんだぜ?その発展した科学知識を応用すれば、こんな事も出来るんだ!

「ぬうっ!? 」

ーーバギャァンッ!!ーー

「えぇっ!? 」
「何と!まさかっ!? 」

 爺さんの【魔刃刀】が甲高い音と共に砕け散る!瞬間、飛び退った爺さんの木刀の表面の一部が剥がれ、捲れあがっていた。やはり、というか、木刀への魔力強化までは打ち破れなかったか。

ーーィィィィィィィィン!ーー

 低く、唸りを上げる俺の木刀を見て、爺さんが首を捻る。

「面白い事をするのう?儂の【魔刃刀】、受け止めた奴は今まで何人かはおったが、砕いたのはヒロト、お主が初めてじゃ。なんじゃ、それは? 」
「さあ、なっ!自分で見抜いてみろ、よっ! 」

 言いながら、今度はこちらから攻撃を仕掛ける。二合、三合、打ち込む度に爺さんの木刀の表面が弾け飛んでいく。しかし、爺さんは焦りもせずに鋒を俺につきつけると ニヤリと笑った。

「成る程のう、こうか? 」

ーーィィィィィィィィン!ーー

 俺が構えた木刀と同じ様に、唸りを上げ出す爺さんの木刀。

 爺さんはそのまま壁際まで歩いて行き、飾られていた鎧に木刀を静かに振り下ろすと、なんの音も抵抗すらなく両断される。

「仕組みはよく分からんが、面白い事を考えたもんじゃのう? 」

 玖珂流闘気術では【氣震斬】と呼び、《七乃牙 ざん、八乃牙  しん》を融合させた所謂『超振動ブレード』だ。
 
 ブレード、と言っても実際には微細な襞を超高速で振動させる原理だが、氣ーー魔力ーーならば、実際の物質が無くとも再現することが出来る。

 ただ、向こう地球では、これ程の威力も持続することも出来ない技だった。それこそ”ここぞ”という勝負の一瞬に、短いナイフや手刀の先に発顕させる事しか出来なかったのだ。

 それを、原理すら解らないのに、見よう見まね、魔力の流れだけで再現してのけるかよ!?

「さて、では仕切り直しといこうか、のっ!」

 【新、魔刃刀】いや、もう【魔震刀】と呼ぶべきかな?…を、閃かせて爺さんが突っ込んで来る!

ーーヒィィィィィィィィン!ーー

 お互いの込める魔力が増えるにつれ、甲高い音へと変化していく【魔震刀】   威力はほぼ互角、後は互いの技量のみ。

 右に、左に、受け、流し、躱し、突き、斬り払い、踏み込む!

 一合、二合、三合………、

「………何という、闘いなのだ………っ!?」
「ヒロト様…先代様と…、これ程までの強さであったとは………!?」
「お祖父様…、何て楽しそうに… 」

 恐らくもう、俺達の動きを追えているのは、レイナルドさんやタテワキのオッサン、長年爺さんと戦い続けてきた古参のツワモノ達ぐらいだろう。

「どうしたヒロトよ?動きが鈍ってきたぞ? 」

 くっ!? 最初から《覚》も《虚》も展開している。しているのだが…、爺さんの動きは呼吸、筋肉の動き、魔力の流れまで読めている。なのに、早く、遅れてと微妙にズラされ始めた!?  そして………、


 ーーカラァンッーー


 俺の木刀は、とうとう中程から断ち切られてしまった………。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  いつも読んで頂いてありがとう御座います。
 皆様のお陰で累計Ptが6500を突破しました!
 仕事の為に少々筆が遅くなりがちですが、頑張っていきたいと思っておりますので、これからも宜しくお願い致します。


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